仮面ライダードラーグ NEW GENERATION RYUKI 作:ちはや聖
放課後の2年A組、いつもならそのまま下校するつもりだった凌大を引き止めたのは花菜だ。
昼休みに見てしまった凌大の変身、仮面ライダードラーグが鏡の世界に飛び込んでいくに至るまでを説明しないといけない。
凌大は知っていることを洗いざらい全部彼女に話した。ミラーワールドとモンスターの存在、ライダー達が繰り広げるバトル、そして自分がその内の1人になってしまった事を。
「今日あの人を襲ったモンスターは、他のライダーの契約しているモンスターだ。そのまま戦うことになったけど話し合うことは出来なかったよ」
「そうだったんですか……でもよかった。先輩が先輩のままで」
「俺のまま?」
「はい。そんな状況に置かれても、誰も傷つけようとしないんですから」
そんな先輩が──花菜が口に出そうとした時、ちょうど17時を知らせるチャイムが学校中に鳴り響いた。一部の部活が帰り支度を始める合図だ。
すると花菜は慌てた様子でメモ帳を取り出すと、凌大に深々と頭を下げる。
「すみません先輩、これからバイトの初出勤なんです」
「えっ、ああそりゃ遅れちゃ駄目だよね。気をつけて」
「先輩こそ。それではまた明日」
体操着を詰めて大きくなった鞄を背負い、花菜は教室から走り去っていく。すると入れ違いで入ってきたのは恵美だった。彼女は冷めた目で花菜を見送ると、その目を今度は凌大に向けてくる。
「ライダーでもない中野さんにまで話して。一体どういうつもり?」
「この間はドラグレッダーに脅されたけど、やっぱり知る権利はあると思うから。自分の身に何が起こったのかぐらいはさ」
「それで余計に怖がらせたとしても? 彼女はこれから鏡の向こうと向き合いながら生きていかなきゃいけないのに」
夕暮れの教室、その反対にあるミラーワールドにはドラグレッダーとダークウイングが睨み合って主人の傍に仕えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ中野さんは初めての出勤だし、今から研修のビデオをバックで見てもらうよ。分からないことあったら俺に聞いて」
「はい。よろしくお願いします、高畑さん」
レンタルビデオショップ『グレース 月見丘店』の制服を着た花菜は、先輩である高畑に連れられてショップ裏にある事務所に通された。
「しかし人手不足の令和の時代助かるよ。高校生も働いてくれるなんてさ」
「そんな……でも、ここってそんなに人手不足なんですか? 私の先輩は面接に落ちたらしいんですけど」
「あれ、そうなの? まあマネージャーも色々事情があるんでしょうよ。それにもうすぐ1人減るだろうし」
高畑はバックヤードからモップ掛けをしている店員を見て鼻で笑うと、タブレットにある研修動画を開いてみせた。
「必要ならメモ取ってね。俺は返却されたDVD戻してくるから」
「分かりました」
高畑は手を軽く振って事務所から出ていくと、そのままモップ掛けをしていた店員にだる絡みを始める。
「おい、船町くん。昨日返却されたDVDに傷入ってたよね?」
「えっ、いや、そんな……僕じゃないですよ」
「嘘つくんじゃないよ。俺ここ長いし分かるから。ゴーオンジャーの3巻、こないだまで普通に再生出来てたんだけどな」
高畑の問い詰めに対し、船町武信は拳を握りしめながらも怯えた様子で裏の事務所の方に目を向けた。
「あの、あんまり声出すと、中野さんに……」
「別に聞こえねえよ、イヤホン付けてるしあそこ防音仕様だからさ。それともあれか? かっこ悪いとこ見せたくないとかか?」
武信は図星をつかれて黙り込んでしまう。
高畑はレジに来た客の対応に向かい、花菜と話した時と同様明るい接客でカードゲームの予約対応を行った。
「分かりました。じゃあ今月の15日に1ボックスですね」
「お願いします。あとすみません、まだ3弾の在庫ってありますか?」
「はい! 確認してまいりますので少々お待ちください!」
高畑はレジに併設されたカードゲームのストック置き場に姿を消していく。ちょうどそこには、身だしなみを整えるための姿見が置かれていた。
武信はチャンスと言わんばかりに、金色の蟹の紋章が描かれたカードデッキを取り出す。
「やれ、ボルキャンサー」
だが武信は知らなかった。自分に詰め寄ってきた相手もまた、ライダーだということに。
ボルキャンサーは姿見から飛び出して高畑を捕食しようとするが、事前に耳鳴りでその気配に気づいていた彼は襲ってきたボルキャンサーにドロップキックで不意打ちを食らわせる。
「何でこんなとこにモンスターが? マグナギガあいつ何してんだ……」
ボルキャンサーは姿見にまた隠れると、ミラーワールドを伝って出会い頭防止の鏡に姿を見せる。主人である武信は苛立ちを隠せなかった。
「何やってんだよお前! まあいい。どうせ辞めるつもりだったしな、だけどその前に……」
武信は事務所が見える隙間に目をこらすと、研修動画に釘付けになっている花菜を見て不潔な笑顔を露にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時刻はもうすぐ21時を回る頃、恵美はシャドウスラッシャーを走らせて月見丘にあるグレースに向かっていた。
法定速度ギリギリを攻め、閉店したザルドの前を通り過ぎるとグレースに併設された駐車場にピッタリと駐車する。ヘルメットを脱ぐと、隣の駐輪場でサングラスを付けてアフロのカツラを被った不審な人物を見つける。
「あれは……ああ、なんでなのもう」
恵美は白いため息を吐きながら駐輪場に向かうと、赤いズーマーに跨った不審者の変装を無理やり解いた。正体は想像通りである。
「木鏡、何してるの?」
「伊藤!? いや、とある情報筋からここに別のライダーのアジトが隠されてるみたいだからさ」
「情報筋って、滝山でしょ? まあ十中八九マンジェルが働いてる場所でしょうね」
「あいつマンジェルって名前のライダーなのか」
やがて店の照明が消えると、入口から髪を纏めた花菜が出てくる。2人は物陰からそれを見守ると、三者三葉の反応を見せる。
「中野さんのバイト先ってここだったのか」
「通りで滝山が教えたわけね」
すると入口の窓からボルキャンサーの影が映り込む。それに気づいた時には遅く、飛び出したボルキャンサーは一直線に花菜に飛びかかる。
花菜の悲鳴と同時に物陰から走り出した2人はボルキャンサーに飛び蹴りを食らわせると、凌大は体勢を崩した花菜を受け止め、恵美はボルキャンサーに睨みをきかせる。
「先輩!? それに……」
「ああ、モンスターの根城がここだったからさ」
ボルキャンサーが店の窓に消えていくと、店の裏から空き缶の転がる音が聞こえてきた。見るとそこには黒づくめの武信が隠れており、恵美と目が合うと一目散に逃げていく。
恵美はカードデッキを握ったまま後を追い、取り残された2人の元に息を切らした高畑が店の中からやってきた。
「大丈夫中野さん! 事務所で作業してたら悲鳴が聞こてきたから……って、ゲッ」
「あの、どこかで会いましたっけ?」
「いや、何でも……」
頭をかいて誤魔化そうとする高畑だったが、相手が相手だったからなのかそれ以上は言及されずに済んだ。
2人の気まずい空気を断ち切るように、花菜は凌大から離れると声を震わせながらも気丈に振舞った。
「先輩、伊藤先輩を助けてあげてください。私なら大丈夫ですから」
「中野さん……分かった、気をつけて帰って!」
凌大もポケットにしまっているカードデッキを握り締め、店の裏へと駆け出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「助けてって……必要なかったんじゃ」
グレースのゴミ捨て場で凌大が見たのは、武信を逮捕術を用いて抑えている恵美の姿だった。
しかし恵美が駆けつけた凌大に気を取られた一瞬の隙を見て、武信はポケットから落としたスマホの画面からボルキャンサーを召喚する。何とか拘束を解くと、悪びれもせずマンジェルのカードデッキを取り出した。凌大はそこで昼に戦ったライダーの正体を知ることになる。
「昼休みのライダーはお前だな。何であんな事をしたんだ!」
「ああ、高校の女の子か。さっきの女の子に似てるだろ? 透き通るような白い肌で、純朴そうで……」
「は? 何言ってるんだお前」
「低学歴でフリーターで、その上容姿にも恵まれない。そんな僕がモテると思うか?」
「さっきから何言ってるか分からないんだけど」
凌大の疑問に対し、武信は舌打ちしながら彼に詰め寄る。
「僕はな、この力を使って欲しいものを手に入れようとしただけだ。ライダーになった僕はカッコイイだろ? お前の鉄仮面と違って」
「そんな理由で中野さんを襲ったのかよ」
「まあ皆怯えて何も話せないからさ。余りにも抵抗した時だけ……モンスターの餌にしてやった。野良を倒すより楽だったよ」
「……お前みたいなのが、ライダーなんて」
凌大の手にはカードデッキが握られている。その力が強くなっていくのを恵美は見逃さなかった。
怒りが込み上げてくる凌大を見て、武信は2人から少し距離を取ると顔を背けた。
「手に入れた力をどう使おうが僕の勝手。違う?」
「俺は違う。この力でモンスターに襲われる人を助けるつもりだった。でも……そんな理由で力を使うお前も、ライダーじゃなくてモンスターと同じに見えてきた!」
凌大は落ちている武信のスマホにカードデッキをかざすと、バックルを腰に装着した。
武信も同じくカードデッキを取り出すが、2人の間に同じくカードデッキを出した恵美が割って入った。
「伊藤、何で──」
「こいつはライダーよ、木鏡。私の倒すべき敵に変わりはないわ」
恵美の背中を見てカードデッキを持つ手をゆっくりと下ろしていく凌大。
敵意を向け続ける恵美に、武信は剥き出しにした本性で挑発を繰り返す。
「よく見たら違うタイプの美人だ。その高慢な面を歪ませるのが楽しみだね」
「気持ち悪い……1体1でケリをつける」
カードデッキを構えたまま2人は落ちたスマホにそれぞれの紋章を向けると、腰にバックルを装着した。
恵美は右腕の拳を握りながら体の左前に出し、武信は右手の親指・人差し指・中指を突き立て前に掲げて夜闇に叫ぶ。
「変身!」
「変身!」
恵美は仮面ライダーリット、武信は仮面ライダーマンジェルに変身するとお互いのスキャナーを構えながらスマホの中に消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
グレースの駐車場に戦いの場を移した2人は、カードデッキから1枚カードを取り出してスキャナーに装填する。
【SWORD VENT】
【STRIKE VENT】
マンジェルの『シザースピンチ』とリットのウイングランサーが交差しながら持ち主に降ってくると、互いの武器を打ち付け合った。
ウイングランサーがマンジェルの胴に切り込み、シザースピンチがリットの背中を斬り裂き、飛び散る火花によって駐車場は真ん中は明るく照らされていた。
凌大は現実世界からスマホ越しにその戦いをも覗き、カードデッキを握りしめながらリットの戦いを見守っている。
「このまま倒す……ライダーを倒して、生き返らせる!」
リットはウイングランサーで車の上からマンジェルを突き落とすと、ダークスキャナーを抜刀して一気に間合いを詰めようとする。
「やめろおおお……なんてね」
【ADVENT】
2つの武器を振りかぶったリットの前に、地面に現れた写鏡からボルキャンサーが這い上がってきた。リットの足を引っ掛けて頭から転倒させると、その隙にマンジェルは覆いかぶさって彼女の首をゆっくりと締め上げる。
「がッ……アッ……」
「戦いは力押しだけじゃないんだよ。頭使わないと」
海老反りになって足をバタつかせるリット。視界がぼやけて気絶しかけたところで、マンジェルは彼女から離れてその身体を勢いよく蹴り飛ばした。
続けてカードデッキから切札を抜き取ると、ボルスキャナーに装填して仮面の下に笑みを浮かべる。
【FINAL VENT】
「これで1人減ったな!」
背後に現れたボルキャンサーのアシストで空中へ高く飛び上がると、シザースピンチをリットに突き立てて急降下していく。
ダークスキャナーを杖に立ち上がったリットは、震える手で切札を引こうとするもマンジェルはもうすぐそこまで迫っていた。
「あ……」
(お父様、ごめんなさい)
ダークスキャナーを手から離して目を瞑るリット。するとその時、機械音声が駐車場に響き渡った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【GUARD VENT】
強固な盾『ドラグシールド』を肩に2枚装備したドラーグがリットの前に滑り込むと、マンジェルの必殺技を代わりに食らってリットごと後方に飛ばされる。
小さな爆発を受けたドラーグはゆっくりと立ち上がると、リットの前に右手を差し出した。
「ごめん。いくら伊藤でもライダーを倒すなんてさせたくない」
リットは差し出された手を取ろうとするが、いっしゅん手を引っ込めてドラーグから目を逸らしてしまう。
一方で渾身の一撃を邪魔されたマンジェルは、地団駄を踏みながらシザースピンチをその場で振り回す。相棒のボルキャンサーも同様に雄叫びをあげて2人を威嚇している。
「痛えんだよ! 何すんだお前!」
「もちろんアンタにも倒させない。ライダーバトルは俺が止める!」
ドラーグはデッキからカードを1枚引くと、左腕のドラグスキャナーに装填した。
【STRIKE VENT】
空から現れたドラグレッダーは、ドラーグの右腕に自身の頭部を模した手甲『ドラグクロー』を装着させる。
殴りかかってきたマンジェルに対し、ドラーグは回し蹴りで応戦するとそのまま腰を落として狙いをボルキャンサーに向ける。
「はああああ……ハイィィィ!」
ドラグクローを標的に向けると、ドラグレッダーはボルキャンサーに向けて高熱火球を発射する。
ボルキャンサーの硬い装甲は5000度の高熱によって融解し、中の身体ごと溶かして爆発四散させる。現れた光の球はそのままドラグレッダーが捕食して星降る空の彼方へと飛び去っていった。
「僕の、ボルキャンサーが……」
「もう終わりだ。俺は殺すつもりがない、だから早く現実世界に帰るんだ」
「くそ……覚えてろ! ボルキャンサーよりも強いモンスターで、また戦ってやる!」
力を失い黒く滲んだマンジェルは、ハサミ型でなくなったスキャナーを振り回しながらどこかに走り去ってしまった。
ドラーグは尚も倒れているリットを担ぎあげると、グレースの入口の窓から現実世界へと帰還した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
凌大と恵美がグレースから出てくると、襲われていたはずの花菜が彼らを出迎えた。
「やっぱり心配で待ってました……あの、私を襲った人もライダーなんですよね? あの人は──」
「大丈夫だよ。倒してない、でしょ?」
凌大は肩を貸していた恵美にそう言うと、恵美は分が悪そうに頷いて彼から手を離す。尚もふらついていたので慌てて支えようとする凌大だったが、彼女は大丈夫だからとそれを拒んだ。
「現実世界に戻ったあいつは、また別のモンスターと契約して同じことを繰り返すでしょうね。それが貴方の望んだことなの?」
「その時はまた俺が止めるよ。何度でも」
「いたちごっこね。どこまで続くか見物だわ」
恵美はそう言って凌大を咎め、駐車場に止めたシャドウスラッシャーに乗り込む。ヘルメットを被る直前、彼女はグレースの入口で立ち止まる凌大に目を細めて捨て台詞を吐く。
「今度はちゃんと送りなさいよ」
ヘルメットを被って走り去っていく恵美に、花菜は頬を赤く染めて俯いてしまった。凌大は恵美が遠く離れていくのを見送ると、花菜の反応に気づかずに持っていたカードデッキをポケットにしまった。
「じゃあ帰ろっか。明日も学校だし」
「……はい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あのライダー……とどめを刺さないなんて、馬鹿なヤツだ」
力を失ったマンジェルは、粒子となって消滅しかけてもミラーワールドをさ迷っていた。カードデッキから1枚引き抜いたカードは、予備のコントラクトカードだ。
「残機があって助かった。今度は不意打ちで仕留めてやる」
「次なんてないよ」
その時、マンジェルの背後から弾丸が数発炸裂した。振り返ると、仮面に隠されたモノアイを動かしながらコルトが自身の『マグナスキャナー』をこちらに構えている。
すかさず両手を挙げるマンジェルだったが、コルトはマグナムのトリガーからは指を離さず弾を撃ち続けた。
「結局大人が手を汚さないとダメなんだな……仕方ない」
「待ってくれ! やめろ!」
「……そう言われてもお前は止めなかっただろ」
【FINAL VENT】
次回の仮面ライダードラーグは
「デッキを手にしたら、ライダーになる以外の道はないだろう」
「邪魔をするなら今ここで相手してやるよ」
「タイミング合わせろよ」
「はいはい」
それでも、夢に向かえ