桜に甘えたいエメラルドは、誕生日だからともぎ取ってきた休日のまま、空の女王を訪ねてきた。
フラン→主人公♀
【時間軸】
10年後、ボンゴレファミリーのアジトにて
かなり出遅れたけどなんとか書けた………!!
Buon compleanno!フラン!
梅雨の時期が近づいてきたとある6月の日。
その日の仕事を終え、自由行動を手にしたボンゴレファミリーの10代目ボス、沢田奈月は、数あるボンゴレファミリーのアジトの支部の一つである、室内庭園が存在しているアジトに身を置き、仕事終わりの休息を過ごしていた。
すると、彼女が過ごしている庭園の入口に近寄る影が一つ。庭園の中央にある広場にて、コーヒーを片手に過ごしている奈月の姿に気づくなり、その影はてくてくと彼女の元へと歩み寄っていく。
「ここにいたんですねー、奈月お姉さん。探しましたよー。」
「ん?あれ、フラン……?イタリアにいなかったっけ、キミ?」
「まぁ、確かにイタリアにいたんですけどねー……。昨日から明日まで休暇をもぎ取って遊びに来ちゃいましたー。」
「……日本とイタリアって片道13時間はかかるから、気軽に遊びに来れる場所じゃないと思うんだけど……?」
突然の訪問者……ボンゴレ側についている独立暗殺部隊ヴァリアーに所属しているはずの青年、フランに奈月は思わず苦笑いをこぼす。
なぜ、こうもヴァリアーの連中は、アポ無し突撃を毎回かましてくるのかと、脳裏に疑問を浮かべながら。
「だから昨日からお休みもらってましたー。その分前日まで大量の仕事をベルセンパイ達に押し付けられましたけど、まぁ、なんとかなるかなー……って思いながらやったんですよねー。
そしたら綺麗なまでに全部できちゃって、アホのロン毛隊長もベルセンパイも間抜けな表情をしたので面白かったですよー。」
“奈月お姉さんにも見せたかったなー”……と呟きながら、歩み寄ってくるフランに、奈月は再び苦笑いを浮かべる。
この子、相変わらず彼らに悪態ついているのか……とわずかな呆れを抱きながら。
「今日は何の用かな?」
「またまたー。今日が何の日か奈月お姉さんはよく知ってるじゃないですかー。」
その言葉に奈月は一瞬だけキョトンとする。しかし、すぐに今日が目の前にいるエメラルドの誕生日であることを思い出しては、なるほど、と納得したような反応をした。
「誕生日だから遊びに来たんだね?」
「そうですよー。いつも奈月お姉さんはプレゼントとか送ってくれますし、それはそれで嬉しいんですけどねー。
基本的に奈月お姉さんってイタリアじゃなくて日本にいるじゃないですかー。
正直言って寂しいんですよねー……。どうせなら奈月お姉さんから直接お祝いされたかったんですよー。」
“まぁ、誕生日プレゼントはもらいますけどー……”と、ちゃっかりした反応を示すフランに、相変わらずだと奈月は肩をすくめる。
しかし、すぐに思考を切り替えては、近寄ってきたフランに視線を向けて申し訳なさそうに笑う。
「そっか。寂しい思いをさせちゃってごめんね。本当は、わたしも直接お祝いしたいんだけど、イタリアに行くのがなかなか難しくてね。まぁ、他にも理由があったりするんだけど……」
「それって師匠のせいですよねー?ミーの誕生日の3日後が師匠の誕生日だから、奈月お姉さんを独占したい師匠があれやこれやしてくるから、前日の間は海外に出ることができない的な。」
「……そうなんだよね………。恭弥さんが誕生日の時、わたしが独占されていたから、骸も雲雀恭弥がいいなら僕も構いませんよね!?って……。」
「うわー……相変わらず師匠の独占欲キモ……じゃなくて強いですねー。いいよなーボンゴレ10代目ファミリーの奴らはー……。
ていうか、今のヴァリアーにミーっていらなくないですかー?だってミーが代理させられてた本来の霧はいるわけじゃないですかー。
だったらミーっていりませんよね?奈月お姉さん、ヴァリアーからミーをこっち側に引き抜くことってできないんですかー?」
「ええ……?どうだろう……。XANXUSとか幹部の意見によるとしか……。」
「えー……それじゃあ絶対、ミーはこっち側にこれないじゃないですかー……。
ベルセンパイとか奈月お姉さんのことになると無駄にうるさいんですよー?」
「なんでよ……。」
「うっわー……ベルセンパイ全く気づかれてない。御愁傷様ですねー。」
ヴァリアーに属する暗殺者の1人、プリンス・ザ・リッパーことベルフェゴールに対して、憐れむような、しかしザマァ見ろと言いたげな様子で言葉を紡ぐフランに、奈月は思わず首を傾げる。
いったい、目の前のエメラルドは何を言っているのだろうか……?少しだけ理解が及ばないことに困惑している。
「まぁ、今は堕王子達のことは置いておきましてー……奈月お姉さん。今日はミーの誕生日ですからお祝いしてくださーい。」
そんな奈月のことなど気にしていないのか、フランはコーヒーで一服していた奈月の前にしゃがみ込み、首を傾げてお願いをする。
未来での争いがあった時や、10年前にあった代理戦争の時のような被り物をしてないせいか、さらさらのエメラルドグリーンの髪が静かに揺れた。
「お祝い……って言われてもなぁ……。数日前からフランの誕生日プレゼントはイタリアの方に送っちゃってるし、何かしようにも今から準備は難しいと言うか……。
ていうか、毎回ツッコミたいんだけど、ヴァリアーはアポ無し突撃し過ぎだよ。
前日に来るって教えてくれないと、おもてなしできないじゃない……。」
「だって、アポ無しで突撃しないと奈月お姉さんに連絡が行く前に別の人に邪魔されちゃうんですよー……。」
「うん、多分それ、こっちの幹部や傘下に属してる人かな?」
独立暗殺部隊とは言え、立場としてはボンゴレに関連している組織。そのため、ボンゴレファミリーから依頼が流れることもある。
つまり、ちゃんとアポを取って日本にいる奈月を訪ねようとしたら、その日に被るように依頼が流されてしまうことがあったと言うことだ。
誰がそれをやってるのかすぐに判断できた奈月は、引きつった笑みを浮かべながら、犯人を口にする。
正確には、ヴァリアーを毛嫌いしている者、もしくはヴァリアーを奈月に近づけたくない者が、そのような行動を取っているのだが、該当者が複数いるため濁したように言葉を紡いだ。
「全く……何を考えてんだか……。確かにヴァリアーとは衝突したけど、ここまで邪魔する必要あるのかな……。」
「………(多分、奈月お姉さんに恋敵が近寄るのが嫌なだけだと思うけど、とりあえず黙っとくかー……。)」
奈月の呟きを聞き、彼女のファミリーが邪魔する理由を脳裏に浮かべながらも、フランは無言を貫く。
しかし、自分が目の前にいるにも関わらず、考え事をする奈月の姿が次第に嫌になってきたのか、彼は座っている彼女の腰辺りにぎゅっと抱きついた。
「……フラン?」
「考え事をするのは構いませんけど、ミーのことを忘れないでくださーい。」
軽く拗ねながら、自身の意思を主張すれば、奈月はキョトンとした表情を見せたあと小さく笑い、触り心地のいいエメラルドグリーンの柔らかい髪を優しく撫で始める。
「ごめんごめん。じゃあ……そうだね……。今日が誕生日のハッピーボーイはわたしに何をしてほしいのかな?
準備期間があれば、いくらでもやりようはあったんだけど、今回はそれがないからね。
だから、フランのお願いを聞かせてほしいな。叶えられる範囲なら、叶えてあげるよ。」
ゆるやかな手つきで頭を撫でられ、その気持ちよさにフランは懐いた猫のように目を細める。
ヴァリアーにいる時よりも、師匠である骸達の元にいる時よりも、ずっと落ち着けてリラックスできる場所……そこにいることを堪能するように。
「ミーのお願いですかー……。じゃあ……そーだなー……。あ、奈月お姉さんって、今日のお仕事は終わったんですかー?」
「ん?うん。仕事はすでに終わらせてあるよ。もしかして、どっかにお出かけしたい?」
「お出かけとかはどうでもいいので、残りの時間をミーにくださーい。ミーは休みをもぎ取るためにいっぱい仕事頑張ったんですよー?
だから、奈月お姉さんの時間をください……。こう、なんて言うか、奈月お姉さんに、一度はガッツリと甘えてみたかったんです……。」
「あれま……。まさかそんな風に思われてるとは思わなかったな……。どちらかと言うと、わたしも甘やかされる側なんだけど。」
「んー……まぁ、確かに奈月お姉さんはどこか甘やかしたい雰囲気がある人ですよねー。でも、それとは別に甘えたくなるような雰囲気もあったりしますよー。
ミーはどちらかと言うと甘やかしてほしいタイプですー。まぁ、奈月お姉さんを甘やかすのも、それはそれで楽しいでしょうけどー。」
「甘やかすのに楽しいとか楽しくないとかあるの……?」
「意外とありますよー。あ、この人ってこんな表情するんだー……みたいな新しい発見とかもあって、それを見つけていくのって割と楽しいと思いますー。
まぁ、なんとなくの勘というか、ミーは誰かを甘やかしたことなんてないんですけどー……。」
「ヴァリアーって人を甘やかすことなんて絶対しないだろうし、当然と言えば当然なんじゃないかな?」
「それもそーですねー……。ミーを甘やかしてくれたの、多分おばあちゃんくらいですー。
あ、でも奈月お姉さんにも割と甘やかされているような……?」
「そうだね。確かに、何度か甘やかしたことがあったかな。」
「ですよねー。」
和やかに続けられる2人の会話。
こっそりと奈月は、ボンゴレファミリーの幹部の1人であり、自身に抱きついてきているエメラルドの師でもある青年、六道骸との繋がりを閉じながら、くっついてくるフランの頭を撫で続けた。
「ところで、まだ返事もらってないんですけど、残りの奈月お姉さんの時間、ミーにくれますか?」
そんな中、フランは普段の棒読みとは違う真剣な声音で、奈月に残りの時間をもらえるかと問いかける。
その問いかけを聞いた奈月は、目の前にいるフランに琥珀色の瞳を向けたあと、優しく微笑んだ。
「……いいよ。せっかくイタリアからはるばる遊びに来てくれたんだから、今日の残りの時間はフランにあげる。
とは言え、1日は残り少ないわけだけど……フランは甘やかしてほしいってお願いの他にも、望んでいることってあるのかな?」
自身のやりたいことを問われ、フランは少しだけ考え込むような様子を見せる。
そして、しばらく無言で思考を回したのち、フランはその問いかけに頷いて口を開いた。
「奈月お姉さんにいっぱい甘やかしてもらって、奈月お姉さんと一緒にお出かけもして、奈月お姉さんと一緒に今日の夜は休みたいですねー。
奈月お姉さんって、男に添い寝されるのは大丈夫な人ですかー?」
「一応、大丈夫なタイプだよ。まぁ、胸糞悪い下半身が本体な下心持ちドヘンタイ野郎どもはお断りだけどね。
そんな奴らには容赦なく金的をかますし、薬品を利用して行動不能にした上でたっぷりと嫌がらせをして、そのまま海にドボンくらいするよ。
もしくは、性犯罪者を収容した場所に感度を上げた状態でポイ。そう言うことに飢えた連中って、閉鎖的な空間で過ごしているとどうしても溜まっちゃうらしいからね。
そこに、媚薬を投与された極上の餌が放り込まれたら……どうなると思う?」
「わー……奈月お姉さんって意外と過激と言うか……容赦ないところあるんですねー……」
「だって、レイプ魔とか下半身でしか物事を考えられない頭ドピンク変態野郎に慈悲なんて与える必要ある?
ないでしょ?なんで後先考えずに発情しては腰を振って種ばら撒くような万年発情期の雄うさぎ達に手心なんて加えないといけないの?
……あ、これじゃあ可愛い本来のウサちゃんに失礼か……。何はともあれ性犯罪者どもは処すべし、慈悲はない。」
吐き捨てるように告げられた言葉に、フランはかつて師から教えられたことを思い出す。
─────……そう言えば、奈月お姉さんって昔、そう言った変態野郎に3回も襲われそうになっていたって師匠言ってたなー……。
─────……だから奈月お姉さん、強姦魔とか痴漢とかストーカーに対して強い敵意を持ってるのかー……。
そんな奴ら、さっさと滅べばいいのに……なんて、笑顔で過激なことを口にする奈月の意見に同意しながら、フランは奈月の腰に回している両手にぎゅっと力を軽く加えた。
「ミーは奈月お姉さんを傷つけた変態野郎達とは違うので、奈月お姉さんが嫌がることは絶対にしませんよー。
そう言うことって、ちゃんと想いが通じ合った上、同意してからすることだと思いますしねー。
……だから、奈月お姉さん、今日の夜はミーと一緒に過ごしてください。
ミーは奈月お姉さんの今日の残り時間の全部がほしいです……。」
「ん。それくらいは構わないよ。」
「よかったー。」
奈月の返答を聞き、フランは口元に小さく笑みを浮かべる。
他の人間には見せたことがない、奈月にだけ見せることがあるその笑みには、幸せな空気が満ちていた。
「そう言えば奈月お姉さん。ミーはまだ聞いてない言葉がありますけどー……。」
「!」
しかし、その笑みはすぐにいつものポーカーフェイスに戻り、フランは自身より高い位置にある奈月の琥珀色の瞳を、上目遣いで静かに見上げる。
彼の言葉を聞いた奈月は、一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべ、フランの髪を優しく撫でる。
「うん。そうだったね。まずはこれを言うべきだった。……お誕生日おめでとう、フラン。これからもよろしくね。」
そして、エメラルドグリーンの前髪をそっと避けて、すぐに近くにある掴みどころのない男の子の額に、優しくキスを落とすのだった。