Fate/Blue archive -キヴォトス聖杯戦争- 作:ゴッホカッター
————先生が"シッテムの箱"の中で意識を取り戻してから、およそ2日後のこと。
『聖杯戦争に参加される皆様。お初にお目にかかります。私、今回の聖杯戦争を監督させていただきます、ルーラーのサーヴァントです』
そのメッセージは、突如マスターたちの元に届けられた。
『つい先ほど、最後のサーヴァントの召喚が確認されました。よって、このメッセージが終了次第、聖杯戦争の開幕を宣言させていただきます』
『ルールは単純明快なバトルロイヤル。自陣営以外のサーヴァントを全て退去させ、最後に残ったサーヴァントとその契約マスターに聖杯を使用する権利が与えられます』
『……いつまで経っても敵陣営と会敵できない、という事態を防ぐため、聖杯戦争の戦闘時間である夜間には【D.U.シラトリ区】へ全陣営を招集させていただきます。夕方18時から朝の6時まではシラトリ区の外へ出られないよう結界を張り、開始時刻までにシラトリ区にいらっしゃらない陣営については、区内のランダムな地点へと私が転送させていただきます』
『なお、昼間の戦闘は原則として禁止としておきます。無関係な一般人を無差別に巻き込むような戦闘行為を行う陣営に対しては、ペナルティを課すこともあり得ますのでそのつもりで』
裁定者によるルールの告知と、戦場の指定。
これにより、状況は俄かに動き出すこととなった。
★
-トリティ総合学園 テラス-
学園の生徒会であるティーパーティーの会合が行われる場にて、通常時よりも大人数での会議が行われていた。
「……送られてきたメッセージはこんな感じだったかな。合ってるよね?ヒフミちゃん」
「は、はい。私が聞いたのと同じ内容です」
元ティーパーティーであり、トリニティ総合学園を転覆させかねない大騒動を引き起こした末に処分の為の査問中の生徒——聖園ミカ。
補修授業部の部長。自称"普通の女の子"であるが、裡に陽の光のような輝きを秘めた生徒——阿慈谷ヒフミ。
ティーカップを持つ彼女らの手の甲には、刺青のような赤いアザ……聖杯戦争のマスターに選ばれた証である【令呪】が刻まれていた。
「私たち、今夜からD.U.にテレポートして朝までバトルロイヤルしないといけないんだって。どうしよっか?他の参加者全員千切って投げちゃっていいの?」
「分かってて聞いているのだと信じていますが、絶対にやめてくださいねミカさん」
ミカはケラケラと笑いながら、茶会のホストであるナギサに問いかける。冗談めかした口調とは正反対の滲み出る圧力に、ナギサは胃を抑えて溜息を吐いた。
……シャーレの先生が失踪して、もう3日になる。当番生徒だったゲヘナ風紀委員長空崎ヒナによる「先生は『聖杯戦争』なる奇怪な儀式を企むモノに攫われた」という証言は、各学園の上層部にのみ伝達されていた。
諸々の事情(先生への感情の重さ等)を加味して、ミカには証言者のことは伏せて聖杯戦争のことを伝えていたのだが……悪魔の悪戯なのか、聖杯はミカを参加者に選出してしまった。
「この儀式には私たちの常識を超えた力が働いている以上、転送されてしまうことは避けられないのでしょう。しかし、『夜中でトリニティの外で戦闘行動を取っている』ことがバレたら、間違いなく査問に悪影響が出ます」
「……なら、ミカ様はどこかに隠れていてもらいましょう。情報収集は私がやります」
「ヒフミさん、あなたも三週間後に補修授業部の試験が控えているのでは——」
「先生の行方に繋がる手掛かりを探す方を優先します」
強い視線に射抜かれて、思わずたじろぐ。
「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、流石に任せっきりにはできないかなぁ。なにしろ先生のことだし」
「だとしても、私のやることは変わりませんから」
「……ッ!!」
ナギサは奥歯を強く噛み締める。和やかに、あるいは静かに、友人たちは死地へと赴こうとしている。
……サーヴァントの力は、ナギサ自身の目で確認した。目の前で消えたり現れたり、何もないところから馬と
学園のことを抜きにしても、そんなところに彼女たちを送り出したくはなかった。
何か言わなくては、と口を開きかけ——
「はい、ちょっと休憩ねー」
ぎゅむ、と口に押し込まれた焼き菓子に目を白黒とさせた。
一拍置いて、ヒフミとミカの口にも同じお菓子が押し込まれる。
にこやかな笑顔で3人の口から指を抜いたのは、赤い髪の穏やかな女性——ヒフミのサーヴァントである、ライダー。
「うん、マスターたちの事情は分かった。本当は大事な時期だけど、その『先生』を探す手がかりだから参加しないわけにはいかないんだね?なんとか両立できるように、時間のやりくりとか立ち回りとか考えてみるよ……セイバーも、そこのあたり配慮してあげてくれる?」
「情報を集めたいだけならば、マスターが戦場に出る必要はない。私が敵勢力を蹂躙した後、敗者から情報を搾れ」
「……わーお、豪快」
卓につくことなくミカの背後に静かに佇んでいた、見上げるほどの巨躯を甲冑に包んだ女騎士。ミカのサーヴァント——セイバー。
「だから……えーと、桐藤さんだっけ?あなたは学校側をうまく誤魔化しておいてもらえないかな。現代の学校のことにはあまり詳しくなくて」
「……可能な限りの手は打ちます」
ナギサは思う。
まだ信用はできない、できないが——友人たちが命運を預ける剣が「悪い大人」でないらしいのは不幸中の幸いだった、と。
★
「————良かったのか、これで」
「ん?何が?」
会合の終わった帰り道。
マスター同士と、サーヴァント同士。マスターたちが前方でD.U.での拠点について夢中で話し込んでいる中で、サーヴァントたちはスタンスの確認を行なっていた。
「貴様のマスターは元の生活を犠牲にしてでも聖杯戦争に注力する気に見えた。そのままにしておいた方が、聖杯には近づいたのではないか?」
「あたしそんなに悪人面してるかなぁ!?」
「……いや、すまない。そういうつもりではなかったんだが」
ショックを受けた表情のライダーに若干気まずくなる。彼女が悪性の人物だと言いたかったのではない。
「私は今回、マスターの本懐を叶える助けになることが望みだ。故に、願望器としての聖杯には然程興味はない……だが、貴様はどうなのだ?聖杯に懸ける願いがあるはずではないのか」
それは、問い。一種の聖杯問答。
背中を預け、いずれは命を賭けて殺し合う相手に対する確認作業。
「————うん、あるよ。あたしの故郷、ブリタニアがこれからもずっと平穏でありますように、って。願掛けみたいなものだけど、あたしにとっては命を賭けて戦うだけの価値がある願いだ」
聖杯戦争は文字通りの戦争だ。
願いを叶える権利を得るためには、他者の願いを踏み躙らなければならない。英霊は皆、そのことを分かった上で現界している。
「だけど、今回はそれは二の次。マスターは魔術の心得もないし、召喚の詠唱も知らないって言ってた……巻き込まれたんだ。あの子を無事に返す目処が立つまでは、自分の願いのことは考えない」
だからこそ——叶える手段は選ぶと、そう彼女は口にする。
「それに……娘と同じくらいの年頃の子が、いっぱいの荷物を背負い込んで、それでも一生懸命頑張ろうとしてるのを見たらねえ。大人として、できる限りのことはしてあげたくなっちゃうじゃない?」
そう言って、照れくさそうに頬を掻くライダーが、酷く眩しいものに見えた。
「まずは戦の段取りを手伝ってあげて、後は……ごはん作ってあげようかな。セイバーも一緒にどう?」
「……いや。遠慮する。マスターからの魔力供給で、補給は十分賄えている」
「そういうことじゃなくて——あっ、こら!」
霊体化をして姿を消し、その場から立ち去る。朝ごはんにはおいでよ、という声が背後から飛んできたが、団欒に参加するつもりはなかった。
「……貴女のような方がそうあれと願って行動するのなら、必ず良い方向に転ぶでしょう。ですが、私はそうするべきではないのです」
——ずっと、粘ついた甘味が口に残っている気がする。
「私は、ただの剣であればいい。主の目的のために振るわれ、不要となれば捨てられる道具でいい」
繰り返し言葉を焼き付ける。二度と過ちを犯さぬように。
「……私の
落ちた視線の先には、一面の赤黒い海。ベッドにぶちまけられて乾き切った血の色。
…………脳裏にべったりとこびりついて離れない、『大食らい』の罪の痕。愛しく思ったものを食い殺す卑しいケダモノの業は、消えることなく燻り続けていた。
ナギサ様…ぽんぽんペイン
ミカ…まだスイッチは入ってない
ヒフミ…光
セイバー…マスターの精神性の影響を強く受けてナーバスになっている。
ライダー…今を生きる子供達絶対守護るウーマン