ヒカルの碁に爸爸が居た場合   作:こしあんあんこ

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今世でプロのきっかけになったであろう話を想像して書きました。




変人にも思うところがある

 

 

 

 羅漢が意識を取り戻したのは物心付いた頃だった。羅漢は間違いなく老衰で死んだと思っていたのになぜか若返ってすらいるが、違和感が拭えない。どうにも周囲の取り囲む環境がおかしいように思えた。見知った建物が見当たらず景色も見覚えがないものばかりだ。いや、むしろ構造すら違っていた。読み慣れた文字も訳の分からぬ文字が混じってすらいる。まるで別世界にも思えた。歴史書を見る限り羅漢の居た頃に近いものを見たが皇帝がまるで違うからやはり別世界なのだと自覚する。

 

 同時に時代を先取りしていることにも気付いた。箱の中に人が居るてれびなぞ初めて見たし夜も昼のようにする電灯など羅漢の知らぬ技術だった。だがしかし、技術が向上しようとも羅漢にはさして変わりはない。覚えることが増えただけで顔は相変わらず碁石と将棋の駒でしかないのだから。顔の認識が出来ないと分かった途端両親の対応も変わったのはそれから間もなくのことだった。

 

 これは欠陥品だ、父と思しき男の声はよく知った声だった。愛人に走りそれを何とか止める母も前世で知る光景である。碁石で気付かなかったがようやく此処で羅漢は前世と同じ両親であることに今更ながら気付いた。両親は前世も変わらぬまま羅漢を無視する。放置も久しいな、そんなことを思いながら碁を将棋のルールを確認すれば前世と変わらぬことに少し安堵した。叔父貴も前世と変わらぬようで羅漢をよくかまってくれるから別に寂しさもない。前世の記憶を持っているのは自分だけのようだが人生はそのままなぞっているようである。心残りといえば羅漢には気がかりが一つだけ存在する。

 

――鳳仙と猫猫は何処にいるんだろうか?

 

 何せ、羅漢の愛した妻子が周囲に居なかった。娘はまだ生まれては居ないだろうが、愛した女だけはどうしたって出会えてはいないのだ。妓女などこの時代では時代遅れも甚だしい。探す術や心当たりがないため何処を探せばいいのか分からなかった。それが今の羅漢の現実である。探そうにもこの地球という球体には80億という人種が居る、その数から探すには世界中旅しなければならぬようだった。砂上の砂から一粒を探し出す作業とはどれ程だろうか。生きている間に再会できるものか。釈然としない不安だけが沸々と羅漢の心を蝕んだ。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

――この世界で生きている意味などあるのだろうか?

 

 羅漢にとってこの世界は駒と碁石で構成される人間ばかりである。人の顔として認識出来るのは鳳仙と娘の猫猫だけだった。叔父貴も居るのなら鳳仙も居るのは間違いない、だが見つけられないのであれば何の意味も価値もない。

 

 同時に鳳仙のことなど何一つ知らぬ自分にも気付いた。囲碁と将棋ばかりだった、甘い言葉など何一つない。鳳仙からもそういった言葉は囁かれたこともなかった、羅漢自身とてそういう柄でもなかった。互いに似た者同士でそうなった関係だ。結局交われぬままだ、すれ違って終わってしまうのであれば生きる意味など見出せなかった。ふと視界に入ったテレビには人が映っていた。プロ入りした最年少の、そんな内容だったが顔など分からぬ黒の碁石などどうでも良い。まるで嫌がらせのようにまざまざと見せられて気分が悪い。

 

――碁石と将棋の駒に囲まれるだけの生活はもう嫌だった

 

 何もかも不愉快だ、さっさとテレビを消そうとリモコンを手に取り電源ボタンを押そうとした。押せなかった、だってそこには人の顔があったから。女流プロ棋士、テロップはそんな謡い文句だった。不機嫌そうな顔で映る女の顔は羅漢が知る顔よりも幼く見えた。今の名前も変わらず鳳仙なのか、羅漢はただ茫然とそんなことを考えていた。その名に冠した花のようだった。鳳仙花のような触れたら弾けそうな、人を寄せ付けない眼をしている。

 

「……ああ、見つけた」

 

 そんなことを呟いた。やはり自分と繋げるものは囲碁なのか、胸の内が暖かくなっていく。将棋は今も出来るのかい?そんな質問が浮かんでは消えて、そして行動に移した。まずは金だろうか、工面はどうする。いや最初は親を何とかするのが先だ。あれはいらない、叔父貴に養父になってもらおう。叔父貴なら分かってくれる筈だ。

 

 ついでに誓約書を書いてもらおう。金輪際関わらない、そんな内容があれば金をせびられることもないだろうから。まずはプロになることから始めよう、羅漢はそう企んで笑みを浮かべた。金を稼ぐのは妻のため、子供のため。羅漢にとってそれが全てなのだから。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「参りました」

 

 頭を垂れる黒い碁石を見て、羅漢も頭を下げる。面白みにかける棋譜が出来てしまった、これならば竜王駒との棋譜を完成させたかった。そんな軽い後悔を胸に抱き羅漢はその場を後にする。検討も感想もしないのはそれだけ心が動かないからだ。興味を持てないことに時間を使う理由がなかった。後で多少は小言を言われるだろうがさして何の問題もない。仕事が増えるだろうが、大会の采配程度の仕事だ。

 

 将棋の駒を見合った場所に割り当てる(・・・・・)だけなのだから、そんな仕事は簡単だ。適材適所、それで大体は終わることができる。さして難しいことではない、ただそれだけやっていれば羅漢の仕事は終わりだった。慣れたものだ、たとえ自分が無能でも勝手に周りが仕事を終わらせてくれる。後は碁を打っているだけで金が貰えるのだから、良い時代だ。腹に一物抱えた連中を相手取ることもないから、本当に楽な時代だ。送迎の車に乗り込んで羅漢はそう考えてふと思いつく。

 

「娘に会いに行く」

 

 車を出せ、にやけたその顔はロクでもないことなのは明らかだった。運転する男は残業だと独りごちた。

 




羅漢は家族思いの不器用な男です。

評価と感想があればやる気出ますので何卒…!!

評価ありがとうございました!
明日のやたからすさん、shirokuma2022さん。本当にありがとうございました!
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