仮面ライダードラーグ NEW GENERATION RYUKI 作:ちはや聖
日曜の朝、木鏡家のリビングで凌大は父と母に頭を下げ懇願していた。
テーブルの上にはバイクショップのカタログが広げられており、特に黒色の中古のシャドウスラッシャーには大きく丸印が付けられている。
「お願いします! 一生小遣いなくてもいいから、買ってください!」
机に額をこすり付けて頼み込む息子の姿に、母・
「凌ちゃんね、勝手に免許取ったりバイトしようとしたりするのは止めてって言ったじゃない。しかもこないだは、まさか女の子の家に……」
「いや違うから! 伊藤とは、なんて言うか……とにかく月いくらかでローンとか頼めない?」
「ローンなんて計画性のない人がする事よ……思ったことすぐやっちゃう癖もやめてってあれ程」
綾乃は広げられたカタログをまとめると、紙ゴミのしまってあるカゴに放り込んでしまう。その瞬間に凌大の顔からは生気が抜け、真っ白になって椅子にへたってしまった。
すると今まで口を閉ざしていた父・
「俺が昔使ってたやつだ。車庫の奥にカバーを掛けられていたやつがあっただろ? お前にはまだ見せてなかったな」
「くれるの……?」
「ただし、点検やオイル交換は自分でやるんだぞ。今の時代やり方が動画で解説されてるんだ」
「やった……ありがとう父さん! 一生大事にするから!」
凌大は気力を取り戻し、父から貰った鍵を手に車庫に向かってリビングを飛び出していく。その様子を総一はまた穏やかに見守っていた。
「あなた。あれは確か……」
「まあ動くだろう。俺の息子だ、大体上手くやってくれる」
「あなたみたいに2ケツしなきゃいいけど」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
月見丘のレンタルビデオショップの近くにある喫茶店『ザルド』。
普段は年配の常連が席を埋めるこの時間に、ちょうど周りからあまり見えない場所に恵美と高畑が向かい合って座っていた。
「君の定期が切れてなくて助かったよ。まあ女の子にドタキャン食らうのは慣れてるけどね」
高畑はメガネをスチャッと持ち上げると、メニュー表で顔を隠す恵美にため息をつく。
「あの時付けられてたなんて。貴方立派なストーカーよ」
「別にしょっぴいてくれても構わないよ。ただ……一般人を巻き込みたくないよな」
高畑の持つ水の入ったコップにはマグナギガが映っている。冗談と言ってのける彼だったが、恵美には到底その言葉を信じられなかった。
やがて2人の元に現れた妙齢の婦人に注文を伝える。恵美は紅茶、高畑はウインナーコーヒーだ。婦人が厨房に戻っていくと、高畑は両手を頭の後ろに回して天井を見上げる。
「いい店だろ。俺だって新人ライダーに負けないくらいの地元愛がある。静かな店内、少し鬱陶しいタバコの匂い、時折差してくる柔らかな日差し──」
「本題に入って。デートしに来たわけじゃないの」
「手を組んでくれないかな、伊藤家のお嬢様。あいつはあの竜と契約したんだ。デッキパワーは計り知れないだろ?」
高畑の言う通りだ。
昨日の戦いではソロスパイダーをソードベントで一刀両断、ディスパイダーの巨体を飛び蹴り1つで消し飛ばしてみせた。
契約モンスターや所持武器の相性、ポテンシャル、それに運……どれも自分以上だ。
「今までの2週間、ライダーバトルが始まってからの俺たちは茶番みたいなもんだ。もしかしたら俺も、お前も……2人とも倒されてしまうかもな」
「木鏡は人を殺さないわ」
「殺"せ"ないだろ? 何となくわかる。だから余計厄介なんだ」
届いたウインナーコーヒーに口をつけると、高畑は目の色を変えて激しく咳き込みだす。
「アッツ! あぁ……熱いし変なとこ喉に入ったし最悪だ。な……あ……」
高畑の目の前には、コーヒーと生クリームで顔を汚し、青筋を立たせた恵美が目を細めている。彼女は頼んだ紅茶に何も加えず、火傷のことなど考えず一気に飲み干してみせる。備え付けの紙ナプキンで顔の汚れを拭き取ると、机に400円を置いて高畑を睨みながら退店していった。
「ありがとう、また来てねー。さて、やっちゃったわね高ちゃん」
「失敗だな。もう1杯同じの」
コーヒーを持ってきた店主をその場から追い払うと、高畑は誰にも見られないようまた咳き込んだ。口を抑えた掌には黒い血溜まりが現れていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
凌大がミラーワールドの存在を知ってから5日、彼は昼休みを迎えた2年A組である男子生徒の席の前に陣取っていた。
「お疲れ滝山。これでいいんだよな」
凌大はその生徒──
「ハッ、入学以来に話すことが依頼とはな。そんなに俺が苦手か」
「別にそういうのじゃなくて……活躍は学校新聞で見たんだ、あそこまでいくと一流の探偵だな」
「あのな、俺は探偵じゃない。あくまでこの学校の生徒に情報屋まがいのことで儲けてるだけだ。新聞部の奴らには後で掲載料を頂戴したしな」
渡されたメロンパンの包装を破ると、滝山はそれを頬張りながら学校支給のノートパソコンを広げる。予め導入されていたフィルタリングを突破しており、そこにはツールを用いて検索機能を改造した有名SNSが映っている。
「小4から始めて7年、久しぶりにオカルト系の情報を求めてくる奴が出てくるとはな」
「まあ、最近ハマった口で……みたいな」
「人間性や趣味嗜好にケチをつける気はない。木鏡が知りたいのは……これとかどうだ。金色の蟹」
滝山が見せてくれたのは、人型のカニの怪物が話題のつぶやきとその画像だった。その一部はデマや合成写真が紛れ込んでいたが、その姿をピンぼけで撮影した一次情報が何件もヒットしていた。
「大半の情報は月見市の歓楽街に集中している。随分人間味のある怪物だな」
「『鏡の中に消えた』……やっぱりミラーワールドから……」
「ミラ……いや、何でもない。そういう界隈に足を突っ込むと沼だ」
滝山はメロンパンを食べ終えると、ノートの切れ端をちぎって殴り書きで筆を走らせる。
「最新の画像から見るに、恐らくここだ。この店を中心に、市内一体が怪物のナワバリってとこか?」
「ナワバリって、そんな……この中心ってあそこのレンタルビデオの店?」
「ああ、ザルドの隣。どうだ、役に立ったか?」
得意げに笑みを浮かべる滝山は、メロンパンの包装紙をゴミ箱に投げ入れて教室を出ていく。開けっ放しのパソコンを置いていったのは信頼されているのか、はたまた抜けているだけなのか。彼の高校生活を見ると将来が不安になってしまう。
仕方なくパソコンの画面を閉じると、この前と同じ頭痛と耳鳴りが凌大へ一気に押し寄せる。
この学校のどこかにモンスターがいる。教室を飛び出して耳鳴りのする方へ向かうと、空き教室の前で女子生徒がカニのモンスターに襲われている。
「そりゃナワバリだよな。はあっ!」
カニのモンスター、ボルキャンサーに体当たりするとモンスターは空き教室の窓に逃げていく。
「先輩! 何かあったんですか!?」
「中野さん、彼女をお願い」
騒ぎを聞いた花菜に憔悴した女子生徒を託すと、凌大はポケットからカードデッキを取り出して同じ空き教室の窓に向けた。彼の腰にバックルが巻かれる変身しようとするが、目を丸くした花菜がそれを止めに入る。
「待ってください、何で先輩がそれを!?」
「そうだよな、説明したいんだけど……とにかくその子を襲ったモンスターを早く倒さないと。だからごめん!」
凌大は花菜に平謝りし、適当に右手を左斜め上に伸ばして叫んだ。
「変身!」
カードデッキをバックルに装填すると、凌大は仮面ライダードラーグに変身する。自分を鼓舞するように右手の握り拳を胸の前に持ってくると、窓に飛び込んでミラーワールドを目指して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミラーワールドの学校の廊下を走るボルキャンサーに、ドラーグの乗るライドシューターが背後から突撃する。吹き飛ばされてモンスターがダウンしている隙に、ドラーグはドラグスキャナーにカードを1枚装填した。
【SWORD VENT】
廊下の空いた窓からドラグセイバーを受け取ると、ボルキャンサーに果敢に立ち向かっていく。
鋼鉄をも切り裂く程の鋭さを持つドラグセイバーだが、火花が飛び散るほどにボルキャンサーへ斬りつけてもビクともしていない。
「こいつ硬い……ぐはっ!」
ボルキャンサーはハサミを豪快に振り回し、ドラーグを廊下から学校外へと軽く吹き飛ばしてしまう。
後を追って飛び出してくるボルキャンサーは、立ち上がったドラーグを何度もハサミで攻撃して反撃の余地を与えない。カードを取り出す暇もないドラーグは電信柱に叩きつけられた。
どう反撃に出ようか思案していた時、道路をもう1台のライドシューターが走ってくるのが見えてきた。
「伊藤……来てくれたのか!」
だがライドシューターはボルキャンサーの隣に駐車すると、中からは黒のアンダースーツに山吹色の装甲を纏った仮面ライダーマンジェルが降りてきた。
「別のライダー? そうだ、俺と一緒に戦って──」
マンジェルは左腕に携えたハサミ型の召喚機『ボルスキャナー』でドラーグにアッバーカットを食らわせる。
「痛ッ、ちょっと待って!」
ドラーグは制止をかけるも、マンジェルは尚もボルバイザーで彼の首を刈り取ろうと執拗に攻撃を続ける。何とか避けているものの、その先にはボルキャンサーが待ち構えており背中をハサミで斬りつけられてしまう。
「ほんと待って、俺は敵じゃない! 木鏡凌大! 普通の高校生!」
「黙って戦え。やれボルキャンサー!」
「そっか、こいつお前の──」
ボルキャンサーのハサミがドラーグに振り下ろされたその時、ハサミに向かって巨大なブーメランが投擲されて攻撃が逸らされてしまう。2人と1体の元に、カミキリムシの新たなミラーモンスター『テラバイター』が現れたのだ。
「くそっ、野良のモンスターか!」
マンジェルは止めていたライドシューターに乗り込むと、ボルキャンサーと共に逃げるように戦いの場から走り去ってしまう。取り残されたドラーグはテラバイターを相手に戦うことを余儀なくされた。
「おい待てよ! 人を襲うモンスターなんだぞ、なのに何で!」
テラバイターはドラーグの背中を押さえつけると、アスファルトへその身体を引きずって攻撃する。何とかドラグセイバーで攻撃を阻止するが、立ち上がったドラーグに向けて今度はブーメランで斬りつけてくる。
ボルキャンサー、マンジェル、そしてテラバイターの立て続けによる攻撃でドラーグは気を失いかけていた。だがそんな彼に向けて救いの手が差し伸べられる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「耳を塞いで!」
「えっ……?」
【NASTY VENT】
声の指示通り耳を塞ぐと、空からダークウイングが超音波で周囲一帯を攻撃する。音波を直で食らったテラバイターはブーメランを手から落として苦しみ出す。
呆気に取られているドラーグの元に、ダークスキャナーを携えた仮面ライダーリットが駆けつけた。
「伊藤……」
「あのモンスターは私が追っていたの。迷惑かけたわね」
「ああ、全くだよ」
ドラーグは気力を取り戻すと、自分の番と言わんばかりにカードデッキから相棒のカードを取り出してドラグスキャナーに装填した。
【ADVENT】
召喚されたドラグレッダーはテラバイターに火球を吐き、尻尾を振るって2人の時間稼ぎに徹する。
その間にドラーグとリットはお互いのカードデッキから切札を引くと、スキャナーに読み込ませて構えを取った。
【FINAL VENT】
「「はああああっ!!」」
テラバイターの腹にウイングランサーが貫通すると、ダークウイングと合体したリットがランサーごとモンスターの身体を蹴りで貫く。
続けてドラグレッダーの炎によって威力を高めたドラーグの蹴りがモンスターに命中しその身体を爆散させた。
モンスターの痕から舞い上がった光の球を、リットから分離したダークウイングが捕食しようと試みる。だがリットはウイングランサーを放ってそれを防ぐと、その隙にドラグレッダーが光の球を捕食した。
「これでまた貸しができたわね」
「いや、それは……ありがとう。おかげで助かった」
ドラーグがライドシューターに乗って去っていくリットに、両手を合わせて礼を言ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カーテンが覆う真っ暗な部屋、その勉強机にマンジェルの変身者──
「最初に女を食わせたのが不味かったか……俺の趣味とはいえ、味しめやがって」
そう言って手鏡を睨みつけると、奥にいたボルキャンサーは申し訳なさそうに鏡から引っ込んでいく。
船町はポケットから1枚のチェキを取り出すと、それを月見丘高校の場所にノリで貼り付けた。
「しかしこの子……綺麗だ。この近くでバイトしてたりしないかな」
武信は気味の悪い笑みを浮かべてマンジェルのカードデッキを弄る。月見丘高校の場所には、女子生徒を抱えてドラーグを問い詰めていた花菜の写真が貼り付けられていた。
次回の仮面ライダードラーグは
「でもよかった。先輩が先輩のままで」
「何でこんなとこにモンスターが?」
「手に入れた力をどう使おうが僕の勝手」
「私の倒すべき敵に変わりはないわ」
それでも、夢に向かえ