死んで覚える「ポケットモンスター」   作:サラウマン

2 / 6
レポート-02「コラッタの髭」

「うわぁっ!!」

 

 目を覚ますと、そこは見慣れた僕の部屋で僕のベッドの上だった。僕はあれから気絶してしまったんだろうか。時間はどれくらい経っただろう。グリーンはもう旅立ってしまったかな。ゼニガメは、

 

「っそうだ!、ゼニガメは!?」

 

 僕は腰に手をやる。ボールが無い。トレーナーは自分のボールを腰につけているものなのに、僕の手は空気をつかむばかりだ。僕もそこにつけた筈なのに。寝るのに邪魔と母さんが外してしまったのかと、僕はあわてて部屋中をひっくり返し始めた。

 

「もー、どうしたの?そんなに慌てて。だから準備は昨日のうちに済ませておくように言ったじゃない。」

 

 ドアの前に立つ母さんが困った風に言う。僕が騒ぐのが気になったのだろう。いつもならウンザリしてしまうところだけど、今の僕には蜘蛛の糸だ。

 

「母さん!僕のゼニガメ知らない!?」

 

 僕が一気につめより、言葉をはき出すと、母さんは一瞬だけキョトンとした後、すぐににっこりと笑った。

 

「夢を見ていたのね。あなたが旅立つのは今日のことよ。」

 

「え?」

 

 今度は僕が呆然とする番だった。母さんが何を言っているのか全く理解できなかった。

 

「早く顔を洗ってらっしゃい。ご飯にしましょう。きっとオーキド博士が待っていらっしゃるわ。」

 

 そういうと、母さんはさっさと階段を下りていったけど、僕はそれからしばらくその場で動けなかった。けどオーキド博士がゼニガメを預かってくれているのかもしれないと思いついて、再起動した。急いで階段を駆け下り、ご飯を掻き込み、あわただしく玄関へと向かう。そして靴をはこうとしたその時に、おかしなことに気がついた。

 

「靴が、汚れてない?」

 

 この靴は旅立ちの日のためにと新調したものだ。そして、雨上がりの泥道を歩いて、真っ茶色に染まったはずだ。でも、今この靴にはシミ一つなく新品そのもの。ここにきて僕は、ようやく一つの結論に達した。

 

「夢、だったのかな。」

 

 僕はその真新しい靴をはいて外に出てみた。地面はぬかるんでいて、空気は雨上がり独特のにおいをしていた。一度見たばかりの景色だ。正夢ってやつなのだろうか。

 

 それから僕はグリーンと合流してオーキド博士に会いに行って、そしてゼニガメとであった。夢の通りに。

 

「バトルしよーぜ!」

 

 グリーンが目を輝かせて誘ってくる。でも僕は夢のこともあって嫌な予感がして、断ることにした。

 

「ごめんね、今は少しでも早く旅立ちたい気分なんだ。」

 

 僕がそう告げるとグリーンはしぶしぶといった様子でうなずいた。

 

「ま、バトルならいつでもできるしな。そんなら早くイコーぜ!」

 

 それから僕らは町を出て隣町のトキワに向かった。今はマサラとトキワを結ぶ道「一番道路」だ。一番道路は田舎道だけあって、ほとんど整備がされておらず、ポケモンたちの潜んでいそうな背の高い草むらがそこかしこにある。グリーンはその中の一つに分け入って、さっそく鳥ポケモン「ポッポ」をゲットしていた。ポッポはカントーに広く生息している茶色い羽根をした小型のポケモンで、成長すると美しい飾り羽をもち、速さに優れた「ピジョット」に進化する。

 

「さっすがオレ!ラクショーだぜ!」

 

 ポッポは性格的にあまり闘いを好まないものの、空を飛ぶことができ、飛行タイプの放射系「かぜおこし」による遠距離攻撃も使えるとあって、本来ポケモンを手に入れてすぐの初心者がどうこう出来るような相手ではないけれど、グリーンはさほど苦戦することもなくポッポを打ち倒し、見事にモンスターボールに納めてみせた。グリーンとフシギダネの立ち回りは不安を感じさせない自信に満ちたもので、この短時間で二人のきづいた関係の強さを証明していた。

 

「初ゲットおめでとう!グリーン。」

 

「へへっ、アンガトよ、レッド。けど、オレ様の快進撃はまだまだこんなもんじゃねーぜ?お次はコラッタだ!」

 

 そういうとグリーンは適当な草むらに目星をつけて石を放る。するとグリーンの狙い通りに紫の小ネズミ、コラッタが飛び出してきた。先っぽがクルンと丸まった長い尻尾を高く突き上げ、細いひげを細かく震えさせて、すでに戦闘態勢に入っている。それを認めるや否や、グリーンは腰のボールからポッポを繰り出す。

 

「っし、ビンゴだ!いけポッポ!かぜおこしだ!」

 

「ッポオオオッ!!」

 

 草むらに潜む見えないポケモンの姿を見極め、手にしたばかりのポケモンを自在に操る。それは、ポケモン博士の孫として、様々なポケモンを間近で見ながら育ったグリーンならではの姿だった。

 

「くらいやがれっ!」

 

 ポッポの放つ、淡い青を帯びた風の弾丸がコラッタに迫る。しかし、それがコラッタに触れようとした瞬間、コラッタの影がブレる。

 

ドオッッッンンン!!

 

 爆音。「かぜおこし」が内に秘めたフラストレーションを解放し土煙を巻き上げる。

 

「上がれっ!」

 

 かぜおこしの着弾を確認するよりも早く、グリーンは即座の指示を出す。だが、時すでに遅く、瞬間、眩いばかりの白をまとったコラッタが宙に浮かぶポッポへと突き刺さる。そのたった一撃で、ポッポは地に落ちた。

 

「チッ!」

 

あまりの出来事に僕は驚きの声を漏らす。

 

「ッ、あのコラッタ、強い!」

 

 僕の声にこたえるように、しかしどこか、自分に向って言い聞かせるように、グリーンは言った。

 

「ああ、つえー。アイツはメチャクチャにつえー。でも、」

 

 グリーンはポッポをボールに回収し、腰のもう一つのボールに手を掛ける。ただの一瞬でさえも、目の前のコラッタから視線を切らさずに。

 

「その分メチャクチャ欲しくなったぜ!」

 

 グリーンはフシギダネをくりだした。その瞳には闘志がみなぎっている。

 

「あいつが使うのは「でんこうせっか」、それも恐ろしくレベルの高い奴だ。目じゃ捉えらんねえ。一発受けて捕まえんぞ。」

 

「ダーネ!」

 

 たいあたりの派生技「でんこうせっか」は、出の速さに特化した、いわゆる先制技だ。通常、技の使用から発生までにかかる溜めの時間が0.5秒未満のものをそう呼ぶのだが、あのコラッタが使ったでんこうせっかは明らかにその域を超えていた。

 

認識できないレベルの溜めの短さ、目視できない技の速さ。おそらくこれはグリーンの常識外の出来事であっただろう。しかし、バトルの途中で思考停止は許されない。状況は刻々と進行していくのだから。

 

「クォォォ、」

 

 コラッタが頭を低くし前傾姿勢をとる。丸まった長い尻尾はピンと張り、ひげは小刻みに震えている。再び攻撃を仕掛ける様子だ。対するフシギダネは腹ばいになって少しでも威力を殺そうと構えている。心なしか背中のつぼみが膨らんでいるようだ。

 

「ラッ!」

 

 再びコラッタの姿がブれ、その影は一筋の光と化す。でんこうせっかだ。それは一瞬のうちにフシギダネにぶち当たる。

 

「今だ!」

「ダッ、ニェエエエ!」

 

 叫ぶ。と同時にフシギダネのつぼみから黄色い霧が噴き出した。コラッタとフシギダネはその中に姿を隠す。

 

「おっとレッド、近ずくなよ!強力な「しびれ粉」の霧だ。お前じゃひとたまりもねーよ。トーゼン、あのコラッタもな!」

 

 体が痺れてしまえば、あの常識はずれな早さもそして速さも保つことはできないだろう。そうなれば、もうあの「でんこうせっか」も怖くなくなる。

 

 痺れ粉で出来た霧が薄らいでいき、しだいに二匹の姿があらわになる。するとそこには、ひげをだらりと垂らしながらも、必死に前歯をフシギダネの右の前足につきたてるコラッタと、その痛みに耐えるフシギダネの姿があった。

 

「っ!振り払え!つるのむち!」

 

「ダー、ネ!」

 

 フシギダネが伸ばした蔓をコラッタへ連続して叩きつける。コラッタの力が一瞬だけ緩んだすきを逃さず離脱した。右足からはドクドクと青い血が流れている。傷は深い。

 

「たたみかけろ!つるのむちだ!」

 

「ダンンネエエエッ!」

 

 痛みをこらえ、歯を食いしばり、フシギダネはさらに蔓を振り回す。コラッタはふらついた足取りで、それをかすらせながらもかろうじてよけていく。しかしそれも長くは続かない。「しびれ粉」と「つるのむち」によるダメージが足に回ったのか、ついにコラッタの足が止まる。

 

「とどめだ!フシギダネ!」

 

「フッシャアッ!」

 

 フシギダネのつるのむちが闘いに幕を下ろそうとしたその瞬間、三度、コラッタがブレた。やはり足にダメージがあるのだろう、その姿はもはや線ではなく点として捉えることができる。しかし、それでもフシギダネの蔓では捉えきれないほどに速い。

 

「ルルルルルァッタアアアア!」

 

 コラッタの一撃がフシギダネの腹に叩き込まれ、フシギダネは倒れた。コラッタは震える足でなおも立ち続け、グリーンをにらみつける。闘う意志の表明。しかし、グリーンの手元にはもうこれ以上闘うことのできるポケモンはいない。

 

「オレが、負け、た?」

 

 グリーンはあまりの現実に呆然と立ち尽くすのみだ。しかし、そのようなことはコラッタには関係ない。グリーンが我を忘れている間によろよろと距離を詰めてくる。

 

「ルアアアアッ!」

 

「グリーン!危ないっ!」

 

 いくらコラッタが弱っているとは言っても、いくらグリーンが僕とは違って強い体をもっていると言っても、それでも、どうしても、人間はポケモンには勝てない。僕はグリーンを助けるために腰のボールに手を掛ける。しかし、それよりも早くコラッタがグリーンにとびかかる。

 

「だめっ!間に合わない!」

 

 しかし、それよりも早くグリーンのボールからポケモンが飛び出した。

 

「ポッポオオオッッ!!」

 

 主人を守る、その一心でポッポは飛び出すままにをの体をコラッタにぶつけ、コラッタの勢いの向きを変えた。コラッタはグリーンのわきを通り過ぎてしまう。しかしそれだけの事をしただけで、ポッポは自分の位置を維持できず、地面へと落ちてしまう。言ってしまえばそれは、たった一度限りの時間稼ぎ。しかし、そのじかんがグリーンに正気を取り戻させた。

 

「っ、ポッポ、まだやれるな。」

 

 自分を取り戻したグリーンの言葉に、当然だとポッポが頷く。

 

「「かぜおこし」は当てらんねえ!あいつの攻撃はもう耐えらんねえ!ならもう一か八かしかねえ!」

 

「ポオオ!」

 

 ポッポが地面にいる間に回復したほんの少しの力で空に舞い戻る。決戦の気配を感じ取り、コラッタも臨戦態勢をとる。

 

一拍。

 

「やるぞポッポ!「でんこうせっか」っ!!」

 

 二匹のポケモンが同時にブレる。激突。二匹は持てる全てのエネルギーを目の前の敵にぶつけあう。相打ち。しかし、両者は倒れない。お互いに体力の限界を超えて立ち続ける。気力で体を支えて向かい合う。けれど、独り勝ちを目指すコラッタと、後ろに背負う主人を守るため負けられないポッポとでは、気持ちの強さが違っていた。

 

「ポオオッ!」

 

 その差がポッポに先制を許す。ポッポが翼を広げ「かぜおこし」の態勢に入る。コラッタはポッポをにらみつけるが未だ動けないでいる。ポッポの翼が淡い青に包まれる。

 

「やめろ!ポッポ!」

 

「ッ!」

 

 グリーンの制止の声に、ポッポの翼から光が霧散する。コラッタの視線がグリーンへと向かう。グリーンはバッグからボールを取り出して、ゆっくりとコラッタへ歩み寄り言った。コラッタはいまだ動けずにいる。

 

「オレたちの勝ちだ。だからオレはお前をゲットするぜ。」

 

 コラッタは己の負けを認めたかのように目を伏せた。グリーンは手に持ったボールをコラッタへと押しあてた。コラッタがボールの中へと吸い込まれ、ボールに赤い光が灯る。そして数度迷うように揺れたのちに、カチッと音を鳴らしてそれはおさまった。

 

「ぃよっしゃあああ!!」

 

グリーンはコラッタをつかまえた

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。