ヒカルの碁に爸爸が居た場合   作:こしあんあんこ

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囲碁本を初買いした。読みながらちまちまと書いているのと体調崩したりで時間掛かりました。もうちょい本を増やしたいところ。





変人は院生と(後編)

 

 

 

 

 対局する羅漢と和谷は互いに向き合って石を打っていた。黒を握る和谷、白を握る羅漢。和谷は右辺を強化したいらしい、右辺の星に置いた和谷に対して羅漢はその対局の星に石を打つ。互いに睨む一対の白黒、これでまた一つ星がなくなった、和谷も領域を広げるために右辺の下辺部分の星に一つ打つ。羅漢は小ケイマカガリを右辺の上に打たれた。……これでは次に来る両ガカリを防がなければならない。

 

「……」

 

 和谷は陣地を広げることを諦めて一間受けに徹した。右辺に更に膨らみを作る中、羅漢は更に白石を繰り出した。自身の領域を広げたいのか、左辺隅の星に一つ白石が埋まる。星が一つ塗り潰して、また一つ和谷が石を置けば羅漢は先程置いたカカリをヒラかせた。交互に石が置かれて、互いに鏡合わせのように模様が浮かび石は更に増えていく。

 

「……」

 

 パチ、パチリ。碁石を打つ音が響いた。盤上の上に白黒の碁石が色づき始め、また一つ碁石が増えていく。序盤は陣地を広げることに徹していたが和谷が仕掛けた。打ち込んで石を中央部分に置く。勇猛果敢に仕掛けて、黒石を置くもその進撃は上手くはいかなかった。羅漢はそれを利用して石を奪う。序盤に打たれた石がワタリとなって、一つまた一つと白石があった筈の部分の空洞が増えた。

 

「……ッ、」

 

 気付けば和谷は追い込まれていた。あった筈の厚みは既に薄く、中盤に持ち込むことは出来ない。このまま続けたとしても損をする、目算した上での判断だった。院生だからこそ分かる状況。これがプロか、噛み締める唇が和谷の悔しさを如実に示す。

 

「……参りました」

 

 此処で投了すれば羅漢も頭を下げた。周囲が騒ぐ中、羅漢はいつものように寛いでいる。どうやら検討はしないようだった、次、と羅漢は一言告げて今度は伊角が席に着いた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 伊角は眼前の盤上を食い入るように見ていた。先程同様に黒は伊角、白は羅漢。交互に埋まる白黒の碁石の戦況は黒がどう見ても不利である。やはり星から一間トビに打つべきだった、二間トビはどう考えても薄かった。あの時はノビが最善だったのに。あそこはコスミをしておけば。繰り返す後悔は伊角のメンタルに響き、気付けば羅漢が圧勝している。

 

「……、」

 

 パチ、苦心しながら打った一手も羅漢は間髪入れず白を打ち返せばますます差が開いた。羅漢の一手は先程の対局と変わらずに危うい。薄い右辺を守らずアタリを仕掛けてきた。だが左辺も既に削られて後がない。伊角はグッと喉呑み込んで投了した。

 

「……ありません」

 

 互いに頭を下げる。深々と頭を下げると羅漢はまた次と呟いた。

 

「誰でも良いよ」

 

 後は白黒と歩兵か。暇そうに、羅漢がそう呟く。何の話なのか見えないが少なくとも検討は変わらずしないことだけは伺えた。

 

「相手はプロだもん、仕方ないよ」

 

「……そうだな」

 

 席を立てば、奈瀬が伊角を慰めた。伊角は相槌を打ちながら、これからのことを考える。来年、プロにならなければどうなる?院生としてあとどれだけいられるか?そんなことばかり、最近考えていた。

 

 院生には週に二回対局がある。学生徒が行きやすいように土日には院生同士での対局の時間が設けられている。それ以外の時間は研究や自学によって棋力を上げる訳なのだから大半の院生には勉学の時間がない。まして院生でいられる時間はそれ以上に短い。

 

――18歳までの期間の間でどれ程の棋力に至れるのか?

 

 伊角とて既に院生としても最年長だ、そんな不安が常に付き纏っていた。プロになれるかの瀬戸際、伊角は苦しんでいた。プロになれるまでの期間も既に差し迫っている。抱くその内心はこの中で誰よりも重く圧し掛かって上手く息が出来なかった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「……ありません」

 

 誰でも良い、そう羅漢が宣った通り結局誰も勝てはしなかった。奈瀬に続き、福井に本田。三人は和谷や伊角よりもずっと早く終局してしまい今度はヒカルの番だった。

 

「よし今度は俺の番!」

 

「歩兵のキミか、」

 

 相変わらず失礼な奴である。与えられた三子を置きながら羅漢を睨んだ。

 

「ヒカル、頑張って!」

 

 後ろで佐為が騒ぐ、聞こえぬ声援を受けながらヒカルは石を打つ。和谷と同様に右辺を埋める中、羅漢は左隅の星に石を置く。パチ、パチと碁石の打つ綺麗な音と共に布石を埋める中、羅漢が攻める。

 

「……」

 

 パチ、置かれた白石はヒカルの埋めた左辺へ。二間ヒラキワリタチ、まだ星は埋められぬ中で打たれた一手にヒカルは手を止めた。まだ布石を作り出して間もない筈だ、だが羅漢はそれを捨ててヒカルの勢力図に口を挟む。ちらりと目の前のモノクルを見ても、暇そうにしていた。欠伸をするため大口を開けている。舐めんなよ、そう勇んでヒカルは羅漢の一手に牙を突き立てた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 既に中盤、ヒカルと羅漢は変わらず石を打っていた。白黒に埋まる盤面、既に黒は劣勢に追い込まれる。既に三子(ハンデ)はないも同然での対局だ。模様を広げたが打ち込まれて既に参っていた。荒らしたとしても既に置きたい場所に白が鎮座している現状だ。

 

「……」

 

 額に浮かぶ汗は以前流した汗に似ていた。集中したことで流れた汗を腕で拭い、真っ直ぐヒカルはその局面を見続ける。開いた二眼がヒカルを見ていた。何度も何かを捨て石に出来ないかと考えていてもそれを利用されてばかりいる。すっと閉じた目がヒカルの投了を示した。

 

「ありません」

 

 互いの頭部を下げて終局。惨敗、だがそれでもヒカルはこの一局に何かを掴んだ感覚がする。ヒカルは輝かんばかりに目を輝かせて自身の成長を噛み締めている中、羅漢が口を挟んだ。

 

「どうして、此処に置いたのかな?」

 

 とん、と置いた交点を指さして不思議そうに首を傾げていた。検討もしないようなおっさんが珍しく口を開いたのはそんなことだった。

 

「……えっと、此処が良いかなって、…思って」

 

 苦し紛れに打った一手がそんなに珍しいのだろうか?まだ応対に慣れぬヒカルの返答に、そうかいと羅漢が返す。

 

「何でそんなことを聞くん、です?」

 

 拙い敬語でありながら、必死に聞くも羅漢は考え込むようにモノクルを傾けた。

 

「んー、何でもないよ」

 

 だったら何で聞いた、そう言いたくもヒカルは出しかねない言葉を抑えて口を閉ざした。

 




伊角のメンタルにデバフを掛ける回でもある。返信遅れてしまったことを謝罪いたします。


やはり囲碁用語はまだまだです。ふわっとしてますがご容赦を。


評価と感想があればやる気出ますので何卒…!!


評価ありがとうございました!
雄兄貴さん、tusyakuさん、シャリオンさん、イロワケカワウソさん、エミナさん。本当にありがとうございました!!

評価の上にコメント頂けて嬉しいです。羅漢と鳳仙が幸せになって娘もなんだかんだ幸せだったらいいなって思いながら書いてるので嬉しいです…!本当にありがとうございました!
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