あなたとなら、きっと超えられる   作:渚 龍騎

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最終回です。


7話 静かな星河 ─ 星に捧ぐ幸せ ─

 

 

 

「レース、見に来てくれたんですね」

 

 

 

 静かな声色で、金砂のような髪の少女は言った。

 それに対して漆黒の髪の男は、微笑んで「見てたよ」と頷く。丁度いい場所に腰を下ろして、足をぶらぶらと宙に放り、男は燦然と蒼い空を見上げた。

 

「本当に良かった。本当に凄かったよ、トップロード」

 

 誰に似てしまったのか、語彙力などなかった。

 ナリタトップロードは思わず「えへへ」と笑みを溢して、男を見上げる。蒼い空の下で、ナリタトップロードは自分の膝を抱えるようにしてその場に蹲っていた。

 

 

「私が菊花賞で勝てたのは、トレーナーさんのおかげです」

 

 

 トレーナーは「そんなことないよ」と首を振った。

 ナリタトップロードを見下ろせば、彼女は優しく微笑む。だがその笑みには僅かに悄然の色が混ざっていて、トレーナーもそれは直ぐに理解できた。

 

 

「トレーナーさんがあの時、私の背中を押してくれたから、私は二人の夢を叶えることができたんです。だから、トレーナーさんのおかげなんですよ?」

 

 

 諦めそうになった心を押し、引き摺り込まれようとした手を引いてくれたのは、紛れもない彼だった。

 

 あの時、声が聞こえなかったら。

 あの時、手を引かれなかったら。

 あの時、背を押されなかったら。

 あの時、心が重ならなかったら。

 決してあの菊花賞では勝てなかった。

 咲いた菊の大輪をこの手で掴み取ることも、覇を競い合ったライバルに勝つこともできなかった。

 すべて、トレーナーが『諦めるな』と言ってくれたおかげだ。

 

 

「だから、ありがとうございます」

 

 

 感謝を告げて、ナリタトップロードは顔を伏せる。その表情はトレーナーからだと位置が低くて見えない。目の前にいる。これほどまでに近くにいるのに、手を伸ばしても届かなかった。

 ナリタトップロードは「あはは……」と笑うが、そこにはやはり収斂する悲しみが見て取れた。鼻をすすり、服の裾を握り締めて数秒、彼女はポケットから一通の手紙を取り出して、震える手でそれを開いた。

 

 

「お手紙、読みましたよ」

 

 

 その手紙は、既にくしゃくしゃだった。

 握っている場所──手紙の両脇には強く握り締めたような跡があり、そこに書かれた文字も水滴の跡で滲んでいるほどに、その手紙は朗らかに汚れていた。

 ナリタトップロードは手紙を見つめて、握り締めている手も、そして見つめる瞳も震わせた。鼻をすする回数が増えていき、嗚咽も漏れ始めていた。

 

 

「トップロード……」

 

 

 震える彼女の肩に手を置こうとするも、決して届かない。それがあまりにも悔しくて、虚しくて、悲しかった。

 ナリタトップロードはその握り締めた手紙がさらにくしゃくしゃになるのも構わず、それを強く抱き締めて嗚咽混じりに何度も同じことを呟いた。

 

 

 

「ずるい……ずるいですよ……っ」

 

 

 

 その手紙の内容は、トレーナーが一番理解していた。

 

 

 

 想いと、別れの言葉。

 なにかを施す訳でも、色飾った言葉でもない。その大きな一面には、あまりにも寂しいたった二言を綴った手紙。そこに書き記された言葉とは────、

 

 

 

 

 

 〝好きだ〟

 

 

 〝別れよう〟

 

 

 

 

 

 ナリタトップロードを過去に縛り付けない為に、未来へと歩ませる為の別れの言葉。幸せになってほしいと願ったトレーナーの最後の想いが込められていた。

 それを理解したからこそ、実ってすらいない関係を勝手に完結され、ナリタトップロードはその想いを募らせて滂沱と涙を流していた。いつもそうだ、と一歩先を行くトレーナーに届かない恨み言を囁いて、ただただ〝ずるい〟と嘆くしかなかった。

 

 

「わたし……っ、わたし……まだ、ありがとうも……言えてないのに……っ!」

 

 

 ナリタトップロードは、ずっと泣いていた。

 ずっと、ずっと、トレーナーの墓の前で泣き続けた。涙を零し、嗚咽を漏らし、ただ泣き続ける。それを見つめることしかできず、トレーナーはナリタトップロードの隣で寄り添った。

 

 

「わたし……っ! 絶対にトレーナーさんのことを、忘れませんから……! ずっと、ずっと覚えてますから……っ」

 

 

 嗚咽混じりに、ナリタトップロードはそう言った。

 泣き止むまで、ずっと、ずっと、ずっと、恒久的な時間の中で、トレーナーは文句どころか言葉一つ語ることなく、ただただ黙って隣に居続けた。

 寄り添い、感じることのない温もりに手を添えて。

 

 

「トレーナー、さん……! 私も、トレーナーさんのことが、好きです……っ! 大好きです、すっごく好きです……! 心の底から愛してます……だから!」

 

 

 最後のワガママは、ナリタトップロードの口からは出て来なかった。彼女自身も、それは言えなかった。言ったら、なにもかも期待して、願って、止まらなくなって、ずっと過去にしがみついてしまうと分かっていたから。トレーナーも、それを知ったら悔やんでしまうと思ったから、最後の願いは言えなかった。

 

 

 

 ずっと、側にいた。

 ずっと、空に願った。

 ずっと、ずっと、ずっと、幾年も幾年も、ナリタトップロードは何度もトレーナーの墓参りに来た。其処に行けば、トレーナーを近くに感じられると思って、何度も行った。花を手向け、この前のレース結果や、学校で起きた出来事などを、トレーナーに語った。

 聞こえるはずもないと知りながら、淋しさを紛らわせて、ずっと過去の追憶にいた。

 

 

「トレーナーさんが亡くなって、もう大分経つのに……まだトレーナー室に行って、トレーナーさんを呼んじゃうことがあるんです」

 

 

 ナリタトップロードはそう言ってはにかんだ。

 

 

「無意識にメッセージも送っちゃったりもしてて……いつかふらっと返信が帰って来るんじゃないかなって、思っちゃう自分がいるんです」

 

 

 ナリタトップロードは目を逸らした。

 

 

「ダメですね……私がこんなんじゃ……トレーナーさんも、向こうで安心できませんよね……」

 

 

 トレーナーはゆっくりと首を振った。

 ずっと、ずっと見て来た。

 進むことのできない未来に停滞して、延々とこの世界に居座って、トレーナーはナリタトップロードの成長をずっと見た。

 レースで勝ったと喜びを見た。

 それよりも多く負けた悔涙も見た。でも諦めないと信念を燃やして、最後には立ち上がっていた。

 篠突く雨が降る日でも、ナリタトップロードは笑顔で未来を語った。トレーナーが心配しないように、自分は大丈夫だと言って。

 何年も、何年も、トレーナーはそれを見続けた。

 

 

「この前アヤベさんに不用心だって怒られちゃって」

 

 

 その笑顔を見た。

 その後悔を見た。

 その心情を見た。

 その決意を見た。

 その覚悟を見た。

 その挫折を見た。

 その落涙も見た。

 そして、その諦めの悪さを見た。

 聞くだけで、なにも返せない。何度も、何度も星に願った──〝もう一度だけ、彼女に逢いたい〟と。

 

 

「私、今度オペラオーちゃんと──」

 

 

 この歩んだ道は、決して間違いではない。そんなことは分かっている。理解しているからこそ、苦しみは積み上がって行く。共に駆け抜けた旅路は、輝かしく栄光に満ち溢れていた。

 終わらないでほしかった、と運命を憎んだ。

 終わらせないでほしかった、と神を恨んだ。

 やはり────後悔は募っていく。でも、ナリタトップロードに会えるのが嬉しくて、彼女の語りを聞くのが楽しかった。

 

 

 

 嗚呼、でもねトップロード──君には前に進んでほしいんだ。

 

 

 

 またおいで、と手を振りながら、そう思った。

 俺という枷に振り回されてほしくない。会えなくなるのは残念だが、俺のことなんて忘れて次に進んでほしい。それがナリタトップロードの歩む道だから。前を向いてほしい。

 自分勝手だと罵られてもいい。大好きだからこそ、愛しているからこそ、ナリタトップロードには幸せになってほしい。俺と違って、君にはまだ未来がある。

 

 

 

 だから、だから、だから────。

 

 

 

 俺が死んでからどれだけの月日が流れたのだろう。アドマイヤベガや、テイエムオペラオーが俺の墓参りに来てくれることもあった。

 

 みんな、成長した。

 もちろん、ナリタトップロードもだ。

 綺麗になっていた。いや、語弊があるな。元々綺麗だったし、可愛くもあったのが、更に磨きが掛かって思わず見惚れてしまうほどに、美しい女性に成長していた。それでも、彼女がナリタトップロードだと分かる。まだ幼かったあの頃の面影が僅かに残っていた。

 何年が過ぎたのか──十年か、二十年か、はたまた五年しか経っていないのか。兎にも角にも、気が遠くなるほど永く、長い月日が過ぎていた。

 

 

 その日、目の前には美しい女性が立っていた。

 俺よりも歳上の女性だ。いや、歳上になってしまった、と言うべきか。かつては見下ろしていたはずのナリタトップロードが、今では俺とあまり身長の差がない。元からの素材も相まって、女性としての魅力が更に引き出されていた。

 ナリタトップロードは俺の墓の前で膝を曲げて手を合わせる。遍く青空から吹き抜けた風と共に、彼女は髪を抑えながら顔を上げた。

 

 

「こんにちは、トレーナーさん」

 

 

 久しぶり、と返してもナリタトップロードには聞こえないし届かない。それを分かっていながらも、思わずそう返してしまっていた。

 聞こえるはずもない挨拶も、今ではなんとも思わない。ナリタトップロードは、目の前にトレーナーがいるとは思わず、何処かで聞いているのではないかと、漠然とした感覚のまま語り始めた。

 

 

「もう、何年になるんでしょうね」

 

 

 分からない。でも、果てしない年月が過ぎた。

 ナリタトップロードはゆっくりと立ち上がって、後ろで手を組んだ。ぼんやりと空を見上げ、息を吐いた。

 

 

「私、もうトレーナーさんの年齢を五つも越しちゃいました」

 

 

 ということは、もう二十年近く経つことになる。

 もう、そんなに経ったのか。それなのに、俺も君も、まだ過去に捕らわれている。前へ進めず、此処に立ち竦んでいる。

 

 

「記憶って、本当に酷いですよね。思い出を作る度に、過去を塗り替えてしまう……トレーナーさんの顔も、声も、仕草も、どんどん薄れていって……」

 

 

 現実は、非情だ。

 忘れないと誓っても、忘れたくないと願っても、記憶は未来を刻み続ける。過去を未来へと塗り替え、上書きして、やがては隅からも追い出されて忘れてしまう。〝生きる〟ということは、前へ進むということ。そうしなければ生きて行けないのだ。

 

 

「本当は、分かっているんです……淋しさを紛らわせる為に、こうやってこの場所に来るのを、トレーナーさんは望んでいないって。きっとトレーナーさんは、私が前に進むことを──幸せになることを、望んでくれているんですよね?」

 

 

 会えなくなるのは、イヤだ。それでも、ナリタトップロードには過去に囚われず前に進んでほしいと心の底から願っていた。

 頷いても、ナリタトップロードの景色には映らない。

 

 

「だから〝別れよう〟なんて言葉で、私を突き放したんですよね。あはは……すいません……私、トレーナーさんのことを忘れるなんて、できそうにないです……」

 

 

 ナリタトップロードは悲しげに──いや、申し訳なさそうに眉を寄せてそう言った。

 

 

「記憶がいくら非情でも、この心に刻まれた思い出がなくなることはありません。トレーナーさんの魂は、私の心といつも一緒です。だから、私がトレーナーさんを忘れることは、絶対にありません」

 

 

 トレーナーは、目を見開いた。

 心臓の辺りに手を置き、強く握り締めたナリタトップロードが、真っ直ぐにトレーナーを見つめた──決して見えている訳ではない。ただ墓石を見据えているだけだが、トレーナーにはそう感じた。

 向けられた瞳は、かつて見た眼差しと同じ色をしていた。強く、強く、激しく燃える決意の色。覚悟一色に染め上げた瞳だった。

 顔を伏せて、トレーナーは自身の手を見下ろす。微かに、震えていた。

 

 

 ようやく。

 

 

 

 ようやく。

 

 

 

 ようやく、分かった。

 俺が今もまだこの世界にしがみついていた理由。それはあまりにも子供っぽくて、トレーナーにとっては大事なことだった。意識的に縋りついていた訳ではない。本能が、それを望んでいた。

 

 

 なんだ、そんなことを心配していたのか。

 

 

 自分の愚かさに呆れる。そんなこと杞憂だと分かっているはずなのに、恐れて、怖がって、ずっとこの未来にしがみついていた。

 

 

 

 そうか。俺は、忘れられるのが怖かったんだ。

 

 

 

 誰かの死を嘆いても、やがてその死を忘れて、前を向いてしまうことを。自分の存在が、いずれは虚空の中に埋もれてしまうことが、なによりも怖かった。

 誰でもないナリタトップロードに忘れられてしまう。それが嫌だった。前を向けと言っていた自分が、彼女を信じられずに恐れていた。

 心配なんて、いらなかったのだ。

 杞憂。まさに杞憂だ。

 ナリタトップロードがこの先も忘れることがないのは、今この場にいることがなによりの証明だ。

 

 

 

 トップロード、君は本当に────。

 

 

 

 トレーナーは、ナリタトップロードを見つめた。

 強い眼差し。純粋で、美しく煌めくその瞳に、思わず見惚れてしまった。

 ナリタトップロードはふと空を見上げて、未だ蒼い遍きのこれからを語った。

 

 

「今日は、流れ星が見えるそうです。前に、トレーナーさんと見ることのできなかった流れ星です。あの場所で見れるって、アヤベさんが教えてくれました」

 

 

 星。流れ星。あの日、最後に見ることのできなかった流星。二人で一緒に見ようと語って、叶わずに終わった願い。ナリタトップロードは悲しげな表情を浮かべて、空の雲を睨んだ。

 あの雲が、願いを阻み、景色の行方を邪魔した。いくら恨んでも、それは運が悪かったと嘆くしかない。

 

 

 そんな顔をしないで。悲しまないで。

 そう言って抱き締めたい。彼女が安心できるように、慰めの言葉を掛けたい。

 

 

「あっ」

 

 

 ふと、腕時計を見たナリタトップロードが声を上げる。ゆっくりと息を吐き、トレーナーの墓石を見つめて「すいません」と謝罪の言葉を口にした。

 どうやら、時間が来たらしい。今の彼女には、今がある。仕方のないことだ。

 

 

「これからアヤベさんとオペラオーちゃんと、約束があって。今日はもう行きますね」

 

 

 頭を下げて、ナリタトップロードは踵を返す。トレーナーに背中を向け、一歩ずつ歩み出していく。だが数歩を歩んだ後で、ゆっくりと大きく息を吸ったで彼女は振り返った。

 笑顔で笑って、ナリタトップロードは告げた。

 

 

 

「昔も、今も、この気持ちは変わりません。トレーナーさん、大好きですよ」

 

 

 

 可愛らしく微笑んで、ナリタトップロードはまた背中を向ける。そんな彼女の行動に驚かされながらも、トレーナーはその背中を見送った。

 空を見上げてから、初めて振り返った。

 このまま先に進めば、此処に戻って来ることはなくなる。端的に言うなれば、成仏することになる。なんとなくだが、漠然とそう感じたのだ。

 しかし、トレーナーはナリタトップロードが歩んだ先を振り返って、自身の胸に手を当てた。

 

 

 

「まだ、一つだけやり残したことがある。だから初めて頼むよ、神様。それさえやり遂げられたら、もう後は何も望まない」

 

 

 

 トレーナーは、いるはずもない神にそれを願う。

 

 

 

 

 

 満天の夜空──遥かの星々は、酷く輝いていた。

 かつて大切な彼と並んだベンチに腰を下ろし、ナリタトップロードはぼんやりと空を見上げている。綺麗な星に心を奪われ、それでも意識はその先を見据えていた。

 吹き抜ける風が、ひんやりと冷えていて、露出する肌が冷たい。もっと厚着をしてくるべきだった。

 同時に、冷える腕を擦りながら空を見上げて──、

 

 

「あの日、トレーナーさんと、見たかったな……」

 

 

 叶うはずのない願いを呟いていると、闇夜の空、星々の間を縫って煌めく光があった。尾を引いて、夜空を瞬く銀色の流星。一瞬だけだが、ナリタトップロードは思わず声を上げた。

 瞬間、風が強く吹き荒れた。

 木々が揺れ、遠くの海がさざめく。葉々の擦れる音が、夜の静寂に奏でられた。

 肌を撫でて行き、冷えた感覚は身体全体を蝕む。そしてナリタトップロードは「くしゅっ」と、寒さに耐え切れずクシャミをした。

 改めて、厚着をして来れば良かったと思った。

 

 

「アヤベさん、まだ来ないのかな……」

 

 

 そう疑問に感じて、振り返ろうとした直後──ナリタトップロードの視界を一瞬だけなにかが遮り、寒さで凍えていた首にマフラーが巻かれた。かつて、大切な彼から貰った誕生日プレゼント。それが巻き終わると、隣から声が聞こえた。

 

 

 

「──月が、綺麗だね」

 

 

 

 聞き覚えのある声。忘れかけていたその声は、ナリタトップロードの奥底に眠っていた記憶から引き出され、それが誰の声なのかを一瞬で知らせた。

 驚愕で目を見開く。え、と声を漏らす。ゆっくりと隣に視線を向ければ、そこには過去の中に生き、今を生きているはずのない彼がいた。

 写真の中で見た彼だ。

 記憶に眠っていた彼──トレーナーだった。

 

 

「トレーナー、さん……?」

 

 

 信じられず、問い掛ければ、トレーナーは「久しぶりだね」と手を振った。

 紛れもない彼だった。

 信じられない。驚愕で、頭が回らない。ナリタトップロードは夢を見ているのではないかと、自分の頬を抓った。痛い。夢ではなかった。

 

 

「どうして、ここに、トレーナーさんが……」

 

 

 トレーナーは脚を組み、顎に手を当てて「うーん」と唸る。そしてなにか閃いたかのように指を立てた。

 

 

「心の絆がきっと、俺たちを会わせてくれたんだよ」

 

 

 瞬く夜空の世界──ふたりは再会した。

 冗談混じりに告げたトレーナーの言葉に笑い、ナリタトップロードは思わず込み上げてきた涙を人差し指で拭った。彼だ。容姿も、声も、仕草も。間違いなく彼だった。

 

 

「ほんとうに、本当に、トレーナーさん……なんですか……?」

 

 

 なにを言っているんだと言わんばかりに不思議そうな表情を浮かべ、トレーナーは「俺のこと、もう忘れたの?」と悪戯に笑った。

 それを理解した直後、ナリタトップロードの必死に何年も抑え続けて来た感情が爆発して溢れ出した。

 

 

「──トレーナーさんっ!!」

 

 

 勢い良く、ナリタトップロードはトレーナーに抱き着く。勢いで仰け反りそうになりながらも耐え、驚きで声を上げるが、トレーナーは胸の中に顔を埋めるナリタトップロードの頭を優しく撫でて反応を示した。

 押し付けるように顔を埋め、トレーナーの胸の中で発せられた籠った声がナリタトップロードの慕情を、次から次へと音にして現して行く。

 

 

「──ずっと、ずっと会いたかった……っ!」

 

 

 俺もだよ、とトレーナーは囁く。

 あの日、夢を勝ち取ったあの時から、ふたりの間には銀河よりも果てしなく遠い境界ができた。

 生きる者と、死んだ者。

 進み続ける者と、停滞してしまった者。もう決して出逢うことのできない神が定めた運命。

 死とは、主観的な意志の永遠の消散。『存在』自体を『不存在』へと変えてしまう、ありとあらゆる生命の前にある永遠の恐怖。その概念は永遠に付き纏う。

 

 

 

 だが、ふたりは出逢った。

 神の恵みか、情けか、いずれにせよ──ふたりはまた互いに抱擁を確かめ合った。

 体温を感じ、脈拍を感じ、これが虚実でないと実感する。神に対する猜疑心は逡巡が捨て去った。これは確かな真実であると、目の前の大好きな人を強く抱き締めた。

 

 

 

 抱え込み続け、蓋をして金輪際もう吐き出すことのできなかった万感の想いすべてを、ナリタトップロードは滂沱と溢れる涙と共に流した。

 

 

「ありがとうも、ごめんなさいも、全部言えなくて……っ、トレーナーさんにお別れもできなくて……っ!!」

 

 

 ナリタトップロードは何度も、何度も、窘める後悔を吐露し続けた。同じことを、何度も、ただ何度も。もう決してト離さないとばかりに、トレーナーを抱き締める。それを咎める訳でもなく、トレーナーは優しい言葉で「大丈夫だよ」と彼女を宥め続けた。

 

 

「ずっと、ずっと寂しくて……! もうっ、本当に淋しかった……っ!! トレーナーさんのいない世界が、こんなに苦しいと思わなくて……っ、何度も、あとを追いかけようと思っちゃって……!」

 

 

 トレーナーの死による影響は、トレーナー自身が思っているよりも遥かに大きいものだった。

 死は、息絶えた者だけが背負う運命ではない。その者を慕い、敬い、愛する者たちの心にも決して癒えぬ傷を刻み込む。それは敷衍していき、やがて新たな死を齎すことさえ起こり得る。いくら前を向くといっても、その心は既に蝕まれ、一歩を進める度に心は重く、湾曲してしまう。矯めることなど、そう簡単な話ではない。

 

 

「でも……っ! トレーナーさんは、そんなこと望んでないって、何度も言い聞かせて……!」

「そっか……ごめんね、トップロード……」

 

 

 眉を寄せ、ナリタトップロードを優しく抱き締めながら謝罪を告げる。だが彼女は、トレーナーの胸に抱き留められながら額を押し付けた。首を振って、駄々をこねる子供のように嗚咽混じりに声を荒げた。

 

 

「ヤです……絶対に許しません……本当に、会いたかったんですよ……っ!! すごく、もうっ、本当にすっごく会いたくて!!」

 

 

 感情を思いっきり露わにしている所為で、ナリタトップロードの語彙力はいつにも増して低下している。嗚咽を漏らし、溜まりに溜まった感情を吐露し続け、トレーナーを強く抱き締めた。

 

 

「でも……! トレーナーさんの分まで必死に生きようって、思って……私の幸せをきっと願ってると思って、今まで、ずっと頑張って来ました……っ!」

「うん、ずっと、見てたよ。君の頑張りも、苦しみも、全部見てた──よく頑張ったね、トップロード」

 

 

 優しく、慈しむように。労るように。そして愛おしむように、トレーナーは囁いた。

 抱き留めて、既に決壊してしまったナリタトップロードの激情を受け止める。彼女自身ずっと封じ込めていたつもりで、しかし欠片も消すことのできずにいた吹き溜まりだ。収まることはない。

 だがそれでも、時間は限られている。彼女のすべてを受け止めることはできない。

 トレーナーはナリタトップロードの肩を持って、その消滅した距離を僅かに取り戻す。抵抗されるかとも思ったが、なにかを察したようで、彼女を簡単に引き剥がすことができた。

 

 

「すごい顔してるよ?」

 

 

 滂沱と溢れる涙がナリタトップロードの顔を盛大に汚していた。トレーナーに笑われて、ナリタトップロードは慌ててマフラーを顔に巻き付けて隠した。

 

 

「トレーナーさんが、悪いんですよ……」

 

 

 涙ぐんだ恨み言を吐き捨てれば、トレーナーは爽やかに微笑んでナリタトップロードの頭を柔らかく撫でる。もう感じることのできないと思っていた温もり、その手の感触を懐かしく思いながら、ナリタトップロードはマフラーの中で笑った。

 

 

「トップロード」

 

 

 名前を呼ばれ、ナリタトップロードはひょっこりと顔の半分だけマフラーから出した。鼻をすすって、潤んだ瞳をトレーナーに向けた。

 彼は微笑んで、その視線を海の彼方へと移す。釣られてナリタトップロードもその先を見つめた。ただぼんやりと、さざめき揺らめく光を照らす海を見つめていた。

 

 

「淋しい時は、淋しさを見つめるんだ」

 

 

 海の彼方を見つめて、トレーナーはそう言った。

 その瞳に、ナリタトップロードは釘付けにされた。綺麗な瞳だった。真っ直ぐで、汚れ一つない宝石のような瞳。ずっと愛おしく、会いたかったその横顔に、見惚れていた。

 

 

「飲み込まれてはいけないよ。ただ、見つめるんだ」

 

 

 トレーナーの瞳がこちらを射抜く。ナリタトップロードは思わず視線を逸らして俯いた。

 あれだけ大好きな人の前で感情をぶちまけて、涙で顔をぐしゃぐしゃに汚していながら、それでも突如として湧き上がった羞恥心で、その瞳を真っ直ぐに見ることはできなかった。

 トレーナーは隣に座るナリタトップロードの肩に手を回して引き寄せた。

 

 

「──君は、前に進まなきゃいけない。大丈夫、少なくとも、星はよく見えるから」

 

 

 そう告げたトレーナーの瞳は、優しさと信頼に満ち溢れていた。

 悲しく辛い時でも、夜になれば星は輝く。光が瞬き、淋しくともその煌めきは心の闇夜を照らす。そして天に昇りし者たちが、星々となって生きとし生けるものたちの進むべき道を示してくれるだろう。

 

 別れの時が近い──漠然とした感覚ではあったが、ナリタトップロードはそう感じた。トレーナーの声色もどこか悲しげで、別れ惜しむように感じられた。

 まだ離れたくない──そう思っても、今起こっていることこそが奇跡だ。もう既にこの世を去ったものが、この世にずっといられるわけではない。これは神様が与えてくれた最初にして最後の希望だ。

 トレーナーの顔が見れない。きっと自分は、今も酷い顔をしているに違いない。こんな悲しい顔では、トレーナーを見送れない。昔のように、笑って送り出したいのに、これじゃダメだ。

 

 気持ちを切り替えようと顔を振って、頬を叩いた。だがそんな一瞬で気持ちの切り替えなど簡単にはできない。結局は無駄な足掻きでしかなく、ナリタトップロードは今の自分に呆れ果てた。

 そんな彼女を、トレーナーは呼んだ。

 

 

「トップロード」

 

 

 顔を上げる──瞬間、トレーナーの顔が息が掛かるほど眼前にあって、ナリタトップロードの慟哭は驚愕に変わる。だが驚くよりも先に距離を詰められ、自分の唇に柔らかな感触が重ねられた。

 いつの日か味わったその感覚。今度は相手から求められ、その唇は初めて彼に奪われた。

 勢いのあまりに当たった前歯がむず痒い痛みを奔らせ、ナリタトップロードはゆっくりと瞳を閉じる。じっくり、時間を掛けて、ふたりはお互いを確かめ合うように、息が苦しくなるまで──離れた時には、ふたり揃って肩で息をしていた。

 

 離れても、それは息が掛かるほど近くで。トレーナーの瞳に映る月光に照らされた自分は、あまりにも間の抜けた表情をしていた。

 距離が離れたことで見えたトレーナーの表情は、悪戯な彩りを見せている。微笑んだトレーナーは、呆気に取られてぽかんと口を開けているナリタトップロードの唇に人差し指を当てた。

 

 

「いつぞやの仕返し」

 

 

 その『いつぞや』が指し示す過去。ナリタトップロードには心当たりがあった。

 まだ夢を掲げる頃──覚悟を宿したあの日、眠りについたトレーナーの唇と自身のそれを重ねたのを今でも覚えている。あの瞬間の感触も、味もずっと記憶に残っている。それを理解した直後に、ナリタトップロードは思わず声を呑んだ。

 

 

「ば、バレてた、んですか……?」

 

 

 恥ずかしさを堪え、恐る恐る問い掛ければ、トレーナーは微かに口角を上げて苦笑を見せた。

 

 

「冗談のつもりだったんだけど。まさか──」

「うっ──」

 

 

 しまった、と思った時にはもう遅い。トレーナーはいやらしげな表情でナリタトップロードの顔を覗き込む。様子がおかしいのを、焦る顔の表情から読み取ってトレーナーは笑った。

 

 

「その様子だと本当らしいね」

「す、すいません……」

「謝んなくていいよ、これでおあいこだ」

 

 

 申し訳なさげに俯いたナリタトップロードにそう言って、トレーナーは彼女の唇に触れた。そしてゆっくりとベンチから立ち上がり、大きく腕を上げて「んん〜っ」と伸びをしたトレーナーは振り返った。

 

 

「もうすぐ時間だ」

 

 

 その言葉に、ナリタトップロードは思わず俯いた。

 なぜなら、これから訪れる時間とは『別れ』のことだと察したからだ。だがそんなナリタトップロードの手を引いて立ち上がらせ、トレーナーは彼女と真っ直ぐ見つめ合って笑った。

 

 

「トップロード──君は、安らぎと自分の場所を見つければいい。縁が君を導くだろう」

 

 

 それでも僅かに寂しげな表情をするナリタトップロードの顔に手を添え、トレーナーは優しく告げた。

 

 

「そんな顔をしないで──」

 

 

 言葉を紡いだ瞬間、トレーナーがふと顔を上げて微笑み「見上げてごらん」とナリタトップロードに促し、二人で星々の輝く夜空を見上げた。

 地平線の彼方まで続く海を照らし、それを見つめるナリタトップロードの瞳が大きく見開かれた。見つめる先で、満天の星々をも穿く一条の光が、夜闇を切り裂いた。

 

 

「これ……」

「嗚呼、良かった──やっと君と、流れ星を見られた」

 

 

 ポツリと、トレーナーはそう口にした。

 あの日、夜空は分厚い天蓋に閉ざされた。

 空と大地は区切られ、天空の星々が大地を恍惚と照らすことはなかった。ふたりで流れ星を見ることはできず、もう金輪際それを見ることはできないと思っていた。

 

 

 だが、この日、二十年近い時の果てに、ふたりの願いは天窮に至った。

 

 

 漆黒に染まる空を穿った、一際目立つ満月。遥かな空から舞い降りる一筋の光──人々が願いを捧げるその星が、闇夜を切り裂くが如く空を駆け抜けていった。

 銀色の流星。蒼き光を引いたその星は、やがて塵となりと溶けるように消えていく。だがそれは一つだけでなく、目を見張るような数だった。

 

 一つ、また一つと、空に軌跡を描いて瞬く間に消えていく。あの日、あの時に見ることのできなかった流れ星。憐憫に輝く光が、夜空のキャンパスを無数に彩った。

 夜空を見上げ、ナリタトップロードは目尻に浮かぶ雫を拭い、それと同時に悲しむ気持ちを捨てて頬を叩く。覚悟は、決めた。

 振り返り、空を見上げていたトレーナーを真っ直ぐに見つめた。

 その瞳には、光が宿っていた。

 

 

「トレーナーさん」

 

 

 呼ばれて、彼は見つめ返す。どうしたの、と首を傾げたトレーナーに向け、ナリタトップロードは抱いた覚悟を言葉に──想いをその音に変えて、強く誓った。

 

 

「──私、いつかトレーナーさんに〝幸せな人生〟だったって言えるように頑張ります! トレーナーさんに頂いた夢を信じて、必ず言ってみせます。だから、それまで待っていてください」

 

 

 ナリタトップロードは、笑った。

 咲き誇る花のような──彼女のその笑顔に見惚れ、向けられた炯眼に射抜かれて、トレーナーは自身の胸に手を当てた。

 ゆっくりと息を吸って、ナリタトップロードの瞳を真っ直ぐに見つめ返す。そしてこの短い時の中で感じられた安心感を口に出した。

 

 

 

「──立派になったな、トップロード」

 

 

 

 幾星霜もずっと見てきた。

 たった一言。ただ、それだけ充分。ここは別れの挨拶なんかじゃない。トレーナーは微笑み、ナリタトップロードは込み上げる涙を抑え込んで、精一杯の声で返事をした。

 ただ一言────、

 

 

 

 

 

「──はいっ!!」

 

 

 

 

 

 それだけ。

 

 

 

 眩い光が、視界を覆う。思わず伸ばそうとした手を抑えて、ナリタトップロードはその光の先を見つめた。

 星に射抜かれて──瞬く間に視界は真っ白に染まっていく。最後に見えたのは、満面の笑顔で手を振るトレーナーの姿だった。

 

 

 

「──さようなら、トレーナーさん」

 

 

 

 傷付いた魂は、星のように輝く──あの時に言えなかった別れを、永い歳月を経てようやく言えた。

 遠く、遠く、遥か遠くに──トレーナーは消えていく。その姿を名残惜しく感じながらも、ナリタトップロードは踵を返して歩み出した。停滞していた世界から、前に、進み出す。

 

 

 

 ──────ロード、さん。

 

 

 

 声が聞こえる。聞き慣れた声だ。

 

 

 

 ────トップロードさん。

 

 

 

 木霊する声に、ナリタトップロードの意識は眩い光の中から浮上する。身体が揺すられ、頭上から名前を呼ぶ声が聞こえた。ゆっくりと、意識を覚醒させて瞳を開くと、視界に二人の影が映った。

 見覚えのある二人だ。虚ろになっていた意識が戻り、ぼやけていた視界が安定してようやくそのシルエットが鮮明に理解できた。

 

 

「アヤベさんに、オペラオーちゃん……」

「良かった……遅れて来てみれば、あなたがここで倒れてるから、なにかあったのかと思って心配したのよ」

「倒れてて……」

 

 

 アドマイヤベガにそう言われて、ナリタトップロードは辺りを見渡す。そこはさっきまでトレーナーと話をしていた場所。星を見る約束を施した場所だった。

 

 

「夢、だったの……?」

 

 

 空を見上げても、流れ星は落ちていない。トレーナーがいた形跡は、まるで残っていなかった。

 ナリタトップロードの肩に手を置いていたアドマイヤベガが、隣で手を組むテイエムオペラオーに呆れの眼差しを向けて呟く。

 

 

「彼女がもっと早く支度をしていたら──」

「おやアヤベさん、ボクはこの遍く星々に負けない輝きを放たなければならないからね!! それ相応の準備は必要なのさ! 星はボクの次に美しいものなのだよ!!」

「うるさい、適当にコーヒーでも飲んでて」

 

 

 テイエムオペラオーの芝居掛かった言葉を一蹴し、アドマイヤベガはナリタトップロードに心配げな眼差しを向ける。そこで彼女は微笑み、ナリタトップロードの首に巻かれたマフラーを見つめて腕を組んだ。

 

 

「それ、懐かしいものを持ってきたのね」

 

 

 え、と声が漏れる。慌てて首に手を当てると、柔らかな感触に触れた。直ぐに視線を向ければ、それはかつてトレーナーから渡された誕生日プレゼントのマフラーだった。

 自宅に置いて来たはずのマフラーが、この首に巻かれていた。込み上げてきた微笑みをマフラーで隠し、まだ感じる温もりに浸りながら空を見上げた。

 

 

「とても、良い夢を見ました」

「それはボクとの一幕のようだね!!」

 

 

 鷹揚と手を広げたテイエムオペラオーに、すかさずアドマイヤベガが淡々と「ちょっと黙ってて」と睨む。その二人のやり取りに苦笑しながらも、ナリタトップロードは柵の向こう側──漆黒に染まった海と空を見つめながら、マフラーを指で触れた。

 

 

「とても、心地の良い優しい夢でした」

「そう、なら良かったわ」

 

 

 アドマイヤベガは柔らかく微笑んだ。

 これから先──未来の中で新しい彼が記憶されることはない。ふたりで歩むことはできない。彼と会うためには、過去へ遡り、停滞した世界に浸るしかない。もうずっと、前へは進めないと思っていた。

 過去の中で生き続けるしかないと。だが、夢の中で起こった出来事は決して虚実ではない。

 

 

 空を見上げれば、一つの流星が舞い降りた。

 

 

 ナリタトップロードは、人々のように願いを告げる訳でもなく、流れ星を見つめて微笑んだ。願いが叶ってほしいと祈るのではない。ただ、空の彼方にいるであろう彼に向けて、言葉を紡いだ。

 あの日、あの誕生日の時に言えなかった言葉である。

 

 

 

「マフラー、ありがとうございます──トレーナーさん」

 

 

 

 天に祈りを、空に誓いを。

 ナリタトップロードは前を向く。生きているものは、死んだものたちの意思を背負って前に進むしかない。

 

 

「それじゃあ、用意するものがあるから手伝って」

 

 

 アドマイヤベガに言われて、テイエムオペラオーは彼女の後をついていく。そしてナリタトップロードも「はい!」と直ぐに立ち上がった。

 一度、海の方へと視線を向けてから振り返って歩き始めた瞬間──トン、と背中を押された。確かに手で押された感覚。振り返った直後に風が吹き抜けて、ナリタトップロードは思わず髪を抑えた。

 緩やかに落ち着いた風が、頬を撫でる。振り返って、ナリタトップロードは微笑んだ。

 

 

 

 ────見守っていてください、トレーナーさん。

 いつの日か、この人生は幸せだったと誇れるように。

 

 

 ────星のように輝くあなたへ、この幸福を捧げます。

 

 

 

 星々の咲き誇る世界、流星が舞い降りる。輝かしい夜空の下で、首に巻かれたマフラーは、些かばかり温か過ぎた。

 

 

 

 

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