全学年による合同合宿が終わり、珍しく堀北と通学した日の放課後でのこと
俺は教室で堀北に資料の整理を手伝わされていた
堀北クラスでは中間や期末テスト前でなくても定期的に勉強会が開かれている
その一環として啓誠が作成した小テストを各自が解き、堀北が分析することでクラスメイトの得手不得手を把握しているのだ
そして俺は今、クラスメイトが解いた小テストの結果をパソコンに打ち直す作業を任されている
勉強会の参加者数×科目数で200枚以上あった紙の束は、開始から2時間以上経過してやっと半分が捌かれた
もう教室には俺と堀北しか残っていない
「なんで俺が手伝っているんだ・・・」
「さっきから言っているでしょう。合同合宿が終わってから全身が筋肉痛なのよ。あなたにも責任があるわ」
「あれは堀北から頼んできたことであって、俺に責任は無い」
堀北が言うには合同合宿中での格闘訓練で痛めたらしい
今の堀北のピンピンした様子からはだいぶ疑わしいがな
それに本当に痛めていたとしても、俺が手伝う理由にはならないはずだ
「ところでその件についてだけど・・・また頼んでもいいかしら。合同合宿中にした3回だけじゃ足りないわ」
「勘弁してくれ。今まさに俺に責任を押し付けていただろ。それに誰かにバレたらどうするんだ」
「あなた以上の人がいないのよ」
「・・・また機会があればな」
堀北はしつこく食い下がったが、俺は適当にあしらった
限られた学校の敷地内で稽古をつけていれば、いずれは誰かに目撃される
下手したら暴力事件と誤解されかねない
「私も伊吹さんに倣って不意打ちで襲おうかしら」
堀北がとんでもないことを言い出したが、聞いていないふりをした
無反応な俺を見て諦めたのか、堀北はため息をついて自分の作業を再開する
打ち込み作業が終わった小テストの束を手に取り、中身を確認していく
その中の点数がかなり低いーーー恵のテストを見て眉をひそめる
「軽井沢さんはあなたの部屋でしているんじゃなかったの?」
「・・・してはいるんだが、恵が乗り気じゃないんだ」
恵は小テスト以外では勉強会に参加せず、俺が直接部屋で教えている
・・・教えてはいるが、恵はすぐに飽きて俺に悪戯を仕掛けてくる
「そう。じゃあ私から軽井沢さんに話を着けておくわ」
どうやら堀北は恵を勉強会に参加させたいらしい
俺としても手間が省けるので異議は唱えるつもりはない
この後は俺も堀北も無言で作業を続け、帰ることができたのは20時を過ぎた後だった
◇
私ーーー篠原さつきはとんでもないことを聞いてしまった
私が所属しているバレー部が終わった後、机の中に忘れた数学のノートを取りに教室に戻ったときのことだ
教室の扉に手をかける直前、中から二人の男女の声が聞こえてきた
時刻は18時を過ぎており、こんな時間まで教室に人が残っているのは珍しい
もしかしたら誰かが逢引でもしてるのかも・・・なんて邪推?期待?しながらこっそり中を覗き込む
(あれは・・・綾小路くんと堀北さん?)
教室の端にいた二人の人物を確認して落胆した
綾小路くんに軽井沢さんという彼女がいるのは有名な話だ
綾小路くんと堀北さんがお互いに好意を寄せて密会している・・・なんて訳がない
きっと次の特別試験について話しているのだろう。そう考えて再び教室の扉に手をかけようとしてーーー
「ーーー合同合宿が終わってから全身が筋肉痛なのよ。あなたにも責任があるわ」
「あれは堀北から頼んできたことであって、俺に責任は無い」
「ところでその件についてだけど・・・また頼んでもいいかしら。合同合宿中にした3回だけじゃ足りないわ」
「勘弁してくれ。今まさに俺に責任を押し付けていただろ。それに誰かにバレたらどうするんだ」
「あなた以上の人がいないのよ」
「・・・また機会があればな」
ーーー私は再び固まってしまった
たった今聞こえてきた話を整理するとつまりこうなる
・堀北さんから頼んで、綾小路くんは堀北さんに”何か”をした
・”何か”で堀北さんは全身筋肉痛になった
・"何か"を合同合宿中に3回したが堀北さんは物足りず、またして欲しいと頼んでいる
・”何か”はバレたらまずい
・堀北さんにとって”何か"をするのに綾小路くん以上の人がいない
ここまで考えて、私はその"何か"について性的な想像を膨らませてしまった
(って、いやいやいや、そんなわけないでしょ!冷静に考えて合同合宿中に"それ"をするのは無理があるし!)
もし合同合宿中に”それ”をするとしたら人の目や監視カメラがある室内では無理だ
堀北さんたちが外で”それ”をするなんて普通あるわけがない
頭を振って邪な妄想を消そうとする
「私も伊吹さんに倣って不意打ちで襲おうかしら」
(堀北さんが綾小路くんとを”襲う”!?!?!?)
一般的に使われている”襲う”という言葉には、暴力的な意味と性的な意味のどちらかが含まれている
意味もなく堀北さんが綾小路くんを暴力的な意味で襲うなんて思えないし、今の二人が剣吞な雰囲気というわけでもない
先ほどの会話と合わせると・・・堀北さんが綾小路くんを性的な意味で襲おうとしているとしか考えられない
つまり先ほどの"それ”が当たっていたということだ
「軽井沢さんはあなたの部屋でしているんじゃなかったの?」
「・・・してはいるんだが、恵が乗り気じゃないんだ」
「そう。じゃあ私から軽井沢さんに話を着けておくわ」
(・・・ああ、軽井沢さんが乗り気じないってことは、もう関係が冷めちゃってるのかな。というか堀北さんから軽井沢さんに話を着けるって、もう奪い取る気じゃん)
とんでもないビックニュースを知ってしまった
私は数学のノートのことなど忘れ、忍び足で教室から離れていく
(これは早くクラスのみんなに広め・・・相談しなくちゃ)
◇
後日、なぜか”俺と堀北が外で性行為に及んだ”、”堀北が略奪愛に目覚めた”などという噂がクラス中に広まっていた
須藤や恵に1日中詰め寄られたのは言うまでもない