死んで覚える「ポケットモンスター」   作:サラウマン

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レポート-01「ゼニガメの甲羅」

 自然をたっぷりと残しているカントー地方でも特に自然豊かな町「マサラ」。一歩町を出れば途端に目の前に北に大草原と南には大海原が広がるここは、言葉を飾らずに言えば、いわゆる「ド田舎」だ。

 

 あるものといえば、「ポケモン」研究の権威であるオーキド博士の研究所くらいで、その研究所があるのも、オーキド博士がマサラのありのままの自然を気に入ったという理由からで、言い換えれば、マサラは学会の権威が認めるほどのド田舎、ということになる。しかし、そんなド田舎であってもやはり子供は変わらないもので、みな一様に、「最強」の「ポケモントレーナー」、つまりは「ポケモンマスター」を目指している。かくいう僕もその一人だった。

 

「グリーン!グリーン!」

 

 マサラの子供たちは十歳を迎えると、オーキド博士からポケモンをもらい、旅に出ることを許される。それは、ポケモントレーナーの資格を手に入れるということであり、ポケモンマスターへの挑戦権を得るということでもある。だからマサラの子供たちは、その日を、指折り数えて待つのだ。だから僕は待っていたのだ。「今日」という日を。

 

「レッド!!オセーじゃねーか!」

 

 まだ日が昇らない薄暗い空、朝霧が立ち込める中、濡れた道に立つ僕の叫ぶようにして呼ぶ声に、グリーンが家の二階にある彼の部屋の窓から身を乗り出すようにして、同じく堪え切れないように返す。グリーンはそのまま窓から飛び降りて、ダンッ、と音を立てて僕の目の前に着地した。僕がやれば、最低でも骨の一本や二本は折れているだろう。見慣れていたことではけれど、やはり自分の体の弱さが少し恨めしい。

 

「待ってたぜ、この日をよ!!」

 

「うん。僕もだ!」

 

「へへっ、分かってるっつーの!さっさとジーサンとこイコーぜ!!」

 

 今年、マサラを旅立つ子供は二人。僕とグリーンだ。僕たちはポケモントレーナーになるため、はやる気持ちを抑えつつ、博士いるの研究所へと向かう。舗装のされていない道はでこぼこしていて、むき出しの茶色があらわになっている。

 

「しっかし、晴れて良かったよな。せっかくの旅立ちの日が雨ってんじゃあ、カッコツカねーからな。」

 

「うん。でも、あのまま雨がやまなくて、嵐になっていても、旅立ちは延期しなかったよね。」

 

「ッタリメーだろ!俺たちは今日が来るのをずっと待っていたんだ!嵐だろーが雷だろーが延期なんてゼッテーアリエネーぜ!!」

 

「うん!」

 

 昨日は雨が降った。マサラの大地を洗い流すような大雨だ。川は濁り、道はぬかるみ、空気は少し泥臭い。僕たちは水たまりを避けながら濡れた道を歩いていく。

 

「グリーンはもう博士からもらうポケモンは決めたの?」

 

「おう!つっても今日の朝までずっと悩んでたんだけどな。そーゆーオマエはどーなんだよ。」

 

「うん。実は僕も、もう決めてあるんだ。」

 

「そっか、んじゃ被ったらジャンケンな?」

 

「うん。でも心配ないと思うよ?」

 

 町の東のはずれにある博士の研究所までは僕の足で三時間くらいかかる。それでも、二人で話しながら歩けばあっという間だ。日が昇りきり、草木に着いた雨と朝露もすっかり乾いてしまったころに、靴をすっかり泥で汚した僕たちは博士の研究所の扉を叩いた。

 

「ジーサン!ポケモンもらいに来たぜ!」

 

 グリーンの呼ぶ声にすぐに扉が開き、黄色のアロハシャツの上にに白衣を羽織ったいつものオーキド博士が顔を出した。しかし足元をみると、今日はいつもと違ってサンダルを履いておらず、少しおしゃれな革靴を履いている。やはり「今日」という日は博士にとっても特別な日なのだろうか。

 

「おお、よく来たな!グリーン!それにレッドも!待ちに待った旅立ちの日がやって来たな!。準備は万全かな?」

 

「ッタリメーだぜジーサン!それよか早くポケモンくれよ!ポケモン!!」

 

 せかすグリーンの声に、博士はとびっきりの笑顔で彼のデスクへと僕たちを案内してくれた。デスクの上には、金属質な白の半球に、半透明な赤の半球が組み合わさった拳大の球体、もっとも一般的な「モンスターボール」、が三つ鎮座していた。モンスターボールの中には縮小されたモンスターが封じられている。

 モンスターボールの所持が認められるのはポケモントレーナーだけ。そのボールを与えられるという事実が、僕たちに強い実感を抱かせる。

 

「知っているとは思うが、ここには「フシギダネ」、「ヒトカゲ」、「ゼニガメ」の三匹のポケモンが入っている。二人の初めての仲間となるポケモンだ。どれか一匹だけを選びなさい。」

 

 博士の言葉にいよいよ胸が高鳴る。僕たちは二人顔を見合わせ、示し合わせて、一斉に自分のパートナーの名前を叫ぶ。「せーの」っ。

 

「フシギダネ!!」

「ゼニガメ!!」

 

 一瞬間をおき、顔を見合わせ、僕たちは笑い合うと、それぞれに目当てのボールをつかむ。

 

「よろしくね、ゼニガメ!」

 

 夢みたいにふわふわした感じだ。これで僕もポケモントレーナーになったんだ。その証拠が今手にあるボールに入ってる。

 僕はさっそくボールを放ってみる。モンスターボールは軽く衝撃を与えることで、中に入っているポケモンを外に出すことができる。

 

「出てきて!ゼニガメ!」

 

 ボールが地面に着いた瞬間ピカッと強く光る。その光が収まってくるにつれて少しずつシルエットがハッキリと見えるようになっていく。それはコロンとした甲羅に、丸い頭と短い手足がついていて、二本足で立っている、思い描いた通りの姿。

 

「ゼニー!!」

 

 一声。身にまとった光がはじけ、一気に色がもっどてくる。甲羅の背中は茶色く、おなかの部分は白く、肌は明るい水色に。そしてその強い瞳は、夕焼けのような赤に染まった。それは決してゼニガメ以外の何物でもなく、間違いなく僕の目の前にはゼニガメがいた。ゼニガメがその澄んだ目でこちらを見つめてくる。

 

「あ、あの!僕、レッドっていいます、えと、その、君のパートナーだよ!」

 

 発するのは決めていた言葉。目に映るのはずっと思い描いていた瞬間。二人が一つのパートナーとなる旅の始まり。ゼニガメの反応を待つ短い時間が、緊張と興奮とが重なって、とても長く感じられる。

 

「ゼーニ」

 

 ゼニガメがニッと笑い、手を伸ばしてくる。きっとこれは始まりの合図。僕は直ぐにその手を握る。

 

「よろしくね!ゼニガメ!」

「ゼニ!ガーメガ。」

 

 旅の始まりだ。

 

 ゼニガメとの対面を済ませて、スキンシップをとっていると、同じく対面を済ませたグリーンとグリーンの選んだフシギダネが、いたずらっ子のような笑みを浮かべて近寄ってくる。フシギダネは背中に大きなつぼみを背負った、緑色のカエルのような姿をしている。

 

「バトルしよーぜ!」

「ダネッ!」

 

 ポケモンバトルは最強のトレーナー、ポケモンマスター、を目指すには避けては通れない道だ。グリーンは腕試しがしたいんだろう。同調するフシギダネもきっと同じ気持ちだ。二人はきっと「最強の夢」を共有したはずだ。

 僕はゼニガメと目を合わせ、意思を確認する。ゼニガメが手を伸ばしてくる。僕たちが決めた肯定の合図。僕はその手を握り、ゼニガメに了解を示す。

 

「ゼニ!」

「うん!」

 

「っし!そーこなくっちゃな!外に出よーぜ。さすがに研究所ん中でバトルすんのはマジーしな。」

 

 オーキド博士の研究所は広い。といっても広いのは施設そのものではなく庭のほうだ。研究所の庭には、オーキド博士のポケモンのありのままの姿を観察したいという考えから、ポケモンが放し飼いにされていて、彼らのストレスにならないようにとかなり広い面積があるのだ。僕たちはその一角に陣取った。

 

「んじゃ、さっそく始めっか!」

 

 口調こそ軽いものだがグリーンの目は真剣そのものだ。抑えきれないのか口角がわずかにだが吊り上っている。グリーンの気合が伝わったのか、フシギダネの目もキリリと引き絞られているように見える。僕の目の前にいるゼニガメも体勢を低くして構えている。ピリピリとした闘いの空気が、僕の肌に刺さる気がした。

 

「遠慮はシネーぜ!いけ、フシギダネ!たいあたり!!」

「ダーネッ!」

 

 グリーンの指示を受けたフシギダネが声をあげて飛び出す。その身にはうっすらと白い光がまとっている。初歩的な攻撃技「たいあたり」だ。当たってしまえば、技の威力自体は低いけど、ゼニガメのレベルもまだ低いから大きく体力を削られてしまうだろう。

 それに初撃をもらってしまっては流れを待っていかれてしまう。僕は急いで指示を飛ばす。

 

「っ!よけて!ゼニガメ!!」

 

 ゼニガメは直ぐに行動に移る。手足と頭を甲羅に引っ込め地面に伏せると、とびかかるフシギダネの腹のしたをくぐってしまった。フシギダネはその上を飛び越していく。

 

「ウオッ!?やるなっ、ってアブネー!!」

 

 グリーンが焦った声を上げる。攻撃の的を失ったフシギダネが、勢いを殺せずゼニガメの後ろにいた僕へと突っ込んでくるからだ。マズイ。そう思うけれど、僕にはもうどうすることもできない。

 

 そしてフシギダネはそのまま僕のおなかに突き刺さった。

 

レッドのめのまえはまっくらになった。

 

 

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