ベタベタするセラヴィー
最近セラヴィーの距離が近い。
「……どろしーちゃん」
「ひゃっ!!」
にゃんこハウスのソファーで雑誌を読んでいると、耳のそばで声をかけられゾワッとした。
「そ、そんな近くで言わなくても分かるわよ!」
「言っても気づかなかったから近寄ったんですけど。ついに耳が遠くなったんでしょうか」
「集中してただけよ!」
「そうですか?」
くすくすと笑って顔をのぞき込まれる。顔が近い。
こうして見れば見た目だけはいい男に見えなくもない。それを補って余りある性格の悪さだけど。
ぐいっと身体を押しのける。
「その前に肩をたたくとか、他に方法はあるでしょ」
「そうですね、じゃあ次はそうしましょうか」
横にぴったりと座って私の手を握る。
「買い物にいきませんか?」
柔らかく笑いかけられる。余裕のある感じがなんだかムカつく。
手を振りほどいて立ち上がった。
「さっさと行きましょ」
距離が近くなった理由は考えられる。
セラヴィーが小さくなった時、私の部屋の奥に隠していた『セラヴィーのプレゼント』を見られたっぽいのだ。
ああもう!
捨てるのはもったいないし、かと言って使うのはなんだかイヤだ。あいつの目に触れさせたくなくてしまってただけなのに、「大切にしまい込んでいた」と見えなくもない。
確かに昔から持ってて愛着ある物もある。でも物自体に罪はないし、決してあいつからもらったからじゃない。
カン違いだ、と否定するにもセラヴィーが見たというハッキリした証拠もないし、ヘタに蒸し返したら『僕のプレゼントを大事に大事にしまってたんですか。へええー』とか言うに決まってる!
「今日も仲いいね、おふたりさん。今日はキャベツが安いよ」
スーパーで顔見知りの店員さんに声をかけられた。
「久しぶりにロールキャベツもいいですね」
「料理上手なダンナでうらやましいね!」
夫婦じゃないと何度か言ったはずだけど、毎回否定するのも面倒なのであいまいな返事をする。
そもそもこの人は「ダンナ」を夫の意味で使っているわけじゃないかもしれないし、気にしないことにした。
「”料理上手なダンナ”だそうですよ、どろしーちゃん」
わざわざ繰り返してすり寄って来たのをかわし、キャベツを3つほどカゴに突っ込んでさっさとカートを押す。
「待って〜どろしーちゃん~」
ヒトの名前を大きな声で叫ばないでほしい。
「僕が持ちますよ」
重い方を持とうとして私の手を自然に触りニコッと笑いかけられる。
「じゃあお願い」
自分の分の買い物袋を下げて店を出るとセラヴィーが横に並ぶ。
ジロッと見ると微笑まれた。
「どうしたんですか、どろしーちゃん」
「……どうもしないわ」
目が合っただけでヘラヘラ嬉しそうにしないでほしい。
そもそも私は「ドぶす」だったんじゃないの??
距離が近い根本的な原因も見当が付いていた。
ピカポンのせいで金髪になった時、あろうことか魔法が戻る直前に婚姻届を書かせようとしたのだ。結婚した所ですぐに髪は黒に戻るのに。
……あまり考えたくないけど、私の髪が黒くてもこいつは結婚したかったらしい。
その後も態度は相変わらずだったから気のせいかと思っていた。
それなのに、しいねちゃん家にお邪魔した時アクセスさんがセラヴィーのことを婚約者とか言うから、よくあるカン違いと思ったら本人が言ってたらしい。なにしてんのこいつ!?
つまりは今まで私を嫌いなフリしてて、私がセラヴィーを”嫌いじゃないかも”という可能性を見つけて図に乗ってきているのかもしれない。
「どろしーちゃん危ない!」
「きゃあ!」
足元に大きな穴があって、身体をぐいっと引かれる。
考えごとをしていてよく見てなかったらしい。
「これくらいよけられたわよ」
「すみません、どんくさいどろしーちゃんが心配で」
物言いはあいかわらずだけど以前よりトゲがない、気がする。
「もう離して!」
腰に回されたままだった手を払い落とし、ずんずんと進む。
「あんまりベタベタしてると、またゴシップ誌に書かれるわよ」
「好きにさせておけばいいじゃないですか。よけいな虫も寄ってこなくなるし」
「子供たちを巻き込むことになったらどうするのよ」
「大丈夫ですよ、僕以外の情報を出すようなら二度と商売ができないようにしてやりますから」
さらっと怖いことを言う。
そういえば前に記事が出た時、写真は二人の後ろ姿だけだったしあまり具体的なことは書かれていなかった。ちょっと調べたら私の素性ぐらいすぐわかりそうだし、ウチの家のことはああいう媒体が好きそうなのに。
もしかしたらあの記事もこいつがワザと出したのじゃないだろうか。
横で歩くセラヴィーを見上げると、にへらっと無邪気に笑う。
ああホントやめてほしい。
全身で好意を示してくるくせに、言葉では『金髪になったら』とか回りくどい言い回ししかしてこない。
これが本人に尋ねようものなら『はあ?僕がどろしーちゃんを好き?どれだけ自信過剰なんですか』とか言うに決まっている!
……それとも本当に『好き』なんて言われたら!?
いや、こいつと付き合うなんて絶対ないけど。絶対に。
「どうしたんですか、さっきから変な顔して」
キッとにらむとニッコリと笑い返してきた。
大きくため息をつく。
「疲れたなら喫茶店でひと休みしていきませんか」
聞こえないフリをしてズンズンと進む。
「……だめですか?」
突然シュンとなるの、やめてほしい。
いつも自信たっぷりでイヤミな奴のくせに、そうやって弱気になると昔のセラヴィーを思い出して手を差し伸べたくなってしまう。
「……おごりなら行くわ」
シッポが付いてたらブンブン振り回しているほど顔を輝かせる。
「もちろんです。どろしーちゃんはおごり以外では滅多に外食しませんからね」
「あんた以外なら普通に払うわよ!」
ああもう、こいつは……
ウザいけど、向うから言わない限りは気付かないフリをしておこう。今しばらくは。
ウザいけど。
互いに「嫌われてないかもしれない」と気付くタイミングがわりと明確にあるのありがたい。