空桜の花弁は七色に輝く   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 10年後未来、とある雲の一つの思い出。
 猫のような大空を、浮雲は優しく抱きしめた。

 雲雀恭弥×桜奈 時間軸:10年後の未来のアジトの一室、昼下がりにて


愛しいあの子に口付けを【雲主♀】

 やっぱりこの子は猫のようだ……と、ボンゴレファミリーのアジト内にある、風紀財団エリアの一室にて、ボンゴレファミリーの10代目雲の守護者、雲雀恭弥は考える。

 

 彼の視線の先にいるのは1人の女性。金糸の髪をゆらゆらと揺らしながら、雲雀がいつも過ごしている私室のソファーで本を読んでいる琥珀色。

 沢田奈月と言う名前を持つ、ボンゴレファミリーの10代目のボスたる者であり、かつては同じ学校に通っていた同窓生でもある雲雀の後輩の女性だ。

 

 彼女が来たのは10分程前。午前中に済ませるべき仕事を済ませ、休憩に入った時だった。

 自身が主に過ごしているエリア……風紀財団エリア内にある執務室にあるモニターに来客からのコンタクトメッセージが入り、今日は誰か訪ねてくる日だったかと首を傾げながら、モニターに誰が映っているのかを確認したのだ。

 それにより見えた琥珀色の様子から、彼女の意図を読み取った雲雀はすぐにエリアのゲートを開いた。

 それにより笑顔を見せて入ってきた琥白色は、すぐに自身の定位置となっているソファーに座って本を読み始めたのである。

 

 彼女がこっち側にやってくるのは、静かな場所で過ごしたい時や甘えたいと思った時。

 表情から甘えにきたのだと思っていたが、即行で読書をし始めた姿に、一瞬だけ固まってしまった。

 甘やかすつもりでいたんだけど……と少しだけ考えながら、雲雀は目の前にいる琥珀色に目を向ける。

 甘やかす気でいたら甘えてこない……猫ってたまにそんなところあるよね……と、脳裏に揺れるおもちゃに見向きもしないクリーム色の毛を持つふわふわな猫を思い描きながら、部屋にある簡易的なキッチンで、彼女が好きな紅茶を淹れる。

 

 淹れたての紅茶に、砂糖とミルクを適量……いつのまにか、多くの人の上に立つようになった彼女好みの味。

 一度、琥珀色に恋着している霧の守護者である六道骸にそれを見られ、甘くしないと飲めないのかと馬鹿にされたが、彼女が好きな味だから、差し入れに行こうと思ってと告げた時、石のように固まったかと思えば配合を教えろと思い切り迫られたことを思い出しては、1人、小さく頬を綻ばせる。

 彼女の好みの味を知っているのは自分だけだと、雲雀は優越感に浸った。

 

「……今は草壁もいないし、別にいいか。桜奈。ミルクティーを淹れたから、冷めないうちに飲みなよ。」

 

「!ありがとうございます、恭弥さん。」

 

 他にも自分だけしか知らないことはあるのだろうかと考えながら、雲雀は琥珀色のもう一つの名前を呼ぶ。

 すると、琥白色の大空は、一瞬だけキョトンとした表情を見せたあと、ふにゃんとした無邪気な笑顔を見せる。

 その笑顔は学生の時にあまり見たことがないもので、どこか頭の片隅で、やっぱりあの頃はいっぱい我慢していたのだと改めて認識してしまう。

 

 ─────……甘えることを我慢しなくていい……自分の思うように過ごせばいい……そう言ったのは六道骸だったんだっけ。

 

 六道骸が時間をかけて甘やかしだけに力を加えたおかげでこんな表情を見せるようになった……その事実に雲雀はムッとする。

 あいつのおかげでこんな風に笑うようになるなんて……とすぐにでも彼を殴りたくなる衝動に駆られるが、肝心なその青年は今は別の案件でアジトを離れているため、その苛立ちをぶつける当てはない。

 

「ふぅ……恭弥さんが淹れてくれる紅茶、やっぱり美味しいですね。ていうか、甘さのカスタマイズが完璧過ぎる……。」

 

「……何年君と一緒にいると思ってるの?中学校の時からいつも君が淹れてるのを見てきてるんだから、わからない方がおかしいよ。」

 

「言われてみれば……確かに、すでに恭弥さんともそれだけの付き合いがありますね。」

 

「うん。だから桜奈の好みは大体把握してる。紅茶に入れる砂糖とミルクの量も、コーヒーに入れる砂糖とミルクの量もね。」

 

 当たり前じゃないかと言うように、彼女の好みは大体把握できていることを口にする雲雀に、桜奈は一瞬キョトンとする。

 しかし、すぐに小さく笑い、そんなに長く一緒にいるのかと感慨深く思っていた。

 そんな中、ふと彼女はあることを思いつく。そこまで長い付き合いがあるのであれば、クイズ形式で何かできるのではないかと。

 

「恭弥さん、恭弥さん。いきなりですがちょっとしたクイズを出してみてもいいですか?」

 

「クイズ?別に構わないけど、どうしたの急に。」

 

「んー……なんとなく思いついたので理由はないですが、ちょっとだけやってみたかったと言うか……」

 

「ふぅん?いいよ。どんなクイズを出してくれるの?」

 

「では、最初のクイズです!わたしの好きな食べ物はなんでしょう?」

 

 突発的に始まったクイズに、雲雀は何度か瞬きをする。しかし、すぐに彼女の表情から、彼女なりの構ってくれの意味であること読み取った彼は、少しだけ考えるような表情を見せた。

 桜奈の好きな食べ物……それは……

 

「マシュマロと素材の味がしっかりとしてるフルーツタルト、それと桜団子だろ?いつも食べてるのを見てるから、それくらいわかるよ。」

 

「ふふ……!正解でーす!じゃあ次のクイズです!わたしが好きな飲み物はなんでしょうか?」

 

 続け様に告げられた質問に、雲雀は小さく笑う。

 急に構ってほしいと言うように行動を取り始めるその姿は、やはり猫だなと考えながら。

 

「桜奈が好きな飲み物はコーヒーと紅茶。どっちでも少しだけ甘め寄りになるくらいの砂糖とミルクを加えるのが君の癖。

 ただし、甘いお菓子がある場合はミルクのみを加え、一口食べては一口飲んでいるよね。」

 

「またまた正解です!やっぱり恭弥さんもわたしのことをよく見てますね。」

 

「まぁね。それだけ僕は桜奈が好きってことだから、そろそろ選んでくれたら嬉しいんだけど。」

 

「そ……それはちょっとお応えしかねます………。」

 

 流れるように告白をして、早く自分だけのものになってほしいと口にする雲雀。

 彼にサラッと告白をされた桜奈は、少しだ顔を赤くしながら、流石に応えるのは難しいと返してきた。

 いつものことに、雲雀は残念だと言いながら……しかし、その表情にはその答えすらも愛しいと思うような笑みを浮かべ、自分用に淹れた紅茶を口にする。

 桜奈に淹れるついでに淹れたそれにも砂糖とミルクは入っており、目の前にいる彼にとっての特別な女性と同じくらいには甘さを感じていた。

 

 ─────……桜奈が好きな味を知りたくて、試しに淹れて飲んでみて、最初のうちは甘過ぎて噎せたけど、今は普通に飲めるね。

 

 同じ味を共有しているからなのか、それとも慣れてしまったのか……どちらもかな、なんて笑いながら、甘めのミルクティーで喉を潤す。

 

「まだクイズはするの?」

 

「ダメですか?」

 

「ダメじゃないよ。僕も桜奈のことをどれだけ知ってるのか改めてわかるし、僕以外は知ることができない君がどれだけいるのかも確認できるからね。次は何?」

 

「……じゃあ、好きなお酒はなんでしょう?」

 

「桜奈が好きなのは日本酒とカクテル。特に好きなのは甘口の日本酒で、いつも僕と飲んでくれてるよね。

 カクテルの方はフルーツ系が多く、特にカシスオレンジをよく飲んでいる。

 お酒にはそこまで弱いわけでもなく、だけど強いわけでもない平均的な傾向にあるけど、ちゃんと自身で飲む量は調節してるようだからあまり酔わない……だろ?

 でも、日本酒を飲んでいる時だけは、割と酔っ払ってしまうよね。それでも飲んでいるみたいだけど。」

 

「流石ですね。」

 

「2人でよく飲んでるからそれくらいはわかるよ。」

 

 “君がサシ飲みをする相手が僕だけなのも”……という言葉は飲み込んで、彼は自室にある徳利とお猪口を思い浮かべる。

 笑顔を見せながら、綺麗な徳利とお猪口を見つけました!と言って、桜の花が描かれているそれを渡されたもの……それで一緒にお酒を飲みたいと彼女が口にした時、彼はかなり驚いていた。

 しかし、あとから聞いてみると、彼女が好きなお酒はカクテルと日本酒であり、ビールやワイン、洋酒はあまり得意ではないとのことで、それにより普段から日本酒を部屋に常備している自分のところに置いておいてほしいからと買ってきたと言われた時は、なんとも言えない嬉しい気持ちになったことを思い返す。

 

「カクテルを飲んでる時は酔わないのに、日本酒を飲んでる時は酔っ払ってしまう君の姿も見てるしね。」

 

「それは言わないでもらえません……?」

 

 拗ねたような表情を見せて、酔っ払った時の自分のことは言うなと口にする桜奈に、雲雀は思わず笑い声を漏らす。

 顔は見られないように軽く逸らしてはいるが、彼の肩が揺れているのは見えているため、桜奈はむぅっと頬を膨らませた。

 そんな彼女の頭を、雲雀は優しく撫でる。謝罪の意味も込めながら。

 

 ─────……でも、桜奈が酔ってる時って甘え上戸になるから僕は好きなんだよね。

 

 酔っ払った時の桜奈を思い浮かべた雲雀は愛おしげに双眸を緩く細める。

 ほとんど酔うことがない目の前の女性が、カクテルに比べたら酔いやすい日本酒を自分の前でのみ、酔うことを把握している上で口にすると言うのは、彼女を愛おしく思っている雲雀にとっては何よりも特別なことなのである。

 自分の前では酔った姿を晒しても構わない……そう思っていると言うことなのだから。

 

「じゃあ、最後のクイズです!今、わたしはどんなことを思っているでしょうか?」

 

 なんてことを考えていたら、桜奈が最後のクイズだと口にして、笑顔で今自分が思っていることを当ててみてほしいと言ってきた。

 先程までとは明らかに趣向が違う質問に、雲雀は目を丸くする。しかし、彼女の表情を見ると、彼女の考えていることは一目瞭然だった。

 その答えは甘やかしてほしい、と言うものだ。沢山構ってもらえたからか、甘えたいと言う気持ちが増したのだろう。

 期待に満ちた表情をして、雲雀のことをじっと見つめる桜奈。先程までおもちゃに全く見向きもしなかったクリーム色の毛を持つふわふわの猫が、遊びたそうに見つめているような錯覚を覚えながらも、雲雀は無言で彼女を見つめる。

 

 しばらくの間の睨めっこ。次第に何も言ってこない雲雀の様子に疑問を抱き始めたのか、桜奈は首をコテンと傾げる。

 その姿を見た雲雀は、期待と不安の目を向ける彼女の姿を可愛らしく思い、桃色の柔らかな唇へと自身の唇をそっと重ねるだけのキスをした。

 急なことに桜奈は驚いて固まる。しかし、すぐに自身が何をされたのか気づき、顔を真っ赤にしてわたわたと慌て始めた。

 

「今、なんでキスされたんだって思ってる……違う?」

 

 顔を真っ赤にして慌てる桜奈の姿を見て、雲雀はしてやったりと言わんばかりの表情を見せて小さく笑う。

 それを聞いた桜奈は、再び目を丸くしたあと、ムッとした表情を彼に見せた。

 

「な、なんですかそれ!?ずるいです!!反則じゃないですか!!」

 

「反則?何それ。答えてほしいとは言っていたけど、キスをするなって言ってないだろ。」

 

「んな!?ちょっと!!それは屁理屈……!」

 

 威嚇する猫のように突っかかってくる桜奈を見ながら、雲雀は再び彼女にキスを落とす。

 先程のような触れるだけのものとは違い、長めに行われるそれに、桜奈から少しずつ力が抜けていく。

 それに気づいた雲雀は、彼女とともにソファーの上へと倒れ込み、そのまま自身より小さな体を組み敷いた。

 

「あ……う……きょ、恭弥さん……?この体勢は……色々とまずいのでは……?」

 

 少しだけ酸欠になったのか、力無くソファーに倒れ込む桜奈は、自身の上に跨っている雲雀を見上げながら、今の体勢に関して言及する。

 10年前は、ハッキリと思いを告げない限り、好意に全く気づかなかった桜奈ではあるが、10年の時を経て、沢山の想いと好意をその身に浴びせられたきたからか、今ではすっかり好意の種類や現状の把握ができるようになってきたようだ。

 

「……ねぇ、桜奈。ここからどうしてほしい?」

 

「へ?」

 

 そんな桜奈の様子を見て、少しの加虐心に駆られた雲雀は、穏やかな声で彼女に話しかける。

 急に問われた桜奈は、驚いたように目を丸くしては、何度か繰り返し瞬きをした。

 

「桜奈がここに来たのは、僕に構ってほしいから。僕に甘えたいからだろ?」

 

「…………。」

 

「無言じゃわからないよ。僕に何かしてほしいなら、ちゃんと口で言ってもらえる?」

 

 本当は、彼女がどうしてほしいかなど、10年の時を過ごした雲雀には把握できていた。

 彼女の甘やかし方は、彼もすでに理解しており、その通りにしてしまえば、次第に彼女は満足するのだ。

 しかし、雲雀はあえて桜奈に問いかけた。先程まで甘やかそうと思っていたのに、綺麗なまでにスルーを決められ、少しだけムッとしたのである。

 

「……わかってるくせに、意地悪しないでください。」

 

「わからないから聞いてるんだけど?」

 

「むぅ………。」

 

 それは桜奈も把握している。何年も一緒に行動を取っていたのだから、自身の望むことを雲雀が知っていることも、あえてそれを言わせようとしていることも、ちょっとだけムカついたからと言う理由だけで、こんなことになったことも。

 そのことに頬を膨らませる桜奈。しかし、一度彼女は視線を雲雀から逸らしたのち、その表情を変化させる。

 それは、彼女が甘えたい時に見せる幼さが見える表情だった。

 

「……甘やかしてください。」

 

 両腕を雲雀の方へと伸ばし、甘やかしてほしいと一言告げる。無防備に広げられた両腕に、雲雀はすぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが、少しだけそれを堪えて、再び口元に笑みを浮かべる。

 

「もう少し詳しく教えてよ。甘やかすってどうやって?桜奈はどんな風に甘やかされたいの?」

 

 自身が組み敷く愛しい琥珀色に、雲雀は穏やかな声音で詳しく話せと言う指示を出す。

 自身を檻のように見立て、逃げられないようにと閉じ込めながら、片手で優しく琥珀色を撫でる。

 雲雀の言葉を聞いた桜奈は、再びむっと頬を膨らませた。イタリアの血の影響により、日本人とは違うハチミツのような明るい色を持つ瞳の中には、ハッキリと意地悪だと言う言葉が浮かんでいた。

 

「意地悪するなら言いません。どいてください。」

 

「やだよ。どうされたいか言うまで絶対に逃さない。どいてくれはしてほしいことじゃないのはわかってるんだから、素直に本当のしてほしいことを教えてよ。」

 

 突き放す言葉を拗ねた桜奈から告げられるが、雲雀はすぐにそれは嘘だと否定して、本当の望みを聞こうとする。

 見下ろしてくる雲雀を見上げ、ジト目で睨みつける桜奈。しかし、彼女は再び両腕を広げて恥ずかしそうに口を開いた。

 

「………抱っこと撫で撫でを所望します。」

 

「それだけ?」

 

「それ以上は言いません!とにかく抱っこと頭を撫でてください!」

 

 子供っぽく言い返してきた桜奈を見て、雲雀は思わず小さく笑う。しかし、すぐに伸ばされている彼女の両腕を自身の首の後ろへと回し、軽々と彼女を抱き上げた。

 同時に雲雀はソファーに座り、抱き上げた桜奈を膝の上に乗せる。10年経った今、ファミリーや仲間の膝の上に何度も座らされている桜奈は、そのままコテッと雲雀に寄りかかった。

 それは、桜奈が自身の大切な身内として、甘えたい対象として認識した際に必ず行うおねだりの意味が含まれている行動だ。

 10年前は、六道骸によくしていた行動で、六道骸はそれを一つの合図として、彼女を甘やかし始めるのだ。

 

 ─────……僕が最初にされたかったし、最初にこれをされるようになった六道骸は今でもすごくムカつくし、すぐにでも咬み殺して土に埋めたいところだけど、まぁ、今は見送ってあげるよ。

 

 ─────……今日は君も元赤ん坊も、口煩いアイツらもいないからね。今回は僕だけが独り占めできる。

 

 膝の上に座り込み、自身に寄りかかってくる桜奈の頭を撫でながら、雲雀はアジトにいない邪魔な連中へと内心で舌を出す。

 今日は自分だけが桜奈を甘やかせる……その時間を無駄な時間で潰したくないのだ。

 

「……〜♪」

 

 そんなことを考えていると、自身の腕の中にいる琥珀色は、上機嫌に笑いながら、鼻歌をフンフン歌い始めた。

 その姿にクリーム色の猫が、撫でられながらゴロゴロと喉を鳴らす姿を重ねながら、雲雀はそっと微笑む。

 彼の黒い瞳には、腕の中にいる琥珀色を愛おしく想う甘い熱が宿っていた。

 

「桜奈。こっちを見て。」

 

「?……んっ………」

 

 それに気づかない桜奈の姿に、雲雀は少しだけ考えたのち、彼女に自身を見るように告げる。

 そして、それに従って振り向いてきた桜奈に、彼は再びキスを落として、その後頭部を固定した。

 互いに飲み合った甘いミルクティー……その甘さを口一杯に広げるように、何度も何度も角度を変える。

 

 静かな昼下がりのアジトの一室。

 しばらくの間、その部屋には、甘い吐息とリップ音が響き続けた。

 

 

 

 

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