フシギダネが進化したグリーンのフシギソウ。そしてポッポやコラッタを歯牙にもかけずに一蹴してしまったタケシのイワーク。強力な二匹のポケモンが対峙する。それだけで自然、空気は張り詰めていく。闘いの雰囲気で場が満たされる。
「はっぱカッター!」
「たたきつけるだ、イワーク!」
二人の指示は同時。フシギソウから濃い緑の光に包まれた葉っぱが幾筋も飛び出す。それらは当然全てがイワークへと向かう。一瞬遅れてイワークが白の光を纏った尾を地面へと叩きつける。ニビらしい石で造られたフィールドはその衝撃で割れ、めくれ上がり、イワークを守る即席の盾と化す。フシギソウの放ったはっぱカッターは全てがそれに受け止められた。フィールドに作られた盾は砕かれ、イワークの姿があらわになる。
「ほえる!」
「つるのむち!」
またしても同時。しかし今度はイワークが一瞬早い。ポッポを押しつぶした大質量の衝撃波が白の閃光とともに放たれる。フシギソウは自信の蔓をフィールドの割れ目に引っ掛けることで何とか吹き飛ばされるのを防ぐ。しかし衝撃によって飛ばされる石礫がフシギソウを襲う。フシギソウはただそれらを耐える。次に来る一瞬のために。そしてその時は訪れる。
「はっぱカッター!」
「ダーネッ!」
イワークのほえるが止んだ一瞬。それこそがグリーンとフシギソウ、二人が待ち望んだ一瞬。技の終わり、最も無防備な姿をさらすその一瞬こそが最大の勝機。盾とするフィールドはもう無い。今からもう一度ほえるを放つ時間ももう無い。フシギソウから緑の刃が放たれる。
「イワーク、たたきつける!」
タケシが指示を飛ばす。一見それは悪あがきだ。勝利を確信したその瞬間。
轟音とともに、イワークは跳んだ。はっぱカッターはことごとくその下をくぐってゆく。
「は?」
莫大な質量が宙を舞う、その常識はずれな光景に一拍グリーンが止まる。そしてその一拍は致命的なものとなる。
「たたきつける!」
フィールドの空を覆うイワーク。フシギソウに逃げ場はない。白の線と化したイワークの尾がフシギソウの目の前に振り下ろされる。圧倒的な質量と圧倒的な速度を纏ったその一撃はそれだけでも十分だった。
フシギソウはたおれた。
グリーンの手持ちは尽きた。これ以上闘うことはできない。
「フシギソウ戦闘不能!勝者、ジムリーダー、タケシ!」
審判の少年が声を上げる。グリーンの敗北が宣言される。グリーンは呆然と立ち尽くしていて、僕は何と声をかけていいのか分からなかった。いつも自信にあふれたグリーンがこんなふうになるのは初めてだった。
「グリーン君、君は本当にすごい奴だな。フシギソウを出したあの瞬間で一気に強くなってしまった。」
「っは。それでも勝てなかったんじゃシャーネーだろーよ。」
タケシのあの強い声が通る。しかしグリーンには届いていないようだった。グリーンはうつむき、歯を食いしばる。また何か、いやなことを思い出してしまっている。
「ならばもう、諦めてしまうのかい?」
握りしめられたこぶしが震えている。
「何をだよ。」
漏れ出るように紡がれる言葉に力はない。それはどこか自嘲を感じさせた。
「そんなことは知らない。だけど君にはどうしても諦められないことがある筈だ。」
タケシの眼差しがグリーンを射止める。まるで答えずに逃げることは許さないとばかりに。グリーンはうつむいている。その雰囲気はただただ悲しげだ。
「チッ。でも勝てねー。勝てねーんだよ。ならもう、」
「ならばもう、強くなるしかないだろうが!今よりもずっと強く、誰にも負けないほど!」
グリーンの声をさえぎりタケシは叫んだ。その声は今までよりもずっと強く、そしてとても温かく感じられた。
グリーンは手を一瞬強く握りしめると、息をはくと同時にそれを緩める。うつむいた顔を上げるともういつも通りの自信溢れるグリーンだった。むしろその瞳は今まで以上に強く、前を見つめているようだった。
「ハ!んなこたあ言われなくたって分かってんだよ!いいか、お前は必ずぶっ倒す!カントーのジムを全部倒して、お前は最後に手加減抜きで倒す!分かったか!」
グリーンの口角は吊り上り、歯はむき出しとなる。それはとても楽しそうな、希望に満ちたような笑顔だった。
「ああ、でもそれならなるべく早くで頼むよ。オレはこう見えて待つのはあまり好きじゃあないんだ。」
それに対するタケシの瞳はとてもやわらかく開かれていた。そこに威圧感はなく、ただただ温かかった。
「無駄な心配だな!速攻で挑みにくるぜ!んじゃレッド、そういうわけでオレはさきに行くからよ。」
「うん。僕は大丈夫だよ。今なら二人も付いてるし。だからグリーンも頑張ってね。」
すこし、ではなくとてもさびしい。グリーンは物心ついたころから一緒にいた幼馴染だから。でもそれはグリーンだって同じ気持ちのはずだ。ならば僕には応援してあげるしかない、そう思った。
「へへ、お前なら案外すぐに追いついてきちまうかもな。じゃあ、またな!」
そう笑ったグリーンは駈け出して行った。その瞳は強く前を映して、今までよりも確かな足取りで。だからきっと大丈夫だ。
「行ってしまったな。グリーン君は。」
タケシが呟く。それは自分に向けたものだったのか、それともこの場の誰かに向けたものだったのか。僕には分からなかった。だから、ぼくもどこかに、誰かに向かってつぶやく。
「大丈夫ですよ。だってグリーンは強いですから。」
「ああ、その通りだな。そしてきっと君も彼の友人に相応しいレベルで強いのだろうね。」
今度は明らかに僕のほうに向けて、タケシは声を放つ。
「君も挑戦していくかい?レッド君。」
僕はボールからゼニガメとピカチュウを出す。二人を見れば、そこには差し出された二つの手。了承の合図。僕はそこに自分の手を重ねる。
「はい!お願いします。」
レポートをたくさんかきこんでいます
プレイじかん 29:32
みつけたポケモン 28ひき
つかまえたポケモン 2ひき
レポートをかんりょうしました
バトルフィールドに立った僕はさっそくレポートを書く。先ほどまでここで繰り広げられていたようなバトルに巻き込まれたならばひとたまりもないからだ。
「ではルールの確認を行います。入れ替え制、使用ポケモンはお互いに三匹。挑戦者はその三匹、ジムリーダーはそのうち一匹が戦闘不能となった時点で敗北となります。」
審判の少年が声を上げる。しかし今度もタケシが修正を加える。そしてそれはまたしても挑戦者側に有利なものだった。
「ああいや、どうやらレッド君の手持ちはまだ二匹しかいないようだ。使用ポケモン数はそれに合わせよう。」
「はい。ではお互いの使用ポケモンは二匹ずつとします。よろしいですね。」
「ああ。」
「はい。」
これが僕の初めてのジム戦。でももしかしたらこれは僕の初めてのポケモンバトルであるのかもしれない。グリーンとしたバトルは夢の中の話しで、ロケット団との戦いはそういったものではなかった。
「ニビジム、リーダー戦を開始します。両者フィールドにポケモンを出してください。」
バトルが始まる。胸が高鳴る。それは僕一人のことじゃない。そばに立つゼニガメも、ピカチュウも同じだ。
ジムリーダーのタケシがしょうぶをしかけてきた
「まずはお前だ、イシツブテ!」
「ピカチュウ、お願い!」
「チャア!」
タケシが繰り出したのはニビの東、オツキミ山に生息するポケモン、イシツブテ。此処ニビでは子供の遊び道具になることさえある非常に一般的なポケモン。岩と地面の複合タイプだ。電気タイプのピカチュウとの相性はハッキリ言って最悪。こちらの攻撃はほとんど通らないと見ていい。
「さあ、どうするんだいレッド君?打つ手はあるかな。」
幸いなことにレベルはおそらく同程度。タケシがそういう風にポケモンを選んだのかもしれない。この状況ならきっと何とかなる。グリーンだって相性の悪いポッポをフシギダネ一匹で倒して見せた。僕にだってできないことではないはずだ。
「ピカチュウ、なきごえ!」
「ピッカッチュウ!」
ピカチュウから発せられるのはイワークのそれよりも明らかにかわいらしい叫び。当然そこにイシツブテを吹き飛ばすような力はない。しかしそこに込められたパワーポイントはイシツブテの力をそぐ。
「後のゼニガメを少しでも有利にってわけでもなさそうだな。イシツブテ、まるくなる、続いてころがるだ。」
イシツブテがその体を小さく丸めると白い光が包み込み、その硬度をます。それを確認するとゆっくりと回転しながら前に進み始める。薄く土色の光を纏いながら。
「逃げて!ピカチュウ!」
「逃げても無駄さ。イシツブテはどこまでも追っていくぞ。」
その言葉通りイシツブテはピカチュウへ向けてどこまででも転がり続ける。その速度と、その身に纏う光の強さを増しながらピカチュウを追い続ける。ころがるというのはそういう技だ。ころがり続けるにつれその威力を増していく。それが脅威であり、弱点でもある。下がったこうげきを補うために高威力のころがる、描いた通りの景色だ。
「でんこうせっか!」
タイミングを見計らって指示を出す。ピカチュウは白を纏い走り始める。そのターゲットはイワークによっち破壊されたフィールド。中でもうまい具合にてことして作用するように折り重なった場所だ。十分に加速したイシツブテはもはや周りなど見えてはいない。ただピカチュウをめがけて突っ込んでくる。
「跳ねあげろ!」
「チャア!」
はたして僕らの試みは成功した。イシツブテはその勢いのままに真上へと発射され、そして落ちてくる。ピカチュウは飛び上がりイシツブテにとりつくと、その回転を利用して自身も回り始める。オレンジの闘気を纏う。
「ちきゅうなげ!」
落下の力。回転の力。全ての力を凝縮してイシツブテを地面にたたきつける。
イシツブテはたおれた
「イシツブテ戦闘不能!ジムリーダーは次のポケモンを出してください。」
うまくいった。大丈夫、僕たちだって戦えてる。ピカチュウがこちらに視線を送ってくる。うん、次が最後の仕事だ。
「ほう、ちきゅうなげとは珍しい技を使う。やるな、レッド君。だが次は投げられないぞ!」
タケシがついで繰り出したのはイワーク。グリーンとの対戦で使用して物よりも一回り以上小さい。それでも僕らから見れば十分巨大だ。むしろさっきまでよりも近くから見る分大きくさえ感じる。
「なきごえ!」
「たたきつける!」
ピカチュウの放つなきごえがイワークの力を削ぐ。イワークはその上からピカチュウをなぎ払った。
「ピカチュウ戦闘不能!挑戦者は次のポケモンを出してください。」
気を失ってしまっているピカチュウをボールに回収する。ピカチュウには痛い思いをさせてしまったけど、これで準備は整った。決して素早くないゼニガメではイワークの攻撃を避けきるすべはない。それ故あの重い攻撃と渡り合うためには、何としてもゼニガメが耐えきるしかなかった。そのためのなきごえ。僕たちはなきごえをイワークに当てる必要があった。
「後は頼んだよ!ゼニガメ!」
準備は万端、気合も十分。後はもう頑張るしかない。
レッドはゼニガメをくりだした
「ゼニガメ、あわ!」
指示に合わせてゼニガメは口から淡く光る泡をふきだす。その泡は明確な標的を以てイワークへと吸い込まれていく。相性はばっちり、効果抜群だ。
「がまんだ!」
タケシの指示にイワークは体を光で包む。がまん、受けた攻撃を倍で返す技。これ以上の攻撃を与えるとまずい。
「カラにこもる!」
ゼニガメは手足を引っ込めその甲羅に光を宿す。防御の構え。
「さあ耐えてみせろ!解き放て、イワーク!」
「イュアアアアア!!」
振り下ろされるイワークの頭。そらは鈍い音を立ててゼニガメへと叩きつけられた。イワークはのっそりと頭を持ち上げる。そこにゼニガメは、
「あわ!」
「ゼニー!」
立っていた。甲羅の背中にはひびが走っている。放たれた泡は全てイワークへと直撃する。イワークはおもわずといった様子で後退する。
「もう一度、あわ!」
「がまんだ!イワーク!」
再び全身に光を纏ったイワークに泡がはじける。イワークは苦しげに眼を閉じる。しかし耐えた。次のイワークの攻撃をゼニガメが耐えることはできない。押し切るしかない。
「最後だ、あわ!」
今度はイワークは目を閉じない。絶対に倒れない覚悟の目で攻撃を受ける。その口から苦悶の声が漏れるがその巨大な体が揺らぐことはない。そして、耐えきった。
「解放しろ!イワーク!!」
「アアアアアアア!!!」
強大な光を纏ったイワークの体がむちのように振るわれる。耐えることなどできない。避けることなどできない。もう僕たちには押し切るしかない。
「あわ!!」
「ゼーニッ!!」
振り下ろされるイワークに絶え間なく泡がぶつかっていく。イワークが迫る。目の前が鈍色で埋め尽くされる。一瞬のはずの出来事がどこまでも遠く引き伸ばされる。そして二匹がぶつかる直前、イワークの放つ光が霧散するのを見た。
ゴッッ!!
鈍い音。しかしそれはあるはずだったものよりもはるかに小さかった。
「イ、イワーク戦闘不能!勝者、挑戦者レッド!」
ジムリーダーのタケシをたおした