ヒカルの碁に爸爸が居た場合   作:こしあんあんこ

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鳳仙とのなれそめ話とか捏造してます。毎日こうして囲碁と将棋してそうだなって思います。前半は娘とのあれこれです。
なお鳳仙の性格は捏造です。

追記:猫猫の年齢を考えるに薬剤師には無理があったと察してドラッグストアのアルバイトで落ち着かせることにしました。彼女は絶賛勉強中です。



変人は愛妻家である

 

 

 

 あるドラッグストアの話である。定期的ではないが妙な客が来るという、そんな話だ。店に変な客が来るなんて言うのは珍しいことでもない。面白ければお昼の話のタネにくらいにはなるのでそれはその中の一つの話だった。

 

 客、というにもおこがましく男は訪れても買い物をしなかった。その本質は不審者である。店内に入り浸るモノクルを掛けた変人。そんな男が何故来店するかというとその男の娘が此処に勤めているからだった。理由としては娘の様子を見に来た。そんなところだ。実際娘の姿を見るだけで特に悪さもしないような男だった。こんな男でも所帯があるという事実は驚きであるが、そんな男が居れば通常の客は怯えるものだ。当然ながら許容できる筈もない訳でその処断はその男の娘自身が下した。

 

「営業妨害です」

 

 ただ構われるだけで嬉しいのか、破顔する男に対して娘はものすごい顔で睨んでいた。両極端な反応を示すが、満足したらしい。男はすぐに去っていった。まるで嵐が去った後のようである。実際そんなものだ、あのやって来るあの男を出禁にすべきか悩ましいところであるが実害はその娘以外にないから放置することになった。要するに、事案を後回しにした現実逃避である。現状維持でその親子の応酬を見るのもまた恒例行事にもなりつつあるのだった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 娘の職場から追い出されてしまえばいよいよやることもなくなってしまった。羅漢は渋々といった様子で自宅へ帰宅する。自宅に帰れば鳳仙が出迎えて食事を取った。家政婦が作った食事を平らげて風呂へ、風呂から上がれば妻との対局が恒例であった。囲碁と将棋、どちらかを先に選んで一試合終われば選ばなかった方を。勝ち負けは両者ともども半々で五分五分といったところだろう。やはり羅漢は囲碁で彼女には勝てなかった。将棋は逆で羅漢が勝つ。両者はどちらも鏡合わせのようだった。

 

「また勝てなかったな」

 

「……それは私も同様です」

 

 ねめつける鳳仙に対し相対する狐目が吊り上がる。いつものことだ、勝ち負けのその繰り返し。得意な盤上遊戯に勝てたら欲しいものを与える、互いにそんな賭けもしたがとんと勝てぬのでずっと平行線を走るばかりである。

 

「囲碁がやりたい」

 

「……私も、将棋がしたいよ」

 

 ずっとこうしていたいだなんていう洒落た言葉は出なかったが、それでよかった。前世よりもずっと幸せだとも思う。此処に娘が居ればなお嬉しいのだが、娘は勉強中だから邪魔をする訳にはいかない。それはまた今度だ。検討しよう、そう言って羅漢は棋譜を書き始めた。

 

「棋譜が出来たらもう一回しようか」

 

 もう一回というのはもう一巡するという意味である。妻は囲碁を、羅漢は将棋を。互いにしたいことがあるのだから公平にしようということだった。一日中共にする夫婦としての時間はさして色気づいたことはない、ただ囲碁と将棋ばかりである。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

――鳳仙は盤上遊戯を愛する女である

 

 とりわけ得意なのは囲碁で、囲碁に関してだけ言えば負けなしで大人にすら勝ててしまう程の棋力を有していた。その次に得意なのは将棋だったが此方も大人に勝ててしまう。天は二物を与えずというが、鳳仙はどちらも与えられた女だった。盤上遊戯という意味ではそれだけの才能を与えられたとも言える。与えられた才能を存分に育て鳳仙はプロ棋士を夢見ていた。ただ囲碁や将棋が出来ればいいと思っていたから死ぬまでの仕事をそれに定めた。出来るならばどちらも選びたかったがどちらも疎かになってしまうのが嫌だった。

 

 鳳仙は一つに絞り得意な方の囲碁の棋士を目指した。アマの大会に何度も繰り出して優勝し実績を重ねてプロになる。その間まで負け知らずで最強の女流プロという名声を周囲に轟かせた。だがそれでも男女の差が明らかに出てしまって決して楽しいこともなかったのも事実だ。だから勝つことで実力を示したがそれが面白くないらしい。妙なやっかみを受けることも少なくはなかった。男女混合の大会であるならばあからさまなそれは不愉快だ。鳳仙自身性格の苛烈さもある。尊大にもとれる態度をとってしまうのも至極当然の流れであったが、マスコミはここぞとばかりにそればかり取り上げた。

 

――ただ囲碁がしたいだけであるのに、どうしてだろうか?

 

 大きなバッシングとあらぬ風評被害に鳳仙は滅入っていた。ただ煩わしくなって試合も楽しめなくなった頃、ある男に出会った。モノクルを掛けた、狐目の男だった。やあ、と気さくに声を掛ける姿に面食らう。これまで負けなしの男だったと聞くからどんな男かと思えば、胡散臭いやら飄々としているやら。とにかく変な男だとも思った。話すことはないと睨めば男は笑みを深めるばかり。……どうにもやりづらい。

 

「よろしくお願いします」

 

 早く終わりたくて鳳仙は頭を下げた。男も頭を下げて黒石を一つ置いた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 結果はと言えば鳳仙の勝ちだった。勝ちといっても競って勝ったのではなく相手が自滅したのだ。そもそも綱渡りするような危うい戦法を行うからだ、綱から足を踏み外して後戻り出来なくなったのだから自業自得だった。だが、それでも此処まで追い込まれたのは事実だ。鳳仙はこの一局を面白いと思った。ははは、男から笑い声が漏れ出す。

 

「ひひッ……ふ、」

 

 こみ上げて止められないといったような馬鹿笑い。とうとう腹を抱えて笑うものだから変に注目を浴びた。ひとしきり笑って満足したのか涙目になって男は言葉を発する。

 

「やっぱり勝てなかったなぁ……」

 

 悔しそうでもなく、ただ感慨深く男はそう呟いた。まるで勝てないのが分かっていたような、そんな言葉を言われる。認められているような気恥ずかしさを覚えてすまし顔をする。だが、男はそれを崩さんとばかりに畳みかけて声を掛けた。

 

「鳳仙、こちらは出来るかな?」

 

 此方なら私は得意なんだ。変人は何処からか出してきたマグネット盤ゲームを取り出した。将棋だったが、今は感想戦をしなければならない場面だ。後でしましょうと言っても男は聞かない。

 

「今、しよう」

 

 私たちはいつもそうだったろう、そんなこと言われたって鳳仙は男とは初対面だった。理性は駄目だというのに、気付けば鳳仙はその駒を並べてしまった。無意識のことだった。そうでなくては、男はそう言って将棋を始めようとする。互いに駒を並べる時間だけが不思議と楽しくて堪らなかった。

 




大会中で起こした珍事として逸話として語り継がれている。なおこの将棋の局面は名局だったので棋譜が欲しいと殺到したとかなんとか。普通に考えると絶対ダメなやつだこれ!

評価と感想があればやる気出ますので何卒…!!

評価ありがとうございました!
坂マキさんありがとうございました!
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