ヒカルの碁に爸爸が居た場合   作:こしあんあんこ

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日本にも漢という苗字があるみたいですね。そういうの込みで無理やりねじ込みました。碁の知識はヒカルの碁経緯なのであまり詳しくなかったりで力尽きました。


変人に絡まれた

 

 

「ヒカル打ちに行きましょうよ~」

 

 ねぇ、ヒカル。男は甘えるように言う。ヒカルと呼ぶ唇は形よく、端正に整った相貌は男の美しさを示した。だが格好もどうにも時代錯誤で烏帽子やら狩衣といったものを身に纏っている。周囲にはビルが立ち並び場にそぐわぬのは明らかだったが、周囲は男に気付くこともなくただ素通りしてすれ違うばかりだった。絹糸のような黒い長髪を揺らして男は言葉を投げかける。

 

「ねぇ、良いでしょ?碁会所に行きましょ?」

 

 先程から男が打ちたいと言っているのは碁のことである。男は碁に目がないようで見境なく願いを口にした。その口から洩れる駄々を捏ねる幼子の言動がその美しさを損なわせている。その面差しにそぐわない態度と言動にヒカルと呼ばれた人間が騒ぐ。

 

「佐為、さっきからうるさい!」

 

 男を佐為と呼ぶ声は甲高く幼い。声質からして声変わりしていない少年だった。我慢ならない、と言いたげに癇癪を起こすその様子からまだまだ未熟であるのは明らかだ。佐為の姿を認めるのはこの少年のみのようだった。

 

「俺にも俺の予定があんの!」

 

 お前の我が儘に付き合っていると日が暮れちまうよ!ヒカルと呼ばれた人間は男よりもずっと小さい。ヒカルは子供らしく生意だがそれ以上に駄々を捏ねる佐為は大人げなかった。

 

「私の予定を少しでも優先させて貰ったことないでしょ!」

 

 尚も碁がしたいという佐為はいやいやと頭を振る。駄々を捏ねる姿と態度はますます子供じみていた。既にヒカルと差が見受けられない。これほど騒いでいるというのにやはり通行人は佐為に気付かぬようだった。寧ろ、通行人が見ているのはヒカルのみ。視線をそちらに向けるもすぐに目を背けている。

 

「お小遣いだって引かれてるの!」

 

 碁会所なんてそうそう行けるかよ!!大声を上げるヒカルだけを見るそれは不審者でも見るようだった。実際通行人にはヒカルしか見えてはいないのだ。佐為という男は幽霊でヒカルに取り憑いているというのが現実なのだが、常人には残念ながらそれは見えていない。急に話し出して怒り出したようにも見える。つまり周囲にはヒカルが奇行に走っているように見えていた。気付かぬのは視線に疎い子供故だ、変わらぬ態度で繰り広げられる。この珍妙な光景はどちらかが折れるまで続いた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 結局折れたのはヒカルだった。何せ佐為という男は存外やかましい。時々何かの感情が送られてくるのかヒカルの具合を悪くするのが余計に狡いとも思った。今月のお小遣いを計算すると使える額は、そう考えながら碁会所へ入った。場所は適当に選んだ場所、受付に名前と年齢その他諸々書き連ねて席料を支払う。中に入れば人が賑わっていた。

 

「対局、対局」

 

 佐為は待ちきれぬ様子で肩を揺らす。さて、誰とやろうか。佐為が満足するまで此方も打たねばならないのでヒカルの負担は大きいが、現金なもので此処までくればやる気が出ていた。最近ヒカルも打つようになってからだいぶ経つ。棋院にも通って院生にもなったが佐為の棋譜は学べるところが多い。吸収すると意気込む最中で出鼻を挫くような出来事が起きた。誰にしましょうか、佐為の言葉と共に他愛のない会話を繰り広げていると声を掛けられたのだ。

 

「相手を探しているのかい?」

 

 男の言葉が覆いかぶさってきた。急に二人の間にそんな声が覆いかぶされば自然と音源へと顔を向けてしまう。げ、と言ったのはヒカルだった。漏らした言葉は決して良い感情ではないのは明らかである。ヒカル、と叱咤を掛ける佐為も男を見てヒカルが呻いたのも納得してしまう。目の前に居たのは男だった。モノクルを掛けた狐目、飄々とした中年がそこに居た。無造作に生える無精ひげはヒカルにはないもので不潔にも見える。まして年上であればヒカルも委縮してしまうのも頷けた。ヒカルは未知の生物に邂逅したような気分にもなったのだろうとも佐為は察した。

 

「私と一局如何かね?」

 

「え、でも……」

 

 一緒にやろうという申し出に佐為は飛びつきたくて仕方がないが、此処でヒカルがごねる。厄介ごとに巻き込まれる予感しかしないし、何より胡散臭い。警戒心を抱いたヒカルは断る言い訳を考えていた。

 

「初対面だし」

 

「碁会所は初対面も多いだろうに、そんなことを気にするのかね?私は漢羅漢、君の名前は?」

 

「え、進藤ヒカル」

 

 男はあっさりと言葉でその言い訳をぶった切る。寧ろ勢いに流されてヒカルも名乗ってしまった。羅漢と名乗る男はこれで初対面ではないねとその笑みを深めた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「私が握ろう」

 

 置き石はどうするかね?じゃらじゃらと碁石を持った羅漢が手の中に碁石をいくつか持っていた。気付けば対局することになってしまった。存外押しに弱い部分のあるらしいヒカルだが、置き石はいらないとだけは伝えることだけは出来た。

 

「へぇ、」

 

 興味深そうにその眼を更に吊り上げて羅漢は笑みを深める。くそ、今に見てろ。ヒカルは内心で息巻けば佐為はヒカルと叱りつけてきた。そんなこと思ってはダメだという叱咤だが今は聞きたくなかった。俺がやると譲らないヒカルに佐為は全くと頭を抱える。このおっさんに一泡吹かせてやると、ヒカルは黒の碁石を持って石を置き始めた。

 




なおこの世界戦でも娘から嫌われている模様。
女流棋聖に鳳仙という雅号でお嫁がいるとかなんとか。
薬屋のひとりごとの小説はなろうのを読んだものしか知らないので将棋もなろう仕様にしようかとか愚考してました。
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