スペードは小さく息を吐く。
しかしそれにネガティブな感情は含まれず、心地よい疲れと幸福感に包まれていた。
「すまないね、ダークアイ」
先ほどまでたくさんの料理を作り、たくさんの食器を片づけていた助手に声をかける。
ダークアイはティーカップを主人の前に置いて微笑んだ。
「いいえ、ハチさんも手伝ってくれましたし、皆さんとスペードさまを祝うことができて嬉しかったです」
今日はスペードの誕生日だった。
ダークアイは朝から客のためにお茶や食事を用意し、夜の宴会ではずっとキッチンとリビングを往復をしていた。
「一部は食事が目当てだったけどね」
助手がキョキョッと小さく笑ったのはそれに同意したわけではなく、照れ隠しだと分かっていたからだ。主人も、その客も。
スペードがカップに口をつけると、豊かな香りが広がった。特にお気に入りの葉だ。
……いや違う。いつもとはほんの少しだけ風味が変わっているような気がした。
「ダークアイ、紅茶を変えたかい?」
「少し淹れ方を変えてみたんですけど、どうでしょうか」
「うん、香りが深くなった気がする。美味しいよ」
一つ目を細めて喜ぶ助手を見て、スペードの胸は温かくなった。
すると突然、ダークアイは姿勢を正して主人を真っすぐ見つめる。
「スペードさま、誕生日おめでとうございます」
「うん? ……ありがとう」
ダークアイの「おめでとう」は朝にプレゼントをもらうときも言われたので、なぜ改まって言われるのだろうかと思った。
「その……朝はシルバーハートさんに一番に言われてしまったので」
そういえばとスペードは思い出す。
師匠であるシルバーハートが朝イチで押しかけてきて、朝食から夜の宴会まで居て最後はクイーンとロコに引きずられるようにして帰っていった。
意識はしてなかったが、最初に言われたのは師匠だったかもしれない。
「せめて最後の『おめでとう』はわたしが言いたかったんです」
目の前の助手が、恥ずかしそうに付け加える。
その仕草も気持ちも可愛らしくて、自然に笑みがこぼれる。
「ありがとう」
改めて礼を言うと、ダークアイは満面の笑顔になる。
それを見てスペードはもう一度プレゼントをもらったような気分だった。
「来年は一番にお祝いを言いますので」
「じゃあボクも、ダークアイの誕生日には最初と最後に言おうかな」
「ええっ! その、嬉しいですけど……そんなこと言われたら、今から気になってしかたがないです」
慌てる姿を見てスペードが噴き出すと、助手はいっそう赤くなるのだった。