よう実短編   作:徹底的ライチ

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2年生編11巻の後の話です


敵に味方あり、味方に敵あり

「清隆、帰ろ!」

 

帰りのHRが終わって早々、恵が人目をはばからず右腕に抱き着いてくる

数か月前であればクラスメイト達から注目を集めていたが、今となっては当たり前の日常だ

恵自身も恥ずかしがっていたころが懐かしい

 

「少し待ってくれ」

「早くしてよね~」

 

右手が塞がれていて帰り支度がしづらいのだが、恵はニヤニヤ笑っていて離さない

分かっていて悪戯しているのだろう

左手と可動域が狭くなった右手でなんとか教科書を鞄に詰めていく

 

「綾小路清隆、今時間よろしいですか」

 

後ろから声をかけられたので振り返ると森下と山村が立っていた

森下が教室まで訪ねてくるのは珍しいな

いつもはどこかで待ち伏せてくる

これは合同合宿で仲良くなれたから・・・だと思っていいのだろうか

山村は陰に隠れるように森下の斜め後ろで身を縮めている

 

他クラスの生徒が教室に入ってくることは中々ないため、嫌でもクラスメイトの目を引くな

 

「今から帰るところだ。少しなら構わないぞ。場所を移そうか」

「いえ、ここで問題ありません。今日はこれをしにきました」

 

森下はポケットに手を突っ込み、"UNO"と書かれた赤い箱を取り出した

 

「UNOか。前に池たちが遊んでいるのを見たことがあるが、やったことは無いしルールも知らないな」

「私と山村美紀も未経験です。勝負は公平ということですね」

 

まだすると返事はしていないのだが、森下の中ではそれが確定しているらしい

さっそく箱からカードを取り出し、俺の机の上でかき混ぜ始めている

まあ俺も興味が無いわけではない

今のうちの取扱説明書からルールを確認する

 

「恵。そういうことみたいだ。少し付き合ってやってもいいか?」

「顔にやりたいって書いてあるわよ。私も参加するから。いいよね?」

「ええ、もちろんです。何人でも勝つのは私ですから」

 

恵は森下と”生存と脱落の特別試験”前に1度だけ交流がある

森下のマイペースぶりには慣れたものだ

 

「山村はここで大丈夫か?あまり目立つ場所は好きじゃないだろ」

「は、はい。・・・でも大丈夫です」

「森下に無理やり連れてこられてないか?嫌だったら文句を言っていいんだぞ。俺からも言っておく」

「その・・・無理やりではあったんですけど、いいんです。わ、私も綾小路くんと会いたかったので」

 

目は合わせて貰えないが、手に力が入っている

森下に合わせて嘘をついているというわけではなさそうだ

 

「ところで、堀北鈴音。あなたも参加するのですか?」

「・・・後ろに目でもついているのかしら。ええ、どうせなら参加させてもらうわ」

 

堀北は森下の後ろから様子を伺っていた

他クラスの森下や山村を・・・というよりは俺の交友関係を観察していたみたいだな

山村とは初対面だろうが、森下とは合同合宿のアーチェリー戦で顔だけは合わせている

 

「堀北が参加するとは思わなかったな」

「それを言うなら、あなたにクラス外の仲のいい友達がいることの方が意外よ。少し興味があるわ」

 

一応、他にも一ノ瀬や石崎たちとも深い交流はあるのだが、それを堀北に伝える必要は無いだろう

 

 

森下が全員に7枚ずつカードを配り終え、親はじゃんけんで山村に決まる

順番は時計回りだ

 

山村 → 森下 → 堀北

↑          ↓

綾小路   ←  軽井沢

 

最初のカードは"青6"

 

「・・・では私から」

 

山村が"青9"を出して森下に番が回る

 

「せっかくですから賭けをしましょう。勝った人が他の人に好きな命令をできる。定番というやつです」

「自分の手札を確認してから賭けを持ちかけるのは卑怯じゃないか?」

「なるほど、綾小路清隆は賭けに反対。つまり手札が弱かったということですね?」

 

森下が俺に揺さぶりをかけてきたが、俺の手札は7枚中3枚が記号カード

UNOが初めてでも、この特殊な効果を持つ記号カードが大きな意味を持つことは分かる

全カード108枚中32枚しか記号カードがないことを考えると、3枚はなかなか運がいい

 

「俺の手札は問題ない。全員がそうとは限らないから聞いただけだ」

「では綾小路清隆以外からも反対意見がないようなので、賭けありで勝負を続行しましょう」

 

他の3人は手札の強さを読まれることを恐れてか、もしくは賭け自体に反対ではないのか、異論は出なかった

森下は”青3”を出す

 

「確認なのだけれど、1番に勝った人が誰にでも好きな命令をしていいのよね?綾小路君」

「・・・なんで俺に確認を取るんだ?」

「あなたと天沢さんの本当の関係を知りたいの。あなたは元カノだなんて冗談を言っていたけれど」

「・・・清隆?」

「堀北が言っている通り、冗談で言っただけだ」

 

恵がいる前で堀北が爆弾を投下する

恵にも興味を持たせることで、賭けに勝った後の俺の退路を塞いできたな

堀北が出したカードは"青7"

 

「私が勝ったら清隆は女子と接触禁止するから!」

「待って軽井沢さん。彼には特別試験について相談することもある。私まで接触禁止にされるのは困るわ。それに長期間拘束するような命令はどうなのかしら」

「そもそも私という彼女がいながら放課後に女子2人が遊びに来ること自体がおかしいし!いいよね?清隆」

「・・・あ、ああ。そうだな」

 

坂柳や天沢と2人っきりで対面できないのは流石に困るのだが、恵の鬼気迫る表情から断ることができなかった

まあ、あくまでこれは恵が勝った場合の話だ

今は物分かりがいい振りをしておく

恵は”青1"を出した

 

「俺が勝ったら森下に合同合宿での動画を消してもらおうか」

「綾小路清隆が森の声に耳を傾けていたときの動画ですね」

「お前がやらせたんだけどな。その恥ずかしい呼び方はやめてくれ。山村は何を命令するんだ?」

「わ、私ですか。・・・では綾小路くんにまた自販機で、その・・・何か飲み物を買っていただけたら」

 

山村は"また"と言ったが、俺が今まで山村に飲み物を奢ったことは無い

自販機横で話したいことがあったのだろうが、周りの空気を読んで切り替えたな

 

「私の命令は秘密にしておきましょう。覚悟しておいてください、綾小路清隆」

「・・・なぜ全員俺に命令しようとするんだ」

 

俺が"青4”を出して1週目が終わる

 

・・・森下もだが、恵や堀北が勝って命令させるのは少し厄介だな

できれば俺が1番に上がりたいところだが、別の選択肢も考えておくか

楽しいUNOの時間のはずだったのに策を講じる必要が出てきたな

 

 

2週目は山村が"青3"、森下がカードを引いてスキップ、堀北が"赤3"、恵が"ドロー4"で緑を宣言、俺はカードを4枚引かされてスキップ

3週目は山村が"緑9”、森下が"赤9"、堀北が"赤4"、恵が"赤スキップ"を出し、またしても俺はスキップされた

 

俺は恵によって1週目以降1枚も出せず、手札は残り10枚

恵は手札で口元を隠しているが、ニヤニヤと笑っている口角がこぼれて見えている

 

「だって清隆が森の声に耳を傾けてたっていう動画見たいし~?これが終わったら森下さんに見せてもらおうかな~って」

「これが終わったら鑑賞会にしましょう」

「・・・勘弁してくれ」

 

4週目が始まり、山村は"赤ドロー2"を出し、森下はそれに"黄ドロー2"を被せる

堀北がカードを4枚引く

 

「ちょっと待ってくれ。それはありなのか?」

「・・・えっと、私ですか?」

「いや、山村じゃなくて森下だ。山村のドロー2を森下が被せることで堀北に流したように見えたんだが」

「ええ、その通りよ。同じドローカードがあれば次に人に流せる。知らなかったの?」

「そんなことは取扱説明書には書いて無いが・・・。それは公式なルールなのか?」

「綾小路清隆の言う通り、それは公式ルールではありませんね。誤解されている人が多いですが。ただほとんどのプレイヤーが採用しているので、これが通常のルールという扱いを受けています」

 

俺は知らなかったが、未経験者の山村や森下も知っている常識ルールらしい

というか森下は妙に詳しいな

・・・恵の口角がさらに吊り上がる

 

「恵。俺がこのルールを知らないと分かっていたな?」

「えー、なんのことかな~」

「恵は2週目でドロー4を出していただろ。いつでも使えるドロー4を使うには早すぎる。俺がこのルールに気が付く前に使いたかったとしか考えられない」

「へへへ、勝てればいいんだもーん」

 

実際、俺の手札には最初から1枚のドロー4があった

最初から知っていれば恵からのドロー4を山村に流すことができたはずだ

 

「なるほどな。なら俺も手段を選んではいられないな」

 

恵は"黄9"、俺は"黄8"を出して4週目が終わった

 

 

5週目は山村が”黄4"、森下が"緑4"、堀北が"赤4"、恵がカードを引いてスキップ、俺は"ワイルド"で緑を宣言した

 

「う、UNOです」

 

6週目の始め、山村が"緑スキップ"を場に出す

手札は残り1枚になり、森下の番は飛ばされる

 

「清隆、このままだと山村さんが上がっちゃうよ。ドローカード持ってないの?」

「さあな。手札の中身を教えるわけにはいかない」

「・・・いえ、軽井沢さん。綾小路君はわざと山村さんを勝たせるつもりだわ」

 

恵と山村が驚いた表情で堀北に目を向ける

 

「山村さんは4週目で赤のドロー2を出している。他に赤カードがあればドロー2を温存していてもおかしくない。綾小路君は5週目の最後、ワイルドカードで色を赤から緑に変えている。偶然かしら?」

「たまたま手札に赤が1枚も無くてな」

「あなたのその潤沢な出札で?」

 

堀北が俺の8枚もある手札を皮肉る

困ったことに考察も完璧に見破られているな

 

「"緑のリバース”よ。森下さん、大丈夫かしら」

「問題ありません。こうなることを読んでいました。この”ワイルドを使います。色は当然赤」

 

ここで山村が持つ最後のカードが赤なら決着だが、山村は悔しそうに山札からカードを1枚引いた

その1枚も場に出せず手札にしまう

 

「あ、綾小路くん。・・・役に立てなくてごめんなさい」

「いや、こちらこそ狙われるようなことに巻き込んですまない」

 

チャンスを逃したとはいえ悪いことばかりじゃない

順番が逆になったことで俺の持つ"ドロー4"は恵にぶつけることができるし、山村が上がりに近いことに変わりはない

まだ勝てる芽は十分にある

 

「清隆は山村さんを勝たせたいんだ?なんだかさっきから山村さんには優しい気がするし、怪しいな~」

「山村は無理なお願いはしてこないし、卑怯な手も使わない。山村に勝たせるのが一番平和的だと判断しただけだ」

「そこまで私の命令は聞きたくないのかしら。これは意地でも天沢さんのことを聞く必要があるわね」

 

こうして俺&山村 vs 堀北&恵という対立構図が完成した

 

堀北と恵が協力し合うのは特別試験でもなかなか見ない光景だ

命令は恵が譲歩し、堀北と同じく天沢について聞くことに切り替えた

俺から山村に協力を持ちかけたりはしなかったが、似た性格同士の阿吽の呼吸で通じ合えた

 

 

その後、勝負は10分以上続いた

ただのカードゲームだと思えないほど白熱し、ときには罵倒(主に俺への)にまで発展した

 

俺たちが対立しているのを他所に、最終的に勝利を収めたのは森下だった

森下は途中もう一度"リバース"で順番を入れ替え、左隣の堀北からの攻撃をかわした

右隣りの山村は手札が枯渇していたため、森下に対して為す術がなかった

 

俺も俺で2つ隣の森下に対しては何もできない

負けるつもりはなかったが、運が絡むゲームなので仕方がない

 

意外なことに、森下は堀北に連絡先の交換を命令した

そういえば恵にも連絡先の交換をせがんでいたことがあったな

なんだかんだ無事に終了して俺は満足だ

合同合宿での動画の鑑賞会は行われたが・・・

 

 

堀北や恵に再戦を要求されたが、丁重にお断りした

・・・その腹いせか、翌日クラス中に動画が出回されていた

数日後にはなぜか坂柳も動画を所持していたのが確認できたが、共に戦った山村ではなく森下が流したものと願いたい

 

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