ヒカルの碁に爸爸が居た場合   作:こしあんあんこ

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碁は分からないのでふわっとしてます。




変人は終局を迎えられなかった

 

 羅漢が碁会所に入ったのはたまたまだった。気まぐれにふらっとただ視界に入ったからそこ入っただけ。人とはぐれてしまって避難した先が此処だった。ただそれだけの話だ。だから特にすることもなく、時間を潰していた。碁会所は対局する人に溢れていた、対面する黒の碁石(男たち)白石()が時々混じって石を並べている。

 

 羅漢にとって多くの人間はそんなものに見えていた。男は黒石、女は白石。それにももへじ(・・・)をつけたようにしか見えないのだから人の顔などそんなものだと常に思っていた。知り合いでもせいぜい将棋の駒程度でやはり区別がつかない。前世(・・)も今世もこんなものだからきっと駒にまみれた世界が自分の世界なのだろう。最早慣れたものだった。碁盤を見てもこれまた白黒の碁石が色とりどりに並べられている。……いい加減目が痛くなってきた。頭も痛いし本当に碌な目に遭わない。そろそろ眠くなってソファの上で寝そべっていた。だが一向に迎えは来ないままだった。

 

――ああ、それにしても暇だ

 

 碁会所にいるならせめて一局やりたいと思っていたが、どうにも今日は運が向かない。白黒の碁石ばかりでつまらない一局になるのは明らかだった。それならばと新しくやって来る碁打ちに視線を見やるもやはり白黒の碁石ばかりがやって来るばかりだ。いっそ誰かをからかってやろうと思った頃だった。また入り口が開いて将棋の駒がやってきた。歩兵の子供に、竜王駒。どうにも極端な駒だが悪くはない。ようやく暇潰しになる相手を見つけた、羅漢はにやりと口角を吊り上げた。随分と悪そうな企んだ顔で羅漢は駒たちに近づいた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「叔父貴と同じ奴なんて久しぶりに見たよ」

 

 叔父貴とは誰のことだろうか?そんな疑問など羅漢が答えることはない。そもそも独り言だ、質問すらしていないのだから自然と話が流れてしまった。

 

「竜王駒が握るのかな?」

 

 竜王駒とは佐為のことなのだろうか?どうにも羅漢は人を将棋の駒に例える癖があるようだ。

 

「佐為は理由があって碁石を触れないんだ」

 

「触れない、と言うと?」

 

 不思議そうに首を傾げる羅漢に、今度こそヒカルは言葉を失った。見て分からないとはどういうことだろうか。どう見たって佐為は時代錯誤の格好をしているというのに。洋服が普及する日本ではどう見たって浮いていた。それに気づかぬ人間がいることの理由を少し考えれば分かるだろう。佐為も同様の反応を示してどう説明しようか考えているようだ。

 

「とにかく、触れないの!」

 

 佐為のことも言わないで、理不尽な物言いはヒカルの幼さを示していた。実際説明出来ないのだからどうしようもないのだ、そういうものだと納得したようで羅漢はすぐに質問を変える。

 

「打つのは歩兵の君かい?」

 

 歩兵もやはりヒカルのようだった。何を基準にしているか分からないが将棋の碁盤を想像する。歩兵は数多いから、そう想像してヒカルの眉が歪む。かなり失礼だとも思った。

 

「そうだよ」

 

 だから羅漢のおっさんが握ってよ、ヒカルもかなり失礼なことを言ったが羅漢は気にしていないようだった。適当に握り込んだ石の数を当て、先番を決める。またヒカルが黒石を持つことになって対局を始めた。

 

「右下スミ小目」

 

 佐為の指す扇子にそってヒカルが碁石を置き始める。羅漢もそれに従い白石を置き始めた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「小グイマガカリ」

 

 言われるがままヒカルが碁石を指定の交点に置けば羅漢は白の碁石を置く。互いに間髪入れず置かれていく碁石はどちらも善戦していることの表れだった。手厚い一手で路面全体を睨む佐為、最短距離で綱渡りをして危うい戦法を取る羅漢。どちらも卓越した打ち回しで今のヒカルでは打てないものばかりだった。食い入るように見入る局面、どちらが勝っているのかも分からない状態だ。羅漢も珍しく手を止めて長考しているようだった。モノクルを外して磨く素振りすら見せる。長考、いやこれは何かを懐かしむような顔だった。狐目だったその目はわずかに見開かれゆっくりと細めている。青い目がやけに輝いて見えた。

 

「羅漢九段!」

 

 どこからか声が轟く。その声を聞くなり羅漢はその眼を閉ざす。面白くないと言いたげに眉下を下がらせる様子から知り合いのようだった。知り合いらしい男が近づけば羅漢は待ったを掛ける。

 

「今いいところだ」

 

 今竜王駒と勝負してる。独特の表現で呼称するその名は佐為を指していた。秘密にしてと言ったのに。ヒカルは内心で羅漢を罵倒する。心臓を高鳴らせるも佐為を指していることには男は気付かなかった。

 

「今、それどころじゃないでしょ!」

 

 どうやら焦っているようだ。男は羅漢の腕を掴み立たせると無理やり走らせた。

 

「ああ、全く。終局も出来ないじゃないか」

 

 何処ぞへと連れていかれる羅漢は残念だと言いたげだ。碁打ちとは存外似ているのかもしれない。ああ、と佐為も同様に同じような反応を示していた。

 

「もう少しで掴めたのかもしれないのに」

 

 よよよと泣くような素振りで佐為が嘆いていた。掴めた、とは神の一手のことだろうか?中途半端に終えた棋譜を見ても今のヒカルには分からないことばかりだった。

 




羅漢の世界観は独特ですが顔を覚えられないのはすごく分かります。
パパはママと似た棋譜見るとキラキラするイメージです。
今日は此処まで。次回は何日か開くかもしれない。


評価と感想があればやる気出ますので何卒…!!

追記:12Pさん評価ありがとうございました!
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