よう実短編   作:徹底的ライチ

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2年生編11巻より後です


様子を伺われる

今の私、一之瀬帆波をクラスメイトが見たらきっと失望するだろう

いや、クラスメイトどころか誰が見ても不審者以外の何者でもない

なぜなら私はスーパーに来ているにも関わらず、買い物カゴも持たずショッピングカートも引いていない

ただ棚の陰に隠れながら一人の男子ーーー綾小路くんの後をつけているのだから

 

 

ーーー時は少し前に遡る

 

土曜日の午前

私は毎週この曜日この時間にスーパーで一週間分の食材をまとめて備蓄することにしている

入学当初は豊富にあったクラスポイントも徐々に陰り、プライベートポイントもいつ使うことになるか分からない

今では節約を欠かせない日々が続き、食事はいつも手作りだ

 

習慣通りスーパーに入ろうとした直前、彼の後ろ姿が目に入る

クリーム色のストレートパンツ、ブラウンのコート、少し跳ねた茶色の後ろ髪

特徴的な格好という訳でもないのに、直接顔を見なくても誰か分かってしまう

綾小路くんだ

 

私が合同合宿を体調不良で休んでいたから、綾小路くんと会うのは少し久しぶりだ

彼が私に気が付いた様子はなく、ショッピングカートを引いて中に入っていく

おもわず声をかけようと手を伸ばしかけたけど、理性がそれを阻止してくる

 

足を止めて周囲を見回す

人が多いという訳でもないが、少ないという訳でもない

目に見える範囲に知り合いはいないが、いつばったり出くわしてもおかしくない

 

できることなら綾小路くんに声をかけたい

付き合っている彼女がいる綾小路くんにアプローチをかけるのは良くないことだと分かっている

けどそんな私でも綾小路くんなら受け入れてくれる・・・という期待もある

それでもここには誰の目があるか分からない

私や綾小路くんのクラスメイトが目撃してしまえば彼に迷惑がかかってしまう

特に軽井沢さんは"生存と脱落の特別試験"での連続指名で警戒しているはずなのだから

 

頭の中でぐるぐると思考を巡らせているけれど、結局どうするべきなのか結論がまとまらない

気が付けば私の体は勝手に動き、綾小路くんを呼び止めるでもなくただ後を着けていた

 

 

「は、話しかけるなら早い方がいいよね・・・?」

 

しばらく混乱状態で不審な行動を取っていたけど、だんだんと落ち着いてきた

綾小路くんは手際よく食材をカゴの中に詰めていく

このペースだと綾小路くんの買い物はすぐに終わってしまう

 

両手に力を込め、私は綾小路くんに声をかける決心を固める

どうせなら早い方が長い時間一緒にいられる

誰かに見つかってしまったときは・・・そう、たまたま!たまたま見かけたから声をかけただけということにしよう

実際それが間違いという訳でもない

知り合いが目の前にいたのに無視する方が不自然だ

一度深呼吸して息を整え、私は棚の陰から飛び出しーーー

 

「あやーーー 「あれ?綾小路くん?」

 

ーーー直前に綾小路くんの前に現れた彼女を目にし、すぐに踵を返した

 

「網倉か。久しぶりだな」

「久しぶり。最近ジムでも合わないし、ほんといつぶりだろ」

 

同じクラスの網倉麻子ーーー麻子ちゃんだ

 

「綾小路くんも自炊とかするんだ?」

「ポイントが勿体ないからな。基本自炊だ」

 

あ、危なかった・・・

一瞬棚から身を乗り出していたが、2人はこちらを認識していない

タイミングが少し違っていたら、現場を麻子ちゃんに目撃されるところだった

驚きと焦りで心臓が激しく鼓動している

叫び声をあげなかったのが奇跡だ

 

「今度うちのクラスに遊びに来てよ。綾小路くんならみんな歓迎してくれるよ。渡辺くんもいるしさ」

「そうだな。渡辺とも最近会えてない。今度お邪魔する」

 

綾小路くんと麻子ちゃんは調味料を選んでいる短い間だけ雑談を交わしていたが、その後は早々に別れた

 

「あ」

 

2人が別れた後に気が付いたけど、よくよく考えれば2人がいる時が話しかける絶好のチャンスだった

綾小路くんではなく麻子ちゃんに話しかけた、という建前を取り繕えたのだから

そうすれば綾小路くんと2人っきりというのは無理でも、3人で買い物をするように誘導できたかもしれない

 

魚が大きかったと、逃がした後に気づいた

一度固めた決心にひびが入りかけたが、頬を軽く叩いて気持ちを切り替える

まだ綾小路くんを諦めることはできない

再び棚から顔を出し、タイミングを伺う

今、綾小路くんは野菜を吟味している最中だ

よし、今度こそーーー

 

「帆波ちゃん?何してるの?」

「にゃあっ!?」

 

綾小路くんだけに集中していたせいか、後ろに人が立っていることに気が付かなかった

こ、今度は心臓が飛び出るかと思った・・・

ギギギと錆びた音がなりそうなほど固くなった首を後ろに回すと、麻子ちゃんが不思議そうな表情をしていた

 

「ままま麻子ちゃん、おはよう!こんなところで奇遇だね!私はここで買い物をしていただけだよ・・・?」

「そ、そうなの?でも・・・。あ、もしかして綾小路くんに話しかけようとしてた?」

「あや、あやや、綾小路くん?ち、違うよ???」

「でも綾小路くんを穴が空くほど見つめてなかった?」

 

私が綾小路くんに夢中になっていたことまでバレてしまっている

目的も的中させられ、私は目が明後日の方向にまで泳いでいた

思わず咄嗟に考え付いた嘘を口にする

 

「そう!綾小路くんを避けていたの!彼女がいる綾小路くんに私が偶然にでも会って話しかけるのは良くないでしょ???綾小路くんのいる場所に買いたいものが置いてあるから、綾小路くんが移動するのを待っていたの!」

「そ、そうなんだ。なるほど、なるほどね」

 

思い付きで口にした嘘だが、矛盾してはいないはず

その後、麻子ちゃんは納得?したのか、そそくさと買い物に戻っていった

 

・・・バレないためとはいえ、良くない嘘をついてしまった

私はため息をつき、肩を落とす

この後も麻子ちゃんは買い物を続けるだろう

もし私が綾小路くんと2人でいるところを目撃されれば、先ほどの言い訳と矛盾する

 

やっぱり綾小路くんと麻子ちゃんが話しているときに私も声をかければよかったと再び後悔する

固めた決心がポロポロと崩れる音がする

 

「はぁ・・・今日はもう帰ろうかな」

「もう帰るのか?」

「うん、買い物には午後に改めて来るよ。・・・って」

 

いつの間にか気配もせず横に立っていた人物ーーー綾小路くんを見て、今度は心臓と時が固まった

綾小路くんも表情に動きがないから2人して静止してしまったみたいだ

しばらく私の口だけが意味もなく開閉した

 

「・・・あ、あややややや」

「やは1回で十分だぞ。さっきから後を着けていたみたいだが、もういいのか?」

「ええ!?気づいてたの???」

「ああ。付いてくるのが面白くてな。少し意地悪した」

「い、いつから・・・?」

「ここに入る直前からだな」

 

衝撃の事実を聞かされ、頬がヒーターのように熱くなるのを感じる

最初からあの恥ずかしい言動の全てを綾小路くんに見られていたってこと・・・?

綾小路くんから話しかけてくれるという願ってもいない状況なのに、手はわなわなと空を掴み、目はぐるぐると回って合わせることができない

きっと今の私は今日で一番挙動不審だ

 

「ところで一之瀬も一応は買い物に来ていたでいいんだよな?もし良ければこれに付き合ってくれないか?」

「えっと、特売のチラシ?」

「ああ。数量限定のお得商品がいくつもある。これとこれなんだが、2人分欲しいんだ。一之瀬が良ければ一緒に並んでくれないか」

「も、もちろん!・・・でもいいのかな?」

「恵のことを気にしているのか?もしバレたら上手く誤魔化しておく」

 

こんな形とは言え、綾小路くんが彼女より私を優先してくれることが嬉しくてたまらない

先ほど気落ちしていたのが嘘のように体が軽くなる

私は綾小路くんは隣に並んで歩きだした

 

こういうのを何て言うんだろうか

棚から牡丹餅?瓢箪から駒?

どちらも思いがけない幸運が迷い込んだことを意味するけど、今の幸福感を表現しきれていない気がする

 

「麻子ちゃんに見つかったら何て言い訳しよう」

「それなら心配いらない」

「え、なんでかな?」

「スーパーに1人で来ているのに、買い物カゴもカートも無しで買い物はもともと無理がある。一之瀬の様子と合わせれば、ほぼ確実に嘘はバレているだろうな」

「あ」

 

今更ながら私の両手が空いていたことを思い出す

綾小路くんを追いかけて手ぶらでは入ったんだった

そういえば麻子ちゃんも最後生易しい目をしていたような・・・?

 

そもそも今も私だけ何も持ってないんだから、綾小路くんと2人で買い物デートしているようにしか見えないんじゃ・・・?

今度は耳の先まで熱湯のような熱さを感じる

私は綾小路くんに断りを入れてから急いでカゴを取りに戻ったのだった

 

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