カイリュー達と無事に別れを済ませた後、僕たちはマサラの北、トキワへと到着した。トキワはチャンピオンリーグが行われるポケモンリーグの麓にある町で、チャンピオンリーグが開催される時期になると町は各地からポケモンマスターを目指す腕自慢のトレーナーでいっぱいになる。それ以外のときでも、リーグのそばの空気を吸いながらポケモンたちを鍛えたいと思う人は多い。だからこの町はトレーナー人口が断然多いし、それに比例するようにポケモンセンターにフレンドリーショップ、ポケモンジムや、トレーナーズスクールなど各種設備も充実している。当然、カントーに八つしかないリーグ公認のポケモンジムの一つもここにある。
「んだ?閉まってんじゃねーのか、これ?」
「あれ、そうみたいだね。どうしたんだろ?」
ポケモンリーグに挑戦するためには、公認ジムにいるジムリーダーに勝つともらえる「ジムバッチ」を八つすべて集めなければならない。トキワに着いてから、ポケモンセンターで旅の疲れをいやした翌朝、僕たちは腕試しも兼ねて、トキワの公認ジム、「トキワジム」を訪れていた。しかしどうにも雰囲気がおかしく、電気は付いていないし、物音もないし、おまけに扉はさびた鎖で雁字搦めになっている。これでは人はいなさそうだ。僕たちがジムの前で立ち惑っていると、町のおじさんが声をかけて来た。
「おいボーズ共、ここのジムに挑戦ってんなら後にしといたほうがいーぞ。ここしばらく開いてねーからな。挑戦できんのがいつになるか分かんねーぞ。」
このジムの様子から本当に随分と長い間人の手が入っていないように思える。これでは他の七つのジムでバッジを集めてきても八つ目が手に入らなくてリーグに挑戦できない人が大勢いるのではないのか。もし本当にそうだったとして、そんなことが許されるのだろうか。
「はあ!?なんだよそれ、公認ジムがそんなんでいいのかよ!」
「んなこと俺に言うなよ。リーグに言え、リーグに。」
それだけ言うとおじさんはそそくさと去って行った。グリーンはまだ納得していない様子だ。腰のボールに手が伸びる。
「こうなったら実力行使だ!出て来い、フシギダネ!」
「ちょ、ちょっとやめたほうがいいよグリーン。怒られちゃうよ。」
人の者を取ったらドロボー。人の物を壊したら何になるのかは分からないけど、とにかく悪いことなのは分かっている。しかしグリーンは笑って言う。
「ダイジョーブだって。ちょっとしびれごな流して本当に中に人がいないのか確かめるだけだからよ。」
「いや、それもだめだと思うよ。」
トキワでのジム戦はあきらめて、僕たちはトキワのさらに北、ニビを目指すことにした。カントーを一周してバッジを七つ集める頃にはさすがに何とかなっているだろうと考えてのことだ。ニビにも公認ジムはあるのでそちらで手を打つことにしたのだ。
「何かおかしーぜ、レッド。」
トキワとニビの間には大きな森がある。そこはトキワの森と呼ばれていて、多くのポケモンたち、特に虫ポケモンが豊富に生息していることで有名だ。トキワとニビの間を行き来する人は必ずこの森を抜けなければならず、僕たちもさっそく森の中に入り込んでいた。
「うん、やっぱり公認のジムが閉まってるなんておかしいよね。」
「ちっげーよ、それじゃねーよ。オレ達この森に入ってからまだ一匹もポケモンとあってねーだろ。」
確かに、鬱蒼と生い茂るこの森の中で、僕たちはまだキャタピーの一匹も見つけていない。三歩歩けば虫に当たるとまで言われる虫の王国、虫嫌いにとってはこの世の地獄であるところのこのトキワの森において、この状況は大変おかしなものであるのかもしれない。
「うん、でもポケモンたちが隠れてるってだけなんじゃあ。」
「バッカ、そんなら俺が見つけてるっつーの。ここにはマジで一匹もポケモンがいねーんだよ。」
「そんな、どうして。」
草むらに隠れたポケモンの種類まで正確に把握できるグリーンが言うのだからきっとそれは確かなのだろう。しかし、状況に理解が届かず疑問をもらすと、グリーンは声をひそめて答えた。
「多分、ロケット団だ。あいつら非合法な手段でポケモンを捕まえては裏で売りさばいてるってジーさんが言ってたんだ。ここいらのポケモン根こそぎ捕まえちまったんだよ。」
ワタルさんもロケット団はかなり力をつけてきていると言っていた。だから、そんな白昼堂々の犯罪行為を行っているとしても不思議はない。そして今もまだ森の中にとどまっている可能性もある
「ど、どうしよう。一度町に戻ったほうが、」
「シッ、静かに。近いぜ。」
グリーンはそれまで通っていた一般道を外れて、木々の間を縫うようしてに進んでいく。音を立てないようにしつつそれでもかなりの速度で進んでいく。僕は遅れないようその足跡を何とか辿っていく。グリーンが何かを見つけたらしく立ち止まる。追いつくとそこにいたのは、傷つき倒れ伏した、赤い頬をした黄色い小ネズミ、ピカチュウだった。
「レッド!」
「う、うん!」
グリーンがピカチュウの状態の確認をしているのを見て、僕はバッグの中から傷薬を取り出す。ある程度のダメージなら即座に回復させられるスプレータイプのものだ。それを手渡すと、グリーンは手早く処置を始める。傷薬が空になるころにはピカチュウは起き上がれるようになっていた。
「胸に赤い模様がついた黒づくめにやられたのか?」
ピカチュウは頷き立ちあがる。その瞳は迷いなく一点に向けてに引き絞られていた。強い決意で満ちている。
「あいつらのとこに行くのか。」
続く問いに今度は答えることなく、ピカチュウは走り出した。それに合わせてグリーンも走り出す。
「俺たちも行くぞ!レッド!」
「うん。」
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プレイ時間 31:24
みつけたポケモン 8ひき
つかまえたポケモン 1ひき
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しかし、僕はすぐには動き出さなかった。心の中でスタートボタンを押す。さきのカイリューの件で僕は確信した。これは僕を悪い未来から救ってくれる力だ。これからロケット団と闘うのなら、きっと助けになってくれるはずなのだ。レポートが完了すると僕は遅れを取り戻すべく急いで走り出した。
追いつくと二人は既にロケット団と接触していた。
「てめぇら!何してやがる!」
「チャア!」
グリーンが怒気を噴き上げる。ピカチュウの目には涙さえ浮かぶ。目前には網で捉えられ、もがいているポケモンたちと、赤のR、ロケット団だ。手には銃のような形をした機械を持っている。おそらくあの機械から網が発射されるのだろう。そして数が多い。ここにいるだけで五、六人はいる。その中から一人が進みでてくる。おそらくあいつがリーダー格なのだろう。
「ああん、ガキが何の用だ?天下のロケット団様に立て着こうってのか?フッハハ、笑えっちまうぜぇ、オイ!」
グリーンには一切の恐れが無い。コラッタとの死闘を制した確かな自信と、ロケット団に対する激しい怒りのせいだろう。だけれども、トレーナーとして冷静さは失っていない。ゆっくりと視界をめぐらす。
「なぜストライクが捕まっている?」
ストライクはその両腕に鋭い鎌を持つポケモンだ。ストライクの鎌を使えば網など切り捨てて自由の身になれる筈なのにそのストライクが網に捕らえられている。これは明らかにおかしな状況だ。
「はあ?そんなのロケット団がスゲーからに決まってんじゃねーか!この網はロケット団の特別製なのよ!」
「そうかよ、そんじゃあついでにその網がどうスゲーのか教えてくんねえかな。」
それは質問ではなく、確認でもない。闘いの前口上だ。その証拠にグリーンは腰のボールを手に取り、放る。現れたフシギダネは目を吊り上げる。闘いの始まりがやってきている。
「バーカ、誰が言うかよそんなこと!行け、アーボック!」
「出て来い、サンドパン!」
「マタドガス!」
「ゴルバット。」
「ラッタ!」
「ベトベトン!」
進化形のポケモン、ただの一匹でさえも驚異であろうそれが一度に六匹。勝ち目なんてあるはずもない。状況は絶望的だというほかない。ピカチュウの瞳から光が消え体が崩れ落ちる。
「まさか卑怯だとかぬかさねーよなぁ?え?」
「オレはオメーらと違って無駄なことはしないんだよ。」
ニタニタと笑みを浮かべるロケット団に、グリーンは少しも焦りを見せず、それどころか呆れさえ浮かべてみせた。その手が腰のボールへと伸びていく。
「ハっ!じゃあ、どうするってんだ?」
グリーンはそれを地面にたたきつけた。
「こうするんだよ!羽ばたけ!ポッポ!」
光とともに風が吹きすさぶ。同時にフシギダネから黄色の煙がもうもうと上がり始める。しびれごなだ。黄色の煙は風にあおられ、たなびき、ロケット団のポケモンたちと、ロケット団の人間を包み込む。大型のポケモンさえ痺れさせる強力な麻痺毒だ、ましてや人間なら口もきけなくなるだろう。グリーンはピカチュウを抱えると強く大地を蹴る。
「んぁっ!?、っ!、っっっっか!」
「逃げるぞレッド!!」
「う、うん!」
ポケモンたちが追ってくることはなかった。主を守る、そのように仕込まれていたのだろう。そのおかげで僕たちは助かった。しかし、ロケット団は痺れが取れれば直ぐにこちらを追ってくるだろう。しびれごなは即効性に優れているが持続性は乏しい。時間的猶予は短い。
「向こうには探知能力に優れたラッタがいた。逃げん切んのは無理だ。なんか策を練らねーと。」
ラッタ。コラッタの進化形で、その鋭敏な髭を使って獲物を見つけ出すポケモンだ。ラッタがいる限り僕たちは逃げも隠れも出来ない。
「でも、ラッタなんて倒せないよ。コラッタだってあんなに強かったのに、その上他のポケモンもいるんだよ。」
「ああ、そうかもしんねー。でもダメなんだ。ラッタを倒せなくてもいい。何か一つでもあれば。なんでもいいんだ。何か。」
グリーンもきっと分かっているのだ。この状況は詰んでいる。しびれごなによる奇襲も二度目は通じないだろう。通じたとしてもラッタを倒しきることはできない。進化したポケモンはそれまでとは比較にならないレベルで強くなるのだ。そのタフネスを削りきる手段が僕たちにはない。無理だ。しかし、それでも思考停止は許されない。勝つための手段を見つけだすこと、それがトレーナーの役目なのだから。僕たちはもうポケモントレーナーなのだから。
「グリーン。聞いてほしいことがあるんだ。」
精一杯足掻き続けるしかないのだ。
「そっちから出てきてくれるとは、探す手間が省けたぜ。ご苦労さん。」
目前には網で捕らえられたポケモンたちとロケット団。か細い希望とともに僕たちは戻ってきた。ピカチュウはその希望を瞳に灯し、自らの足で立っている。このピカチュウこそが今回の作戦のキーになる。
「ハッ!見逃してくださったのだと思ってました、許してくださいの間違いじゃねーの?」
グリーンが腰のボールを手に取る。その動作にロケット団の視線は釘付けだ。つい先ほどあんな目にあわされたのだ。警戒するなというほうが間違いだろう。加えてこの挑発だ。僕の手に既にボールが収まっていることには誰も気付かない。
「ふっざけんな!ぶっ潰せ!アーボック!」
グリーンがボールを放った瞬間、ロケット団が一斉にグリーンに向けてポケモンをけしかける。それはつまり僕とピカチュウが完全なフリーになることを意味する。この瞬間こそ狙い通り。僕は目をつぶり、指示を出す。
「ピカチュウ、フラッシュだ!」
「チャッッ!!」
閃光が走り、世界から色が消える。その中で僕は「バッグから取り出したボール」を投げた。
グリーンのフシギダネに対して、どうして網が使われなかったのか。それがこの作戦の原点だ。フシギダネというのは、野生での生息数が非常に少ない極めて珍しいポケモンだ。言ってしまえば高く売れるポケモンなのだ。ロケット団からすればさぞかし魅力的に映るだろう。それなのにロケット団は網で捕らえようとはせず、ポケモンで戦おうとした。僕にはそれが不思議に思えたのだ。グリーンはそこから仮説を立てた。モンスターボールのポケモン収納機能を使えばあの網からポケモンを取り出せるのではないかと。それゆえにあの網はトレーナーのポケモンに対しては使うことができないのではないかと。グリーンはさらにそこから起死回生の策をぶち上げた。つまり、空のモンスターボールをストライクに当てて外に出し、他のポケモンを網から出してもらおうというのだ。そうすれば後は解放されたポケモンたちの力で何とかなるかもしれない。
はたして作戦は成功した。グリーンが囮となって隙を作り、ピカチュウがフラッシュで目を眩ませ時間を作り、僕がボールを投げる。そして今、全てのポケモンたちが解き放たれた。
「な、な、何てことしやがった!ふっざけんなよ!あーもう死ね!今すぐ死ね!死ね死ね死ね!!」
リーダー格のアーボック使いが狂乱したような叫びをあげる。状況は決定的だ。思考停止は即ち敗北を意味するのだから。
ストライク
カイロス
バタフリー
スピアー
パラセクト
モルフォン
トランセル
コクーン
キャタピー
パラス
ビードル
コンパン
この世全ての虫ポケモンがロケット団を取り囲む。中にはポッポやピカチュウといった虫以外のポケモンも混じっている。これ以上は必要ないだろう。ロケット団への罰は森のポケモンたちに任せるべきだ。彼らにこそその権利はあるはずだから。
後のことは彼らに任せて僕たちは森を抜けた。身も心もクタクタで早くゆっくりと休みたかった。僕たちはニビへと急いだ。
「すみません、こちらのポケモンもボールに入れていただけませんか?」
ニビのポケモンセンターでジョーイさんに手持ちのポケモンを預け、そのまま部屋へ向かおうとするとジョーイさんに呼び止められた。ボールに入れていないポケモンなんて心当たりが無い。
「あれ、ピカチュウじゃないか。ついてきちまったのか。」
「ピッカッチュ。」
振り返るとジョーイさんに抱えられたピカチュウがいた。ピカチュウは飛び降りるとこちらへ寄ってきて僕の足に頬をすりよせる。僕はバッグからモンスターボールを取り出した。
「僕と一緒に来るかい?ピカチュウ。」
「ピカァ!」
レッドはピカチュウをつかまえた