何気ない話を電話越しにしていた2人の大空は、どれだけ離れていても一緒だった。
ディーノ×奈月
時間軸:10年前、とある春の日の広がる空の下で
「よぉ、ナツ。今日はどんなことがあったんだ?」
【こんばんは、ディーノさん!今日はですね……学校帰りにファミリーのみんなと一緒にお出かけして来ました!行ったのは遊園地なんですけど、かなり大変でしたよ……】
「大変だったのか?」
【ええ。だって骸と恭弥さんの2人がとにかく私を振り回して来たんです……。あっちに行こうこっちに行こうって。
しかも毎回2人でバトりだすし、もう何がなんだか……。みんなできてるんだからデートじゃない!!って何度怒ったことか……】
「相変わらず骸と恭弥はナツを取り合ってるんだな……」
その日は互いに休みの前日だった。
キャバッローネファミリーの10代目のボス、ディーノは、ボンゴレファミリーの10代目であるボスを勤めている少女、沢田奈月と電話越しに言葉を交わす。
話していることは、今日はどんなことがあったのか、という当たり感触ない何気ない日常生活。
この日、電話の先にいる奈月は、どうやらボンゴレファミリーと共に遊園地に行って遊んでいたようだ。
日本にいる奴らはいいよなぁ……と、ディーノは少しだけ拗ねながらも、遊園地内で繰り広げられたことを話してくれる奈月の言葉に耳を傾ける。
【ディーノさんも日本に来てくれていたら、一緒に遊園地に行けたのに……。あの人達を制御するの、私だけだとかなり疲れるんですよ。
なんでよりによってストッパーが私だけになるのか……。】
「オレをストッパーに巻き込むなよ……。リボーンはどうしたんだ?」
【あの私を溺愛して来ているヒットマンが制御に協力してくれるとでも?】
「……しねーな。むしろ逆に混ざりそうだわ。」
【はい、正解です。問答無用で混ざってさらにカオスにしてくれやがりました。】
「ったく……あいつらは仕方ねーなぁ……。」
電話の向こうでむくれているであろう奈月の姿を想像ながら、ディーノは苦笑いをこぼす。
奈月に負担はかけないようにするとか言ってる本人がなんでますます混沌化を促進してるんだとツッコミながら。
【はぁ……たまにはのんびりしたい……。みんなでワイワイ騒がしくするのは別に嫌いじゃないけど、高確率ででかい子どもの子守になるし……。なんなんだわたしのファミリー……。精神年齢低いのか……?】
「相当疲れてんな……。」
もはや敬語がどこかに消えて、明らかに素であろう声音で文句をいう奈月。
どう考えても仮面がどっかに投げ捨てられている状態に、ディーノは同情すると同時に、素の状態の奈月が電話越しとは言え顔を覗かしてくれていることに、少なからず嬉しさを感じていた。
なぜなら彼は、彼女の周りにいる人間程ベタベタに好意を見せることは滅多にないが、特別な感情を抱いている人間の1人だった。
そのため、普段は自身を隠そうとする奈月が、それを表に出してくれていることはとても喜ばしいものだったのである。
【うー……ディーノさん……助けてくださいよ……。そろそろ誰かに甘えないと充電が切れそうなんですけど……】
「ん?いつもそっちの奴らに甘えてるんじゃないのか?」
【そりゃ甘えてますけど、わたしがこっちの誰かに甘えるのって割と神経使うんですよ?
わたしが甘えているところに甘やかしトリオが来たら確実にバトります。】
「甘やかしトリ……あ〜……今回言い争ってたカオストリオか。」
【そうです。特に骸が1番に出張ります。わたしとの繋がりを切ってませんから即行でやって来て喧嘩を始めます。主に恭弥さんと。】
「なんでナツんところの雲と霧は水と油なんだよ……」
【知りませんよ……。あれじゃないですか?あの人らはリボーン以上の溺愛紳士なんで。……骸の場合、溺愛って言っていいのかあれ……?】
「溺愛っつーか、盲愛だよな。ナツのためならなんでもしちまう系の信者的な。」
【ワタシ、キョウソ、チガウ。】
「ふはっ!!なんでカタコトなんだよ……っ」
電話越しの奈月のことばに、思わず笑い声を漏らしてしまうディーノ。
笑わないでくださいよ!と拗ねたような声が向こうから聞こえて来たが、少しだけそれは無理だと思ってしまった。
しかし、ある程度笑いが落ち着いた彼は、奈月の要望に応えるために、一つの提案を口にする。
「ナツ。確か明日から長期の休みって言ってたよな?」
【ん?はい。お休みですよ。ちょうど春休みになるので。】
「だったらさ。長期休暇の数日間はイタリアに来ないか?オレんところに泊まっていいから、よかったらだけど。」
ディーノの提案を聞き、奈月は思わず無言になる。電話越しで会話していたため、彼の方には少しの間無言が届き、マズったか……?とディーノは少しだけ冷や汗をかく。
やっぱりウチに泊まらないかって言葉はよくなかっただろうか?すぐにでも訂正をした方がいいんじゃないか……?
わずかな焦りを抱き、冗談だと告げるために口を開く。
【いいんですか……?そっちにお泊まりしちゃっても……?】
「へ?」
【あ、いや、その……お泊まりしないかって聞いたので……冗談だったらすみま……】
「いや、冗談じゃない!全然冗談じゃねーから!でも、本当にいいのか?オレんとこに泊まるの……」
【!はい!いつか行ってみたいと思っていたので!】
「そ、そっか。そっかぁ……!」
まさかの承諾の言葉に、ディーノはニヤケそうになる顔を思わず手で隠してしまう。
好きな女がうちに泊まりにくる……!その事実が嬉しかった。
勇気を出して誘って正解だった……口にその喜びは出さないが、片手はガッツポーズを披露していた。
「じゃあ、明日の……そうだな……昼ぐらいに空港に行ってくれ。移動時間がかなり長いから、1日はそれで潰れるちまうけど迎えにいくぜ。」
【わかりました!】
「それと、だ。これはまぁ、オレのワガママみたいなもんなんだけど、可能だったらナツ1人で来てほしいなって……。」
自身の誘いにすぐに頷いてくれた奈月に、ディーノは一つの望みを抱く。
それは、できることならば彼女と2人でイタリアの休日を満喫したいというものだった。
イタリアの方に来ることは滅多にない奈月……そんな彼女がせっかくイタリアに来てくれることになったのだ。
可能であれば、2人きりで過ごしてみたいと思ったのである。
彼もやはり、彼女に恋する1人の男と言うわけだ。
ディーノから言われた言葉の中にそれが含まれていることに、奈月はすぐに気づき、一瞬だけ無言になる。
「ダメか?」
電話の向こうで、彼女が目を丸くしているであろうことに気づいているディーノは、確認するように1人で来ることはできないか問う。
できないのであれば、保護者が同伴でも構わないと思っているが、わずかな望みを抱きながら。
【ダメじゃないですよ。急なことにビックリしましたけど、たまにはのんびりとファミリー以外の人と過ごしてみたいので。】
返ってきたのは承諾の言葉。自身のワガママが通るとは思わず、ディーノは目を丸くする。
しかし、すぐに彼女が1人で来ようとしてくれたことを喜ぶように、彼の口元は綻んだ。
「そう言ってくれて嬉しいよ、ナツ。しっかり準備して待ってるぜ。」
【はい!】
電話越しに聞こえた明るい声に、ディーノは穏やかに笑いながら、部屋の中にいたロマーリオに目を向ける。
彼の意図を把握したロマーリオは、すぐに小さく頷いたあと、一旦部屋の外に向かった。
外に向かった彼は、護衛として部屋を固めていた仲間達に、明日から奈月がイタリアに来ることを伝え、準備するように指示を出し、未だに電話をしている自身のボスに目を向ける。
マフィアのボスを勤めているとはいえ、未だ青年期を抜けきっていない自分達のリーダーが、無邪気に笑いながら大切な女と話している姿は、年相応のような、少し子供っぽいような、そんな印象を周りに抱かせる。
こんな姿、他のファミリー連中には見せれねーな、なんて思いながら、少年のように笑っているリーダーを見つめ、その口元に笑みを浮かべて、電話越しの2人きりを満喫してもらうために、静かに部屋を退室した。
……あれからどれだけ時間が経ったのか、ディーノは電話越しに聞こえる奈月の反応が、少しずつ薄くなっていくことに気がつく。
「……ナツ?」
【……………すぅ………すぅ………。】
「……って、うわ。もうこんな時間か!?そりゃ眠っちまってもおかしくねーよな……。」
不思議に思い声をかけてみると、返ってきたのは少女の寝息。
何度か瞬きをしたディーノが、まさかと思い時計へと目を向けてみれば、針が示すは19時ちょうど。
日本とイタリアの時差は約8時間。日本の方が時間の進みは早いため、今の時間から8時間先……となると、向こうはすでに深夜を回っている。
随分と長く話し過ぎた……とディーノは反省しながら、明日起きたら奈月に謝ろうと考え、手にしていた携帯電話を切ろうと、通話終了ボタンを押そうとする。
しかし、彼の指は終了ボタンをしっかりと押すことなくぴたりと止まり、聞こえてくる寝息に目を傾ける。
「…………。」
少しの間無言になり、何度か瞬きをしたディーノ。数分間の思案の末、彼が行ったことは、手にしていた電話のスピーカーをオンにすると言うものだった。
それにより、耳に当てなくても聞こえてくる寝息に、ディーノは小さく笑みを浮かべ、そのままベッドに座り込む。
「……こうやってると、なんか、すぐ近くでナツが寝てるみたいだな。距離はかなり離れてるはずなのに。」
自身の携帯電話の充電残量を見て、充電器を差し込んだディーノは、呟くように言葉を紡ぐ。
距離にして9728km。空路片道13時間弱……かなり離れている互いの居場所が、2人の間にはあるはずなのだが、電話越しに聞こえる愛しい人の寝息が近くにいるように錯覚させてくる。
しかし、触れそうで触れることができない距離に、ディーノは少しだけ寂しさを抱きながら、聞こえてくる寝息に耳を澄ませた。
「……なんか、ちょっと癒されるな。ナツの寝息って。穏やかで、静かで、不思議とあったかい。
温もりなんて感じることができない、無機物から聞こえてくる音のはずなんだがな……。」
どことなく不思議な感覚に陥りながら、ディーノはさっさとラフな格好から外出用のカジュアルスタイルへと変えて、携帯電話を片手に、ロマーリオと合流した。
「って、ボス。何電話しながら来てんだよ。」
「なんか癒されんだよ、ナツの寝息。そんなことより、ビジネスジェットの方はチャーターできそうか?」
「ああ。問題ねーよ、ボス。姫さんが泊まるって聞いてから、すぐにチャーターしておいた。」
「ならいい。空港に着くくらいには準備ができそうだな。」
「だな。にしても、ボス。なかなか大胆な提案を姫さんにしたな。まさか、姫さんに1人で泊まりに来いって言うなんてよ。」
「うっせーな……。仕方ねーだろ。最近はあまり日本に行けてねーから、少しくらいナツを独占したいんだよ。」
「ガキがあんたは。」
「お前に比べたらまだガキだろうな。でも、そろそろオレも何かしら行動を取らねーと、他の連中に掻っ攫われちまいそうなんだよな……」
「六道骸とか、リボーンさんとか、雲雀恭弥辺りにか?」
「ああ。だったら、少しくらい独占してもいいだろ。」
「はは。羨ましかったんだな。日本にいる奴らが姫さんと楽しく遊んでたから。」
笑い声を漏らすロマーリオに対して、ディーノはジト……と少しだけ睨みつけるような目を向けたあと、ロマーリオが運転しようとしている車の助手席に乗り込む。
この間も彼は奈月の様子が知りたいのか、電話はつけたままだった。
「……ぐっすり寝てるな、ナツのヤツ。」
「寂しいか?」
「うっせ。」
「はは。そこら辺はまだまだアンタも若いな。」
揶揄われたことに拗ねたような表情を見せるディーノ。こんな自分達のリーダーを見たのはいつぶりだろうかと思いながら、どこか普段より幼い表情を見せているディーノを横目で見たのち、車を走らせた。
……程なくしてたどり着いた空港。
ビジネスジェットを出すことができる場所にディーノ達が足を運んでみれば、すでに離陸準備はできていたようで、すぐに彼らはチャーターした飛行機の方へと足を運んだ。
雇い主を見たチャーター機の乗組員達は、すぐにディーノ達を迎え入れ、いつでも出せると言わんばかりに機内へと案内する。
「日本まで時間がかかかるし、機内が落ち着いたら仮眠でも取るかな。」
「それがいいかもな。姫さんに情けねー姿を見られたくもないだらうし。」
「どう言う意味だよそれ。」
「じゃあ聞くが、姫さんの前で眠気マシマシの顔見せれんのか?」
「無理に決まってるだろ。」
「ま、そういうこった。」
サラッと告げられた、情けない姿の一つである眠気を堪える顔の指摘をされ、ディーノは無言になる。
しかし、すぐに案内された場所に腰をかけて、出発するための準備を整えた。
しばらくして、飛行機は無事に空港から離陸し、ある程度自由が効くようになったディーノは、自身が使っている座席をさっさと倒す。
個室になっているため、そこも静かに閉じ、未だに繋げている電話の方へと目を向けた。
飛行機が離陸する際、かなり大きな音が発生するため、なんとかマイクを押さえ、電話の電源が切れないようにと中途半端に閉じていたが、ちゃんとまだ繋がっているらしく、耳を澄ませてみれば奈月の寝息が聞こえていた。
「……おやすみ、ナツ。」
それを確認したディーノは、一言呟き、そのまま静かに瞼を閉じた。
明日、奈月が空港で合流した時、全力で謝罪される姿が容易く想像できてしまい、笑い声を漏らしそうになりながら。
─────……明日、ナツが謝って来たら、オレもナツの寝息を聞いていたら寝落ちてたって伝えるかな。
─────……例えどれだけ離れていようとも、結構繋がってるもんなんだぜって。
そんなことを考えながら、ディーノはそのまま眠りに落ちる。
イタリアに来た奈月とは、どんなことをして過ごそうか、様々なやり取りを思い描いて……。