IS シュヴァルツェ・ハーゼはかく語りき   作:薄影 (黒ウサギ党)

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第10話 福音を炎で灯せ

「さぁ、始めようか!」

 

 俺は赫灼を発動し一気に福音との距離を詰める。

 

『新たな敵機を確認。迎撃モードに移行、データの収集を開始』

「こっちの情報もやるから、そっちの情報もよこしやがれ!」

 

 炎を纏った鉄拳を福音に向けて放つが福音は空へと急上昇し回避と同時にウイングスラスターから爆発する光弾『銀の鐘(シルバー・ベル)』を放つ。

 それをランダム回避で避けながら次の一手の準備を進めようとした時、視線の端に海面上に浮かぶ何かが見えた。

 

「あ? なんだあれ?」

(あれは?)

「船か?」

(密漁船みたいだな)

「密漁船だぁ?」

(どうやら、あれが一夏のやられた原因みたいだな)

「殺っちまうか?」

(うーん。犯罪者とはいえ民間人だしなぁ)

「おい! 来たぞ!」

 

 上空から新たに振り下ろされる銀の鐘を海面ギリギリで避ける。しかし避けた先に居た密漁船に直撃し大破する。そのまま海に沈み、その形は消えて無くなった。

 

(うわぁ‪……)

「ありゃ助からないな」

(仕方ないさ。それよりも)

「あぁ、アイツ俺たちを待ってやがる」

 

 さて、なんで俺がさっきから独り言を呟いているのか疑問に思った人がいるだろうから説明しとおこう。

 簡単な話、俺ことレオン・ブリューゲルは二重人格者である。いつもは冷静な方が主導権を握っているが、こういった場合や気分の高揚でもう1人の戦闘狂の方が主導権を握る。

 どういった経緯なのかは追々と。

 

「なぁ相棒?」

(なんだよ)

「送られてきた装備の試験といこうぜ!」

(今回はお前のターンだ。好きにしろ)

「OK!」

 

 フラムの腕から炎を出し空で十字を切る。すると空中に炎の十字が顕現した。

 そして

 

「クロス・バーン!!」

 

 その十字の炎を殴った。真っ直ぐ福音に飛んでいく十字、しかし福音はそれを避けてこちらに向かってくる。

 

「避けたな!」

 

 拳を握ると福音の後方に飛んで行った十字が急に震えだす。

 

「メテオ・バーン!!」

 

 炎が弾けて流星群のように福音に向かって降り注ぐ。

 

『!?』

 

 福音も急な攻撃に戸惑いを見せたが直ぐに回避行動に移る。

 大型スラスターを巧みに使い落ちてくる火球を避けていく。

 

「チッ! 流石に当たってはくれないか」

 

 なぜ本来なら空中に留まることの無い炎が形を保っていられるのか、それはフラムに搭載されたもう1つのオプションパーツである『炎の記憶(エアインネルグン・アン・デイ・フラム)』の能力である。

 装備確認の際にあったヘッドセット、あれがこの能力を使うために必要になる。単純な話、頭で考えたことを実際に投影できるといったものだ。さっき俺の頭では『炎を十字で空中投影』→『炎を殴る』→『空中で爆散』というのを一つ一つの動作ごとに脳内で構築、実行する。普通の人間(・・・・・)の脳処理じゃできない芸当だ。俺みたいに2つの人格で別々の処理を行えるからこそ発揮出来る能力だ。

 

「さてと、わざと逃げ道がわかるようにルートを限定させて火球を落としたんだ……行くぜ!」

 

 スラスターを一気に吹かして福音が行くであろうルートに先回りする。案の定、福音はルートを通って火球を逃れてきた。

 

「八ッ! ビンゴ!」

『ッ!?』

 

 福音が俺の存在に気づいた時には既に遅く。迎撃のために手刀を繰り出してきた。

 

「遅せぇよ!」

 

 左脇腹付近に渾身の右ブローをかます。ガンっ! と金属に当たる音が空に響く。そしてフラムの右腕が赤く光と同時に衝撃が福音を襲う。

 

「火力最大……バニシング・パンツァー!!」

 

 雲一つない青空、その色とは真逆の赤色が大きな爆発音を響かせた。その爆発は海面を揺らし小規模な津波をおこした。

 

「はぁ、はぁ、流石に傷のひとつは付いてて欲しいんだがな……」

 

 腕の残り火を振って消しながら吹き飛ばし黒煙に包まれている福音を見ていた。

 次第に黒煙が晴れていくとそこには福音がいた。しかし攻撃を受けた左脇腹部分からは火花が飛び散っている。

 

「へっ傷は負わせられたな…」

(どんどん攻めるぞ!)

「あいよ!」

 

 もう一度スラスターを吹かし福音に再度接近する。福音は距離を空けようとスラスターを吹かし空へと登ろうとするが損傷の影響で距離を空けられないでいた。

 

「その傷じゃ逃げるのにも限界があるよな!」

 

 俺はフラムの炎を槍の形にして福音に向けて突く。

 虚を衝かれた福音は突きを躱しきれずに直撃、よろける。そこを見逃さず追撃に入る。右手には槍をそして左手に新たに顕現したのは『刀』。しかも大太刀。

 槍で突いて敵の注意をそらした隙に大太刀を思いっきり上段から振り下ろす。

 福音のフルフェイスヘルメットにガンッ! と鈍い音が鳴ると福音は海に向かって落ちていく。

 

「追撃!」

 俺は両手に作った武器を消して炎を溜める。そして溜められた炎を福音に向けて一気に放出する。

 

「くらえ! イグナイテッド・バースト!」

 

 炎の火球を絶え間なく福音に浴びせ続ける。福音の姿が爆炎によって見えなくなる。

 炎のよる攻撃を止めるとウインドウ画面には『WARNING』の文字がデカく表示されていた。俺はコマンドを入力し冷却システムを起動した。熱を帯びた機体に冷却剤が循環し機体からは蒸気が漏れだしていた。

 

「いい加減、停止してくれれば楽なんだがな」

 

 そんな甘い考えは直ぐに吹き飛ぶ。爆炎から福音が現れた。しかしあれだけの猛攻を受けた福音は所々で火花を出していたりと損傷を受けていた。

 

『ザ……ザザ……』

「ん?」

 

 通信機の不調かノイズ音が聞こえる。俺は通信機の信号(チャンネル)を調整しノイズ音を取り払う。

 すると

 

『ブリューゲル君! 聞こえますか?』

「こちらブリューゲル感度良好」

『先程、海岸にて織斑君、篠ノ之さんが到着。織斑君は待機していた医療班によって臨時の医療室に運ばれました。これによりブリューゲル君の任務は遂行と判断し撤退してください』

「あ〜了解」

 

 通信は司令室に残っていた山田先生からだった。どうやら黒の疾風が一夏と箒を花月荘の海岸まで運び終えたようだ。ならば俺の任務は完了した。福音を倒せなかったのは残念だがこれ以上の深追いは禁物だな。

 

「相棒どうやらここまでらしい」

(あぁ、撤退しよう)

「もう少し殺りあいたかったんだがな」

(仕方ないさ相棒、交代だ)

「あいよ」

 

 そして俺は両目を閉じもう一度開いた。するといつもの赤い瞳に色が戻る。

 

「さてと撤退だな」

 

 俺はフラムを花月荘のある方角に向けてスラスターを吹かた。

 俺が戻ると海岸には織斑先生に司令室にいたIS専用機組そして絶望にうちひしがれた箒、それと1年女子達が野次馬を作って揃っていた。

 

「レオン・ブリューゲルただいま帰還しました」

 

 俺は織斑先生の前まで行き敬礼をした。

 

「御苦労」

 

 ただ一言織斑先生はそう言うと

 

「一般生徒は只今をもって部屋にて待機。専用機持ちは大広間にて待機していろ! 解散!」

 

 そう言うと生徒たちは自分の部屋へと戻って行った。そして俺も歩き出そうとした時。

 

「…………ッ!」

 

 クソ……痛覚が戻ってきやがった! 周りに気がつかれる訳にはいかないな。

 

「レオンどうしたの?」

「いやなんでもない」

 

 俺の異変に最初に気がついたのは鈴だった。こういう所は察しが良いなコイツ。

 

「それよりも鈴」

「なによ」

「箒のことなんだが」

「あぁ、アレ」

 

 鈴は砂浜に座り込む箒を睨みつけてため息吐く。

 

「まぁ、そんな顔するな。とりあえず次があるかはわからんが、そうなった時、箒の紅椿は必要になる。ひっぱたくなり、説教するなりして立ち上がらせろ。同じ一夏の幼なじみのお前にしか出来んことだ。頼むぞ」

「その言葉は卑怯じゃない? まっいいわ。その役、アタシが引き受けようじゃない。で? あんたはどうするのよ」

「俺は少し体を冷やしてくる。流石にフラムの炎を使いすぎた。体がさっきから熱くてしょうがない。みんなには後で合流するとだけ伝えておいてくれ」

「わかったわ」

 

 そう鈴に言って俺は自分の部屋へと向かった。

 

 

 

 部屋に着き。ISスーツを脱ぐと左脇腹から血が溢れ出てきた。

 

 クソ! かすっただけでここまでの出血か……

 

 本来ISにはエネルギーシールドがあり。それが操縦者を守る役割がある。しかし俺のフラムは新たに付け加えた赫灼炎熱機構(フラムアインス・エンジン)は1つの欠陥がある。それは取り付けた場合エネルギーを動力に全振りするためにシールドにエネルギーを回すことが出来ないのだ。

 それ故に俺は福音との戦闘を入る前に自分の痛覚を遮断して戦いに挑んだ。だから攻撃が当たったのに気がつかなかった。

 そして海岸に戻った時にちょうど痛覚が戻ってきていた。激痛の中俺は傷口を見ていた。

 

「縫ってる余裕は無さそうだな。仕方ないフラム」

 

 俺はフラムを右手に部分展開をして人差し指と中指を合わせて指先に熱を溜めた。

 

「よし。やるぞ」

 

 口にタオルを加えて全身でりきむ。

 そして熱が充分溜まった指先を傷口に向けて差し込む。

 

「ーーーーーグッ!!」

 

 激しい激痛が身体中を駆ける。

 

「ンンンンンンンッ!!」

 

 肉が焼ける臭いが洗面所を覆う。そして激痛で今にも気を失いそうになるのを我慢しながら傷口を焼いて塞いでいく。

 そして傷口が完全に塞がれると俺は口にくわえていたタオルを落とした。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 そのまま俺は部屋に備え付けの風呂場に入り冷水で体の熱を冷やすのと傷口を洗い流した。

 そして頭の中で俺は今回の福音との戦闘で得た情報を思い返して次に行えるように作戦を立て始めた。

 

「それで相棒。今回の福音戦を経てお前はどういう感想を述べるよ?」

「そうだな。まず今回の福音戦においての俺たちの弱点は情報不足と実戦経験の少なさだ。一夏達においては箒の完全なる油断と傲慢が招いた結果だ。それを含めても福音に対してある程度の情報を得たことだけが唯一の救いだな」

 

 俺は頭の中でもう1人の人格と今回の戦いの結果と反省を含めた脳内会議を行っていた。

 

「相棒。お前から見てあの福音はどう見えた?」

「そうだなぁ。アイツは何かを守るような行動をしているように見えたな」

「守る? 何を」

「羽のスラスターが焼け落ちるのは気にしてなかったのに大太刀を振り下ろした時アイツは防ぐ動作をしたんだよ。おかしいとは思わねぇか? AIでの無人操作ならわざわざ本体を守るようなことしないだろ?」

「たしかにな、もしかして福音は有人機でAIはサポート用だったってことか……だがそしたらあのスーツの中にいるパイロットはどうしてこっちの呼びかけに応えなかった?」

「もしかしてだが、気を失っているんじゃないか? それなら呼びかけに応えられないのも納得する」

 

 謎が謎を呼ぶとはこの事か。そう考えると福音は全体の何割かを自らの体つまりは操縦者保護に使っていたということになる。AIが独自にそう判断したと仮定してのことだが。暴走しているのに保護を優先……矛盾しているな。

 

「まぁこんな水掛け論は置いておくとして。次に備えての準備だが」

「そうだな。織斑一夏という対抗手段が使えない今。最も効率が良いのは……」

「織斑一夏と白式に匹敵するだけの火力が必要ってことか…………」

「あぁ今頃、鈴が箒に何かしらのアプローチをかけているという前提で話を進めるが良いか?」

「構わねぇぜ。それでその空いた火力をどう補う気だ?」

「忘れたのか相棒?」

「あ? 何がだよ」

「今ドイツ本国からこっちに向かってきてる輸送船の荷物があるじゃないか」

「おいおい。アレをぶっつけ本番で使う気かよ!?」

「それしか活路はない。もしそれでも落とせなかった場合は俺たちのフラムの最大火力の奥の手を使うだけだろ?」

「はぁ……お前には頭が上がらないぜ。さすが俺の相棒だ」

 

 二ッと俺たちは笑い合い。脳内会議は終了された。

 

 まっ一番の問題点はこれが承認されるかってとこなんだけどな……

 

「さてと行動に移りますか」

 

 浴場を出て着替えてから俺はスマホを取りだして電話をかけた。

 

『は〜い。こちらあなたの愛する母ことガブリエラ・ブリューゲルでーす』

「母さん……」

『あら〜レオンどうしたの? 衛星中継で見てたわよ。頑張ったわね! 母さん鼻が高いわ!』

「そんなことはどうでもいいんだよ。母さ……ブリューゲル元帥」

『ッ! 何かしらブリューゲル中尉』

「今こっちに向かっている輸送船に日本海域ギリギリの位置で停止するように呼びかけて貰えないでしょうか?」

『理由を聞いても?』

「もう一度あの天使に再アタックするつもりです。それには輸送中の装備が必要と判断しました」

『ふむ。勝算は?』

「五分五分……よく言っても七分三分ってところですかね」

『わかったわ。輸送船『ヨーツンヘイム』には日本海域に入らずにそこで兵装の組み立て作業に入るよう伝えておくわ』

「助かります元帥。それでは」

『必ず勝ちなさい』

Verstanden, Herr Marschall.(了解です。元帥閣下)

 

 そして俺は部屋を出て大宴会場に設営された司令室に向かって歩き出した。途中で臨時の医務室を通ったがそこには寝たきりで無数の機械に囲まれた一夏の姿があった。

 俺は一夏に近づき一夏の顔を覗き込んだ。

 

「悪かったな一夏。あの時、無理にでも箒を止めるべきだったな。そうすればお前がこうはならなかっただろうな。だから戻ってこいよ起きたら全てが終わってるだろうからよ」

 

 俺はそう言って医務室から出ていき司令室のある大宴会場へと向かった。

 到着するとモニターには海上で停止している福音が映し出されていた。どうやらドイツが監視衛星の映像を送っているようだ。

 そして部屋には箒もいた。鈴は上手くやったようだな。

 

「れ、レオン」

「よう! 箒、元気が戻ったようで何よりだ」

「それで……な」

「おっと! 謝るのは無しでいこうや。お互い生きてるそれで良しってことにしておこう」

「し、しかし!」

「なんなら次こそはアイツを倒そうや」

 

 そう言い俺は織斑先生の元へと足を進める。

 

「ブリューゲルかどうした?」

「織斑先生、折り入ってお話があります」

「なんだ?」

 

 俺は一息入れてから口を開いた。

 

「銀の福音に対しての第二次攻撃を要求します」

 

 部屋にいた一同が驚いた。モニターに向かって座っていたオペレーター組の教員も驚きのあまりこちらに振り向く。

 

「なぜそう思った?」

「織斑先生の言いたいことは十分に理解していますが、今回の撤退戦で確信を得ました。一夏と白式という最大火力を失っている今は数がものをいいます。それに」

「それに?」

 

 俺はモニター越しの福音を見てから、もう一度織斑先生を見た。

 

「現在、福音は停止している叩くなら今のうちです! 下手に相手に時間を与えると不測の事態が起きてからでは遅い。ならばもう一度こちらからやるべきです!」

「そうか……」

 

 千冬は手を口に当て思考してから口を開いた。

 

「策はあるのか?」

「えぇ、現在輸送中のシュヴァルツェア・フラムドライの追加パッケージ『黒の稲妻(シュヴァルツェア・ブリッツ)』を日本海域ギリギリの位置で現在建造と調整を行っています。それをもって福音を撃墜するつもりです」

 

 それを聞いていた専用機持ち組達は驚きを隠せていない。それもそのはず今レオンが言ったことは白式と紅椿をもってしても勝てなかった福音を白式以外の専用機で倒そうと言っているのだから。

 

「ちょ、ちょっと待ってよレオン!」

「そうですわ!? わたくし達で福音に挑めと!?」

「無理言うんじゃないわよ! 一夏と箒でも落とせなかったのに!」

「まぁまぁ落ち着けよお前ら」

 

 俺は手のひらを荒れ狂う奴らに向けて振る。

 

「しかし、いつの間に輸送船とコンタクトを取ったのだ?」

「あぁ、さっきここに来るまでに本国経由で連絡してもらったんですよ。俺が輸送船に着く頃には完成させてくれてるでしょうし、なんとかなるでしょう」

「その追加パッケージをレオンが使うとして僕たちは何をすれば?」

「あぁ福音の囮になってくれ。こっちの準備が完了するまでの間」

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

 うるさっ! 一気にハモリながら騒ぐな。ウザイ。

 

「四の五の言わずに従え」

「私はやるぞ」

 

 今まで黙っていた箒が正座から立ち上がりこちらを見てきた。

 

「今回、私のせいで一夏がああなってしまった……もしやり直せるのなら私はやり直したい。だがそれは出来ない……だからこそチャンスがあるのなら私はそれに賭けたい!」

 

 箒の決意にみんな心を打たれたようで次々と。

 

「はぁ……わかったわよ」

「箒さんがこうまで言ってるのですし仕方ありませんわね」

「うん! みんなでやろう!」

「一夏の弔い合戦だな!」

「という事です織斑先生!」

 

 全員が織斑先生の方を向いた。その目には闘志がみなぎっていた。

 

「……わかった。作戦を許可する」

 

 そして俺たちの福音に対するリベンジ戦が始まる。第二次福音討伐戦が今ここに切って落とされた。




今回は文字数少なめでお送りします

次からは第二次福音戦と一夏復活になり福音戦はラストになります

どうかお待ちください
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