街道から道を外れ、ある程度歩いたところにある森の中。その中にある少し開けたその場所に、景色に溶け込むように一つの家が建っていた。
まるで人から隠れるように建てられたその家では一人の少女が穏やかな時間を過ごしている。
少女は整った身なりをしており、とても自然の中で暮らしをしているとは思えない。
そんな少女が心地よく昼下がりの時間を過ごしていた。
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「……なんていい天気なんでしょう」
「木々の間を射す木漏れ日、風が吹けば聞こえる葉擦れの音……私が味わいたかったものです」
森の奥にある小さな家、そのテラスでくつろぎながら私は呟く。
というのも私が今ここにいるのはわざわざお父様に頼んだからだ。
広々としたお城でいつものように過ごすのも好きだけれど、たまには『自然あふれる地で穏やかに過ごす』というのをやってみたかったから。
もちろんお父様は二つ返事で許してくれて、この場所に家を建ててもらった。
こうやってわがままを聞いてくれるからお父様のことは大好きだ。
「ふぁ……ねむい……」
そしてこんな空気には眠気もつきもの。穏やかなお昼寝の時間はいつだって好きだ。
だからこの眠気には逆らわずに受け入れ、背もたれに寄りかかるように上体を倒しながら少しずつ意識を手放す。
気持ち良い時間を過ごせるということを疑うこともせずに。
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「…………」
「……ん……?」
何か物音が聞こえたような気がして少しずつ脳を覚醒させる。
大きな音が聞こえ続けてるわけではないが少しだけ自然の息遣いとは違うものがある気がする。
目を開けて周りを見渡す。見えるのは変わらない日差しと地面に倒れこんでいる人の姿だった。
「えっ……た、大変!」
場合によってはまた微睡みに戻ろうかとも思っていたけどさすがにそれどころじゃないと思う。
倒れている人物にできる限りの速度で駆け寄る。動きやすい服じゃないからそこまで早くない。
「こ、こんにちは~……?」
「……」
「大丈夫ですか……?」
「…うっ……」
「!大丈夫ですか!?」
「大丈夫……じゃない……肩を貸してくれないか……?」
どうやら本人曰く大丈夫じゃないみたい。肩を貸してっていられても普通にこの人の方が重そうだから貸せる自信もないんだけど……でも、断るわけにもいかない状況だよね。
「はい……!休める部屋までご案内します……!」
そう言って彼を支えながら家まで歩いてもらう。やっぱり重かったけどなんとかなるくらいには彼も動けるみたいだった。といっても空いてるベッドまで運んだらそこでまた起き上がれなくなってしまったけど。
「飲み物とかご飯しか用意できないですけどいいですか?」
「ああ……悪いね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
お父様が私のために用意してくれていた食事を男性に分けてあげる。怪我人用の食事なんてあるわけないから食べにくそうでちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。
「それであの、怪我の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫……と言いたいところだけど少し厳しそうだ……厚かましいお願いなんだが数日だけ休ませてもらうことはできないかな?」
「数日ぐらいでしたら……はい、大丈夫です」
「よかった……恩に着るよ……」
ありがとうといって彼は目を閉じて休み始めた。
こんな近くで男の人が寝てるのを見るのは初めてでなんだか落ち着かないけど……
けど、もしかしたら……
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「おはようございます。もうお体の方は大丈夫そうですね」
「ああ、おはよう。おかげさまで」
そう言って彼は椅子に腰かけた。私も用意を済ませて椅子に座り、二人で朝食を食べる。
彼の看病をしていたのはそれこそ少しだけだ。けれどこんな森の中で知らない人と過ごすなんて初めての体験だったからとても楽しかった。予定にこそなかったけど大満足だ。
話を聞くと、彼は賊に襲われたせいでこの近くまできていたと言っていた。賊は倒したけれどその代わり傷を負ってしまったとも。
……その傷が治ったら急いで帰らなければならないということも。
「……それでは食事を終えたらすぐに行かれるんですね」
「はい、とてもお世話になりました。このお礼は必ず」
彼は真摯に答えてくれた。その表情をみて私も……言いたいことをちゃんと伝えようと思った。
「あの!……また会えますよね……?」
「……!……はい、必ず。会いに来ます」
そうして彼は去っていった。
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「はぁぁ~……」
森の家で過ごしていた日からさらに数日後、私は自分のお城に戻ってきていました。
お城の中が嫌いというわけではないけどなんだかいつもより上の空な気分になることが多いです。
お父様やお母様も心配してくれましたが悲しいことがあったわけではありません。
少し時間がたてばいい思い出になっていつもみたいに戻れるはず……
そんなことを思いながら、私はお城の広間に向かっていました。
なんでも今日は隣国から偉い人たちが来てるのだとか。私も一応立場のある人間として出席しなければいけません。
思い出に後ろ髪を引かれながらも、すでに大勢の人の話し声で賑わっている広間に入る。
するとすぐに入口の近くにいた人に話しかけられた。
「こんばんは、本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそはるばる来てくださってありが……」
そこで言葉が止まる。身に纏った衣服は違えどその相手の顔には見覚えがあった
まるでどこかの森の中で出会ったことがあるかのような顔だった。
「よろしければお話でもいかがでしょうか?最近体験した素敵な思い出話があるものでして」
「……はい、是非」
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肌に当たる冷たい風を感じて目を開ける。すでに空に太陽は見えず、黒と赤のコントラストに目を奪われる。
まだ覚醒しきっていない頭で先ほどまで見てた夢を断片的に思い出す。しかしそれは形になる前に崩れてなくなっていった。
「……また、夢が見れますように」
もしここまで読んでくれた方がいたならありがとうございました。
オチもない短い文でしたが少しでも悪くはないと思っていただけたのなら幸いです。