IS シュヴァルツェ・ハーゼはかく語りき   作:薄影 (黒ウサギ党)

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第11話 第二次福音討伐戦

 さて現在は陽の光が海に消えて辺りは暗い青色になっていく中、俺は海の上を飛行していた。

 何故かって言うと装備を使うために輸送船へと向かっていた。黒の疾風(シュヴァルツェア・シュトゥルム)を装備して最速で輸送船に着くようにしている。

 

 輸送艦『ヨーツンヘイム』

 ドイツ海軍が開発した輸送艦であり最大積載量は欧州トップクラスを誇る程のものである。一般人向けに遊覧船の役割をになっているため国内では人気の観光船としても認知されている。

 

「艦長、レーダーに感あり。こちらに接近する機影あり!」

「機体照合を急げ! 各員第1戦闘配置! 副長、対空砲の準備を!」

「了解!」

 

 その掛け声に副長である『ケンブリッジ・ゲーリング』は艦内放送で船員に呼びかけた。

 

『総員、第1戦闘配置! これは訓練では無い。繰り返すこれは訓練では無い!』

 

 その放送を聞いた乗組員はバタバタと艦内を走り回る。

 

「照合まだか!」

「もう少し……出ました! ドイツ第3世代型ISシュヴァルツェア・フラムドライです!」

「ふぅ……副長、警報解除。総員第2警戒態勢の指示を」

「はっ!」

 

 艦長である『マルティン・プロノホウ』は帽子を取ってうちわのように風を扇ぐ。

 

「さてと後方甲板に行くとするか。副長後を頼むよ」

 

 席を立ち、艦橋を出て後方にあるヘリ等の航空機類を降ろすことの出来る甲板へと向かった。

 俺はヨーツンヘイムから来た通信に従い後方甲板に向かって降りた。

 

「よっと」

 

 フラムを解除して甲板に着地。そして格納庫から歩いてきたプロノホウ艦長に対して敬礼をした。

 

「お初にお目にかかります。黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)所属のレオン・ブリューゲル中尉であります!」

「御苦労ブリューゲル中尉。ヨーツンヘイム艦長のマルティン・プロノホウ中佐だ」

 

 艦長が手を出して握手を求めてきたので俺もそれに応えて握手をしかえした。

 

「母から聞いています。昔大変お世話になったと」

「ハッハッハッ! まさかあのお転婆娘が今ではドイツ軍の元帥になるとは思わなかったよ! 私は君の祖父とは長い付き合いでね。だからある意味君のお母さんは私にとっても娘みたいなものだよ」

 

 お互いの近況報告をしたのに本題に入った。

 

「さてと中尉。君の要望通りの物を組み立てておいた」

「助かります中佐。しかし聞いてはいましたが本当にデカいですね」

「あぁ、こいつを博物館から持ってくるのは一苦労だったと陸軍の連中が嘆いていたよ」

 

 ほんとに申し訳ねぇ陸軍の連中。

 

「まぁ後のことは彼から聞いてくれ。マイ中尉!」

 

 そう言うと奥から1人の技術士官がやってきた。

 

「やぁ久しぶりだねレオン」

「全く元気だったかオリヴァー!」

 

 俺とオリヴァーは握手を交わした後にハグをしてお互いの肩を叩いた。

 

『オリヴァー・マイ』

 俺と同じ時期に士官学校を卒業した同期で階級は中尉。海軍技術相勤務で主に武器などの試験評価や試作装備の開発などを専門にしている。

 

「今回お前が来たってことはコイツの試験評価か?」

「まぁ概ねそんなところだけど。ドクトル・シューゲルに頼まれてフラムの試験データも回収して来いって言われてね」

「あのオッサン待てって言葉知らないのかよ……」

「アハハ……とりあえず僕はコレの最終調整をするよ。後のことは無線機で指示を出すから」

「了解!」

 

 そして別れてから俺は後方甲板のさらに奥側に牽引されている貨物船に向かって歩いた。

 そこには輸送艦よりもデカい代物が乗っかっていた。

 

 その名は『黒の稲妻(シュヴァルツェア・ブリッツ)

 元々は第二次世界大戦次に列車砲として作られた代物。それをIS用に改良する計画が当初持ち込まれたがあまりにも巨大でありISの特徴である機動性が失われるとの事でお蔵入りになり博物館で展示されることになっていた悲しき兵器。

 今回の作戦でコイツの最大口径80センチの砲塔2門による長距離砲撃を敢行する。例えISであってもこれを喰らえばひとたまりもあるまい。だがデカい分装填にも時間がかかる。それ故に紅椿、ブルーティアーズ、甲龍、ラファールリヴァイブ、シュヴァルツェア・レーゲンの5機には福音と交戦しつつ囮になってもらい。砲撃ポイントへの誘導もお願いしている。

 

「さてと時間通りなら、そろそろアイツらが交戦するはず」

 

 俺はウインドウ画面を開き黒の稲妻との回線を接続する。

 後方に備えられた観測場ではオリヴァー達技術員が観測作業をするために準備を整えていた。

 

『ブリューゲル中尉。こちらは準備完了です。そちらはどうでしょうか?』

「こちらも完了。黒の稲妻とのリンク接続、搭乗します」

 

 稲妻から2つのワイヤーが降りてくる。それをフラムに取り付けるとそのまま上へと上昇していく。そして稲妻のコックピット部分に着くと後ろから顔を覆うようにセンサーユニットが降りてきた。

 これじゃあロボットアニメだな。

 

全接続(オールシステム・)完了(オールグリーン)。衛星とのリンクを確立、標的索敵を開始」

 

 観測場

 

「黒の稲妻の観測データリンク接続」

「受信に問題なし」

「バグ等の問題は現時点をもって確認できず」

「よし。これより試作兵器・黒の稲妻の観測を開始する」

 

 並べられたパソコンや機材がずらりと列を成して置かれる中オリヴァー・マイは全体の指揮を執る。

 

「衛星からのリンク接続」

「目標は未だに沈黙したままです」

「目標に接近するIS反応あり、データを照合します」

「データ照合完了! IS学園所属の1年専用機部隊です」

「了解。ブリューゲル中尉。目標にIS学園の専用機が接近しました。作戦開始です」

『了解。初弾装填!』

 

 それを合図に上部クレーン2台がそれぞれ弾頭を薬室に入れる。

 

「初弾装填を確認」

「冷却剤用意よろし」

「圧力ポンプ正常に作動」

「薬室内温度上昇中、最大初期稼働まで役2分」

 

 

 一方その頃、専用機組はというと

 

 福音を取り囲むような布陣で配置についていた。

 全員の装備を確認していこう。

 

 セシリア・オルコット/ブルー・ティアーズ

 強襲用高機動パッケージである『ストライク・ガンナー』を装備、速度500キロを超える速度での反応を補うために顔部分にはバイザー状の超高感度ハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』を装着している。武器は全長2メートルの大型BTライフル『スターダスト・シューター』により火力を上げている。本来の仕様のビット6機をスカート状の腰部に接続することにより機動性を上げている。まさに強襲用と言ってもいい物になっている。

 

 凰鈴音/甲龍(シェンロン)

 機能増幅パッケージ『崩山』を装備している。甲龍の装備である両肩の衝撃砲『龍砲』は本来2門であるが増設され4門になっている。撃ち出されるのは不可侵の弾丸ではなく赤い炎を纏った弾丸を放つ拡散衝撃砲に変化し破壊力が増している。

 

 シャルロット・デュノア/ラファール・リヴァイブ

 リヴァイブ専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』は実体シールドとエネルギーシールドの2つのを装備し各2枚づつのシールドをカーテンのようにして防御させる。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ/シュヴァルツェア・レーゲン

 パンツァー・カノニーアは……前に説明してるし割愛! 

 

 

 

 

 そして彼女たちが見つめる先には福音がいる。その体勢はまるで胎児のような姿でうずくまっている。

 膝を抱くように丸めた体を守るように頭部から伸びた翼が包んでいる。

 

「……………?」

 

 不意に福音が顔を上げる。

 次の瞬間、超音速で飛来した砲弾が頭部を直撃、大爆発を起こした。

 

「初弾命中! 続けて砲撃を行う!」

 

 5キロ離れた場所の岩場にいるIS『シュヴァルツェア・レーゲン』とラウラは福音が反撃に移る前に次弾を発射する。

 撃ち出された弾丸を福音が避けようとした時、弾丸が目の前で弾け中から数十発の炸裂弾が福音を襲う。

 

『ーーーー!?』

 

 福音は避けようとしたが数発喰らい体がよろけるがすぐに体勢を立て直しラウラへと向かった。

 

(敵機接近まで……4000……3000……くっ! 予想よりも速い!)

 

 あっという間に距離が1000メートルを切りラウラへと迫る。その間も砲撃を行っているものの、福音は翼から放たれるエネルギー弾によって半数以上を撃ち落としながら接近してきた。

 

「ちぃっ!」

 

 砲戦仕様はその反動相殺のために機動面を犠牲にしているため両立が難しい。黒の稲妻よりはコンパクトにしているが相殺するために足元にアンカーを打ち込むためにその場に固定することになる。

 対して機動力に特化している福音は300メートル地点からさらに急加速を行いラウラへと右手を伸ばす。

 ーー避けられない! 

 しかしラウラの口元はニヤリと歪めた。

 

「ーーセシリア!!」

 

 伸ばした腕が突然上空から垂直に降りてきた機体によって弾かれた。

 青一色の機体の名は『ブルー・ティアーズ』その機体によるステルスモードからの強襲だった。

 

「あなたの相手はラウラさんだけではなくってよ!」

 

 ブリリアント・クリアランスから送られてくる情報を元に福音を捉えて射撃する。

 

『新たな敵機を目標Bと認識。排除行動へと移る』

 

 福音がセシリアにターゲットを移し、射撃を避けたその時。

 

「遅いよ!」

 

 真後ろから別の機体が福音を襲う。

 それは先刻の突撃時にセシリアの背中に乗っていた同じくステルスモードのシャルロットだった。

 ショットガン2丁による近接射撃を背中に浴びた福音は姿勢を崩す。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐさま3機目の敵機に対して銀の鐘による反撃を開始。

 

「おっと! 悪いけど、このガーデン・カーテンはそのくらいの攻撃じゃ落ちないよ!」

 

 福音の攻撃を防御しながらシャルロットは得意の『高速切換(ラピット・スイッチ)』によってアサルトカノンを呼び出しタイミングを計って反撃を開始する。

 加えて高速機動射撃を行うセシリア、距離を置いて砲撃をするラウラ。3方向からの射撃に福音はじわじわと消耗を始める。

 

『……優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先』

 

 全方向にエネルギー弾を放った福音は次の瞬間、全スラスターを開いて強行突破を図る。

 

「させるかぁっ!!」

 

 海面が膨れ上がり爆ぜる。

 飛び出してきたのは真紅の機体『紅椿』と、その背中に乗っていた『甲龍』であった。

 

「離脱される前に叩き落とす!」

 

 福音へと突撃する紅椿。その背中から飛び降りた鈴は崩山を戦闘状態に移行される。

 計4門の衝撃砲が一斉に火を噴き福音に襲いかかる。

 

『!!』

 

 肉薄していた箒が瞬時に離脱、その後ろから衝撃砲による弾丸が一斉に降り注ぐ。福音にも勝るとも劣らない弾雨。

 

「やりましたの!?」

「ーーーまだよ!!」

 

 拡散衝撃砲の直撃を受けてなお福音はその機能を停止していなかった。

 

『銀の鐘最大稼働開始』

 

 両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自身から見て外側へと向ける。刹那、眩しい程の光が爆ぜエネルギー弾の一斉射撃が始まった。

 

「くっ!!」

「箒! 僕の後ろに!」

 

 前回の失敗を踏まえて箒の紅椿は機能限定状態にある。展開装甲を多用したことから起きたエネルギー切れを防ぐためだ。現在は防御時にも自発作動しないように設定し直したのだった。

 もちろんそう設定したのは防御をシャルロットに任せられるからこそである。集団戦闘の利点を最大限に生かした役割分担である。

 

「それにしても……これはちょっときついね」

 

 さすがに防御専用のパッケージであっても福音の異常な連射を立て続けに受けるのはやはり危うかった。

 そうこうしている間にも物理シールドが1枚、完全に破壊された。

 

「ラウラ! セシリア! お願い!」

「言われずとも!」

「お任せになって!」

 

 後退するシャルロットと入れ替わりにラウラとセシリアがそれぞれ左右から射撃を始める。セシリアは高機動を生かした移動射撃をラウラは砲戦仕様による交互連射を行う。

 

「くっ! レオンはまだか!」

「もう少し時間を稼がなければ!」

「足が止まればこっちのもんよ!」

 

 そして直下から鈴による突撃。双天牙月による斬撃の後に至近距離からの拡散衝撃砲を浴びせる。ーーー狙いは頭部に接続されたマルチスラスター銀の鐘。

 

「もらったぁぁぁっ!!」

 

 エネルギー弾を全身に浴びながらも鈴の斬撃は止まらない。

 同じく拡散衝撃砲の弾雨を降らせ、互いに深いダメージを受けながら、ついにその斬撃が福音の片翼を奪った。

 

「はっ、はっ……! どうよーーぐっ!?」

 

 片側だけになった翼でもなお福音は体勢を崩すもすぐに立て直し鈴の左腕へと回し蹴りを叩き込む。脚部スラスターで加速されたそれは一撃で鈴の腕部アーマーを破壊し海へと堕とす。

 

(動きは止めたわよ…レオン。しくじったら後で蹴り殺すからね……)

「鈴! おのれっーー!!」

 

 箒は両の手に刀を持つと福音へと斬りかかる。その急加速に一瞬反応を失った福音の右肩へと刃を食い込ませた。

 

(猟った!!)

 

 そう思った刹那、福音は信じられないことに左右両方の刃を手のひらで握りしめている。

 

「なっ!?」

 

 刀身から放出されるエネルギーに装甲が焼き切れるが、お構いなしに福音は両腕を最大にまで広げる。

 刀に引っ張られ箒が両手を広げて無防備な状態を晒す。そしてそこに残ったもう1つの翼が砲口を解放して待っていた。

 

「箒っ! 武器を捨てて緊急回避をしろ!」

 

 そう叫ぶラウラ。しかし箒は武器を手放さなかった。

 

(……ここで引いては、なんのための……)

 

 エネルギー弾がチャージされ光が溢れる。

 

(何のための力かっ!)

『お待たせ! 箒! 刀から手を離して全力で回避しろ! 巻き込まれても責任は取れないぜ!』

「っ!?」

 

 そして一斉に放たれるが、箒は手から刀を離し全力で急降下し海に堕ちた鈴を回収、その場を離れた。

 その直後、福音の背部が大きく爆発し、その衝撃で福音が大きく吹き飛んでいった。

 そしてそれから数十秒後に爆発音が海域に響いた。それはまさに雷鳴のようだった。

 

 

 

 時はラウラ達が交戦を始めた直後に戻り、太平洋海上の輸送艦ヨーツンヘイム。

 観測員が衛星から送られてくる映像を見ながら実況していた。

 

「IS学園専用機部隊、目標と接敵、交戦に入りました!」

「データは随時フラムドライに送るんだ! 最新情報は常に更新し続けろ!」

 

 慌ただしく観測員たちの手が動き続ける。

 フラムに送り続けられるデータを確認しながら、みんなが奮闘しているのがわかる。

 

「薬室内の温度が臨界点に到達!」

「第1射発射準備用意よろし!」

「中尉! 最新データによる観測完了。最終調整のデータを入力をお願いします!」

『了解した』

「福音の動きが止まりました!」

「しかし中国代表候補生が堕とされました!」

(鈴が!?)

『最終データ入力完了!』

 

 データが入力されると稲妻は自動でその方角、角度を調整し発射体勢に入った。

 俺の視線には超高感度ハイパーセンサーによって福音を捉えることが出来た。福音の姿は片翼がもがれている状態で箒が福音の両肩に刀を突き立てていた。

 しかし福音は刀を握りしめそのまま大きく広げていた。箒が同じように両腕を広げる形になったと同時にセンサーが目標を捉える。

 

(鈴サンキューな!)

 

「初弾発射する!」

「作業員は退避ー!」

「全員、耳を塞げ!」

 

 作業員が退避所に避難する。そして耳を塞ぎその場に伏せる。

 

『総員、耐衝撃体勢! 揺れるぞ!』

「操舵手! 絶対に舵から手を離すなよ!」

「りょ、了解!」

 

 艦内放送からプロノホウ艦長の声が響いた。艦内の作業員も現在の作業を中止し手当り次第に掴まる。

 

「お待たせ! 箒! 刀から手を離して全力で回避しろ! 巻き込まれても責任は取れないぜ!」

 

 そして箒が刀を手離し急降下し視線から消えた瞬間、俺は引き金を引いた。

 その瞬間、とてつもない轟音と衝撃が艦を襲った。

 

「うわぁぁぁ!!」

「ぬおっ!? 舵そのまま! 艦を傾けすぎるな!」

 

 衝撃による波の変動は凄まじく大きく上下左右に揺れ続ける。

 俺は目線をずっと福音に向けていた。弾速75kmの弾丸2発が福音に命中する。

 

「命中確認! 次弾装填!」

 

 発射と同時に中の冷却剤が一気に外に放出され辺りに冷ややかな空気が流れる。

 そしてクレーンが次の弾頭を釣り上げて薬室に入れ込む。

 視線の先に見える福音は爆煙の中にいて見えないが直撃したはずだ。あの直撃を受けてなお動くのなら化け物だ。

 

「目標はどうなった!?」

「ダメです。煙が濃くて観測できません!」

「クソ! 仕方ない黒の稲妻の観測データは?」

「観測データは凄いものです!」

「よし! 次弾発射までにデータを更新しておけ!」

「「「了解!!」」」

 

 観測所は大騒ぎ状態だが、それに構ってはいられない。次弾の準備が整い次第、撃たなければならない。

 俺は通信チャンネルを切り替えて現場にいるラウラに通信を送った。

 

「ラウラ。こちらブリューゲル応答を」

『レオンか! 今のはなんだ!? とてつもない威力だったぞ!』

「本国から送られてきたパッケージですよ。パンツァー・カノニーアの初期型と言っても良い奴です。それよりも鈴の状況は?」

『あぁ、鈴は大丈夫だ。腕のアーマーが壊れたが命に別状は無い』

「それは良かった……俺はこのまま第2射を行うために準備を進めます」

『わかった。こちらも用心しておく』

 

 

 

 

 ざぁ……。ざぁぁん……。

 

(ん? ここは……?)

 

 遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、俺はどこともつかぬ砂浜の上1人歩いていた。

 見渡すばかりの白い砂浜と青く輝く海が視線に見えていた。

 足を進める度に、さく、さく、と足下の砂が澄んだ音を立てる。

 足の裏に直接感じる砂の感触と熱気。海から届く潮の香りと波の音。それに心地よい涼しい風と、じりじりと照りつける太陽。

 

(暑いな……夏……なのか?)

 

 それにしてもここはどこで今がいつなのかわからないな。そして俺はなんでIS学園の制服を着ているんだ? オマケに律儀に裾を上げて素足のまま砂浜を歩いて。手には靴を持っている。

 

「―――。―――♪ 〜〜♪」

 

 ふと、歌声が聞こえてきた。とても綺麗で、それでいて元気な歌声。

 なんだか無性に気になって声の方へと足を進める。

 さくさく。

 さくさくと。

 足下の砂が軽快に鳴る。

 

「ラ、ラ〜♪ ラララ♪」

 

 少女がそこにいた。

 波打ち際、わすがにつま先を濡らしながら、その子は踊るように歌い、謡うように躍る。その度に揺れる白い髪。輝き眩いほどの白色。

 その白色のワンピースが風に撫でられて時折ふわりと膨らんで舞った。

 

(ふむ……)

 

 俺はなぜだか声をかけようとは思わず、近くにあった流木へと腰を下ろす。その木は随分前に打ち上げられたのか、樹皮は剥げ落ち色も真っ白になっていた。

 白い歪なソファに座って、俺はぼーっと踊る少女を見つめた。

 ざぁざぁと波の音が聞こえる。

 時折吹く風は心地よく俺はただただぼんやりと目の前の光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 もう一度センサーを覗くと黒煙が晴れていくところだった。

 そして黒煙の下部分から物体が落ちるのが見えた。福音だ。さっきの砲撃で残っていた片翼も破壊され、崩れるように海へと堕ちていった。

 

 現場にいたメンバーも黒煙から堕ちる福音を目で捉えていた。

 箒は鈴をラウラのいる岩場まで連れて行っていた。

 

「鈴! 大丈夫か!?」

「えぇ……おかげさまでね……それより福音(アイツ)は?」

「あぁ作戦は成功だ! 福音は堕ちている」

「そう……なら無茶したかいがあったわね……」

 

 そんなやり取りを横で聞いていたラウラがオープン・チャネルで「私たちの勝ちだ」と言おうとしたその瞬間、海面が強烈な光の珠によって吹き飛んだ。

 

「!?」

 

 球状に蒸発した海は、まるでそこだけ時間が止まっているかのようにへこんだまはまだった。その中心、青い雷を纏った銀の福音が自らを抱くかのようにうずくまっている。

 

「これは……!? 一体、何が起きているだ……」

「まさか!? まずい! これは……『第2形態移行(セカンド・シフト)』だ!」

 

 

 その異様な光景はその場から離れていたヨーツンヘイムにも映像で送られてきていた。

 

「目標に高エネルギー反応!」

「ありえない! IS1機のエネルギー量をはるかに超えているぞ!」

『第2形態移行だ!』

「そんな!? しかしあれは……AIが独自に進化への道を見つけたとでも言うのか!?」

『オリヴァー! 次弾は?』

「!? 次弾の状況は?」

「冷却剤補充完了。圧力最大。いつでもいけます!」

「レオン聞こえたな!」

『第2射発射する!』

 

 的がデカい分、外すことは無い調整をすっ飛ばして第2射を福音目掛けて撃ち込む。

 弾丸は命中し福音の周りの球体を破壊した。

 

 しかしーー遅かった。

 

「やったか!?」

 

 ラウラが叫んだ瞬間、その声に反応したかのように福音が顔を向ける。

 

『キアアアアアアア……!!!』

 

『ラウラ! 逃げろ!』

 

 レオンがそう叫ぶと同時に福音はケモノの咆哮のような声を発し、ラウラへと襲いかかる。

 

「なにっ!?」

 

 急接近した福音の動きにかろうじて反応し回避しようとしたが脚を掴まれてしまう。

 そして破壊された翼の根元から神々しい光を纏った翼がゆっくりと生成されていく。それはまるで蝶が蛹から孵るかのようにエネルギーの翼がそこにはあった。

 

「な、なんだ……これは……!?」

 

 ラウラは目の前の福音が自分の脚を掴み、そして破壊された箇所からエネルギーの翼を生やしていくのを見て、これから自分が何をされるのかを悟り体に悪寒がを走った。

 そんな中ラウラと福音に接近するISがいた。シャルロットだ。

 

「ラウラを離せぇっ!」

 

 シャルロットは持っていた武装を換装し近接ブレードを展開して突撃を敢行する。

 しかし福音は空いているもう一方の手で受け止められてしまった。

 

「くっ!」

「よせ! 逃げろ! こいつはーーー」

 

 ラウラの言葉が最後まで続かず、ラウラは福音から生えた眩いほどの輝きと美しいさを併せ持ったエネルギーの翼に抱かれた。

 その刹那、あのエネルギー弾の雨を0距離で食らいラウラは全身をズタボロにされて海へと堕ちようとしたところ、福音はレーゲンの脚を掴みラウラは空中で逆さまにぶら下がる形になっていた。

 

「うっ…………」

「ラウラ! よくもっ…………!」

 

 シャルロットは持っていたブレードを捨ててショットガンを呼び出す(コール)。そして福音の顔面に銃口を向けて引き金を引く。

 

 ガンッ!! 

 

 しかしその音はショットガンのものではなかった。

 福音が握っていたラウラをシャルロットに向けて思いっきり振りかぶってぶつけていたのだ。そして手を離すとシャルロットはラウラと一緒に吹き飛んでいった。福音はそこに身体中のヒビから小型のエネルギー翼を生やして、それによるエネルギー弾を放ちシャルロットは気絶しているラウラを庇う形で背中からエネルギー弾を食らう。

 

「うわぁぁぁッ!!」

 

 その光景をはるか離れた輸送艦ヨーツンヘイムから見ていたレオンは歯を食いしばっていた。

 

「クソ! なんなんだよ!」

『レオン! 第3射用意完了だ! 弾種はフレシェット弾!』

「了解! 第3射発射後、向こうの援護に向かう!」

『了解した!』

 

 福音は次のターゲットに狙いをつけて行動を起こそうとしていた。

 俺は黒の稲妻を最大角度まで持っていき空に向けて発射した。2発の弾頭は雲を割り空へと凄まじいスピードで飛んで行った。

 

「ボルトパージ!!」

 

 そう叫ぶとフラムと稲妻を繋げていた安全バーが外れて脱出装置の要領で上部へ飛ぶ、そしてそのままスラスターを吹かして前線へと向かった。

 それを観測場から見てたオリヴァーは格納庫へと走っていた。

 

「黒の疾風を射出してくれ! れ、ブリューゲル中尉が前線に行くにはそれが必要だ!」

 

 その言葉を皮切れに休憩していた作業員たちが一斉に行動を始めた。

 

「カタパルトの電圧を上げろ!」

「艦長の許可をとれ!」

「整備班は集まれ! こいつの調整を済ませちまうぞ!」

 

 そしてオリヴァーは外にいた作業員たちに稲妻の解体作業を命令し自分も取れたデータのバックアップを取り始めた。

 

「艦長からの許可が降りたぞ!」

「最終調整完了!」

「カタパルト臨界到達!」

「射出まで5秒!」

5(フュンフ)! 4(フィーア)! 3(ドライ)! 2(ツヴァイ)! 1(アインス)! 0(ヌル)!」

 

 カタパルトに設置された黒の疾風は号令と共に射出され事前に組み込まれたデータを元にレオンの後を追った。

 

「レオン! 今、黒の疾風を送った。使ってくれ!」

『助かるよオリヴァー!』

 

 俺はウインドウ画面のレーダーに後ろから接近する黒の疾風を捉えてから、1度速度を落として黒の疾風の上に乗った。

 

「みんな死ぬなよ」

 

 黒の疾風の上に乗り速度を上げて福音と戦っている友の元へと急ぐ。

 

 セシリアはラウラとシャルロットがやられて光景を見て絶句していた。

 

「な、何ですの!? この性能……軍用とはいえ、あまりにも以上なーー」

 

 再び高機動による射撃を行おうとしていたセシリアの眼前に福音が迫る。『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』ーーそれも、両手両足の計4カ所同時着火による爆発加速だった。

 

「くっ!?」

 

 長大なライフルは接近されると弱い。距離を置いて銃口を上げようとするが、その砲身を福音に真横に蹴られてしまった。

 そして、次の瞬間には両翼からの一斉射撃がセシリアを襲う。反撃らしい反撃もできずセシリアは蒼海へと沈んでいった。

 

「セシリア! くっ……! 私の仲間をーーーよくも!」

 

 急加速によって接近した箒は、続けざまに斬撃を放ち続ける。

 展開装甲を局所的に用いたアクロバットで攻撃を回避し、それと同時に不安定な格好からの斬撃をブーストによって加速させる。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 互いに回避と攻撃を繰り返しながらの格闘戦。徐々に出力を上げていく紅椿が僅かに福音が押され始める。

 

(いける! これならっーーー)

 

 必殺の確信を持って、雨月の打突を放つ。しかしーー

 

 キュゥゥゥン……

 

「なっ!? またエネルギー切れだと!? ーーぐあっ!」

 

 その隙を福音は見逃さなかった。福音の右腕が箒の首を捕まえる。

 そして、ゆっくりと翼が箒を包み込みはびめようとした、その時、福音のセンサーに反応があり福音は視線を上に向けた。

 その瞬間、上空で一筋の光が光った。それを察知した福音は捕まえてた箒を放し、その場を離れる。

 そして福音に向けて無数の矢が雨のように降ってきた。それはレオンがヨーツンヘイムから出る前に撃ったフレシェット弾だった。福音は回避しながら矢を避けるが数が多く避けるのは困難であり先程から矢が当たる音が響いていた。

 

「ごほっ! はぁ、はぁ……な、なんだ」

 

 箒は意識が朦朧としているせいか紅椿の出力を維持出来ずにどんどん堕ちていく。

 

 ガッ! 

 

 そんか堕ちていく箒の手を誰かが掴んだ。

 

「い、一夏……?」

 

 薄れゆく意識で開けた目で掴んだ相手を見た。

 

「誰が一夏だ。誰が」

「れ、レオン……」

 

 そこに居たのはレオンだった。

 

「よく頑張ったよ。お前ら、あとは任せろ」

 

 レオンは箒を下にあった黒の疾風に乗せ、そのまま鈴がいる岩場へと向かわせた。

 そして箒の意識は限界を迎え視界が徐々に暗くなっていった。そんな中、箒が心の中で思ったことは。

 

(すまない……一夏……)

 

 

 

 ざぁ、ざぁん……

 

 さざ波の音を聞きながら、俺は飽きもせず女の子を眺めていた。

 その歌は、その踊りは、なぜだか俺を酷く懐かしい気持ちにさせる。

 

(……あれ?)

 

 ところが、ふと気がつくと少女の歌は終わっていた。

 踊りもやめて、少女はじぃっと空を見つめている。

 俺は不思議に思って、座っていた木から離れて少女の隣へと向かう。

 

 ざぁ、ざぁ、と。

 

 波打ち際までやってきた俺を涼しい水の調べが濡らす。

 

「どうかしたのか?」

 

 声をかけるが、少女はまだじぃっと空を見つめたまま動かない。

 俺もなんとなく空を眺めると、ふと少女の声が耳に届いた。

 

「呼んでいる……行かなきゃ」

「え?」

 

 隣に視線を戻すと、もうそこには少女の姿がなかった。

 

 ーーーあれ? 

 

 ざぁざぁと、ざぁざぁと。波の音だけが響く。

 

「うーん……」

 

 俺は仕方なく木のソファに戻ろうと体を反転させる。するとーーー背中に声を投げかられた。

 

「力を欲しますか……?」

「え……」

 

 後ろの声を聞き急いで振り向くと波の中ーー膝下まで海に沈めた女性が立っていた。

 その姿は白く輝く甲冑を身に纏った騎士さながらの格好だった。

 大きな剣を自らの前に立てて、その上に両手を預けている。

 その顔は目を覆うガードで隠されて下半分しか見えない。

 いつの間にか周りの青空から夕焼け空に変わっていた。

 

「力を欲しますか……? 何のために……」

「ん? ん〜……難しいことを訊くなぁ」

 

 波音だけが俺と女性の間にある。

 

「……そうだな。友達を……いや、仲間を守るためにかな」

「仲間を……」

「仲間をな。なんていうか世の中って結構色々戦わないといけないだろ? 単純な腕力だけじゃなくて、色んなことでさ」

 

 俺は、いまいち自分の中でまとまってないことなのに妙に饒舌に喋っていた。

 

(あぁ、俺ってそう思っていたのか)

 

 自分に驚きつつ言葉を続けていく。

 

「そういう時に、ほら、不条理なことってあるだろ。道理のない暴力って結構多いぜ? そういうのから、できるだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う……仲間を」

「そう……」

 

 女性は静かに答えて頷いた。

 

「だったら……行かなきゃね」

「えっ?」

 

 また後ろから声をかけられる。

 振り向くと白いワンピースの女の子か立っていた。

 人懐っこい笑み。無邪気そうな顔で、じぃっと俺を見つめている。

 

「ほら、ね?」

 

 手を取られて、にこりと微笑みかけられる。

 俺は酷く照れくさい気持ちになりながら「あぁ」と頷いた。

 すると、いきなり変化が訪れた。

 

「な、なんだ?」

 

 ーー空が、世界が、眩い程の輝きを放ち始める。

 その真っ白な光に抱かれて目の前の光景が徐々に遠くぼやけていく。

 夢の終わり、そんな言葉が不意に浮かんだ。

 

「あぁ、そういえば……」

 

 あの女性は誰かに似ていた。

 

 白いーー騎士の女性。

 

 

 

 

「オラァ!」

 

 俺は箒が安全圏に行ったのを確認してから福音に対して攻撃を続けていた。

 離れればエネルギー弾の雨が降ってくる、しかし近づいても小さなエネルギー翼が近距離で爆破して中々ダメージを与えられない。

 しかしみんなが繋げた好機を逃す訳にはいかない! いざという時は奥の手を使うだけだ。

 

「フンッ!」

 

 脚のブレードを福音に対してぶつける。福音は腕から出したブレードでそれを受け止める。そして止まっている瞬間にエネルギー翼を使ってフラムを覆うとする。

 それを避けて離れるが、その瞬間に翼からエネルギー弾が発射される。

 避けるが何発か当たりレオンの身体中から血が滴り始めていた。

 

「はぁ、はぁ……辛いな」

(こいつ、だいぶこっちの動きを学習してきたな。第2形態移行してから強さがだいぶ変わったな)

「やるしかないよな?」

(下手したら死ぬぞ?)

「なんとかなるだろ?」

 

 福音はエネルギー弾を撃ちだし始めた。

 俺は一気にスラスターを吹かして正面からヘル・カーテインで受け止めながら接近した。

 

「うぉぉぉぉ!! ジェット・バーン!!」

 

 スピードが増した炎の右ストレートを福音に当てる。福音は吹き飛んでいくが、直ぐに体勢を立て直した。

 そして福音は一気に瞬時加速をしてきた。

 

「グハッ!?」

 

 右脇腹に福音のボディブローを食らう。

 

 バキッバキッ! と肋の骨が悲鳴をあげる。

 

 クソっ! 肋が何本か逝ったか! 

 

 口から血を吐き出した時、福音は箒と同じようにレオンの首を掴む。

 

「ぐぅ……うぅ……」

 

 首を掴んでいる腕に力が入る。

 

「お前……が……その手を……使うのを……待って……たよ!」

『!?』

 

 俺は掴んでいる福音の腕を両手で掴む。その現状に福音は驚きを隠せなかった。

 そしてそのまま俺は福音の体を脚で挟み込む。

 

「いくぞ! プロミネンス・バーン!!」

 

 そう叫ぶ瞬間、フラムドライの中心が赤く輝いた瞬間、フラムドライを中心に大爆発を起こした。

 

『プロミネンス・バーン』

 新しくフラムドライに搭載した赫灼炎熱機構(フラムアインス・エンジン)は赫灼を使えば使うほどコアに熱が溜まる。その熱を一気に解放することによって周囲を巻き込む大爆発が起きる。もちろん使った本人にもダメージがある。だからこの技は自爆覚悟で使う奥の手なのだ。

 

 そして爆煙が晴れるより前に下部分からフラムドライが落下してきた。そのまま海に堕ちた。

 福音とはいうと爆発のダメージが蓄積しているのか動きを止めていた。

 

「クソォ……あの爆破で原型とどめてるのかよ……」

 

 海に浮かびながら福音を見る。

 しかし原型が残った福音を見て絶望が募る。

 

『キィアアアアア!!!』

 

 福音が野生の雄叫びを上げながらこちらに向かってくる。

 

 あぁ終わったか……すまん一夏……仇取れなかったわ。

 

 しかしその時、福音のブレードが首元で止まる。

 そして福音は視線を空に向けていた。そして福音はいきなり俺から離れ離脱する。

 その刹那、先程まで福音のいた位置に一筋の光が通った。

 

 荷電粒子砲……? 一体……誰が? 

 

「俺の仲間は誰1人やらせはしねぇ!」

 

 そこには白く輝き放つ白い機体がいた。




どうも薄影です

ようやく更新出来ました!

気温が冷えてきましたが皆さん体調には気おつけくださいね

次で福音編が終わると思うので気長に待っててください
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