ヒカルの碁に爸爸が居た場合   作:こしあんあんこ

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ヒカルの碁の原作ネタバレ含めます。


変人には見えるらしい

 

 

 碁なんて爺さんがやっている遊び、ずっと座ってばかりで足が痺れるだけで面白くもない。ヒカルにとっての碁の認識はその程度。興味なんてものは一欠片もなかった。碁をやるくらいなら身体を動かすスポーツの方が良い。それが覆されたのは佐為に取り憑かれて無理やり引きずり込まれた。それがきっかけ。

 

 最初は碁盤の呼び名が分からず苦労した。何せ佐為は説明が足りないのが悪い。いきなり星だのコスミだの専門用語まみれで戸惑い対局した祖父には呆れられてしまった。半年後に来いだなんて言われてしまえば基本は学ぶべきだと判断して、結局囲碁教室に通うことになる。ハプニングもあったりもしたがなんとか覚えた。何とはなしに始めたが碁盤が読めるようになってくる。

 

 とうとう佐為の願いは叶えられるようにはなれば碁会所へと赴いた。やっぱり爺さんばっかりでうんざりする。出来れば年齢の近い方がやりやすいと考えて、ヒカルが周囲を見渡せば同い年の子供を見つけた。おかっぱの少年で名前は塔矢アキラ。受付の人は待ったを掛けるも聞く耳持たずアキラと一局打ち始めた。ヒカルと打った一局は佐為がしたものだが、負けなしのアキラにとって初めての負けは衝撃で、ヒカルと二度目の再戦を望む。棋士としての報酬を聞いてしまって浮かれて失言後の怒りの再戦。やはり佐為が勝利した。負けた後のアキラは圧倒的な差に涙する姿に、ヒカルは掛ける言葉を失う。圧倒的な格差を見せられて涙するアキラに同情するが、同時に此処まで本気でなるアキラの姿にただ圧倒されていた。

 

 此処まで本気になれるものなのか、俺はそこまでなったことはあるのだろうか。そんな疑念が一つ浮かんで消えていく。好きなことはサッカーだった筈だった。なのに、今は囲碁に魅入られる。たかが爺さんのやる遊びだろう。そんな疑念はアキラの父との対局で打ちのめされることとなった。塔矢行洋が打つたびに碁石がとんでもない音を立てている。そんな音にただ魅入られた。

 

――輝く指先、輝く手。俺もあんな風に打てたら……

 

 内心に抱いた感情はヒカルの心に火を灯した。憧れはやがてヒカルを碁打ちへと変える。だがそれでもヒカルは碁打ちとしては初心者だった。中学生の囲碁大会で佐為は最初の一歩を棋譜として見せることにした。ヒカル、いいですか。いつものように佐為は優しく諭す。

 

「ただ人形のように並べるのではなく、私の一手一手に流れを感じなさい」

 

 そう言って佐為は碁石を並べて紡いだ。ただヒカルに見せるための一局。黒と白に染まる碁石は星だった。星はやがて宇宙となった。ヒカルの一歩はただ美しい棋譜となって目の前に現れる。

 

「悔しいよ、どうして対局者が僕じゃないんだろう」

 

 中学校の見学に来ていたらしいアキラはヒカルに語る。だがこれは、ヒカルであってヒカルではない者が作り上げたものだった。同時に恥ずかしくなってヒカルは囲碁部に入る。今度はヒカルが囲碁を学んで打つ番だった。だがアキラは納得などしない。君ならプロになれるのに、今更囲碁部なんて。そう話すアキラをヒカルはうるさいと言い放ち遮断する。あれは借り物でしかないのだから。ヒカルにとってそれは誉め言葉ではない、紛れもなく煩わしい言葉に違いなかった。

 

 ヒカルはアキラを追いかけようとしていた。まだ初めてだからこれから追いかけようと思った上の拒絶だ。だがアキラも諦めが悪い、アキラもアキラでヒカルを勝手に追いかけてきた。中学の囲碁部の枠を一つ食い潰してでも、アキラはヒカルとの碁を望んだ。望まれているのは佐為の碁だった、当然ながらヒカルの碁ではない。ヒカルと対局して失望したアキラは激昂する。最後まで投げ出さなかったのはそれが碁打ちとしてのマナーだからだ。対局は言わずとも知れず大敗だった。

 

「……以前のキミに、垣間……、神の一手を見たとさえ思ったのに」

 

 次に投げかけられたアキラの言葉は失望に満ちていた。それが、初めて悔しいとヒカルは思う。この評価すら佐為との格差を感じるのだから、どうしようもなく涙が溢れた。サッカーでも感じなかったこの感情は説明が付けられぬ程だ。ヒカルもこの瞬間、アキラをライバルと見定めた。

 

――アキラが勝手に追いかけたなら、俺だって追いかけたって

 

 棋院の院生を目指したのもこの頃だ、院生になれば当然ながら囲碁の中学大会は出られなくなった。そのことで仲違いもしてしまったがそれでもヒカルは我を通してしまった。アキラに追いつきたい、この一心でヒカルは院生になった。そこでも大きな壁にぶち当たりながらも確実に成長して自信がついていた。強くなったと言われる度に自身の成長を実感していた。ヒカルは始めた頃よりもずっと強くなった、それは佐為も評価することである。だが更に大きな壁がまた一つ、立ち塞がった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「……」

 

 パチリ、と碁石を置く音がすると思えばパチリと碁石を置く音が響く。室内は思ったよりも静まり返っていて碁石の音だけが鮮明に轟いていた。パチリパチリ、黒石と白石は交互に置かれる度に確実に陣地が埋まり始める。

 

「……」

 

 対局に会話などない、それが対局する人間のマナーである。だがそれ以上に集中していることの表れでもあった。対局でヒカルの額から汗が流す程に集中していた。だが眼前のモノクルの男は涼しげな顔で碁石を打つばかりである。羅漢はまた一つ白い碁石を交点に置けばヒカルの顔は曇った。長考が増えるばかりで酷く喉が渇く。ヒカルが長考する中、羅漢はコップにぶどうジュースを注いでいた。寛いで飲むほどに余裕すら窺えるのが更に腹が立つ。

 

 泡を吹かせるつもりが吹いたのはヒカルの方だった。馬鹿みたいに底が見えない棋力だ、まるで得体が知れない。苦し紛れにまた一つ碁石を置くも羅漢は間髪入れず白の碁石を置いた。そこは盲点であり致命傷だ。ヒカルはまた考えて碁石を置くもそれすら追い抜いてまた差が開いた。人間を相手しているよりも獣を相手しているような気分だ。佐為とは違う別次元の化け物。悪手と見せかけた一手も容易く躱されてまた差が開けばヒカルは投了した。

 

「……ありません」

 

 何度目言ったか分からない言葉を発して頭を下げる。相手も一礼しながらも傾いたモノクルを掛け直した。

 

「歩兵でも頑張った方だね」

 

 羅漢はよく分からないことを呟いていた。将棋の駒など関係ないだろうに。一応は誉められていることも頭に入らない。棋譜を胸に刻む中、羅漢はまた言葉を重ねた。

 

「じゃあ、次はそちらかな?」

 

 え、とヒカルは首を傾げる。周囲を見渡せどまだ対局中の人ばかりで心当たりがなかった。

 

「ほら、そこの竜王駒」

 

 また将棋の駒で何かを言う。くいっと動く羅漢の顎は佐為を指していた。佐為もヒカルも顔を見合わせる。

 

「叔父貴と同じ奴なんて久しぶりに見たよ」

 

 そんなことを言って羅漢はコップを傾けていた。

 




羅漢には見えているかもしれない。顔は分からないようだけど。

個人的な解釈で
ト金になれる歩兵がヒカルで竜王駒は佐為かなと解釈します。

評価と感想があればやる気出ますので何卒…!!
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