酒に酔った貝の女王の前では、凄腕の彼も形無しだ。
大人リボーン×桜
場所:10年後の未来、貝の女王のための寝室にて
その日はボンゴレファミリーが主催としている飲み会の夜が開かれていた。
発案したのはボンゴレファミリーの10代目のボス、沢田奈月その人だ。
普段、彼女は飲み会などを開いたりしない。しかし、時折みんなで集まりたいと、ちょっとしたわがままを言うことがあるのである。
もちろん、その言葉を聞いたボンゴレファミリーの守護者達は、その日の仕事をとんでもないスピードでミス一つなく終わらせる。
彼らの行動の全ては、貝の女王の意思一つでガラッと変わるのだと、ボンゴレファミリーに属している凄腕のヒットマンは口にする。
自分自身も含めてと。
「あ、そうだ奈月チャン!僕さ、やりたいことがあるんだけど、ちょっと話聞いてくれない?」
ボンゴレファミリーのアジト内にある常設バー……。マジックミラーによる特殊加工が施されており、外からは内部がわからず、内部からは外がわかる開放感があるそこに、奈月の一言で集まった者達が自由気ままに飲食を行う中、彼女が一番好きだと言っている窓側の席に1人の青年がやって来る。
その青年は白蘭……2つのファミリーが合併したことにより生まれたミルフィオーレファミリーに所属するホワイトスペルのボスだ。
彼は夜景を眺めながら、のんびりとカクテルを口にしていた奈月の元に歩み寄り、彼女が座るソファーの背もたれに寄りかかるように座りながら話しかける。
「やりたいこと?」
白蘭に近寄られた奈月は、キョトンとした表情をしながら首を傾げ、彼が口にした言葉を復唱した。
しかし、白蘭の姿勢を確認したのち、一瞬だけ目を細めたのち、ソファーからすっと立ち上がる。
そして、流石にその座り方はどうかと思うと言うように、彼の手を引っ張って自身が座っていたソファーに座らせた。
「うわ!?」と驚いて座らさられる白蘭。しかし、そんな彼の驚きなど知らないとばかりに、奈月はその膝の上にポスッと座り込んだ。
複数の箇所からグラスにヒビが入るような音が聞こえたが、いつものことであるせいか、誰も驚く様子はない。
「……何がやりたいわけ?変なことだと即行で殴るけど。」
「奈月チャンが膝の上に乗ってる状態で飛んで来る拳は流石に僕も躱せないからちょっと勘弁してほしいかな。」
当たり前のように他人の膝に座り込む奈月に、白蘭は少しだけ苦笑いをこぼす。
しかし、すぐに彼女が落っこちないように、細身の腰に手を回し、自身より小柄な体を固定しては、片手に持っていたグラスの中に入っている果実酒を口にする。
「別に変なことじゃないよ?ただ、今日ってほら、奈月チャンが声をかけなきゃ絶対に集まらないメンバーが揃ってるでしょ?雲雀クンや骸クンとか、獄寺クンとかもそうだよね。
他にも沢山奈月チャンのお願いしか聞く様子がないメンバーもいるよなーって思って。」
「ああ……まぁ、確かに普段なら絶対に集まらないメンツばかりが集まってるね。それがどうかしたの?」
「あ、僕のお酒勝手に飲んだ。」
「……いや、なんか味が気になって。」
「ただの果実酒だよ?」
「桃の味だった。」
「うん。桃のお酒だからね。」
箸が折れたり、グラスが割れたり……2人のやり取りの背後で発生する異音。
やはり誰も気にしておらず、窓側で過ごしている2人の話に耳を傾けている。
「で?普段は集まらないメンバーが集まってるからやりたいことがあるって話だけど、何がしたいわけ?」
「うん。ちょっと気にならない?このメンツの他人に対する印象とかさ。」
「……ん?」
白蘭の言葉に首を傾げる奈月。それを見た白蘭は笑顔を見せながら、手元に一枚の紙を取り出す。
そこに記されているものは、貝の女王に言いたいことは?と言う文字だった。
「………何て?」
その文字を見て奈月は引き攣った笑みを浮かべた。なぜそんな文字が紙に記されているのだと言うかのように。
彼女の反応に白蘭は再びニコニコと笑ったまま紙をひらひらと揺らす。
「ってことで、お題箱ゲームしようよ!くじ引きみたいにして、その紙にお題を書く。で、お題を引いたらシャンパングラスに注いだシャンパンを一気飲みして、紙に書かれたお題に関して答える簡単なゲームだよ。
これ以上飲めないって思ったら、ギブアップしてもいいけど、ギブアップした場合は自分が苦手なお酒を3杯飲む罰ゲームがあるからそのつもりで!
まずは1人3枚までお題を書いてもらうよ。で、誰も酔い潰れなかったらお題追加ね。」
笑顔でそう告げる白蘭に、奈月は引き攣った笑みを浮かべながら、これから繰り広げられるであろう出来事に、嫌な予感を抱きながら。
…………………
………………………………
……………………………………………
❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭
……………………………………………
………………………………
…………………
奈月の予想は大当たりだった。
白蘭の話を聞いた初代組が、ファミリーの関係がどのようなものかを把握することができる上、この際だから不満をぶつけ合うのもいいのではないかと乗り気になってしまい、白蘭発案のお題箱ゲームは幕を開けた。
白蘭が言った通り、お題を答える際にシャンパンを飲み、そのままお題に答えるルールと、ギブアップしたら苦手なお酒を3杯飲むと言うルールはそのまま適用し、思い思いのお題を3枚の紙に書き記していったのだ。
紙に記したのは全て自分のことについて、引いたものはどう思っているのかと言う内容だ。
最初のうちは、お題を引いてシャンパンを飲んで、素直な気持ちを吐き出すことに抵抗はそれなりにあった。
しかし、ゲームが進むにつれて、シャンパンのアルコールが回り始めたのか、全員が饒舌になり始め、次々とお題として示されたものをスラスラと言い始めたのである。
そのせいもあり、お題箱のお題は次々と消化されていってしまい、誰も酔い潰れないからと再びお題箱にお題を投函することになった。
時には骸と雲雀がお題によって喧嘩になりそうになり、奈月がゲンコツによる粛清を行なって、時には獄寺が暴走しそうになるのを奈月が止めて、白蘭がお題を追加する際に、今度は誰が誰に印象を語るのか強制するお題を入れたり、かなりカオスなことになっていた。
そんな中、アルコバレーノとしての呪いを解き、本来の姿を取り戻したリボーンは、お題箱の中からある一枚のお題を取り出した。
そこに記されているのは、「沢田奈月の好きなところを5つ挙げる」と言うものだった。
「リボーンク〜ン。次のお題は君だけど、何を引いたのか教えて〜?」
そう来たか……と少しだけ思いながら、お題が書かれている紙を見つめていると、お題を引いたリボーンに白蘭が話しかけた。
話し方や表情から、明らかに酔っ払っている状態であることを把握したリボーンは、酔ってんなこいつ……と思いながら、用意されていた辛口のシャンパンが入ったグラスを手に取りながら、貝の女王へと視線を向ける。
彼女は少しだけお酒に酔わされているのか、普段のボスとしての姿ではなく、本来の彼女としてのぽやんとした表情でリボーンを見つめていた。
だいぶアイツも酒が回ってるな……と思いながらリボーンは手元にある紙に視線を落とした。
「オレが引いたのは、奈月の好きなところを5つ挙げるって内容だな。」
「え〜?何それずるーい……僕だって奈月チャンの好きなところいっぱい言いたいのに〜……」
変わってよ〜などと言って、絡んでくる白蘭を鬱陶しく思いながらも、リボーンは奈月に視線を戻した。
自分の名前が出てきたことや、好きなところを挙げると言う言葉のせいか、彼女は少しだけそわそわしているようだった。
その姿を見て、リボーンは小さく笑う。同時に手にしていたシャンパンを一気に飲み干したあと、グラスを置いて口を開いた。
「ナツの好きなところか。絞るにゃ少々多過ぎるが、あえて言うとしたら、真面目なとこ、菓子を作るのが得意なとこ、細かいアクセサリーを作れる手先の器用さ、容姿の良さ、気遣いの上手さだな。
まぁ、真面目と気遣いの上手さは時折行き過ぎるところが玉に瑕だが、裏を返せばそれも良さって奴だ。無茶だけはしてほしくねーがな。」
「……さいきんはむちゃとかしてないし。」
「それくらいわかってる。だが、たまに自身の体調の変化を黙ってるのはいつ治るんだ?」
「むぅ………しんぱいかけたくないだけじゃん。」
「逆に心配するからなんとかしろって言ってんだよこっちは。」
むぷっと頬を膨らませながら文句を言う奈月に、リボーンは呆れながら言い返し、手にしていたお題入れの箱を分解した。
「あー!?ちょっとリボーンクン!!なんで箱分解しちゃうの!?」
「そろそろ時間だ。さっきオレが引いたので最後だからな。それに、周りを見てみろ。だいぶ酔い潰れた連中が増えてるぞ。」
「あえ?あ〜……確かに……。じゃあ今日はここまでかなぁ……」
「今日は……って、お前、またやる気かよ。ったく……」
分解した箱をその場で捨てたリボーンは、しっかりとした足取りでぽやぽやしている奈月の元へと向かう。
彼女が座っている特等席のソファー付近では、彼女の守護者のうち、晴と雷以外の4人と、彼女の兄弟子であるディーノ、そして、10年前から彼女に様々な知識を与えていたかつて始まりのボンゴレ達7人と、創設者の友人である始まりの大地の青年が集まってダウンしていた。
ちなみに、晴の青年は離れたところでダウンしており、雷の少年は女王に言われてすでに室内からいなくなっている。
「酒が入ったあと必ずと言っていい程にナツの周りで固まってるこいつらは何なんだ?」
「ん〜………?わかんにゃい……」
「にゃい……ってお前な……。珍しく酔っ払ってやがるな?」
「んー……なんかふわふわしゅりゅ……」
「ダメじゃねーか。」
お前より先に酔い潰れてるそいつらはもっとあれだがな……と現状にやれやれと首を左右に振る。
「おい、お前ら。さっさと自室に戻れ。水と薬はちゃんと腹に入れとけよ。明日二日酔いになるぞ。」
しかし、すぐに頭を切り替えたのち、この場にいる13人にさっさと自室に戻れと声をかける。
リボーンの声を聞いたメンバーは、彼の指示に返事をしたのち、ふらふらと千鳥足になりながらその場から立ち去って行く。
「お前もだ白蘭。さっさと自分のエリアに戻って水と薬を飲んどけ。明日二日酔いになっても知らねーからな。了平も早く戻れよ。京子達が心配するぞ。」
「は〜い。次は正チャンも誘お〜っと。」
「うぐ……うむ……すぐに自室に戻る……」
次にリボーンは了平と白蘭にさっさと帰れと指示を出す。流石に周りがいなくなっては白蘭もつまらないと思ったのか、少しだけふらつきながらも自室に戻っていった。
対する了平は、京子と言う言葉に反応を示し、ふらふらとした足取りでその場から立ち去って行く。
「……ナツ。歩けるか?」
それを確認したリボーンは、すぐにソファーに座っている奈月に声をかけた。
彼の言葉を聞いた奈月は、キョトンとした表情を見せたのち、目の前にいるリボーンに両腕を伸ばし、ふにゃんと破顔した。
「……だっこ〜。」
「……たく……相変わらず酒が回ったら普段の甘え方以上に甘えたがるようになるな、お前は。」
酒により頬を赤らめて、どこか濡れた瞳をし、無防備な幼子のように笑う奈月を見て、リボーンは呆れながら……しかし、どこか嬉しそうな表情を見せたあと、両腕を伸ばして来る奈月を優しく抱き上げる。
普段ならば、人が多くいる場所で横抱きなどさせようとしない彼女を横抱きしても、マタタビに酔っ払った猫のように、ぎゅっと抱きついて擦り寄って来る姿はかなり煽情的ではあったが、リボーンは気にすることなく奈月を抱えてバーを後にする。
……しばらく、アジトの中を歩いたリボーンは、ある部屋の前で足を止めた。
それは、自身の腕の中でぽやぽやしている貝の女王の私室であり寝室でもある場所だ。
鍵は全てオートロックで、決められたパスワードを入力しなくては開かない仕組みとなっている。
しかし、彼女の身の安全のことも考えて、そのパスワードは一部のファミリーに教えられている。
リボーンもまた、パスワードを知る人間の1人で、すぐに奈月が持っているカードキーを機械へと通し、そのパスワードを入力した。
それによりロックが解除された部屋は、わずかな灯りだけがついている。
夜になると、自動的に大きな灯りではなく、小さな灯りになるように設定してあるのだ。
「ついたぞ、桜奈。」
「んえ……?あー……ほんとうだ〜……わたしのへやだ〜……」
……移動の途中でさらに酒が回ってしまったのか、彼女の話し方はだいぶ間延びしたものへと変わっている。
ここまで酔うことは滅多にねーはずなんだがな……と、かなり珍しい姿を晒している元教え子の姿を見て、リボーンは何度か瞬きをした。
「やれやれ……こんなにお前が酔っ払ったのはいつぶりだろうな……。」
「ん〜……おしゃけのめるようになったとき……?」
「……ってことは4年前か。」
「たぶん……?」
「……話し方が若干幼くなってんのは気のせいか?」
「きのしぇいらよ〜……」
「気のせいじゃねーな。」
ゲームを始めた白蘭は明日締めとくか……などと考えながら、リボーンは後手に女王の部屋の鍵を閉める。
こんなにマタタビに酔っ払った猫みてーな状態で、男の理性を容赦なくデストロイしかねない生物兵器(失礼)を作り上げた原因である彼に、利子付きで物理を叩き込んでやると思いながら。
「そういえばリボーン……わたしのすきなところをあげてっておだいクリアしてたけど……いまもわたしのおかし、すきなんだ……?」
そんな中、不意に女王としての仮面を外し、1人の女性に戻ったボンゴレ10代目……桜奈がぽつりと呟いた。
それを聞いたリボーンは、一度目を丸くしたあと、すぐに小さく笑ってその頭を撫でて頷く。
頭を撫でられた桜奈は、懐いた猫のようにその片手に擦り寄り、気持ちよさそうに表情を緩めた。
「ああ。桜奈が作った菓子はどれも好きだ。甘過ぎないしくどくない。胃に来ることもなく、紅茶にもコーヒーにも合うからな。
店で売ってるもんも別に悪くはねーが、オレはやっぱ桜奈が作ったもんの方が好きだぞ。
店のは大衆に向けたものだが、桜奈が作るのはこっちの好みに合わせてあるものだからな。」
そうだろ?と聞いて来るリボーンに、桜奈は笑顔を見せて頷く。
「いーっぱいけんきゅーしたんらよー。リボーンはエスプレッソをよくのむからわたしもエスプレッソをのみながら、あうものをつくったんら〜。
それでね〜……エスプレッソにあうお菓子ができたらね〜……こんろはリボーンがすきなあじをがんばってつくったの〜。」
きにいってくれてよかったぁ〜とへにゃへにゃな笑顔を見せながら言葉を紡ぐ桜奈に、リボーンは思わず変な声が出そうになる。
何なんだこの無邪気と幼いが合わさった女は、と言う思いと、自分のために味を研究したのだと口にする彼女への愛しさが爆発しそうになった。
しかし、そこはやはり凄腕のヒットマン。表にも表情にも爆発しそうな愛しさを出すことなく、幼子のように笑う目の前の女を優しく撫でるだけにとどめ、さっさと寝室の方へと彼女を移動させる。
「明日も早いんだ。早く寝ろよ。」
「いっしょにねないの……?」
「……お前はオレの理性を試したいのか?それとも壊したいのか?」
「ん〜……?」
理解していない様子の桜奈に、リボーンは思わずその場で頭を抱える。
甘え上戸になることは知っていた。だからこそリボーンも桜奈にはあまり飲み過ぎるなと忠告をした。
こんな姿を自分以外の人間にまで見せるわけにはいかないと判断していたがために。
しかし、今回は白蘭が仕掛けたゲームと言う言葉のせいで、負けず嫌いの桜奈は対抗心からお題を次々とクリアしていった。
そのせいで他の男性連中みたく酔い潰れはしなかったが、深層心理になりを潜めている彼女の幼さが思い切り表面化してしまった。
普段は飲まない系統の酒を飲んだせいで、他の連中が酔い潰れたが、あれはある意味で正解だったかもしれないと思いながら、ぽやぽやしている桜奈に目を向ける。
「……一緒に寝たいのか?」
「だめなの……?」
「捨てられた仔犬みてーな目をするんじゃねー。」
しょもも……としょぼくれる垂れ耳の仔犬を幻視しながら、リボーンは目の前にいるふわふわな頭に軽く手刀を落とす。
痛くはない威力のものなため、目の前にいる彼女は平然としているが、手刀の衝撃に「み゛……っ」と間抜けな声を出し、むすっと拗ねたような表情を見せた。
「……たく……さっさとスーツを脱いで寝巻きに着替えろ。明日は早めに起きてシャワーを浴びねーとな。」
「リボーンは……?かえっちゃうの……?」
「だからそんな目を向けんな。帰らねーよ。一緒にいてほしいんだろ?」
「うん!」
「……素直過ぎるのも考えもんだな。」
自身でもわかってしまう程の穏やかな声に、オレもそれなりに酒が回ってるか?と思いながら、リボーンは目の前でにこにこ笑う桜奈に背を向ける。
すると、背後から布が擦れるような音が聞こえてきた。すぐにリボーンは、背後で桜奈が着替え始めているのだと理解する。
本来ならば、寝室の扉から外に出るべきではあるが、今の彼女は寂しがり屋でもあるため、間違いなく「行っちゃうの?」と遊んでもらえない仔犬のような表情をすると思ったため、着替えさえるのに時間がかかってしまう可能性があった。
出なくて正解か……としばらくの間、布の摩擦音を聞いていたリボーン。
そんな彼の肩を、桜奈は軽く指でつつく。すぐに振り向いてみれば、そこにはトロンとした目をしている桜奈がおり、両腕を広げていた。
「きがえた〜。」
「確かに着替えてるな。だが、前は閉めろ。」
そんな彼女に、リボーンは苦笑いをこぼしながら、手を伸ばし、その寝巻きのボタンを止めていく。
確かに彼女は着替えていたのだが、その胸元はかなり解放されていた。どれくらい解放されていたのかと言うと、下着の上半分はガッツリと服の隙間から顔を覗かせており、10年前からすくすくとふくよかに育ってしまった胸元の谷間が強調されるくらいには解放されていたのである。
流石に凄腕ヒットマンと呼ばれているリボーンであっても、正真正銘、本気の本気となってしまっている意中の女のその姿は堪えてしまったようだ。
「少し待ってろ。ちゃんと戻って来るからいい子にな。」
「はーい……」
リボーンの言葉を聞き、桜奈はぽやぽやしたまま、その場にちょこんと座り込む。
それを確認したリボーンは、一旦寝室と私室を隔てる扉の外に足を運び、慣れた様子で冷蔵庫の水と、薬箱の薬を手に取った。
それを持って寝室に戻れば、座っていた桜奈がパァッと無邪気な笑顔を見せたのである。
「ほら。水と薬だ。明日二日酔いにならねーように飲めよ。」
飲めるだろ?と桜奈に問いかけると、桜奈は一瞬ピシッと固まる。しかし、すぐに両手で口元を押さえてイヤのポーズを取った。
その姿を見て、リボーンは無言になる。なんか可愛らしいことをし始めた……と内心で思いながら。
「おい。桜奈。」
「にがいのヤッ!!」
「ガキかお前は。」
「とにかくイヤ!!」
「イヤじゃねーよ、飲め。」
「イ〜ヤ〜〜〜〜!!」
口元を押さえてイヤイヤと首を振る桜奈に、リボーンは何度か瞬きをする。
─────……確かにこの薬は苦いし、甘い物好きの桜奈が嫌がるのは納得いくが、流石に飲ませねーと明日しんどいのはこいつだしな……。
できることなら飲まさない方向にしたいとは思っていた。しかし、子供返りをするレベルで酔ってるようだとそうもいかない。
どうするべきかと考える。しかし、すぐに彼の思考はある一つの方法に行き着いた。
「しょうがねーな……最終手段だ。」
「?むぐっ!?」
それは口移しで薬を飲ませると言うものだった。桜奈が自身の呟きを聞いて、キョトンとする中、手元にあった二日酔いを防ぐための薬を水と一緒に口に含み、無防備になってる隙をついて、彼女の両腕を一瞬で片手だけで掴み、勢いよくベッドに押し倒す。そして、その唇を塞いだ。
彼の前では信用と信頼からか、警戒心が完全に薄れてしまう桜奈は、突然のことに対処できず、口を半開きにした状態だった。
その隙を逃すことなく、リボーンは彼女に口移しで二日酔いを防ぐための薬を飲ませる。
自身の口内に入り込んだ薬の苦さに気づき、桜奈は口を閉じようとしたが、リボーンはすぐにそれをさせまいと口内へと舌を捩じ込み、行動を封じる。
一時的に桜奈は体を強張らせたが、程なくして体から力が抜けていき、リボーンの口から流し込まれた薬を飲み込んだ。
彼女の喉がしっかりと動いたのを確認したリボーンは、少しだけ彼女の口内を荒らしたのち、ゆっくりと口を離す。
「うげぇ〜……にがい〜〜〜…………」
「苦い方が薬は効くんだよ。良薬は口に苦しって言うだろ。」
口が離れた瞬間、桜奈はその表情を顰める。薬の苦味のせいか、それとも薬を飲ませるためとは言え長めにキスをされてしまい酸欠になったのか、琥珀色の瞳は涙目になっており、頬も赤みが増していた。
「のみたくなかったのに……」
「飲まなきゃ明日辛いのはお前自身だぞ。それを防いでやったんだから、感謝してもらいたいところだな。」
薬はすぐに効くものではない。飲んで寝ることにより体調を整えるためのもののため、彼女の酔いは継続されている。
おかげで幼さが表面化しているまま……そんな状態で赤らんだ頬のまま、涙目を向けてきている姿は加虐心が刺激される。
おまけに今の体勢は、リボーンが桜奈の両手を片手で束ね、シーツの海に沈み込む彼女の上で固定しており、なおかつ組み敷いている状態。
いわゆる据え膳の状態と言えるのだが、彼女の過去を考えると、このまま手を出すわけにも行かない。
─────……視覚に悪いな、この状態は。
しかし、その考えとは裏腹に、リボーンの視線は自身の下にいる桜奈に釘付けとなっており、思わずジッと見つめてしまう。
そんなリボーンの姿を見つめ返す桜奈は、苦味に歪めていた表情から一変し、羞恥に表情を染め上げる。
「……リボーン……このたいせい、ちょっとはずかしいよぅ………」
「ん゛っ……お前な……!あまりそんな反応するんじゃねー……!」
甘えるような声音で羞恥を訴えてきた桜奈に、リボーンは思わず変な声を漏らしてしまう。
普段は絶対に見ることがない煽情的なその姿は、彼女に好意を向けている彼の理性を的確に貫いてしまう。
マジで白蘭許さねーからな……と若干の殺意に見舞われるが、何とか理性を総動員し、両腕を拘束していた片手を離す。
「薬も飲んだんだ。さっさと歯を磨いて寝るぞ。」
自身の顔が少なからず熱くなるのを感じ取りながらも、リボーンは桜奈に声をかけ、歯磨きを済ませようと告げる。
この部屋に備え付けられている洗面所へと向かうため、リボーンは彼女に手を差し伸べた。
しかし、桜奈は彼の手をジッと見つめたあと、再び両腕を彼の方に伸ばす。
言葉は口にしていないが、それが抱っこのおねだりであることは、すでにファミリーに周知されているため、リボーンはこの状態でか……?とぐらつく理性のまま、そのおねだりに答えた。
「……ったく……オレ達の姫君は酒が入ったらとことん甘えてくるな。」
やれやれと呆れながら言葉を紡ぐリボーン。その首筋に猫のように擦り寄っていた桜奈は、彼の言葉を聞くなり、ぎゅっと腕に力を入れた。
「…………このほうが、あまえることにていこうないから……。」
「!」
不意に紡がれた言葉にリボーンは一瞬驚いた表情を見せる。そんな彼を気にすることなく、桜奈は再び彼に擦り寄る。
「みんなは、いつもあまえさせてくれるけど……やっぱりじせいはしちゃうの。ほんとうはもっとあまえたいし、できることならそのままでいたい……。
だけど、やっぱりわたしはボスだから……あまえてばかりはいられない……」
「桜奈………」
「こんなあまえかたしかできないことは、ばかだとはおもってるよ……。でも……こうでもしないとわたしは……たくさんあまえたいってきもちをおしころしちゃう……。
だから……わたしは、おさけにたよるしかできないんだ………」
うつらうつらとしながら紡がれた言葉に、リボーンは少しだけ無言になる。
酒が入ると素直になる桜奈が、こんな嘘を紡ぐことはないと、今紡がれた言葉が、彼女の中にある本音なのだと、初めて聞いたその気持ちに、何度か瞬きを繰り返す。
「………そんなことしなくても、オレ達は桜奈を甘やかすから素直になれって言ってるだろ。だからもう、酒に頼ってまで甘えようとすんな。」
「ん〜…………」
「……全く……。」
少しだけうたた寝をしそうになってる桜奈の姿に、リボーンは呆れたような……しかし、確かな優しさが含まれている柔らかい声音で言葉を漏らす。
いつまで経っても遠慮しかしない自分達の女王には、まだまだ指導が足りなかったなと思いながら。
「桜奈。そこまで酔っ払うくらい酒を飲むのはオレの前だけにしておけよ。」
「ん〜……?わたし、リボーンいがいのまえじゃここまでようほどのまないよ……?」
「そうなのか?」
「うん……みんなでのむときや、ファミリーのだれかとのむときは、ほろよいくらいにはなるけど、ここまでいくのはリボーンのまえだけだよ……?
だって、リボーンのまえではなさけないじぶんをみせることができるから。
まぁ……むくろにはじめてあまえたいじぶんをだしたことはまちがいないけど、やっぱり、どこかえんりょしちゃうんだよね……。
それにくらべて、リボーンにはえんりょなくこんなすがたをみせることができる。
としうえのひとはいっぱいいるけど、そのなかでもリボーンには、どうしてかこんなふうになれるんだ……」
ぽつりぽつりと紡がれた言葉に、リボーンは目を丸くした。しかし、彼女が言った言葉の意味を理解した瞬間、その表情には、嬉しげな表情が浮かび上がった。
「……そうか。オレの前だけではそこまで無防備になれるんだな。」
「うん?うん……そーだよー……。ほかのみんなのまえじゃ、こんななさけないすがたなんてみせらんないもん……。
むくろやきょーやさん……ディーノさんたちのまえでも、こんなふにゃふにゃなじぶんにはなれないよ……。
だってわたしはボンゴレのじょうおうさま……。おおきなそしきのいちばんうえのひと。
がくせいのときみたいに、あまえたがりだけのじぶんをずっとみせるわけにはいかないの。
でもね……リボーンはわたしのヒットマンだけど、たいせつなみうち……たいせつなかぞく……わたしにとって、すごくたいせつなひとだから、こんなすがたもみせれるの。」
「……かなりの殺し文句を言ってる自覚はあるのか、桜奈。」
「ん〜……?」
「……その様子だとなさそうだな。」
舌足らずな話し方で紡がれた、桜奈にとってのリボーンと言う存在に関する言葉は、凄腕のヒットマンすらも甘く溶かす。
自身でも情けない程に頬を緩め、砂糖のような甘さを含む声音で言葉を口にしていることを自覚しながら、抱き上げている桜の花に優しい手つきでそっと触れる。
「……早く寝ろと言ったが、撤回だ。寝支度だけは済ませて、存分に甘やかしてやる。
明日は特に急ぎの仕事もなかったしな。多少夜更かししても問題ないだろ。」
「?あまやかしてくれるの………?」
「ああ。お前が望むならな。」
「じゃあ、あまやかして……リボーン……。」
「フ……Yes your majesty。オレ流の甘やかしを存分に堪能するといい、オレの女王様。」
「じょうおうなんてがらじゃないし……」
「……まぁ、お前ならそう言うと思ったぞ。」
穏やかに笑いながら、リボーンは愛しの女王の長い金糸を一房手に取り優しく口付けを落とす。
酔った時の記憶がハッキリと残ってしまう体質持ちの腕の中の貝の女王は、明日どんな表情をするだろうかと思いながら。
─────……朝一番に眺めさせてもらうからな。オレに甘やかせなんて依頼したんだ。その依頼料として貰っても構わねーだろ?
すでに書きたいネタが40程溜まっております……。
シチュエーションガチャ……恐るべし………。