胃袋をつかまれてる
「ケーキを頂いたんですけど食べませんか?」
10時のおやつにめずらしくセラヴィーが自分の手作りじゃないものを出してきた。
裏庭にあるガーデンテーブルにティーセットとケーキが用意される。
「マジカル堂のアップルパイじゃない。ここの美味しいのよね~」
セラヴィーが少しムッとした顔をする。そりゃセラヴィーの作るお菓子は美味しいけど、たまには他所のも食べたいじゃない。ここのケーキだってすごく久しぶりだ。
「コレしかないので子供たちにはナイショですよ」
紅茶を淹れてくれるのを待ってパイにフォークを入れる。
……あれ?
2口ほど食べて動きを止めた。
このアップルパイってこんなのだっけ?
美味しいし味が変わったわけでもない。美味しい、美味しいんだけど……
「どうしました、どろしーちゃん?」
なぜかセラヴィーはニヤリとこちらを見る。
「ううん、やっぱり美味しいわね」
パクパクと続きを食べる。
「そうですか? 僕の作る方がもっと美味しいですけどね」
そうなのだ。
セラヴィーの作るアップルパイに比べると少し物足りなく感じる。
コレだって充分に美味しいけど、身体が『これじゃない』と言っている。
もう少しリンゴの歯応えは残ってた方がいいし甘さももう少し控えめな方が好みだ。
「どろしーちゃんも僕の方が好きですよね」
「そ、そんなことないわ。こっちの方が好きよ」
「へー、ほー、ふうーん」
見透かしたように嫌味ったらしく言う。
「そうですか。じゃあどろしーちゃんは僕のアップルパイはもういらないんですね」
「そんな!」
思わず大きな声が出てしまって口をふさいだ。
「あ、ううん。セラヴィーのアップルパイだってそれなりに美味しいし、ほら、それぞれの良さってあるでしょ。たまには食べたいわ」
「それなりに……たまには……ねえ」
そうつぶやくと、それ以上は特に話すこともなくお茶の時間は終わり、なんとなく居心地が悪くてさっさと自分の家に戻った。
***
その日の3時のおやつは当てつけのようにアップルパイだった。もちろんセラヴィーが焼いたもの。
「わーい、先生のアップルパイ大好き!」
チャー子が全身で喜びを表す。
しいねちゃんも犬も跳ねるようにしてテーブルに着いた。
私も座るとパイが運ばれてくる。
「それなりの、アップルパイです。どろしーちゃんの好きなマジカル堂には敵わないですけど、たまにはいいでしょう」
嫌味ったらしく言いながら、これ見よがしに目の前に置いた。
「…………」
ひと口食べる。
美味しい。
パイは焼きたてでサクッとしている。
リンゴは煮すぎず甘さは控えめで酸味も少しあって味が濃い。
くやしくなるほど美味しかった。
「おかわりもありますよ」
「ほしいのだ!」
「私も! 私も!」
「僕もください」
子供たちは手を上げておかわりを求めた。
「どろしーちゃんはどうですか」
勝ち誇ったような顔でこちらを見る。
「いらんっ!!」
残りを口に押し込むと、ドスドス音を立ててにゃんこハウスを後にする。ドアを抜ける時に背中から会話が聞こえた。
「お師匠様とケンカでもしてるんですか?」
「さあね、ダイエットしてるんじゃないですか、ムダな努力ですよね」
ほんと! ムカつく!!