仮面ライダードラーグ NEW GENERATION RYUKI 作:ちはや聖
「何!?」
マグナスキャナーを構えたコルトの隣をモンスターと共に別のライダーが通り過ぎ、満身創痍のマンジェルの身体を貫く。
「ガアアッ」
喉から絞り出したような悲鳴をあげ、マンジェルは木っ端微塵に砕け散る。
マンジェルを倒したライダー『仮面ライダーラッシャー』は契約モンスターの『メタルゲラス』を連れてコルトの前に姿を見せた。
「いやすまないね。君が躊躇していたからつい頭にきてしまったよ」
「お前、何者だ?」
「ライダーの名前ならラッシャー、現実世界ならこういう立場にある」
そう言ってラッシャーは懐から名刺を1枚取り出す。
『神蔵重工 代表取締役 神蔵進』と書かれた名刺を受け取ると、コルトはマグナスキャナーを腰のバックルに戻した。
「説明会なら行ったことあるよ。何であんたみたいなのがライダーに?」
「理由などない。デッキを手にしたら、ライダーになる以外の道はないだろう」
彼は苦笑いしながらカードデッキにゆっくりと手を伸ばしていく。コルトの方もマグナスキャナーに手をかけ、相手の出方に警戒して少しづつ離れていく。
ラッシャーの装甲は重騎士のように分厚く、マグナスキャナーの弾ではあまり効果はなさそうに思えた。そこでコルトもカードデッキに手を伸ばしてカードを1枚引く。
「君は少なくとも戦うことに抵抗はない、といったところかな?」
しかしラッシャーは手を広げておどけてみせると、前方にあったカーブミラーに走り出して跳躍した。
コルトはマグナスキャナーで発砲しようとするも、ラッシャーの相棒であるメタルゲラスの突進によってそれは阻まれてしまった。
「しまった、逃げられたか」
アスファルトに転がされたコルトは、周囲を見渡してライダーとモンスターの気配を探す。手玉に取られたことを噛み締めると、悔しそうに大の字になって空を見上げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マンジェルの事件から3日後、午前の授業を終えた2年A組の教室で凌大は机にカードを広げて物思いにふけていた。
「ソード、ガード、ストライク、ファイナル……やっぱり伊藤のとは中身が違うんだ」
すると珍しく自分の席に誰かが近づいてきた。急いでデッキにカードをしまうと、現れたクラスメイトに平静を装って対応する。
やってきたのは滝山だった。彼は相変わらず誰かから奢ってもらったであろう紙パックの牛乳を片手に凌大へ嘲笑を浴びせる。
「どうやったか知らないが、お前に化け物の事を教えてからつぶやきがばったり消えちまった。何やったんだ、ええ?」
「別に何もしてないよ」
「そうか? まあいい、ただ俺はこれが偶然だと思っちゃいない。お前とつるんだら何かデカいことができそうな気がするんだ」
「つるむって、一体俺に何させる気だよ」
凌大の問いを聞くと、滝山は待ってましたと言わんばかりにノートパソコンを取り出した。
検索エンジンを開いて怪しげなホームページを開くと、管理者としてログインしてその画面を凌大に見せつけた。
黒い背景画面に掲示板のように依頼がなだれ込むそのサイト──TTネットワークを開いた滝山は近くの椅子を借りて凌大と向かい合う。
「俺が構えてる裏の稼業。学校のはほんのお試し版だ」
「これ犯罪じゃないの?」
「そこまで踏み込みはしないさ。こんなサイトだがやってる事はほとんど一緒なんだ。ただ最近増えてる依頼があってよ」
滝山は『鏡』という検索フィルターをかけると、絞り出した依頼を続けて見せた。
「鏡から現れては消える怪物、怪人。これに襲われたであろう人たちを探してくれってな」
「でもこんなの警察に言えばいいんじゃ?」
「都市伝説みたいな出来事をまともに捜査するわけがない。月見でやってく以上は解決してあげたいが、一件一件当たっていたらキリがない」
「なるほど。理由は分かったよ」
凌大は頭を掻きながらため息をつく。
依頼内容は親や兄弟、恋人、友達と月見市を中心に20件以上はここに舞い込んでいた。
「勿論タダでとは言わない。月にそうだな……これぐらいでどうだ?」
滝山はスマホの電卓を打ち込むと、その金額を凌大に見せつけた。
「……安いな」
「成功か失敗か判別できないしな。それにこれでも独自の計算で給料出してんだよ」
「この金どっから出すの?」
「FX。これでも勝ってる」
滝山は得意げにスマホの画面を見せつけるが、凌大にはどれがどう勝っているのか理解できなかった。
しかし滝山にお金の余裕があるのは確かだ。普段から昼食にプラス一品何かを頼むのは当たり前、自分で飲み物を買う時は1ランク上のコーヒー牛乳を毎回選んでいる。
「やるか?」
「そうだね。母さんにバイト禁止されてるけど、友達の手伝いって言えば何とかなるでしょ」
「ははは、そう言ってくれて助かるな。じゃあ試しにこの案件を頼む」
滝山は数ある依頼の中から、『学園都市のモンスター』のタイトルの依頼を凌大に見せたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
放課後、凌大は私服の黒いパーカーに着替えて、隣町のプラザまでズーマーを走らせていた。
原付というだけあって中々スピードは出せないものの、こうしてバイクを駆っているとミラーワールドやライダーの戦いのことを一瞬でも忘れることができる。ボロではあるものの、父親からのプレゼントというのもあって凌大自身愛着が湧いていた。
「そういやあそこ、新しくパン屋できてたな。下見がてら見に行ってみよ」
調子よくズーマーを走らせる凌大の右横を、何台もの自動車が追い抜いていく。1台、2台、そして3台目の軽自動車がズーマーに並んだ時だった。
突然軽自動車からクラクションが響くと、助手席の窓が開いて運転手が一瞬顔をこちらに向ける。それに気づいた凌大も一瞬首を横に傾げた。
「あれ? あの人確か中野さんのバイト先の……」
「おいお前! ちょっと付き合ってくれるか!」
運転手の高畑はズーマーの前に車線を変更すると、駅前の立体駐車場まで凌大を案内する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
凌大は仕方なく併設された駐輪場にズーマーを止めると、近くの自販機で缶コーヒーを2本買っていた高畑の元に向かう。彼はその内の1本を凌大に投げ渡すと、駐輪場のフェンスに背中を預けてコーヒーの封を開けた。
「高畑だ。この間は中野さんを助けてくれてありがとな。礼を言うよ」
「いや、俺は当たり前にやっただけですよ。それだけの為に?」
「まあお前が普通の高校生ならそこで終わりなんだけどさ」
高畑は持っていたコーヒーをフェンスの下に置くと、灰色のアウターのポケットからカードデッキを取り出した。
緑色のカードデッキには金色の牛の紋章が描かれており、凌大にはそれが自治会館で自分に銃を向けたライダーのものであるとすぐに分かった。
「お前だったのか! あの時俺を倒そうとしてたライダーは!」
「別に威嚇しただけで攻撃はしてないだろ。お前にとってはどっちにしても同じことだろうがな」
高畑はカードデッキをしまってコーヒーを拾い上げると、季節外れに現れた小さな虫をデコピンでコーヒー缶から弾いた。
「お前戦いを止めたいんだって? 何で」
「それは、だって自分の願いのために人を殺すなんておかしいじゃないですか」
凌大は持っていたコーヒー缶に目を向ける。
目の前の相手を説得する。しかし、咄嗟に浮かんだ言葉を口にしたためか成功しそうには思えなかった。
「なるほどな。じゃああれか、手を伸ばせば届くはずの願いを諦めてくれって言うんだな……それが、家族を生き返らせたいって切実な願いでも」
高畑の言葉に凌大は顔を上げる。
「かつて不慮の事故で家族を失った。ガキの時だったからな、さぞかし辛かっただろう」
「家族……でも──」
「でも何だ。もう既にカードデッキを手にしてしまったんだ、後戻りなんかできない。それにライダーも1人減ったしな」
「減った? まさか……」
凌大の動揺を見逃さず、高畑は更なる揺さぶりをかける。
この少年は動かしやすい。伊藤恵美やラッシャーよりも遥かに騙しやすそうだ。高畑には目の前の相手をそんな風に捉えていた。
「俺は自分の願いのためなら躊躇しない。邪魔をするなら今ここで相手してやるよ」
「そんな事して願いを叶えても、家族は絶対喜びませんって。もうやめましょうよライダーバトルなんて」
「その言葉、伊藤恵美にも言ってやれよ。珍しく大泣きするぞあいつ」
「伊藤? なんで伊藤の話が──」
凌大は考えを整理する暇もなく、凌大と高畑を頭痛と耳鳴りが襲う。モンスターだ。
凌大は自分の本来の目的を思い出すと、高畑の方に目を向ける。だが彼はキョトンとした顔をして彼の真剣な眼差しを鼻で笑った。
「行きたきゃ行けよ。待ってるから」
「ライダーだったらモンスターと戦えるだろ! なんで──」
「なんでなんでうるさいな。少しは自分の頭で考えろよ」
この男と話しても埒が明かない。そう感じた凌大は、1人耳鳴りのする方へと走っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「変身!」
凌大はドラーグに変身すると、手洗い場の鏡からミラーワールドへ向かう。
ライドシューターでモンスターに突撃すると、降車して右手の握り拳を胸の前に持ってきて気合を入れた。
「っしゃあ!」
ドラーグの前に現れたのはカミキリムシのモンスター『ゼノバイター』。学校に現れたテラバイター同様、背中に携えていた巨大なブーメランを外してドラーグに投げつけてくる。
向かってきたブーメランは何とか避けられたものの、ゼノバイター側に帰ってくる軌道に立ってしまいドラーグは攻撃を食らってしまった。
「ぐあっ! そっか、普通にブーメランってそういう武器だよな」
背中をさすって痛みをひかせると、左腕のドラグスキャナーに取り出したカードを装填する。
【SWORD VENT】
空から降ってきたドラグセイバーをタイミングを合わせてキャッチしようとする。
だが降ってきて武器はゼノバイターのブーメランによって見当違いの方向に弾かれてしまった。
「あっ、ちょっとマジかよ」
落ちたドラグセイバーを拾おうとするドラーグにゼノバイターはがら空きの背中をブーメランで何度も切りつける。
ドラーグはゼノバイターへ必死に食らいつき、ブーメランを奪おうとするも膝を蹴られてそのまま倒されてしまう。胸部装甲に何度もブーメランを叩きつけられ、息が苦しくなってくる。
ドラーグが孤軍奮闘するその様子を、高畑は自販機越しに観戦していた。
「鈍臭いなあやっぱり。仕方ない」
高畑は周りに人気がないのを見計らうと、カードデッキを自販機に突き出してバックルを装着した。
「変身!」
右腕をアッパーのように曲げ、左手を反対に曲げて下ろす。そのままカードデッキをバックルに装填すると、仮面ライダーコルトに変身してミラーワールドへと足を進めた。
ドラーグのライドシューターの隣に自身のバイクを止めると、マグナスキャナーで油断しているゼノバイターの背中を何度も撃った。
「高畑さん……?」
「手伝ってやるよ」
デッキから1枚カードを引くと、マグナスキャナーに装填して新たな武器を召喚した。
【LAUNCH VENT】
すかさずゼノバイターが邪魔をしにブーメランを放つが、空からマグナギガの足を模した2連装砲『ギガキャノン』を弾くことはできなかった。
そのままコルトの両肩に大砲が装備されると、コルトは右手の人差し指を振って舌を鳴らした。
「甘いな。フッ!」
ギガキャノンからエネルギー弾が2発、ゼノバイターとドラーグに向けて発射される。
ゼノバイターは武器で攻撃を受け止めたものの、そのブーメランは真っ二つに折れてそのまま砕け散ってしまう。
一方のドラーグは攻撃を防ぐ間もなく直で食らい、胸部の黒い汚れを拭いながらコルトに詰め寄る。
「何で俺まで撃つんだよ!」
「2門あるなら2発出るでしょうが」
悪びれる素振りを見せないコルトに頭にきたものの、共通の敵であるモンスターが立ち上がるとドラーグはコルトの攻撃を一旦水に流す。
今度はコルトの隣に立つと、デッキからカードを引いてスキャナーに装填した。
【STRIKE VENT】
ドラグクローを相棒から受け取ると、ドラグレッダーと共に再びコルトに詰め寄る。
「タイミング合わせてくれよ」
「はいはい」
背中を向けて逃げようとするゼノバイターに対し、ドラーグとコルトは自分たちの武器で狙いを定める。
「はああああ……ハイィィィ!」
「発射!」
ドラグレッダーの高熱火球とギガキャノンのエネルギー弾が合わさり、威力を増してゼノバイターに命中する。
現れた光の球をドラグレッダーが捕食するのを見届けると、コルトはドラーグの背中を小突いてわざとらしく大声を出す。
「このままお前と戦いたかったが、もうすぐバイトの時間なんだ。次は覚悟しとけよ!」
「はあ? 俺はライダーバトルなんかしないよ!」
「知るか。じゃあな」
コルトはアンティークショップの窓に飛び込み、ドラーグを置いて現実世界へと帰還したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時刻は20時を回る頃、高畑は返されてきたDVDケースをレジのカウンターでタオルで拭いていた。
客もいないために調子に乗って鼻歌を歌っていると、あまりに陽気に歌っているためかモップで清掃中の花菜は思わずくすくすと笑ってしまう。
「何、どうしたの中野さん?」
「いやなんでもないです。高畑さんが流れてる曲に合わせてるからつい」
「ああそう。まあこの時間帯は掃除しかやることないからね」
高畑はレジのカウンターに拭き終えたDVDケースを置くと、研修がてら花菜へ戻すように仕事を振る。
レジから遠い洋画コーナーへ花菜が消えていくと、固定電話がけたたましく鳴り響いた。高畑は鼻歌を止め、明るい声で電話に応対する。
「はい! グレース月見丘店です!」
「私よ」
電話の相手は恵美だった。彼女は自宅の黒電話から店にかけていた。声こそいつも通りの声色だが、パジャマの下にはマンジェルとの傷跡が未だ残っている。
だが電話越しにそれを確認できないためか、高畑はのんきに頬杖をついて気だるげに話す。
「どうしたの。こないだは随分派手に動いてたそうだけど」
「貴方あの後木鏡に何かしてないでしょうね?」
「……いや? そんなにあいつの事が心配なわけ?」
「別にそんなんじゃないわ。ただ貴方の事だし、何か工作でもしてるんじゃないかって思っただけ。例えばそうね……私の願いを自分事のよ──」
「ああお客さんだ! じゃあお休み良い夢を!」
高畑は急いで電話を切ると、誰にも気づかれないように4、5回激しく咳き込んだ。
吐血こそしなかったものの、肋骨の辺りがズキズキと痛んで気分が重く沈んでしまう。自身を蝕むナニカに負けないよう、高畑は再び鼻歌を歌いながら店内を巡回するのだった。
次回の仮面ライダードラーグは
「生き残った者は私と戦い、願いを叶えられるだろう」
「借金よ借金」
「こいつ力が強すぎて全然攻撃できない!」
「何もかも遅いんだよね。お前たち」
それでも、夢に向かえ