「今日は綾里真宵と会うのよ」
冥の予定を聞いて、美雲はなぜかもやもやとした想いが胸に生まれる。
その名は、あまり人付き合いのよくない彼女から時折聞かされるものだった。
美雲は会ったことはなく間接的に知っているだけだが、冥が日本に帰ってくるたびに会っているらしい。
「綾里さんって、狩魔さんのお友達でしたよね」
胸に引っかかるような感覚を不思議に思いながらも、笑顔を作る。
「別に友達じゃないわ」
その返事に美雲は動きを止めた。
「ええっ、綾里さんってたしか冥さんが有罪にしようとした人ですよね」
「そうよ」
「必死で命を助けたんですよね」
「別に必死じゃないけど」
「ちょくちょく会ってるじゃないですか」
「ええ」
「なのに、友達じゃないんですか」
「ええ」
反応を見ると、照れ隠しではなく本気でそう思っているようだ。
冥は腕を組み頭をひねる。
「友達って、同じクラスだったり幼馴染だったり、命を懸けた戦いの末になったりするものじゃないの?」
「うううん……。なんだか妙にかたよってるような」
「そういったものは縁がなかったし、必要だと思ったことはないから」
「友達って必要とか必要じゃないとか、作るとかじゃなくて、いつの間にかなっているものなんです!」
美雲はいつの間にか力説していた。
両手に握りこぶしさえ作っている。
「一緒にいるだけで楽しかったり、どーでもいいことで盛り上がれたり、そんなのでいいんじゃないでしょうか。
あれ、じゃあ狩魔さんにとって私って何ですか? ただの知り合い!?」
話しているうちに辿り着いてしまった答えに、美雲は自分でショックを受ける。
冥は口元に手をあて、考え込むように宙を見つめる。
「………」
沈黙が怖い。
なんであんなこと言ってしまったのだろう。容赦なく「友達じゃない」という現実を突きつけられるだけなのに。美雲は涙まで出そうになった。
小首を傾げながら冥は答えを出す。
「……その条件で言うと、友達、になるのかしら」
「!!」
美雲は飛び上がらんばかりに喜ぶ。いや、実際に飛び上がっていた。
「私と居て楽しいって思ってくれるんですか!?」
「退屈はしないわね」
「どうでもいいことで盛り上がってくれるんですか!?」
「アナタが一方的に盛り上がっている気もするけれど」
「私と友達って言ってもいいんですか!?」
腕をつかんで顔を覗き込む。まるでシッポを振った仔犬のようだ。
「たぶん、ね」
「やったー!!」
冥に抱き着いた。
「そんなに嬉しいものなの? 友達だと言ったところで何も変わらないじゃない」
「ぜんっぜん違いますよ!」
「そうなの?」
「そうです!」
人付き合いの良くない彼女が「友達だ」と言葉にしてくれただけで、たまらなく嬉しいものだった。
しかも、初めてそう言ってくれたのが自分だというオマケつき。
「そうだ! 早く行かないと。綾里さんが待ってるんでしょ!」
背中を押された冥は不思議そうな顔をする。
「なによ急に。私が行くのをイヤがってたんじゃないの?」
「あ、バレちゃいましたか」
言い当てられて、「えへへ」と苦笑いをする。
「そうなんですよね。私、ヤキモチ焼いてたみたいです。狩魔さんを取られるような気がして」
「私はダレのものでもないわ」
それでこそ狩魔冥だ。
嬉しくて美雲が笑うと、冥が妙な顔をするのがまたおかしくて笑った。