空桜の花弁は七色に輝く   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 無垢なる霧は温もりを知り、その温もりに寄り添うことを望む。
 病弱な彼女であっても、大切な人と共にいるためならば強くなれる。

 奈月×クローム
 時間軸:代理戦争後、並盛中学校の下校時間

 骸は霧でいけますが、クロームはどうしよう……?と考えた結果、無垢霧表記にすることにしました。
 彼女は健気で純粋無垢な女の子ですから。





繋がれた温もり【主♀×クローム】

 沢山の試練を乗り越え、戻って来た日常生活。

 様々な争いを経験し、一つの決意を胸に、大切な人に寄り添い、守ることを選び、自身の意思で炎を灯し、体の欠落を補えるようになったボンゴレ10代目ファミリーの術士の1人、クローム髑髏は、自身のマスターでもあった六道骸が過ごす黒曜中学校から独立し、ボンゴレ10代目である沢田奈月が過ごしている並盛中学校で新たな生活を始めていた。

 

 クロームは、これまでの不足を補うように、沢山の勉強をこなしている。

 並盛中学校での授業が終わっても、放課後から図書室にこもり、1人で教科書やノート、参考書などを開きながら。

 しかし、彼女は不足した知識を補うためだけに勉強をしているわけではない。

 確かな目的、ある一つの楽しみがあるからこそ、彼女は居残り勉強をこなしていた。

 

「……クローム。まだ図書室に残ってたの?」

 

「ボス……。うん……。ボスの仕事が終わるのを待ってたの……。一緒に帰りたくて……。」

 

「わたしと一緒に?フフ……まさか、そんな風に言われるとはね。」

 

「だって……今だけは私も、ボスといっぱい過ごせるから……。誰かと行動を取るのは嫌いじゃないけど……やっぱり、私はボスと一緒に行動が取りたいから……。」

 

「そう。じゃあ、もうちょっと早く仕事を終わらせたらよかったかな。クロームが待ってるって知ってたら、こんな風には待たさなかったんだけど。」

 

 クロームの楽しみ……それは、並盛中学校で過ごすならば、こっちの家においでと言ってくれた奈月と共に帰る時間だ。

 普段の奈月の周りには、沢山の人が集まっている。同級生からファミリーの人間達、かつては自分のマスター……命綱となってくれていた六道骸や、その周りにいる人達……それが奈月という存在の魅力のあり方であり、一つの特徴だった。

 クロームもまた、奈月という琥珀色に惹かれた少女であり、その側にいること……命の恩人でもある骸も含めて支えたいと望んでいる1人だ。

 ゆえに、普段ならば周りにいることができるだけで、側にいることができるだけで、十分過ぎる程の温もりと幸福を得ていた。

 

 しかし、クロームは時折それだけでは物足りないと思うことがあった。

 様々なものを抱えている自分自身に寄り添ってくれる優しさに、こんな自分であっても受け入れてくれて、大切なファミリーであり友人だと言ってくれる奈月に、特別な想いも抱いていた。

 それに気づいたのは、たまには骸のように、呪いが解けたアルコバレーノのように、並盛中学校を取り締まる風紀委員長である雲雀恭弥のように、沢田奈月という琥白色を独占したいと思うようになった時だった。

 

 最初、クロームはどうしてそんなことを思うようになったのかわからず、かなり混乱していた。

 だが、その混乱を誰かに打ち明けようにも、打ち明ける人が見つからなかった。

 かつての自分であれば、迷うことなく骸に相談をしていたかもしれないが、なぜかその悩みは骸には打ち明けてはダメだと思い、打ち明けることはしなかった。

 そんな彼女に救いの手を伸ばしたのは、自分より先に奈月の家に居候していたビアンキだった。

 

 悩みに悩んで過ごしていたら、突然ビアンキに話しかけられ、何かあったのか聞かれたクローム。

 彼女はすぐにビアンキに、最近の自分の感情の変化……時折抱くようになった一つの欲を教えた。

 未来でも支えてくれた彼女ならば、答えを教えてくれるかもしれないと思いながら。

 その予想は大当たりだった。ビアンキはクロームの話を真剣に聞いては、それが何から来る感情なのかを教えてくれた。

 それは好意の延長線上にある恋慕に近い情であり、独占欲と呼ばれるものであると。

 

 ビアンキに言われ、クロームはますます混乱した。女の子が女の子に恋をする……などということが、現実にあり得ることなのかと。

 するとビアンキは静かに話した。時には同性に恋をしてしまう人間もいるし、同性も異性も関係なく恋慕を抱くものもいると。

 他にも、全てが恋慕に直結するわけではなく、親愛の強さから独占欲が芽生えてしまうこともあると。

 その例として、彼女はこれまで出会って来た女性達の好意の話を丁寧に教えられたクロームは、独占欲に関しては納得できた。

 だが、そんなものを抱いたとして、奈月には迷惑をかけてしまうだろうし、その思いは隠した方がいいのではとも考えた。

 

 しかし、そこはやはりビアンキか。彼女は別に隠さなくても問題はないとクロームに教えた。

 確かに、あまりにもしつこいと嫌うものも出てくるかもしれないが、たまに見せて甘えるくらいならば、奈月は普通に受け入れてくれるし、それに応えてもくれるはずだと。

 その言葉に背中を押されたのか、クロームは度々奈月を独り占めできる時間を自らの手で作るようになったのだ。

 

 とはいえ、奈月は自分だけのものではないことも理解しているため、何度も何度も見せるようなことはしない。

 週に2回程、奈月にお願いして一緒にいてもらう……それを繰り返しているのだ。

 

「じゃあ、帰ろうか。そろそろ完全下校の時間だからね。」

 

「うん。」

 

 穏やかに笑いながら、帰ろうと言ってくる奈月に、クロームは小さく頷き返したあと、広げていたものを納めて歩み寄る。

 程なくして隣に並ぶことができた2人は、一緒に並盛中学校の廊下を歩き始めた。

 

「体調の方は問題ない?」

 

「うん、大丈夫……。ボスがくれたブレスレットのおかげでボスの力も加わってくれているから……。ありがとう、ボス……。私に霧の力を貸してくれて……。」

 

「当たり前だよ。クロームも……凪もわたしにとって大切な女の子だからね。

 大切な人の力になれるのであれば、いくらでもわたしは力を振るうよ。そうすることで、長く一緒にいることができるし、守ることもできるからね。」

 

 わずかに流し込まれたのは、きみもわたしにとっては守るべき対象であり、宝物だと告げるような穏やかで優しい感情だった。

 骸と同様に、他人に憑依する技術を持ち合わせており、なおかつ、自身は特別な条件がなくても憑依することができる対象であることが偶然重なったことにより、奈月は骸と同じことができる存在になっていたのだ。

 

 何度も自身が行われて来た感情の流入……骸程活用しているわけではないが、クロームに対して彼女はたまに行うことがある。

 本心からの思い……沢山の感情を共有することにより、クローム髑髏……いや……凪という少女に自身の温もりを分け与えているのだ。

 それが自身を支えてくれている一つの架け橋となっているのを、彼女はよく知っているからこそ、かつての自分にどこか似ている凪を支えたいと、守りたいと思っているから。

 

 事実、凪はその温もりと優しさに沢山救われていた。骸に一時的とはいえ突き放されてしまい、その結果、自身の存在意義がわからなくなった時、少しでも冷静になれるように、苦しい思いをしないようにと、奈月に手を差し伸べられていたために。

 それにより凪は答えを得た。自身の気持ち、やりたいこと、それを見つけることができたのだ。

 

 ─────……私、沢山ボスに助けてもらってる……骸様と同じくらい手を差し伸べてもらってる。

 

 ─────……沢山もらって……沢山支えてもらえて……私、少しでもお返しができているのかな……。

 

 自身の歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩いている奈月。凪はそんな彼女の横顔を見つめながら考える。

 どうしたら恩返しができるだろうか?どうやったらこれまで沢山のものをくれたボスにお返しができるだろうか?

 浮かんでは消えて、また浮かんで……繰り返す思考の海に浸りながら、凪は視線をそっと逸らした。

 

 そんな時、彼女の視線には一つの影が映り込む。それは、隣をゆっくりと歩いている奈月の影だ。

 なんの変哲もない影ではあるが、凪はそれに視線を奪われていた。

 

 ─────……ボスの影。やっぱり私の影よりずっと大きい。

 

 自身と奈月の体格差に、凪は何度か瞬きを繰り返す。骸と並んでいる時は、明らかに小柄な影にしか見えないのに、自分と並ぶと自分の方が小柄になるのだと、改めて認識した。

 この温もりに、自身は守ってもらっている……自身は温もりを守れるだろうか……そんなことを考えていると、なんだか目の前の影がどこか先へと行ってしまいそうな錯覚に陥り、凪はそっと、自身の影を見つめながら、大きな影の片手を繋ぐ。

 

 すると、目の前の影が動きを止めた。視界の端に映る足も、いつのまにか止まっている。

 気づいたら凪は驚いたような表情を見せて、影から影の持ち主の方へと視線を向けた。

 

「あ……」

 

 視線を向けた先で、琥珀色の瞳と自身の視線が交わった。その瞬間、まるでその瞳に囚われるかのように、凪は固まってしまった。

 しかし、すぐに自身がやっていたことに羞恥を覚えたのか、凪は慌てて影と影を繋げるように挙げていた手を引っ込ませる。

 だが、その手は最後まで引っ込ませることはできなかった。そっと伸びて来た優しい温もりに、その手を優しく繋がれたために。

 

「ボス……?」

 

「……何してるの、凪?」

 

「!えっと……その……ご、ごめんなさ……」

 

「謝らなくていいよ。ただ、随分と可愛らしいことをしているなって思っただけだからね。」

 

「……怒って……ないの………?」

 

「逆に聞くけど、どこに怒る要素があるの?凪は悪いことをしていないのに。」

 

 穏やかに笑いながら、どこか少しだけ揶揄うような口調で話しかけてくる奈月に、凪は思わず顔を赤くしてしまう。

 しかし、何度か奈月と繋がれている自身の手をチラチラと見ては、そっと、緩やかに握りしめた。

 

「その……なんだかボスが……どこか先の方に行っちゃいそうだったから……」

 

「そっか。だから繋ごうとしていたんだね。」

 

「うん……。私、ボスに沢山のことをしてもらってる。沢山宝物を貰ってる。沢山、その背中に守ってもらってる。

 でも……沢山もらっている私は、ボスにお返しができるのかな……って……。そう思うと……なんだか……」

 

 言葉が少しずつ弱くなり、奈月を握りしめる手には力が加わる。沢山もらっているのに、守られているのに、自分はそれにちゃんと返せるものは返せているのかわからなくて、どんどん申し訳なくなって、同時に、何もできなくて置いて行かれてしまうのではないかという不安が大きくなる。

 尻すぼみになっていく声に、少しだけ泣きそうになりながら、凪は無言になった。

 しかし、泣きそうになったその気持ちは、すぐに塗り替えられることとなる。

 

 優しく手を引っ張られ、少しだけバランスを崩す凪。だが、その体はすぐに柔らかくて暖かい温もりに抱き止められ、その額には優しく唇が落とされた。

 

「……!」

 

「……そんなに不安にならなくてもいいよ。わたしは凪を置いていかないから。

 それにね、凪。わたしは、自分がそうしたいから凪に沢山温もりを分けているんだよ。

 わたしが骸にしてもらったように、冷たい海の底からきみを引っ張り上げるためにね。

 今のきみはわたしにとって大切な女の子で、どこまでも明るい方へと一緒に歩いて行きたい大切な仲間だ。

 だからこそわたしは与えるし、守り抜くんだよ。見返りなんて求めてない。」

 

「……ボス………。」

 

「フフ……その呼び方も悪くないけど、見ての通り、今は気を配らないといけない人はいない。

 前に教えた、わたしのもう一つの名前を呼んでよ、凪。」

 

「……うん。わかったよ、桜奈。」

 

「それでよし。」

 

 自分の名前を呼んだ凪に、奈月は……いや、沢田奈月と言う仮面を外した春の少女、桜奈は穏やかに笑い、凪の手をそっと引いて歩き出す。

 

「いいかい、凪。わたしはね。凪に何かしてほしいから優しくしているわけじゃないんだ。

 自分がそうしたいから……そうしてもらった時が嬉しくて、大切な温もりへと変わったから、これまでの生活をして来たんだ。

 きみとわたしは結構似てるところがあるからね。きっと、こうしたらきみも救われると思ってる。

 実際、わたしは骸にそうしてもらって、何度も助けられているんだ。だから、きっとキミの助けにもなる。

 きみの中にぽっかりと空いた穴を少しずつ埋めることができると思ったんだよ。

 だからね。見返りだとか、お返しだとか、そんなものは気にすることなく、凪も甘えて来ていいんだよ。

 実際わたしも、度々骸や恭弥さん達に甘えてるしね。まぁ、それでも何かお礼がしたいと思うなら、こうやって側にいて、他愛もない話をしてくれたらそれでいい。」

 

 春の陽だまりのような温もりがある声音で、自分は何をしたらいいのかを教えてくる桜奈に、凪は一度目を丸くする。

 しかし、彼女から同時に流れ込んで来た春の陽気を思わせるような温もりと、華やかな花のように開く柔らかな感情を感じ取った凪は、不思議とそれでいいのだと思えて来た。

 それを示すかのように、先程までどこかモヤモヤとした気持ちは晴れていき、凪は自然と小さく微笑む。

 

「今の凪は何をしたい?」

 

 そんな中問われた一つの問い。凪は少しだけ考え込むように無言になったあと、桜奈から繋がれている手に自身の指を控えめに絡めて、自分よりもどこか逞しさを感じる腕にそっと自身の腕を絡めた。

 

「……桜奈を少しだけ独り占めにしたい……。くっついていたい……。いい……かな……?」

 

「ん。いいよ。くっつかれるのは慣れているからね。今だけは凪だけのわたしでいるよ。」

 

「ありがとう……桜奈。」

 

 紡がれた答えに、桜奈は優しく笑いかけながら、応えるように身を寄せる。

 桜奈に身を寄せられた凪は、控えめにしていた恋人繋ぎをしっかりとしたものへと変え、頬を少しだけ桜色に染めながら、ぎゅっと腕を抱きしめた。

 

「今日の学校はどうだった?嫌なこととかはなかったかな?」

 

「うん……大丈夫……。桜奈も、みんなもいてくれたから……嫌なことはされてないよ……?」

 

「それならよかった。最初、ウチに来た時、凪がちゃんと馴染めているか心配だったんだ。

 ウチの学校、それなりに治安が悪いからね。悪ガキもちらほらといるから気にしていたんだよ。」

 

「心配してくれてありがとう……。でもね……?みんな、いい人達ばかりだよ……?

 たまに……ちょっと雲の人が怖い時があるけど………。」

 

「あ〜……恭弥さんは確かに、ちょっと怖いかもしれないね。わたしはなんともないけど。」

 

「それは……雲の人は桜奈には優しいからだと思う……。あの人、桜奈にはすごい甘いからって……骸様も言ってたよ……?」

 

「それは否定しない……。」

 

「そういえば……骸様……雲の人が桜奈に膝枕されてた……って言ってたけど……」

 

「……彼……また覗き見してたな?」

 

「たまに、桜奈から骸様の気配がするから、多分……?骸様が言ってたけど……最近、骸様は桜奈に気づかれない程度に意識を向けれるようになったみたいだから……」

 

「凪……それ、多分言ったらダメな奴。」

 

 天然でかつてのマスターのトンデモ話を暴露する凪にツッコミを入れながら、桜奈は自宅へと戻るための帰路を歩く。

 少しでも早く、隣にいるこの子も心穏やかに、焦りを抱くことなく過ごせるようにと願いながら。

 

 

 

 

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