仮面ライダードラーグ NEW GENERATION RYUKI 作:ちはや聖
それではどうぞ
ミラーワールドから現実世界に戻った2人。その瞬間、纏っていた鎧が砕け散って元の姿に戻ることができた。凌大の手には無地のカードデッキ、恵美の手にはダークウイングと契約したコウモリのカードデッキがそれぞれ握られている。
「驚いたわ。まさか学校にもライダーがいたなんて」
恵美はカードデッキを制服の平らな胸ポケットにしまって白いため息をつく。
「君はB組の伊藤さん、だよね? さっきは、その……ありがとう」
「礼には及ばないわ。まだモンスターと契約してないライダーは参加者に入らないもの」
ライダー、モンスター。凌大にとって聞きなれない単語が飛び交う中、日常に戻ったことを知らせるように2人の元へ花菜がやってくる。
「先輩……良かった。無事だったんですね」
「まあね。伊藤さんに助けてもらったから」
「あの、これ……先輩のスマホ。それと、伊藤先輩の」
恵美は花菜が差し出したリュックサックを受け取ると、中から1枚のカードを取り出して凌大に渡す。
「これがあれば道中ドラグレッダーから狙われることはないわ。じゃ、行くわよ」
「行くって、どこへ?」
「私の家。話はそこで」
恵美に促され、凌大は『SEAL』のカードを手に彼女の家へと向かう。
その様子を車の影からメガネをかけた男が荒い息を切らして見つめていた。男の手には緑色のカードデッキが握られており、サイドミラーには彼の契約モンスター『マグナギガ』が鎮座している。
「せっかくのチャンスが台無しだ。帰るぞマグナギガ」
そう言って男──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
月見丘から電車で1時間、都市部から少し離れた小高い丘に伊藤家の邸宅は建っている。
館はツタで覆われ、まるで魔女が住んでいるような異様な屋敷の門を開けると恵美はまたしてもため息をついた。
「まだ付いてきてるの? 中野さん」
「わ、私も知りたいです……先輩が、なんでこんな目にあったのか」
「知らなくていいわ。早く忘れて、元の日常に戻った方がいい。貴女は特にね」
ぶっきらぼうに断った恵美に凌大は不満を隠せなかった。彼女だってモンスター騒ぎに巻き込まれた当事者だ、知る権利はあるはずだ。
そう言おうとしたその時、水溜まりからあの赤い竜が飛び出してくる。すかさず渡されたカードをポケットから出すと、カードから放つ光によって竜は鏡の世界に帰っていった。
カードのおかげで自分たちの命は助かった。しかし恵美に反論する気力はそこで失ってしまった。
「ごめん中野さん。俺も伊藤さんと同じだ。さっきみたいなのに中野さんを巻き込めない」
「先輩……分かりました。もう遅いですし、私そのまま帰りますね。あと……女の子の家ですから、粗相がないようにだけ」
花菜は2人に頭を下げ、逃げるように帰っていく。
凌大はそれを見送ると、恵美と共に伊藤邸の門をくぐった。手入れがされてない広い庭園を抜け、屋敷の中に通されると客間のソファーに腰掛ける。
スマホで母からの不在通知にしばらく答えていると、恵美がテーブルに紅茶を用意してくれた。
「明日が休みで良かったよ。母さん普通にOKしてくれた」
「そう。長くなるから助かるわ」
恵美はそう言うと、胸ポケットにしまっていたカードデッキを取り出す。
「このカードデッキは鏡の中の世界、ミラーワールドで戦うための力。この力でミラーワールドに住むモンスターと契約して、仮面ライダーという戦士になるの」
「契約……じゃあ、伊藤さんはそのライダーになってモンスターを倒すために戦ってたのか」
「それは違うわ。さっきのは自分の契約モンスターに餌を与える為にやったこと。契約モンスターは他のモンスターを倒し、その力を食べて生き長らえる。それ以外は鏡から人を拉致して捕食するわ」
紅茶を口にする恵美。彼女の近くにあるテレビの液晶には、ダークウイングが映っている。凌大の持つカードだけではなく、奴自身もドラグレッダーに睨みをきかせているのだろう。
それとも、ドラグレッダー同様に凌大を狙っているのか。
「ライダーの敵はあくまで他のライダー。私と貴方を含めて13人、最後の1人になるまで殺し合う。それがミラーワールドで繰り広げられる戦い、『ライダーバトル』よ」
「殺し合うって、お前……!」
「心当たりはあるでしょ? 私は先に剣を向けた、自治会館で会ったコルトってライダーも最初は銃を向けたはずよ。モンスターと契約してないライダーを襲うのはルール違反だから手を出さなかっただけ」
そう言われてみると、確かにあの時に会ったライダーは敵意を向けられたと凌大は感じた。
その後攻撃することなく、現れたドラグレッダーに仲良く攻撃されたのもそのルールあってこそだろう。
「俺が殺されなかった理由は分かった。でも何で……」
「最後の1人になったライダーは、どんな願いも叶えられる。莫大な富、止まない名声、絶対的な力……死んだ人間も生き返らせることだって」
恵美がふと向けた視線の先には、幼き日の恵美と壮年の男性が笑顔を向けた写真が置かれている。凌大はそれに気づかなかったものの、彼女が何かを抱えてライダーとして戦っていることを察することはできた。
「じゃあなんだよ、自分のために誰かを殺すのか? それとももう……」
「モンスターと契約した以上、いつかは倒さないといけない。でも貴方はまだ契約してない」
恵美はティーカップを置くと、空いた手を凌大の前に突き出す。
「カードデッキを渡して。今ならまだ引き返せる」
促された凌大はカードデッキを取り出すと、彼女の手にそれを渡す。迷いはなかった。彼女の目を見るとこれ以上は何も聞く気になれなかった。
「ありがとう。その封印のカードはあげる、あの竜を倒すまでは絶対に持ってて」
「分かった。俺は人を殺すなんてできない。殺していいはずがない。でも、伊藤さんは……できるんだな」
「私を止めようなんて思わないで。今日は遅いから泊まったら、もちろん監視はつけるけど」
恵美は自身の契約モンスターを見張りにつけると、凌大を2階にある角部屋に案内した。
その部屋は窓や鏡台が新聞紙で覆われており、照明のスイッチもタンスで塞がれている為に光が届かない。ドラグレッダーをはじめとしたモンスターには襲われることはないだろう。
埃を少し被ったベッドに寝転がっていると、外から恵美が部屋を施錠してしまう。こちら側に鍵はない。閉じ込められてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「木鏡凌大。忘れたのか?」
また声が響く。声の主は苛立ちを隠せない様子だった。
「契約のカードを使え。ドラゴンを、ドラグレッダーを恐れるな」
新聞紙の隙間から漏れた光で、凌大は目を覚ました。目覚めはあまり良くない。空気がこもったこの部屋は生活空間としては最悪だった。
今の時間を確認しようと枕元に手を伸ばすと、あの時と同じく妙に馴染んだ感覚が彼を襲った。手にしたものを見ると、恵美が取り上げたはずのカードデッキが彼の手に戻ってきていた。
「何で……?」
刹那、外からバイクの排気音が聞こえてきた。窓の隙間からこっそり覗くと、紺のカットソーを着た恵美がバイクを駆って立ち去っていくのが見える。
「まさかあいつ、他のライダーを探しに……やっぱり止めないと」
凌大は荷物を纏めて出口の前に立つと、勢いをつけ飛び蹴りで閉ざされたドアを破壊した。弁償や忠告は二の次、とにかく恵美を止めたかった。
伊藤家の屋敷を出ると、まず恵美が出てきた方を辿ってみる。そう遠くない距離に屋敷の離れが見え、開けっ放しの入口からそこが車庫だということが分かった。
車庫にはもう1つカバーを被ったバイクが残されている。恵美と同じく普通二輪車だ。壁にかけられた鍵を手当たり次第に刺し、エンジンをかけると備え付けのヘルメットを被って伊藤邸を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
バイクを走らせる凌大の後を、繁華街のビルの向こうからドラグレッダーが追いかける。恵美から渡されたカードのおかげか、襲ってくる気配は見えない。
しばらく走らせていると、凌大に突然激しい頭痛と耳鳴りが襲ってくる。事故を起こさないように道路脇にバイクを止めると、ガードレールに背中を預けてヘルメットを脱いだ。
しばらくしていると痛みと耳鳴りは徐々に消えていった。ホッとしたのもつかの間、反対側の通りにある路地裏に恵美が走っていくのが見えた。
「いた……おい待て!」
横断歩道を渡ってその後を追うと、恵美だけではなくもう1人別の男が配電盤の前で奮闘していた。男の体には糸が巻かれており、反射した配電盤の向こうには昨日とは別のモンスターが映っている。
恵美は彼の体を掴み、向こう側に持っていかれまいとしている。恵美はこの男を助けようとしていたのだ。
「モンスターだったのか!」
凌大も男の体を掴むと、配電盤にいるアシナガグモのモンスター『ソロスパイダー』から救出しようと試みた。子どもながらも2人の力によって食事を邪魔されたソロスパイダーは、男を離して足早に逃げていく。
凌大は男の体を引きずって壁に寝かせると、怪訝そうに見つめる恵美の前に立った。
「昨日はよくも監禁してくれたな!」
「引っ張り出す前にモンスターが現れたのよ。モンスターが暴れると耳鳴りでそれを感知できるから」
「じゃあさっきのは……」
恵美は凌大の態度に疑問を抱くが、逃げたモンスターを追うべくカードデッキを取り出した。
「そこで待ってて」
右腕の拳を握りながら体の左前に出す構えを取り、昨日と同じく叫ぶ。
「変身!」
カードデッキを腰に巻かれたバックルに装填し、仮面ライダーリットに変身するとミラーワールドへと旅立っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミラーワールドに着くと、待ち伏せていたソロスパイダーの鋭い鉤爪がリットの顔を斬り裂いた。
不意をつかれたリットだったが、デッキからカードを引いてダークスキャナーに装填した。
【SWORD VENT】
空から降ってきたウイングランサーとダークスキャナーを構え、狭い路地裏で戦いが始まった。
ソロスパイダーは両腕の鉤爪を振り下ろすが、ウイングランサーで受け止められ胴をダークスキャナーで斬られる。比較的装甲が薄い部位なのか、効果は抜群だ。
小走りで逃げていくソロスパイダーを追いかけていくと、戦いの場は街の交差点に移った。先程より開けた場所ではあるが、それはリットにとっても好都合だった。
「ここなら呼べるわね」
カードデッキから取り出したのは、ファイナルベントのカード。ダークスキャナーを納刀してカードを装填しようとする。
しかし次の瞬間、上空から鋼のような糸がリットの体を拘束する。バランスを崩した彼女はその場に倒れ込むと、糸が吐かれた方を見る。
「あれは、ディスパイダー!」
体色の青い巨大なクモのモンスター『ディスパイダー』は、ソロスパイダーを守るべく助太刀に現れたのだ。
ディスパイダーはビルに掴まっていたが、リットを捕縛すると地上に降りて彼女の身体を口内へと引き摺っていく。迎え舌のように牙をチラつかせてリットの捕食を暗示すると、ソロスパイダーは両手を叩いて仲間をおだてている。
脱出しようともがくもモンスターの力に叶わず、頼りのカードも拘束されて使えない。絶体絶命だ。
「これは……伊藤が危ない!」
凌大の前にある配電盤には、今にも食われかけているリットの姿が映っている。凌大は無地のカードデッキを取り出すと、配電盤の前に突き出して叫ぶ。
「変身!」
だが変身どころかバックルも現れない。何度叫んでも同じだった。
「どうしたらいいんだ……あそこに行って、助けないと!」
その時だった。また凌大に頭痛と耳鳴りが襲う。
「ドラグレッダーを探せ。契約のカードを──」
「契約……そうか、向こうに行けないのはそれか!」
凌大は近くの非常階段を駆け上がると、柵をよじ登って商業ビルの屋上に侵入した。大通りを挟んだ反対側のビルには、ドラグレッダーが宙を舞ってこちらの様子を伺っている。
凌大はドラグレッダーの咆哮に首を縦に頷くと、貰った封印のカードをバラバラに破く。もう凌大を守るものは何もない。
続けてカードデッキから1枚のカードを取り出した。
「『CONTRACT』。よし」
ビルから飛び出したドラグレッダーは、一直線にこちらに向かって飛んでくる。凌大はモンスターの前に契約のカードを突き出すと、目を瞑りながら叫んだ。
「俺と契約しろ!」
ドラグレッダーは契約のカードに吸い込まれ、凌大は鏡の世界に転移する。
黒いボディの戦士は、赤いアンダースーツに銀色の装甲が装備されたドラゴンの戦士『仮面ライダードラーグ』に変化する。
カードデッキには金色の竜の紋章が描かれ、左腕にはガントレット型の召喚機『ドラグスキャナー』が装備された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【ADVENT】
リットの身体を牙が襲うその時、ディスパイダーの上空からドラグレッダーが現れそのままディスパイダーに噛み付いた。ディスパイダーは衝撃で糸を噛み切ってしまうと、離されたリットは呆然とその様子を見つめる。
【SWORD VENT】
「今助ける!」
剣型の武器『ドラグセイバー』によってリットを拘束していて糸が断ち切られる。続けて駆けつけたドラーグの手が彼女に差し伸べられた。
「これで借りはチャラだから」
「その声……木鏡?」
リットは手を取り立ち上がると、自分の手が粒子状に分解されていくのを見てしまう。
「時間切れね……木鏡、ここは──」
「任せなって。どっちも俺が倒すよ」
ドラーグは剣を片手に激高したソロスパイダーに立ち向かう。リットの戦いによって消耗していたモンスターの体は、ドラグセイバーによって一刀両断され爆発してしまった。
直後に光の球が上がるが、横からダークウイングが掠め取りそのまま主人と共にどこかに消えてしまう。
「薄情すぎんだろ。いや、それより今はあのデカブツだな」
続けてカードデッキから引いたのは切札。ドラグスキャナーに装填してドラグレッダーを呼び戻した。
【FINAL VENT】
ドラグセイバーを投げ捨て、四股立ちして構えるドラーグの周りをドラグレッダーが一周する。
復活しつつあるディスパイダーに向かってドラーグは構えを解いて走り出すと、ドラグレッダーの火炎放射を背に受けて飛び蹴りを放つ。
「ヤーッ!」
赤い炎によって威力と速度が増したキックがディスパイダーを貫通する。モンスターはノイズ混じりの悲鳴をあげて爆散し、空中に浮かんだ光の球はドラグレッダーが捕食する。
「仮面ライダー……ドラグレッダーのライダーだからドラーグでいっか」
ドラグレッダーに別れを告げると、配電盤まで戻ったドラーグはライドシューターに乗って現実世界に帰還した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
現実世界に戻ると、腕を組んで壁にもたれた恵美が待っていた。変身が解けた凌大は彼女の元に駆け寄るが、恵美は彼に背を向けてしまう。
「さっきはありがとう。貴方のおかげで死なずにすんだ」
「別に俺は……そうする事が、俺が契約した理由だったから」
照れくさそうにする彼に、恵美は少しだけ顔を向ける。ドラグレッダーと契約し、仮面ライダーになった凌大は昨日と違いどこか頼もしく見えてしまう。
「伊藤が出ていったのを見た時、俺はてっきり他のライダーを倒しに行こうとしてるんじゃないかって思ってた。でも違った。あの人を助けようとしてたんだな」
ソロスパイダーに襲われていた男性は、恵美によって糸を解かれていた。気を失っているだけで命に別状はない。
「俺はこの力を、人をモンスターから守るために使ってみたい。人の命を奪うより、そっちの方がいいと思ってるから」
「貴方の事情は知らないわ。モンスターと契約した以上、貴方も殺さないといけなくなった。それだけよ」
恵美はそう冷たく言い放ち、拳を握りしめる。路地裏を後にすると、人混みに紛れてどこかに消えようとしている。
凌大も後を追って路地裏を出ると、立ち去ろうとしている恵美に向けて声を張り上げた。
「ライダーバトルだって、俺が止めてみせる!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミラーワールドの廃墟にて、人々を捕食しているモンスターがいた。
山吹色のカニのモンスター『ボルキャンサー』の食事を、古びたフォークリフトの席に座って眺めるライダー。
「リットにコルトに、新しいライダーか」
『仮面ライダーマンジェル』は食い殺される人々の様子を鼻で笑うと、ミラーワールドから現実世界へと帰還した。
次回の仮面ライダードラーグは
「一般人を巻き込みたくないよな」
「これとかどうだ。金色の蟹」
「待ってください、何で先輩がそれを!?」
「やれボルキャンサー!」
それでも、夢に向かえ