「隊長のお土産です」
ルリが菓子箱を持って机を回る。
クッキー好きだったよね、と目の前に置かれたヒナイチは少し眉をよせて微妙な反応をした。
「あれ、違ったっけ」
「あ、いや好きだ。うん」
隊長のヒヨシに礼を言って口に入れる。
この店TVに出てたっスよね、とモエギが話題にし、どうせ女の子にも配るんでしょ、とサギョウが毒づく。
美味しい。
たしかに旨い。
けれど、香りは強い。
少し固い。
甘さも強めだ。
好きなはずのクッキーを口にして、ヒナイチは何故かガッカリしていた。
以前はどんなクッキーでも美味しく食べていた。今だって美味しいと思っているが、いつのまにか間違い探しをしている。間違いなんてないはずなのに。
***
「ドラルク! クッキーはあるか!?」
「ヒナイチ君、入ってきて第一声がそれなのはどうかな」
小学生男子じゃあるまいし、とドラルクはあきれたように迎える。
「残念ながら今日のおやつはバナナマフィンだよ」
「そうか…」
もちろんバナナマフィンも好きだ。ただ、ヒナイチが今どうしても食べたかったのはクッキーだった。
おやつが用意されていて甘い香りがただよう居間、幸せな空間のはずなのに今日は心踊らない。
あからさまにガッカリする彼女を見て、ドラルクは小さくうなりながら戸棚へと向かう。奥から出してきたガラス容器に入っていたのは……
「クッキーだ!!」
「作り置きしようと思ってたんだけど…。君らときたら、あればあるだけ食べてしまうから」
やれやれ、とフタを開けようとした手が止まる。
「おかしいな、満杯に入れたはずなのに」
わずかにスペースが空いていた。横にいるジョンを見れば不自然に目をそらす。
「ヌヌヌヌイ」
首を振って必死に否定する。ドラルクが問い詰めようとすると、それをさえぎるようにドアが開いた。
「今日はバナナケーキじゃなかったのかよ!」
帰ってきたロナルドがクッキーを目にして叫んだ。
「バナナマフィン、な。慌てるなゴリラ、ちゃんと用意してあるから手を洗ってこい。ほら、ヒナイチ君もまだだったろう」
ふたりを流しに追いやりながら、5歳児と小学生だな、とドラルクはため息をつく。
「「いただきまーす」」「イヌヌヌヌーヌ」
3つのお皿を前に3つの声が重なる。
皿にはバナナマフィンとクッキーが乗っていた。ただし、つまみ食いしたジョンの皿にクッキーはない。
クッキーだ。
はやる気持ちを抑えてヒナイチはひと口かじる。
ふわりと甘い香りが広がる。
サクサクとした歯触り。
そしてほどよい甘さ。
求めた「正解」がここにある。
ヒナイチが好きなのはクッキーではなく、「ドラルクのクッキー」なのだった。
じっくりと噛みしめながら笑顔になっていく姿を見てドラルクの口角も上がる。
「本当にヒナイチ君はクッキーが好きだねえ」
「ああ、大好きだとも!」
満面の笑みで言われて、ドラルクまで笑ってしまいそうになった。
この笑顔のためにクッキーは切らさないようにしなくてはいけないな、と思う。そしてジョンの手が届かない所を探さなくては、と。