空桜の花弁は七色に輝く   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 それは貝の雨の想いの記憶。
 愛する少女に向けられた好意は、影に隠れて握りつぶした。

 山本→主人公♀
【時間軸】
 10年前、並盛中学校の校舎内にて


ごめんな。あいつは譲れねーんだ。【山→主♀】

 それはなんの変哲もない日常生活を過ごす中、頼まれた一つのお願いだった。

 

「あ、山本!ちょっといいか?」

 

「ん?どうしたんだ、東間?」

 

 いつものように野球部で部活に励み、終わる時間まで汗を流していた山本に、1人の男子生徒が声をかける。

 その男子生徒は、彼が通っている2年A組の隣のクラス……B組に通う男子生徒であり、同じ野球部の仲間だった。

 山本が自身の声に反応したことに、小さく笑った東間と呼ばれた少年は、ゆっくりと山本の方に歩み寄る。

 

「あのさ。山本って確か、A組の沢田と仲が良かったよな?」

 

「ナツのことか?確かに、ナツとは仲がいいけど、それがどうかしたのか?」

 

 東間が口にした自身が想う少女の名前に、一瞬だけ目を細めた山本。

 しかし、すぐにいつも通りの調子で彼の問いかけに答えれば、東間は少しだけ、表情を曇らせる。

 彼が表情を曇らせた理由は、先程口にした少女の名前を、渾名で呼んでいる山本に対するわずかな嫉妬だった。

 だが、山本はそれに気づいていないのか、それとも気づいていながら気づかないフリをしているのか、特に何かと言うことなく、彼の次の言葉を待ち、更衣室でユニフォームから制服へと着替える。

 

「……あのさ。沢田って彼氏とかいるのかな?」

 

「……は?」

 

「ほら、前は雲雀さんと付き合ってるって噂があっただろ?でも、沢田は別に付き合ってないって言ってたから気になってさ。

 古里達と仲が良かったり、他校の男子生徒と町を歩いているのを見掛けられたり、外国人の男に囲まれて歩いるのを見たって言ってる奴らが何人かいるし、その中に彼氏とかいるのかなってちょっと思って……。」

 

 どことなく落ち着きのない様子で話を続ける同級生を見て、山本は思わず無言になる。

 東間の言葉や雰囲気から、彼が自身が想う大切な女子生徒……沢田奈月に対して想いを寄せていることは明白だった。

 

 ─────……前までは、こんなの見てもよくわかんなかったけど、今ならよくわかる。東間は、ナツが好きなんだな。

 

 これまでの試練の数々……それを乗り越えるために身につけてきた様々な技術や洞察力……それを培われた山本は、目の前にいる東間を少しだけ煩わしいと考えてしまう。

 横から奈月を掻っ攫われてしまいそうで、さっさと諦めてほしいと内心で思いながら、静かに口を開いた。

 

「ナツに彼氏かぁ……そんな話は聞いたことねーな。確かにナツっていろんな人と一緒にいるけど、ヒバリのことは尊敬してる先輩だって言ってるし、古里達のことは大切な友達だって言ってるしな。

 他校の生徒……ってのは、一応心当たりがあっけど、ナツ自身はそいつのことは大切なヤツではあるが、恋人だとは言ってなかったぜ?

 外国人の人達ってのは、多分ナツの従兄とその人の仕事の部下の人達だろうな。」

 

「沢田って、外国人の従兄いるのか……?」

 

「おう!そうらしいな!なんでも、ナツの家族って、家系図を辿るとイタリア人のじいさんがいたみたいでさ。

 その関係もあって、外国の方にも従兄がいたんだってよ。」

 

「へぇ……」

 

 仲が良い人間は沢山いるが、彼氏がいるとは聞いたことがないと山本から聞き、東間は安堵したような表情を見せる。

 その表情を見逃さなかった山本は、少しだけ目を細めたが、すぐにそれは表情から消して、更衣室から外に出た。

 携帯電話には奈月からのメールが一通。“今日は委員会が長引きそうだから一緒に帰れない”と言う文章と共に、謝罪する顔文字が記されていた。

 今日はダメかー……と苦笑いをこぼしながら、“了解。気をつけて帰れよ”と了承の文を返し、携帯電話を収めていると、着替え終わったらしい東間が山本の元へとやって来た。

 

「なぁ、山本。」

 

「ん?」

 

「沢田に彼氏はいないんだよな?だったら、これ、沢田に渡しといてくれないか?」

 

「これって手紙か?」

 

「ああ。その……沢田とは直接話したことがないから、自分から話しかけるのはちょっと恥ずかしくてな。」

 

 “そう言うことだから”と言って、正門の方へと走り去っていく東間。

 それを見送った山本は、何度か瞬きをしたあと、手元に残された手紙へと視線を落とす。

 その手紙は便箋を折りたたみ、市販のシールで開かないようにされているだけの簡素なものだった。

 隙間から見える文字には、明らかな好意が含まれており、ラブレターの一種であることはすぐに理解することができた。

 

「……まぁ、ナツって可愛いし、みんなに優しいもんな。それに、困ってる人が放っておけなくて、沢山力を貸すもんな。」

 

 ポツリと呟きながら、山本はこれまでの奈月の様子を思い返す。

 並盛中学校の生徒に力を貸して、イベントがあれば完璧にそれを成功させ、トラブルがあったら解決しに行く。

 男女教論関係なく、困っている様子があれば手を差し伸べて、沢山の笑顔を多くの人に分けていく。

 その姿に惹かれる人間は、並盛中学校すらも飛び出し、世界中に点在していた。

 かく言う山本も、その優しさや明るさに救われ、奈月に惹かれた1人だった。

 きっと、東間も何かしら奈月に助けてもらい、そのまま惹かれたのだろうと、手紙を見つめながら考える。

 

 しかし、すぐに何かを決めたような表情をして、山本は正門から外へと足を踏み出した。

 正門から出た先には、ちらほらと生徒が歩いており、各々が自宅へと帰るための道を辿っている。

 そんな中、山本はある1人の生徒を視界に捕えた。いつもは奈月と共に行動を取っていることがある女子生徒、クローム髑髏の姿だ。

 

「……クローム。」

 

「!あなたは……確か、雨の人………。」

 

「ああ。」

 

「どうしたの……?ボスは今いないよ……?」

 

「知ってるぜ。ちょっとクロームに頼みたいことがあってさ。」

 

「私に頼みたいこと……?」

 

「おう。これなんだけど……」

 

 見つけたクロームに声をかけた山本は、先程、東間から預かった奈月への手紙。

 急に差し出された手紙に、クロームは不思議そうな表情をしながら受け取る。

 

「……それさ。B組の東間って奴から渡されたんだ。ナツ宛にって。だけど今日、ナツは風紀委員会の仕事で遅くなるって話らしくてな。

 渡すとしたら明日になっちまうなーって思ってたんだけど、確か、クロームは今、ナツの家に暮らしていたよな?」

 

「うん。ボスが、住む場所がないなら来ていいよって言ってくれたから……。」

 

「だよな!だったら、クロームからそれをナツに渡してくれねーか?野球部の東間から手紙を預かったんだってさ。」

 

「野球部の東間……ってことは、男子生徒……?」

 

「おう。女子マネとかはいないしな。」

 

「……そっか。」

 

 山本から話を聞いたクロームは、折った便箋をシールで止めただけの簡素な手紙を確かめるように見つめたのち、その表情を不満に歪ませる。

 チラリと見えた手紙の内容を見て、この手紙がどのような目的で用意されたものであるかを理解したために。

 

「……わかった……。渡しておく……。」

 

「ありがとな。じゃ、また明日!気をつけて帰れよ!」

 

「うん。雨の人も気をつけて……」

 

 クロームに手紙を手渡した山本は、自身の帰路に着くため、クロームを追い越してさっさと歩いて行く。

 その背中を確認したクロームは、手元にある手紙に再び視線を落としたあと、それをカバンに入れて近場にあるバス停へと歩いて行った。

 こっそりとそれを見送った山本は、少しだけ表情を罪悪感に曇らせながらも、すぐに帰路を歩いていく。

 

「……ごめんな、東間。お前にもナツは渡したくねーんだ。」

 

 誰かに告げるでもなく、一人言を口にするように、山本は東間へと謝罪の言葉を紡いだ。

 先程クロームに預けた手紙……その行方を脳裏に浮かべながら。

 

 実を言うと山本は、クロームに奈月への好意がわかるようなものを手渡したらどうなるのかを知っていた。

 それは、必ず並盛町の隣町に身を置いている六道骸の元へとそれが手渡される……と言う結末だ。

 

 クローム髑髏も奈月のことを大切に思っているが、それ以上に、彼女の命綱であった六道骸が奈月を深く想っていることを把握していた。

 つまり、奈月に対する好意が含まれた手紙をクロームに手渡せば、それが奈月の手元に渡ることを良しとしないクロームが、六道骸に手紙を手渡し、それを受け取った六道骸の手により、容赦なく破り捨てられることが想像できていたのである。

 

「……本当は、ナツに渡した方がいいってわかってる。わかってるけど……他の奴にナツの意識が持ってかれちまうのは嫌なんだ。」

 

 ただでさえ、自分には沢山の恋敵がいると言うのに、さらに増やすような真似はしたくなかった……仄暗い感情を胸に抱きながら、山本は自宅へと歩いていく。

 

「オレにナツへの手紙なんか、渡さない方がいいぜ。特に、好きだって想いが込められている手紙は、悪いけど、絶対にナツの手元には行かないからな。」

 

 自身が残酷なことをしていることはわかっていた。わかっていたが、それでも山本は止めることができなかった。

 六道骸や雲雀恭弥、奈月の家庭教師を勤めていたリボーンなど、彼女に大きな感情を向けている人間を、沢山見てきた山本ではあるが、自分もそれなりに大きな感情を彼女に向けていたのだと改めて認識してしまい、思わず苦笑いをこぼしてしまう。

 だが、不思議と山本は罪悪感は多少抱くも、反省も後悔もしていなかった。

 

「んー……早くナツに想いを伝えられるようにならねーとなぁ……。」

 

 このままでは彼女に向けられる恋慕だけは潰して、自分は何も伝えないままヤキモキしてしまいそうだと思いながら、ゆっくりと帰路を辿っていく。

 彼が抱く暗い感情……それを把握することができたのは、夏が近づき、未だに西陽で大地を照らす太陽のみだった。

 

 

 

 

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