Fate/Blue archive -キヴォトス聖杯戦争-   作:ゴッホカッター

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うまいこと筆が乗ったので投稿です。


鐘崎港/戦神の神威

-D.U.シラトリ区 鐘崎港-

 

整然と積まれたコンテナの隙間を縫って、骨で出来た小さな竜が空を舞っている。

ルーラーが先ほど作り出した、飛行形態の竜牙兵。ルーラーの目となり各地の戦闘を彼女に伝え、乱入者の正体を炙り出すために放たれた一の矢。

撃墜を警戒した魔術的な迷彩が施されており、心得のないものには発見することすら難しいのだが——

 

「……偵察用の竜牙兵ね。恐らくアレが飛んできた方向にある地区にルーラーはいるわ。迷彩に胡座をかいて飛び立つ場所や方向を偽装しようなんて方向に頭は回らないだろうし」

 

"昔の自分に容赦ないね……"

 

「分かるのよ。私がそうだから」

 

苦々しげに吐き捨てたのはシャーレのキャスター。不運なことに、竜牙兵はその飛翔を彼女に捕捉されてしまっていた。

キャスターにとって、ルーラーは若い頃の自分。忌々しい黒歴史であり、かつて通り過ぎた場所にすぎない。であれば、手の内もカードの切り方も文字通り筒抜けである。キャスターは竜牙兵の迷彩を見抜いた上で、その視界を魔術で誤魔化して己の存在を隠していた。

 

『後は拠点を絞り込んで突入するだけですね!サポートはこのスーパーマスターアロナちゃんにおまかせください!』

 

しゅっしゅっ、とシャドーボクシングをするアロナ。

現在進行形の黒歴史を止めたいキャスター、生徒たちを守りたい先生と比べ、奪われた先生の肉体を取り戻すことへのモチベーションが一番高いのが彼女であった。

 

「拠点の絞り込みはするけど突撃はしないわよ。向こうの手は大体想像がついているけれど、無策で挑んでいい相手ではないもの」

 

『ほぇ、そうなんですか?』

 

「私の方が魔術の腕で勝っている自負はあるわ。けれどそれは陣地の作り方や魔術の道具作りの話であって、戦いへの応用力はアレの頃からあまり変わっていないのよ」

 

研鑽を血肉として腕を上げているという自負はある。

が、少女時代とは即ちあの男の船で冒険をしていた頃。鉄火場でのいざという時の底力のようなものは、恐らく互角どころかあちらが上回っているだろう、とキャスターは見積もっていた。

 

"私も今突撃するのは避けたいかな……キャスターに特別なアドバンテージがあるとはいえ、サーヴァント1騎に攻撃されて倒されるようなスペックで優勝賞品の番人ができるとは思えない。何かしら隠し球を持ってると思うんだけど"

 

「あら、鋭いわねマスター。ルーラーは裁定を円滑に進めるための特権として、サーヴァントへの命令権である令呪を与えられているはずよ……本来であればサーヴァント1クラスあたり2画程度の行使が限界でしょうけど、間違いなくそれでは済まないでしょうし」

 

令呪。素人のマスターがただ念じるだけでもサーヴァントに命令を聞かせたり一時的な能力ブーストをさせたりの奇跡を起こす、使い捨ての魔力の塊。魔術に長けたものであれば、より効率的な運用や仕様外の悪用が可能になるだろう。

キャスターの頭には予備を生成してのストックや他クラスの分の転用が浮かんでいたし、ルーラーにも同じことができるだろうという確信があった。

 

"使い切りのリソースか……なら、使い切らせるか使わせる暇を与えないかだね"

 

「ええ、その通り……使い切らせるのは現実的でないから、使わせないような策を——」

 

そこまで口にしたところで。

ザリザリ、と青空の教室に激しいノイズが走った。

 

"これは……!?"

 

『通信の乱れです!何か強いエネルギーがぶあーっと来たせいで、キャスターさんに繋いでもらった回線の調子が悪く……!』

 

「大きな魔力の衝突……!近くで戦闘が始まったのね。巻き込まれないうちに急いでここから離れないと…!」

 

遠くから微かに響くのは、破壊音と爆発音。凄まじいスピードでこちらに近づいてきている。

それに伴って通信状況は加速度的に悪化し、もはや互いにぶつ切りの単語しか聞き取れない状態に陥っていた。

 

"——キャ—ター!もし—徒たちに会えたら、目的——正——き——力——"

 

「っ、とにかく生存を優先に行動する!通信は落ち着いたら復旧するわ!」

 

聞き取れないマスターの言葉への対応は後に回し、キャスターは状況への対応に集中する。

破壊音と一緒に近づいてくるのは悲鳴と怒声。英雄のそれとは思えぬ、狩り立てられて切羽詰まった声。

 

「————あぁぁぁぁ無理無理無理無理!!死んじゃう!!助けてぇぇぇぇぇ!!」

 

「たわけぇ死ぬなら一人で死なんかぁ!!わしらなんも関係ないじゃろ!!……げっ」

 

爆発的に膨れ上がった魔力に、防御体制を取った次の瞬間——火炎を伴った飛翔物が、コンテナを爆砕しながら飛来した。

 

「なっ……!?」

 

魔力障壁ごと体が吹き飛ばされる。ひとかたまりの人影が頭上を越えて吹っ飛んでいくのを見送りながら、キャスターは姿勢を低くして爆風を耐え忍んだ。

 

「っ、この気配は……!」

 

瓦礫を払いのけて起き上がる。

——まず感じたのは、空間を捻じ曲げんばかりの神威だった。塵芥の向こうにうっすらと、殺意の塊のような武具に彩られた柔らかな女性の姿が見える。

 

「敵サーヴァント、未だ健在。また、新たなサーヴァントも確認——殲滅を続行します」

 

「……星の巡りが最低ね」

 

現世の人間を依代とした、神霊の擬似サーヴァントがそこに立っていた。

肌を刺す神威。主神クラスとは行かずともそれに次ぐ格の、明らかに戦に関する権能を備えた戦闘特化の神。

 

その手に握られた三叉戟(トリシューラ)が振り上げられる予兆を見て——キャスターは持ちうる限りの全力で逃走を開始した。

 

 

かくして始まった、捕まれば即死の鬼ごっこ。

 

「魔よ。疾く死になさい」

 

「冤罪!冤罪です!そりゃ女怪(エンプーサ)は人間食べたりしますけども!教授が霊基に混ぜてきただけで私は何もしてませんよ!?」

 

「有罪。滅します」

 

索敵中に発見した魔性を駆除せんと迫る神霊サーヴァント——SRTのアーチャー。

 

地理の把握がてら行っていた探索で格上の天敵にばったり出くわしてしまい、打ち合いながら必死で逃亡を試みるサーヴァント——玄武商会のアサシン。

 

「チッ、戦闘力が違いすぎる……!」

 

「えっこれわしらも諸共に滅ッされようとしてる!?」

 

アサシンの逃走経路とカチ合い、不運にも巻き込まれた被害者たち——シャーレのキャスター、便利屋68のアーチャー。射撃や魔術で援護を試みつつ、SRTのアーチャーの殺傷圏内に入らぬよう全力で後退している。

 

「ひぃ、ひぃ……何あれ何あれ!?うちのアーチャーと全然違うじゃない!?」

 

「同じゲヘナの生徒でもヒナと私たちは別の生き物でしょ!それと同じ!」

 

「ごめんねホントに……!」

 

便利屋68一同と、肩身が狭そうなアサシンのマスター——朱城ルミ。彼女たちは鎧を着込んだ馬に乗せられて先頭を走り、各々の武器でサーヴァントの援護を試みている……射程や精密性の問題で、実際に手が届くのはアルのみであるが。

 

「おいこら!おぬしがトレインしてきたんじゃからおぬしがなんとかせい!!」

 

「無理です無理無理無理無理!!相性が悪すぎ——ひょええええっ!!!?」

 

「ヮァ!?!?!?」

 

コンマ1秒気を逸らしたアサシンに、雪崩のような三叉戟(トリシューラ)の突きが襲いかかる。半ばから切り飛ばされたアサシンの鉄鞭が頬を掠めて彼方へ飛び去るのを、便利屋のアーチャーは絶望的な表情で眺めていた。

 

「コイツ相性ゲーで言ったらわしのカモのはずなんじゃが!くそっ、隙さえ見つけられれば宝具を叩き込めるものを…!」

 

本来、便利屋のアーチャーは【神性】スキル持ちには滅法強い。実際、SRTのアーチャーも火縄の一撃を受けた後には多少嫌そうな顔をし、その後はある程度射線を避けるように動いている。

己の宝具——火縄を纏めての一斉射撃ならば、討ち取ることはできずとも手傷を負わせて逃げるだけのことは叶うだろう。

 

「————魔よ、滅せよ」

 

…… 凄まじいスピードで退がる前線に追いつかれないよう、必死で逃げる必要がなければの話だが。

 

「い"っ……!?」

 

神々の怒りを結集した戦いの化身——戦闘用という言葉すら生ぬるい、殲滅女神。武器の片方を失った事で、三叉戟(トリシューラ)の攻撃がアサシンの肉体を削り始めていた。

このままでは数分としないうちにアサシンが討ち取られる。そうしたら相手は接近戦で便利屋のアーチャーとキャスターをさっくりと平らげてお終いにするだろう。

便利屋のアーチャーは舌打ちをし、射撃の手は止めずに己以外で一番打開策が降りてきそうな相手に檄を飛ばす。

 

「このままじゃと前衛が崩壊するぞ!なんとかならんのかそこの推定キャスター!」

 

「今やってる最中よ話しかけないでいただけるかしら!!」

 

アサシンに対する回復にリソースを集中する。魔術攻撃は直撃させても小揺るぎもしなかったため、早々に選択肢から切り捨てた。

敵サーヴァントに効いているのはアーチャーの射撃攻撃、次いでそのマスターたちと思しき人間たちからの火器による援護だ。

 

ザリザリ、と視界に再び走るノイズ。刹那に差し込まれる青空の教室の光景。

 

何事かを叫ぶマスターたちと——彼らがバンバン手を叩きつけている黒板に書き殴られた図柄が、メディアの頭脳に打開策を閃かせた。

 

「アーチャー、最大火力の準備をしなさい!」

 

「何を言うとるんじゃそんな余裕があるかぁ!?」

 

「いいから!今から何が起きようとも、アレに自分が出せる一番強い攻撃を叩き込むことだけを考えて動いて!」

 

返事を聞かずにキャスターは腕を振りかぶり……便利屋アーチャーの鳩尾に、強烈な肘鉄を叩き込んだ。

 

「ごふっ!?——なっ、なんじゃあああああああああ!!?」

 

くの字に折れた便利屋のアーチャーの体が、非力の腕による一撃とは思えない速度で射出された。

斜め後ろに向けて放物線を描いてすっ飛び——最高到達点で突如ブレーキがかかりでもしたように速度が落ちた。

 

「……ああつまりそういうことか!」

 

ゆっくりと落ちつつ、数多の戦場を潜った頭脳がキャスターの意図を咀嚼する。

叩き込まれた肘から流し込まれたのは、重力操作、感覚の鋭敏化、強化の魔術——射撃ポジションと猶予を確保し、攻撃威力を増すための強化。

 

「今打てる手の中では最良じゃが、果たしてわしが間に合わせられるか……!」

 

宝具の真名解放。戦局をひっくり返しうる一手であるが、一部の例外を除けば()()により生じた隙を狙い撃たれるリスクを孕む手でもある。

 

「——脅威確認。排除の優先順位を変更します」

 

当然、SRTのアーチャーがそれを見落とすはずもない。

滞空中の便利屋のアーチャーを撃ち落とすため、必要な武装を展開する。

SRTのアーチャーの足元から這い上る、巨大な白蛇。蛇族より贈られた首飾りを触媒として呼び出した蛇神の分御霊。

その口から吐き出される水の吐息で便利屋のアーチャーを狙いつつ、鱗に覆われた強固な体でアサシンの攻撃からアーチャーを守護する攻防一体の構え。

 

サーヴァント3騎による抵抗を無に帰し、纏めて屠り去れる一手。しかし——

 

「……命中よ!!」

 

その思惑はアーチャーのマスター、陸八魔アルの横槍により覆される。

揺れる馬上から放たれたライフル弾。それは大きく開いた蛇神(ナーガ)の口に過たず飛び込み——一拍置いて通常ではあり得ない炸裂を起こす。咳き込み、苦悶の息と共に口内の水をあらぬ方向に撒き散らす蛇神(ナーガ)

 

「——い、まあぁぁぁぁ!!」

 

ズタボロにされていたアサシンが、その隙に攻撃を捩じ込んだ。

両脚を揃えた全身全霊のドロップキック。炎に覆われた青銅の踵が蛇神の体に突き刺さり、SRTのアーチャーごと体を浮かせる。

 

「■■■■■————!!?」

 

「くっ……!?」

 

痛みと恐慌で蛇神がのたうち、SRTのアーチャーがその動きに引きずられてよろめいた。

それだけの時間を稼がれては、もう便利屋のアーチャーの攻撃を防ぐ暇はない。

 

「————おぬしらよくやった!離れい!」

 

便利屋のアーチャーの周囲に展開された、無数の火縄銃。

流石に全力の三千挺には届かないものの、その銃口の全てはSRTのアーチャーに向けられており——

 

「これが!魔王の『三千世界(さんだんうち)』じゃ————!!」

 

次の瞬間にその全てが火を噴き、放たれた弾幕がSRTのアーチャーを飲み込んだ。

 

 




SRTのアーチャー…対魔力Aなのでキャスターの攻撃はそよ風のように受け流し、神性A騎乗Aなので三千世界はそれなりに刺さる。でも基礎性能の差で二重特攻の割には効き目はイマイチ。
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