いつも仕事を無駄に頑張る彼女を大人しくさせたい、雲と霧は、桜の花の動きを徹底的に封じるのだった。
暗黒桜サンド【骸×主♀×雲】
時間軸
10年後の未来、とある昼下がり
「……あ。」
それはボンゴレファミリーの拠点となっている地下アジトの中で起こった一つの出来事。
ボンゴレⅩ世ファミリーの霧の守護者である六道骸は、少しだけ困惑していた。
彼の視線の先にはハンドクリームが乗っている片手。しかも、明らかに1人で使い切るには少しだけ多く出てしまっている。
最近は乾燥するし、常に革手袋を使っている分、少しだけ保湿に力を入れていたため、それを行おうとしていたのだが、ここまでの量はいらないな……と、骸は考え込んでいた。
チューブ型のハンドクリームだったため、練り薬タイプのように調節することもできない。
「……何やってるの、骸?」
「!………桜奈、ちょうどいいところに来てくれましたね。」
「?」
出し過ぎたハンドクリームを無言で見つめていると、不意に、1人の女性の声がその場に響く。
それに気づいた骸は、一瞬だけ驚いたような表情を見せたのち、辺りを見渡して、現れた女性に声をかけた。
女性の名前は沢田奈月。ボンゴレファミリーの10代目のボスである。
しかし、彼が口にしたのは、そんな彼女の中に宿っているもう一つの魂の名前……小鳥遊桜奈としての彼女の名前だった。
骸に魂としての名を呼ばれ、若干目を丸くした桜奈だが、すぐに彼の元にてくてくと歩み寄り、エントランスソファーに座り込んでいる彼の隣に静かに腰を下ろした。
「……どしたの?」
一瞬にしてボンゴレファミリーのボスとしてのキリッとした雰囲気から、本来の性質である寂しがり屋で甘えたがり屋なふわふわした雰囲気に戻った桜奈の姿に骸は小さく笑ったのち、ハンドクリームがついていない方の手を差し伸べる。
「ハンドクリームを少々出しすぎてしまいまして。少しもらってくれませんか?流石にこれでは、ベタつきがなかなか取れないので。」
「ん〜?まぁ、別に構わないけど……」
突然の申し出に、キョトンとした表情を見せる桜奈。
しかし、少しだけ考え込んだあと、差し伸べられた片手に自身の両手の指先をちょこんと乗せる。
それを確認した骸は、一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに口元に笑みを浮かべて、自分より小さな両手を優しく握りしめた、
「クフフフ……流石は僕の桜奈ですね。こちらが両手を求めていたことに気づきましたか。」
「骸がわたしとの間に作った繋がり、クローム以上に強い結びつきで、そっちがわたしの考えや感情を把握できちゃうのと同じで、わたしも骸の考えや感情を読み取れちゃうんだから、褒められても大して嬉しくないよ。」
「まぁ、確かにそうですが、やはり嬉しいものは嬉しいんですよ。僕の考えをすぐに読み取って、それに合わせた行動を取ってくれるのですから。
以心伝心……もしくはシンクロ……僕達のこの深い繋がりは、僕達が互いに互いを人たらしめるための片割れであることを改めて認識させてくれる特別なものなので。」
「そう言うもの……?」
「そう言うものですよ。では、両手を拝借いたしますね。どうやら、書類仕事続きで、あなたの手も疲れているようですし、ついでにマッサージもしておきましょう。」
どこか上機嫌な様子で、多めに出てしまったハンドクリームを塗り込みながら、桜奈の手をもみほぐしていく骸。
最初はそんなものいらないのに……と言わんばかりの反応をしていた桜奈だったが、次第にその表情はリラックスしたものへと変わっていき、どこかぽやぽやし始める。
「気持ちいいですか?」
「ん……。手がぽかぽかしてきて楽になってきた。」
「クフフフ……それはよかったです。ですが、それ、かなりの量の書類をこなしていたことを裏付ける言葉ですよね?
……桜奈……あなた、また本来ならば明日や明後日こなせばいい仕事をさっきまでやっていましたね?」
「……………ノーコメント。」
「ほう?今の僕にそんなこと言ってもいいのでしょうかねぇ?」
「え、あ、ちょ、待って待って待って待って!!ゾワゾワする!!背中ゾワゾワしてくる!!」
目を逸らして指摘を有耶無耶にしようとした桜奈を見て、骸は一瞬だけジトリとした目を向けては、再びその手をもみほぐし始める。
だが、その手つきはマッサージと言うには明らかに快感を引き出すようなものとなっており、桜奈はやめてくれと訴える。
「お仕置きですよ。繋がりを持つ僕が、あなたの嘘を見抜けないとでも?毎回毎回言ってますが、その日の仕事を済ませたらそれで仕事は終わりですよ。」
「わ、わかった!!わかったからその触り方やめて!!確かに仕事やってました!!本来なら明日や明後日にやる仕事を軽く手を出してましたぁ!!」
涙目になりながら仕事をしていたことを白状した桜奈。
それを聞いた骸は、全く……と呆れたような表情をしながら、持ち歩いている携帯端末を取り出し、アジト内にいるファミリーのIDを確認する。
それにより視界に入った一つのIDに触れては、すかさず端末の連絡コードを開いた。
[…いきなり何?]
そのIDはアジト内にいた雲雀恭弥だった。
骸は雲雀の声を聞いたのち、すぐに口を開く。
「桜奈がまた明日明後日の仕事に少し手を出していたので、執務室に鍵をかけて、彼女が部屋に入れないようにしておいてください。
今、ワーカホリックになってた当本人はこちらの方で捕まえていますから。」
[また桜奈は余計な仕事をやってたわけ?困ったもんだね。わかった。執務室を軽く整理したあと鍵をかけておくよ。
だから桜奈はそのまま捕まえといて。僕もすぐに合流するから。]
「別に来なくても良いのですが……まぁ、いいでしょう。」
[連絡は終わり?なら切るよ。]
ブツッと切れる雲雀からの連絡。
それを確認した骸は、やれやれと言わんばかりに肩をすくめたのち、執務室から閉め出されることになった桜奈へと目を向ける。
閉め出されることが確定した桜奈は、拗ねたような表情を見せていた。
「そのような顔をしてもダメなものはダメです。全く……いい加減仕事の切り上げ方を覚えてくれませんか?」
「……だってまだ定時じゃないし。」
「定時とかこちらの界隈にはありませんから。その日の仕事が終わったらそれで終わりです。」
「暇なんだもん。」
「暇ならば趣味と休息に時間を回しなさい。無駄に働かなくても問題ありませんから。」
「むぅ………5時半まできっちり仕事しないと落ち着かない……!!」
「どれだけワーカホリックなんですかあなたは。」
ぷくりと頬を膨らませて動きを止める桜奈に、骸は一つ溜息を吐く。
目の前にいる彼女は、いったいどれだけ前世の仕事の影響を引っ張り続けるつもりなのかと。
マフィアと言う組織にも決められた仕事は確かにあるが、一般企業のようにあれやこれやの規則と言うものはファミリーごとに違うもので、中には最低限これだけこなしていればあとは自由にしても構わないと言う場所もある。
ボンゴレファミリーは、その巨大さや立場からそれなりに決まりは存在しているが、定時と呼ばれるようなものは存在していなかった。
その日のうちにやらなくてはならない仕事をこなしていれば、あとは自由に自分の時間を取っても構わないと言うわけだ。
もちろん、その逆も存在しており、その日のうちにやらなくてはならない仕事がこなせていなければ、長々と仕事を続けなくてはならないこともある。
桜奈の場合、その日のうちの仕事は昼下がりには全て終わらしてしまう効率の良さを持ち合わせているため、終わったのであればそのまま自由に過ごしていいのだが、どうも彼女の頭の中には、夕方の5時半辺りまでは仕事をこなさなくてはならないと言うかつての癖が未だに根を張っており、その日の仕事が終わっていようとも、その時間になってないから何か追加でこなさなくてはと言う考えが残っているのだ。
なんたる仕事人間か……彼女に甘い骸であっても、それだけは許容することができないため、強制的に仕事をやめさせる。
この考えはボンゴレに属する者、および、ボンゴレの傘下にいる者全てが賛同しており、あの手この手で彼女の動きを強制的に止めていた。
その方法は主に、彼女の本来の性格を引き出すことができる者達が彼女の魂の名前を呼び、ボスとしての彼女の仮面を剥ぎ取ることで意識を逸らし、彼女の執務室の鍵を持っている雲雀か骸、リボーンが執務室へと鍵をかけると言うもの。
誰もが桜奈に執務室の鍵を持たせてはならないと判断したため、彼女に有利を取ることができる3人が鍵係を担っているのだ。
そのため彼女があまりにも仕事をやめないようであれば、強制的に執務室の外に閉め出すという強引な手を使っている。
「ちゃんと逃がさないようにしていたみたいだね。」
「当たり前でしょう?放っておいたらすぐにどこかで仕事をしようとするのですから。」
いつになったらこれは治るのかと考えていると、鍵を閉めてきたらしい雲雀が桜奈と骸に合流する。
雲雀が合流したことを確認した骸は、むすっと拗ねた表情をしている桜奈を自身の方へと一度引き寄せ、横抱きにしたあと、目の前に立っていた雲雀の方に差し出した。
骸の腕から雲雀の腕に移動させられた桜奈は、飼育委員さんの手から客の手に手渡される小動物か!?と2人のやり取りにツッコミを入れたくなったが、その前に自身が誰と誰の間に挟まれてしまっているのかに関して意識を向けてしまい、一瞬だけ固まる。
「……あの〜……恭弥さん?骸?なんかちょっと嫌な予感しかしないのだけど……?」
組ませては行けないコンビが手を組んでしまったような気がして、冷や汗をダラダラと流す桜奈。
そんな彼女の様子に、雲雀と骸は一度目を向けたあと、互いに顔を見合わせる。
「何か考えてるの?」
「今回は特に考えていませんが、とりあえず彼女を仕事から離すためにまずは外に連れて行こうかと。」
「まぁ、それが適切だろうね。」
「あとはその時その時によって変えていきます。とにかく、彼女が仕事だなんだと考えなくなるまで
「君に賛同するのは正直言って気分が悪いけど、今回ばかりは仕方ないね。」
しかし、彼女の問いかけに雲雀と骸は答えることなく、これからどうするのかを話し合っている。
それにより、桜奈は自身の嫌な予感が的中していることに気づき、引き攣った表情を浮かべた。
そんな彼女に気づいた雲雀と骸は、視線を彼女に向け、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「話はまとまったから、さっさと行こうか。」
「何もできなくなるくらいに甘やかすつもりですので、逃げようなんてしないでくださいね?」
「最初は街を回ろうか。君が気に入りそうなカフェを見つけたし、ティータイムにはちょうどいい時間だからね。」
「その次はショッピングモール内で買い物にしましょう。確か、そろそろ夏場の服を新調したい言ってましたね。あと、スーツの方も探したいとも。」
「そのあとは適当に回って、最後はどこかで夕飯にするよ。」
「金銭は全て僕らが持つので、桜奈は財布を持たなくて構いませんよ。」
「携帯電話だけは持ってなよ。何かしらの連絡が来るかもしれないし。」
「そういえば、元アルコバレーノは今、仕事中でしたか?」
「一応ね。でも元赤ん坊の能力ならすぐに終わるんじゃない?」
「それなら、彼にも連絡を入れましょうか。僕らだけが桜奈を甘やかしたと知ったら、何言われるかわかりませんし。」
「ああ……まぁ、僕は別に彼と戦えるから構わないけど、一応呼ぼうか。」
「……多分、嬉々として真っ向から彼との戦闘に望むのはあなただけですよ、雲雀恭弥。
正直言って僕は彼を相手に戦闘するのは勘弁願いたいです。能力の差があり過ぎて、負け戦にしかなりませんから。
……というか、なんであなたは平然と戦えるんですか。どうせ負けるだけの戦闘でしょう?」
「確かに彼にはなかなか勝てないけど、それはそれとして咬みごたえがあるから楽しいよ。対応できるようになってきたらなおさらね。」
「……相変わらずあなたは立派な
「それは君が桜奈を誘拐したからだろ。」
桜奈を甘やかすと言う目的が一致しているせいか、その場で会話を続ける雲雀と骸。
彼らの会話の中に、さらに厄介な人物の存在がちらほらと混ざっているため、桜奈はとうとう固まってしまう。
「え、ちょ、待って……?2人とも、まさか、リボーンまで呼ぶつもり……?」
若干涙目になりながら、2人の会話の中に混ざっている存在の名前に対して、桜奈は静かに問いかける。
彼女は、この2人と、会話に出てくるもう1人……リボーンが合流すると言うことだけは、1番避けたいと思っていた。
彼女の声音から、それだけはやめてくれと言う懇願がハッキリと感じ取れた雲雀と骸。
しかし、2人はそんな彼女の懇願などさっさと無視して、アジト内にある彼女の私室へと向かうための道を歩いていく。
その間、骸は手にしている端末でリボーンの方へと送るためのメールを作成し、素早く彼女が余計な仕事をしていたことや、今からそんな彼女がダメになるまで甘やかすことを知らせることを記し、そのメッセージを送信した。
同時にたどり着いた彼女の部屋の鍵を開け、入室したあと彼女をソファーの上に座らせる。
「わたしの話聞いて!?」
問答無用の行動に、とうとう桜奈はツッコミを入れるが、雲雀と骸はそんな彼女に目を向けたあと、静かに口を開いた。
「桜奈に拒否権があるわけないだろ。」
「余計な仕事をしようとした罰です。全力で甘やかしにかかりますので、遠慮なくダメになってください。」
「彼からの返信は?」
「すでに受信済です。……合流するみたいなので、出かけられるように桜奈を着飾りましょうか。」
「そう。じゃあさっさと済ませるよ。」
「服はそちらに任せます。僕は化粧の準備をしますね。」
「わかった。」
しかし、彼女の勘弁して欲しいと言う懇願は即行で却下されてしまい、2人はその場で手際よく準備を始めてしまった。
その上、桜奈の脱走防止か、その足元にはいつの間にか花でできたアンクレットのような幻覚が足枷のように巻きついており、彼女の動きは制限されている。
「んな!?いつのまにかこんなの結びつけてたの骸!?」
「座らせた時、すぐにつけておきました。あまりにもワーカホリックが過ぎるので、少々強引にでも甘やかしタイムにします。
あなたは甘やかされていればあとは何もしなくていいので大人しくしていてくださいね。」
「服なんだけど、これとかどう?」
「ん?ああ……僕が買って与えたものとあなたが買って与えたものを合わせるんですね?」
「靴は元赤ん坊が買ったやつにしようか。合わせれそうなもの沢山あるし。」
「ですね。わかりやすく誰にもらったのか貼ってあるので助かります。化粧の方は……派手過ぎず、なおかつ桜奈の魅力を引き出せるようなものにしましょうか。
前、彼女の写真を化粧品を売ってる店の店員に見せたところ、いくつか似合いそうなタイプを教えてもらったんですよ。」
彼女の抵抗を無意味にした上で、次々と準備を済ませる雲雀と骸。
そして、全ての準備が整ったあと、2人して小さく笑い……
「「それじゃあ、覚悟はいい/覚悟はいいですか?」」
「ひぇ………誰か止めて─────!!」
仕事しがちの自分達のリーダーを、徹底的に甘やかしにかかるのだった。