とあるトップVtuber「軽率な百合営業はやめた方がいい。」   作:ペルー来航

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そのいち

 

 

 私こと篠田梓は悩んでいた。

 

 

「この動画もだめかぁ」

 

 

 

 それは私が行っているVtuberとしての活動についてのこと。

 黎明期に上手いこと流れに乗り、その後はコンスタントに数十万再生を維持してきた私のVtuber活動。

 その動画再生回数が最近、目に見えて奮わなくなってきているのだ。

 

 

「結構企画練るの頑張ったんだけどなぁ」

 

 

 今回の動画は3Dの状態で只管流行りのダンスを踊りまくるという耐久企画だった。

 私の持つダンス技術の高さをさり気なく見せつつ、だんだん疲れていって面白い動きをしだす&発狂するというひと粒で二度美味しいステキ企画だったのだ。

 

 

 

 何でだろうなぁ、なんて現実逃避気味に考えてみる。

 いや、目を逸らすのはやめよう。本当は原因なんてわかりきっているのだ。

 

 それは、ライバルとなるVtuberの台頭である。

 

 どんな人間でも必ず性癖にフィットする推しが見つかるで話題の事務所『モロタイプ』や、生配信を特に精力的に行う『うしみつどき』を始めとして、企業に所属して活動を行う奴らが大量発生しだしたのだ。

 

 あいつらは強い。何故なら幅広いニーズに応える手数があり、かつ一度捉えたファンを箱内でぐるぐるさせることで逃さない。更にはコラボのハードルが低く、関係性萌えを好む豚が沢山群がるからである。

 

 かく言う私も、ライバルという立ち位置がなければ『うしみつどき』所属のイケオジ吸血鬼ことヴァンプさんと狼男の満月餓狼君の雄臭いBLカップリングにやられていただろう。

 『モロタイプ』の方ではイギリスからの留学生のエリリンちゃんとクーデレJKのアサヒちゃんからなる異文化交流百合カップルが大人気だと聞く。

 

 結局女なんて皆ヤオラーで男は皆百合豚なのである。

 

 

 

「はぁ……くそ、私もやるしかねぇのか、百合営業」

 

 

 百合営業。

 それは悪魔に魂を売るのと同じことだ。

 一度百合営業をすれば、少なくともある程度のバズりと今まで開拓していなかった客層開拓に繋がることは確定している。

 しかし私は小中高と共学の生粋ノンケ女子である。

 まあ中高は部活が忙しくて、大学こそ志望進路の関係で女子大に行った影響から恋愛経験こそほぼ無いけど。

 でも私の諸々のハジメテはちょっと背が低いけど筋肉は想像するよりしっかりあって笑顔の可愛くて金髪が似合う年下の男の子に捧げると決めているのだ。

 百合営業なんてやりたくはない。

 

 

「でもなぁ……」

 

 

 でも。このままだと不味いのはそう。

 正直一人でやるのは限界が見えてきた。

 心無い視聴者の一部からはオワコン云々なんてコメントが届き始めているのも事実なのだ。

 うるせぇ死ねとは思えども、私本人がこのままではヤバそうな空気をヒシヒシと感じているからさもありなん。

 っぱ応急処置でもいいからやるしかねぇのか、百合営業。

 

 

 

「……ま、視聴者数戻ったらゆっくりフェードアウトさせりゃいっか!」

 

 

 

 なんて。

 今思えば余りにも軽率に、私は百合営業に手を出すことを決めてしまった。

 それは私の人生を色々な意味で終わらせることになるというのに。

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃあ最後にお知らせがあるんだけど、なんとこの度、わたくし弓張月華、個人のVTuber事務所を立ち上げる運びとなりました! わーい』

 

 

 ぱんぱかぱーん、とファンファーレのSEを鳴らすと、チャット欄は瞬く間に「!」や「!?」という文字で埋め尽くされた。

 うんうん、いい感じに皆驚いてるな。話題性を狙って完全に水面下で動いていたのがいい感じに効いている。

 

 しかしこれだけで終わりではない。驚いているリスナーには悪いけど、このまま間髪入れずに本命の告知へと移る。

 

 

『それでそれで! それに伴ってこれからはもう少し活動の幅を広げたいなってことで、メンバー募集するよ!』

 

『我こそは弓張月華を愛しているという者! でVTuberやりたいなぁってひょうきん者! こぞって応募せよ!! 私がまぁーつ!』

 

 

 決まった。

 最後に、某No.1ヒーローリスペクトな台詞を吐いてエンディングを流すと、チャット欄は見たことない速度で流れ始めた。

 

 マイクをオフにして、配信が終了したのを確認して、大きく溜息を吐く。

 

 やっちまったぜ。

 これでもう元には戻れない。私はこれから悪魔に魂を売るが、その代わり、VTuber業界の覇者になるのだ!

 

 その為の新メンバー募集、その為の百合営業、ってね。くっ! 覚悟が重いぜ。

 

「ふぅ………」

 

 今日は慣れない生配信で、更に重大発表を熟したため大分疲れた。

 配信後の高揚したテンションを、飲みかけのエナドリを一気することで流し込む。

 

 

「っあ〜カフェイン! ………さぁ〜て、それでは本日のエゴサと参りますかね」

 

 

 飲み終わりの缶を適当に投げ捨てたら、私はスマホを取り出してSNSアプリ───エックスレッツを開いた。エゴサの時間である。

 

 これぞ我が至福の一時。

 特に目的もなくVTuberを始めた私にとって、知らない誰かが私の話をしてるってのは、その内容に関わらず大きな原動力なのだ。

 

 

 今日は何でエゴサするかというと、『#弓張月華生配信』だ。

 ぬかりない私は、事前に生配信用のタグを作ってフォロワーに周知していたのだ。

 まあ生配信主体でやってる人らは皆やってることだけど。

 

 ということでタグでで検索し、出てきた投稿を新しい順にソートして眺める。

 

 

『弓張月華事務所立ち上げかぁ、重大発表すぎた』

『これは応募するしかない。姉御……俺がサーナイトアイだ』

『配信楽しかった! やっぱ姉御は生配信も面白い、もっとやってほしい』

『事務所立ち上げたってことは、姉御が自分で色々やってるのかな? アホのアルテミスなんだから頑張って欲しいけど心配だ』

 

 

 大まかに内容を分けると大体こんな感じになった。

 うーん、一部だけどちゃんと最後のボケが伝わったようで良かった良かった。

 ちなみに『姉御』とか『アホのアルテミス』などなどはそれぞれ私の呼び名? ニックネーム? 的なアレである。

 姉御は公式で呼んでほしいって言ってるやつで、アホのアルテミスは気付いたら呼ばれてたやつね。バカにしてんじゃねぇ。

 

 

 ………で肝心のリアクションなんだけど、これは結構上々と見ていいかな? 投稿数そのものが多くて、少なくとも久しぶりにトレンドには載れそうだ。

 

 いいねぇ。

 ただ想定外だったのは、思ったより賛否両論()()()ってこと。

 唐突過ぎたのか、事務所立ち上げに驚いたという内容の投稿が八割を占めていて、それの良し悪しまでまだ感情が動いていないみたいだった。

 

 まあまだ放送終わったばっかだし仕方ないか。焦んな私。

 

 

「そこら辺は明日改めて見るとして……おっ、やりー」

 

 

 スマホをぽちぽちといじっていると、無事私のことがトレンドに載っているのを確認出来た。

 しかも『事務所立ち上げ』『#弓張月華生配信』などなど、私に関連したワードやタグが複数ある。

 停滞気味だった活動の中で久しぶり快挙。

 嬉しいのと同時に、これを無駄にしないよう頑張ろう、と若干の緊張も感じる。

 

 

 

 

「………ん?」

 

 

 と、武者震いしながら将来のことを想像していたところで、あるトレンドワードが目に留まった。

 

 

『アホのアルテミス』

 

 

 それは先程も出てきた、私の呼び名の一つであった。

 主に私が動画で天然を晒したり、話題性重視で荒唐無稽な企画を行ったりしたときによく使われる呼び名だ。

 これで呼ばれるの自体は特に珍しいことでもないのだが、今回はなんと『アホのアルテミス』がトレンドに載っていたのだ。

 

 ………なんでだ。今回の生配信でそのような失態は犯していないはずだが。

 

 

 

 

 ──と、ここで、いつも動画編集などを手伝ってくれている(有償)幼馴染から電話がかかってきた。

 

 

 ご、ごくり。

 増してきた嫌な予感と共に、通話ボタンを押した。すると───。

 

 

 

 

『───梓ァ! あんたまたポンしたね!!』

「ええっ!? 開口一番!?」

 

 

『開口一番!? じゃないわ! あんた応募フォームは? リスナーを驚かせたいからっつって自分でやるって意地張ってたけどどこにも見当たらないんだけど!?』

 

「えっ!────あっ」

 

 

 

『早く投稿しなさい! 今のところ配信の終わりであんたが言った以上の情報がないんだから、一部のリスナーは「幻術だったのか」とか言い出してるわよ!!!』

 

「なぁああああああんだってぇ!??」

 

 

 

 

 この日、Vtuber弓張月華の歴史に、新たな一文が刻まれた。

 

 

『新メンバー応募という内容の無限月読を八千人のリスナーにかけた、と』

 

 

 

 

 ………前途多難だぁ。

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