IS シュヴァルツェ・ハーゼはかく語りき   作:薄影 (黒ウサギ党)

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夏休み編
第13話 査問委員会


 福音との死闘から月日が経ち現在は8月頭、俺はIS学園の食堂にいた。

 今IS学園は夏休みに入っており各学生は実家に帰ったり国に戻ったりするものたちが多い。うちのクラスで言えばセシリアが本国に帰っている。シャルロットは家と上手くいっていないようで学園に残り、鈴も国に帰らず学園に残っている。まぁ学園の半数がこの学園に居ない状態になっている。

 俺もドイツに帰るように通達を受けているため明日日本をたつ予定だ。

 

「そういえば、ラウラも本国に帰るんですか?」

「うむ、政府から通達があったからな。レオンも戻るのだな」

「えぇ家族にも夏休みには1度帰ると言ってましたし。例の件での査問委員会もありますしね」

 

 お互いアイスコーヒーを頼み、飲みながら会話をしていた。

 今回ドイツ政府からの通達での査問委員会は福音での1件の質疑応答が主な議題になることだ。

 

「ドクトル・シューゲルに色々言われそうですね」

「あぁ……厄介だな」

 

 お互い、ため息を吐いた。

 ダメージレベルがあんなになってたら技術部門の連中が目に見えてガッカリする姿が目に浮かぶ。

 

「みんな元気にしてますかね?」

「最近クラリッサに連絡したが元気そうだったぞ」

「それは良かった」

 

 ホルシュタイン航空基地のみんなに会うのは久しぶりだから何かお土産を買っていった方がいいな。特にクラリッサさんには例のブツを買って帰らなければな。

 

「そういえば」

「ん?」

「最近、欧州でテロリズムが横行しているらしいですよ。最近ニュースにもなってましたし」

「そういえばそんなニュースがあったな。十中八九……あの組織だろうな」

亡国企業(ファントム・タスク)ですか……」

 

 

『亡国企業』

 

 

 ISを使って悪さをするテロリスト紛いの秘密組織。

 古くは50年以上前から活動している、第2次大戦中に生まれた組織。国家によらず、思想を持たず、信仰は無く、民族にも還らない。ゆえに目的は不明。存在理由も不確かで、その規模もわからない。

 

「こりゃ帰ったら色々と忙しくなりそうですね」

「あぁ」

 

 もう一度アイスコーヒーを飲み、俺は疑問をラウラに投げかけてみた。

 

「そういえば、ラウラ?」

「ん? なんだ?」

「ずっと聞きたかったんですけど、なんで休みの日まで隊支給の制服を着てるんですか?」

「うっ…………」

 

 あっ。目逸らした。もしかして……

 

「もしかして、ラウラ。私服持ってないんですか?」

「………………」

 

 ラウラは目を逸らしたままコクリと頷いた。

 

「1着も?」

「…………ウム」

 

 さらに頷く。

 マジか。どうりで休日でも制服だと思った。これは由々しき事態だ。

 

「ふむ……」

「仕方ないだろ……私は基地の外に出たことがないのだ……だから……そういうことには疎いのだ」

 

 徐々に声が小さくなっていくラウラを見て、俺は少し罪悪感が心にできていた。

 

「なら」

「ん?」

「国に帰ったら買い物に行きましょう!」

「か、買い物?」

「えぇ、ラウラの私服を買いましょう!」

 

 俺の提案にラウラはポカーンと情けなく口を開けている。

 

「いや、私は……必要……」

「ダメです。絶対に買いに行きます」

「うぅ……」

 

 ラウラは断ろうとしたが、言葉を紡ぐ前にレオンに却下されてしまった。

 

「というか、いつも寝る時は何着てるんですか?」

「ん? 着てないが」

「はい?」

 

 えっ待って、今着てないって言ったか? つまり……そういうこと!? 

 

「えっ? つまり……」

「そんなものは着ていない(ドヤァ)」

 

 いやいやドヤるな。やばいマジのマジで由々しき事態だったわ。相棒! 脳内会議するから集合! (*」´□`)」

 

 

『なんだよ。いきなり呼び出して』

「一大事だ」

『何が?』

「ラウラが俺の思ってたよりもアホかもしれん」

『それは……ヤベェな』

 

 俺の放った言葉に相棒はガチの真顔になっていた。

 

『しかし話はだいたい聞いていたが……まさかここまでとはな』

「まぁ事実確認は後でシャルロットから聞くとして、部屋着は……あっちじゃまともなの無いしな」

『なら、こういうのはどうだ?』

 

 その後、脳内会議は着々と進み。お開きとなった。

 

「よし! こうしましょう」

「?」

「ドイツでは私服を買います」

「うむ」

「日本に帰ってきたら、ラウラの部屋着を買います」

「いや、そこまでしなくとも……」

「何言ってるんですか! 花の乙女が寝る時に全裸なんて聞いたら普通の人間は引きます、えぇそりゃもう引きに引きます。同居人が女子だから良いものの、それを男子基一夏にやったらドン引きですよ! 実際ラウラは前にやってから反省したんですから。ちゃんと服は着て寝てください。他の隊員達にも示しがつかないので! わかりましたね?」

「い、いや、しかし」

「わ・か・り・ま・し・た・ね」

「は、はい」

 

 そしてその場は解散となり、俺はシャルロットを捜し出し部屋でのラウラの様子を事細かに聞き、またため息が出た。

 そして次の日、俺たちはドイツ首都ベルリンに向かう飛行機の機内にいた。

 2人とも格好は上下黒のスーツで左腕部分に赤い腕章が付けられており、そこに描かれているのは眼帯を付けて座っている黒兎のエンブレム。所属している黒ウサギ隊だからこそのエンブレムと言ってもいい。

 そしてこのエンブレム実は2つ目であり、本来の物は眼帯を付けた黒兎が前足でアサルトライフルを持って胴体には弾帯ベルトが施されたデザインなのだ。

 なぜ2人ともスーツなのかと言うと、到着後そのまま査問委員会が行われる会場へと向かうため着替えの時間を省くためにスーツを着ている。

 

「しかし良かったのだろうか」

「何がです?」

「いや、私までファーストクラスの航空券を貰っても良かったのかと思ってな」

「良いんですよ別に、母さんが送ってきたんですから使わなきゃ損ですよ」

「そ、そうか」

 

 時を遡ること1週間前。

 

「明日から夏休みかぁ」

「そうだな、一夏は夏休み中はどうするんだ?」

「うーん、俺は家に帰るかな」

「家?」

「おう、IS学園に入学してから1回も帰ってなかったからな。換気やら掃除やらしないと」

「なるほどな。一夏ん家はここから近いのか?」

「そうだな、学園のモノレールからバスに乗り換えてだから近い方じゃねぇか」

 

 そんな会話をしている、この学園に2人しかいない男子達。

 コンコンと部屋のドアを叩く音が響く。

 

「ん? 誰か来たのか? 一夏お前誰か読んだのか?」

「いや。誰だろ? はーい」

 

 一夏がドアに向かって返事をしながら歩いていく。

 

「あっ! 織斑くん。こんばんは」

「山田先生。こんばんは」

 

 ドアを開けると、そこに居たのは我らがクラスの副担任兼マスコットキャラクター的な存在の山田真耶先生だった。

 

「どうしたんですか? こんな時間に?」

「あっはい! ブリューゲルくんはいますか?」

「えぇいますよ。呼んできましょうか?」

「あっ! 大丈夫ですよ。代わりにこれを渡しておいてもください」

 

 そう言いながらと真耶は一夏に1枚の封筒を手渡した。

 

「それではお願いしますね」

「はい」

 

 そう言うと真耶は教員用寮の方へと消えていった。

 

「よう誰だった?」

「山田先生がこれを渡してくれって」

 

 一夏は手に握っていた封筒をレオンに手渡す。

 

「へぇ〜封筒で告白文なんて山田先生も凝ったことするねぇ」

「いや、違うだろ」

「的確なツッコミありがとさん」

 

 受け取った封筒の宛先を確認すると母の名前が書かれていた。

 そして封を開けて中身を確認すると。

 

「チケット?」

「あぁ、ドイツ行きの航空券だ」

 

 中に入っていたのはドイツ行きの航空券が2枚。しかもファーストクラスの物だ。

 

「こりゃ里帰り決定だな」

 

 俺は航空券を封筒に戻して自分の机の引き出しにしまった。

 

 そして時は戻り、飛行機内。

 

「空港に着いたら、そのままホテルに行きましょう」

「そうか着く頃には向こうは夜か」

「えぇ、母が部屋を予約しているようなので、俺たちはそのままホテルで夜を明かしましょう。とりあえず流れをおさらいしておきましょう」

「うむ」

 

 そして一通りの流れを確認してから、少し仮眠をとることにした。

 

 

 数時間後ドイツ連邦共和国首都ベルリン・ブランデンブルク国際空港。

 

「くぅ〜帰ってきた!」

 

 長いフライトを終えて俺は背伸びをしていた。

 

「とりあえず荷物を受け取ったらタクシーでホテルに行きましょうか」

「そうだな」

 

 そして荷物を受け取りタクシーの待合場まで歩いていく。

 

「しかし、そんなに多くの荷物を持ち帰るのはなぜだ?」

「あぁ、これはお土産ですよ」

「家族にか?」

「まぁそれもありますけど、大半は隊のみんな(主に副隊長のだが)のと、お世話になってた328大隊の隊員にと思って」

「あぁなるほど」

 

 そんな会話をしながら空港を出ると、外は既に日が落ちており街頭が街を照らしていた。

 タクシー乗り場に行くと、ちょうどタクシーが止まっていたのでそのまま乗車して予約されているホテルへと向かった。

 

「…………」

 

 ラウラは終始窓から見える街の景色を眺めていた。傍から見ると初めてお出かけをする子供のような眼差しだった。

 

「ラウラ?」

「ん? なんだ?」

「もしかしてですけど、基地の外には……」

「あぁ、出たことがない。昔はそういう馴れ合いが嫌いだったからな」

 

 ラウラはそういう風に教育されてきたんだろう。織斑千冬と出会って少しは心を開いたとはいえ隊員達との溝を埋めるには難しかったのだろう。

 

「こんなにも良い景色だったのなら、もっと早くそうしておくべきだったな」

 

 遠くを見つめるラウラの目は少し寂しそうにしていた。

 

「だったら、ここから始めましょうよ」

「えっ?」

 

 驚いた顔でこちらへと振り向くラウラ。

 俺はそのまま話を続ける。

 

「せっかくの夏休みなんです。みんなと親睦を深める絶好のチャンスじゃないですか。みんなも喜びますよ」

「そうだろうか……」

 

 少し俯くラウラ。

 

「そうですよ。良いですかラウラ。俺が訓練期間中ネーナ達からどれっーーーーだけラウラの自慢話を聞かされたと思ってるですか。そりゃもう耳にタコができるくらい話し続けるんですから」

「………」

 

 ラウラは自分が冷たく扱ってきた隊員達が自分のことを凄く敬っていた事を聞いて昔の自分が恥ずかしく思えてきていた。そんな中でも嬉しいと思えてもいた。

 

「そうか……みんなが……そんな風に」

 

 下に顔を下げて嬉しい気持ちを心に留めてながらもラウラの目には少しの涙が込み上げていた。

 

「お客さん着きましたよ」

 

 時間はあっという間に過ぎており目的のホテルに着いていた。

 

「支払いはカードでお願いします」

「はい」

 

 俺は財布からカードを取りだし支払いを済ませて運転手にチップを渡してから車から降りた。

 

「またご贔屓にお願いします」

 

 そう言うと運転手は街の方へと車を出して行った。

 

「さて、行きますか」

「うむ」

 

 そう言いホテル入り口の自動ドア潜り、そのままロビーへと入る。

 ホテルの名は『グランドハイアット・ベルリン』ミッテの5つ星を飾る高級ホテルの1つ。レストランや屋上にプールやスパなどを置いている。隠れ家的な味わいを楽しめるのをコンセプトにしているホテル。

 

「予約をしていたブリューゲルです」

「はい、ご予約をいただいているブリューゲル様ですね、お待ちしてりました」

 

 スタッフは予約表を見てからこちらに対して一礼してきた。

 

「いつもご利用ありがとうございますブリューゲル様、ご予約されている部屋はツインベッドのアクセスクラブ付きの物になります。こちらは部屋のカードキーになります」

 

 そう言うと1枚のカードタイプの鍵を渡してきた。

 

「ありがとうございます。これからレストランで食事をとりたいので荷物を部屋に運んでおいて貰えませんか?」

「承知いたしました。では荷物等は先にお部屋に運ばさせていただきます」

 

 スタッフが指パッチンをすると近くにいた他のスタッフが飛んできて俺から荷物を受け取り大事に持っていった。

 

「それじゃあ腹ごしらえに行きましょう」

「あぁ」

 

 そしてホテルに隣接しているレストランへ行き、食事をとってから部屋へとむかった。

 

「ふぅ、ようやくネクタイを外せる」

「苦手なのか?」

「こういう堅苦しい格好がどうも……」

 

 部屋に着くなり上着とネクタイを椅子に投げかけてベッドに座る。

 

「しかし、別に部屋は2つ取っても良かったと思うんですがね?」

「いや、私が文句を言う立場ではないから構わないさ」

「そうですか?」

 

 ちなみに部屋はラウラと同室になっていた。

 

「どうします? もう遅いですしシャワー浴びたら寝ますか?」

「そうだな。先にシャワーを浴びてもいいか?」

「えぇ構いませんよ」

 

 そしてラウラは部屋の備え付けの風呂場に行った。

 

 俺はスマホをと上着から取り出してトークアプリを開いた。

 

 こんな時間だけど母さん起きてるかな? いや起きてるか、今日は家に帰ってないだろう。明日の予定やら何やらで忙しいだろうし。

 

「母さん今ホテルの部屋に着いた」とだけ送ってスマホをスタンドに置いた。

 それから数分後、スマホに通知が届いた。

 

『返信遅れてごめんなさい。明日朝一で迎えをよこすから、それで連邦議会議事堂まで来てね』

「了解。それよりも部屋を2つにしなかったのはなんで?」

『それは……フフフ言えないわねぇ』

 

 ニヤッとしたスタンプが送られてきて少しイラッしたが我慢。

 そんなことをしていたらシャワーを終えて部屋に戻ってき。

 

「待たせたな」

「いえいえ、明日朝一で迎えが来るそうです」

「そうか、レオンも入ってきたらどうだ?」

「えぇそうさせてもらいます。先に寝てても良いですからな」

「そうさせてもらおう。ではおやすみレオン」

「おやすみなさい」

 

 俺は廊下のスイッチを押して部屋の電気を常夜灯にしてからバスルームに入った。

 

「ふぅ気持ちよかったぜ」

 

 シャワーを終えてバスルームから出て自分のベッドに行こうとしていたら目の端になんか見えたので覗いてみると、ラウラがベッドから落っこちてた。

 そういえばシャルロットに部屋での様子を聞いた時に変なこと言ってたっけ? これのことだったのか。

 寝相が悪いのか単純に? 

 

「やれやれ、シャルロットの言ってたのはこれのことだったか」

 

 俺はラウラを抱き起こしてベッドに乗せて掛け布団をかけて、自分のベッドに潜った。

 

 

 次の日

 

 朝起きて軽めのストレッチをしてから顔を洗うために洗面所に向かった。

 洗面所を出るとラウラがちょうど起きたようで目を擦っていた。

 

「おはようございますラウラ」

「う、ん……あぁ、おはよう」

 

 なんだ、あの可愛い生き物。あんなのが存在してもいいのか? 写真撮ってクラリッサさんに送ろう。

 

 スマホを構えて1枚写真を撮って、トークアプリでクラリッサさんに写真を送信した。数秒後に既読が付き言葉にならない言語が送られてきた。

 うんうん喜んでいるようでなにより。

 

「さぁ、顔を洗ってシャキッとしてください」

「むぅ……わかった。ふぁ〜」

 

 大きいあくびをしながらラウラは洗面所に歩いて行く。

 数分後、顔を洗ってシャキッとしたラウラは先程のような腑抜け顔ではなく、いつものような顔つきに戻っていた。

 

「レオン、この後の予定は?」

「はい。1階ロビーに迎えの人員が来るそうなので、彼らと一緒に議事堂まで移動して査問委員会にという形です」

「うむ。ならば行くか」

「はい!」

 

 俺らは部屋を出てエレベーターで1階に向かった。

 エレベーターを出て、俺はカウンターへ行き、退出手続きを完了させてからラウラの元へと向かおうとした時、ホテルの自動ドアが開き外からこちらに走ってくる人物がいた。

 

「レオ〜ン!」

「ん? げッ!? 母ッーー」

 

 ガバッ! と思いっきり抱きしめられた。

 

「グハッ! か、母…さん……ヴッ……」

「会いたかったわ〜! もう母さん寂しくて寂しくて〜」

「ぐぅ……うぅ……し、死ぬ……」

 

 ギュゥゥゥと締め付ける腕の力が強くなる。母さんマジで死ぬから離して。

 

「母さん、レオンが窒息死するから離してあげて」

「えっ? わ〜! ごめんね!」

「ブハッ! はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」

 

 後ろにいる女性が声をかけると、母さんは俺の顔が青ざめていくのを見て、締め付けていた腕を離す。

 

「ごめんねレオン。久しぶりだったからつい」

「力加減を考えてくれよ。あっそれと姉さんも久しぶり」

「えぇ久しぶりね。元気そうでよかったわ」

「…………」

 

 その光景をラウラは顔を見上げる形で見ていた。なにせ今目の前にいる人物たちはデカいのだ。

 レオン・ブリューゲル180cm、ガブリエラ・ブリューゲル210cm、アンネリーエ・ブリューゲル190cm、という高身長なのだから。

 一方のラウラの身長はと言うと、148cmなのだから、前にいる3人から見たら子供のように見えているだろう。

 そしてガブリエラはラウラを見つけるとレオンと同じように抱き抱える。

 

「あら〜久しぶりね少佐!」

「お、お久しぶりで……ブッ!」

 

 抱きつかれたラウラはその倍の身長差があるため宙に浮き無駄にデカイ胸に顔を埋められた。

 

「母さん!」

「おっと」

「ぷはー! すぅぅぅ、はぁぁぁ」

 

 ガブリエラの抱擁から解放されたラウラは思いっきり息を吸いそして吐いた。

 

「全く、そうやってすぐ抱きつく癖を直した方がいいよ」

「いつか死人をだすよこのままだと」

「2人共酷〜い!」

「あ、あの」

「ん?」

「降ろしてもらえるとありがたいのですが……」

「あぁ、ごめんなさいね」

 

 抱き抱えていたラウラをガブリエラはそっと降ろしてからレオンの方に顔を向けた。

 

「で? なんで母さんと姉さんが来てるわけ?」

「いや〜どうせ議事堂で会うんなら、いっその事私たちで迎えに行った方がいいと思って」

「まぁ、議事堂に着いてからの流れとかも話したかったしね」

「そうなのよ。まっ! 朝食でも食べながら話しましょ!」

 

 そうして俺たちは隣接されてるレストランに行き朝食をとることになった。

 

「それで? 流れって?」

「まぁ単純に言って今回の査問委員会は形式的なやつだから」

「形式的というのは?」

「簡単な話、アメリカ(こっち)の機密情報を見たんだから、そっちの連中にちゃんと言い聞かせておけよ! ってことだから形だけやろうって事よ」

「そ、そんなので良いのですか?」

 

 ラウラの疑問ももってのほかだ。査問委員会と言えば、お偉いさんがたがあーだこーだとイチャモン付けるような質問攻めしてくるものだろ? それを適当にやって、ハイヤリマシターで済まそうとしているのだから。

 

「本当にそれでいいの?」

「いいのいいの♪ それにこれは議員達や軍上層部も承認してる事だから」

「それに私たち、あの国大嫌いだし。叔母さんには悪いけど」

「まっ! そんなどうでもいい事は置いといて、朝食食べましょ!」

 

 そう言うガブリエラの言葉を合図に、皆で朝食をいただいた。

 朝食を食べ終え、会計を済ませて俺は母さんと一緒に表に停まっている車へと歩いていた。

 

「悪いわね。支払ってもらっちゃって」

「良いよ別に、こっちこそホテル代や航空券を送ってもらったんだから、親孝行だと思ってよ」

「ふふっ、そうさせてもらうわ」

 

 ホテルを出ると駐車エリアにあるのは黒塗りのベンツが駐車されていた。軍用ではなく母さんの私物だ。

 

「あれ? 車、防弾仕様にしたの?」

「そうなのよ〜どいつもこいつも私の命奪おうとヤッケになってるのよ」

「そんな普通に言わないでよ……下も対爆プレートを厚くしてるみたいだし」

「この間、手榴弾投げ込まれてね。まぁ大佐が気づいてくれて対処してくれたから平気だったんだけねぇ。あっ運転よろしくね」

「国民のためにも、国内のテロリスト共は排除しないといけないね。母さんと姉さんが負けるなんてことは微塵にも思ってないけど……身内としては心配になるよ」

 

 俺は車の鍵を受け取りドアを開ける。既に後部座席にはラウラと姉さんが座っているが何故かラウラの顔色が悪い。夏だからな暑かったんだろう。

 俺は鍵を挿してエンジンをかけた。クーラーから中に涼しい風が流れ外の暑さが冷やされていく。

 

「さてと、母さんシートベルト」

「はーい」

 

 そして車を発進させて議事堂へと向かった。

 

「そういえば母さんは新しいのにしないの?」

「うーん、確かに新しいのもデザインは好きよ。でも、私はこういうマニュアルタイプが好きなの。それに、この車は父から受け継いで父との思い出もあるし、お父さんとの付き合ってた時の思い出もあるから動かなくなるその日まで使い続けるつもりよ」

「そう……まぁ壊れたら言ってよ新しいのプレゼントするから」

「まぁ、なんて優しい子なんでしょ! ハグしてあげたい!」

「運転中だからやめぇい!」

 

 ワイワイしながら車は目的地の議事堂に着き裏門の前に停める。

 すると守衛室から1人の警備員がこちらに向かって走ってきた。

 

「申し訳ありません。こちらは連邦議事堂でして民間人の方は表からお願いしてーー」

「はーい♪」

「ッ!? げ、元帥閣下!」

 

 窓を開けて警備員の話を遮るように運転席側に母さんは顔を覗かせる。それを見た警備員は姿勢を正して敬礼をした。

 

「も、申し訳ありません! 元帥閣下のお車だと思わずお止めしてしまって!」

「良いわよ。それより全員集まってる?」

「はっ! 陸空軍双方大将閣下以下軍関係者並びに議員の方々も集まっておられます。あとはブリューゲル元帥と中将だけであります」

「あら、私たちが最後だったわけね」

「はい。今門を開けます!」

 

 警備員が守衛室に向け手を挙げると中にいたもう1人の警備員が装置を操作すると門が自動で開き始めた。

 そして車が中に入る際に警備員は敬礼をしながら俺らを見送った。

 そのまま奥に行き空いている駐車場にバックで停めてエンジンを切る。

 

「はい! とうちゃーく! みんな降りた降りた」

 

 ガブリエラの号令を経て全員が車から降りる。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

 そして議事堂の中へと歩き出す。廊下を進み一際大きい扉を抜けると議会席に座って談笑したりしているお偉いさんたちがいた。

 

「いや〜お待たせしました皆さん」

「遅刻だぞーガビー」

「ごめんごめん、久しぶりの息子との朝ご飯が楽しくって」

 

 母さんに喋りかけてきたのはドイツ空軍南方方面軍司令のエリカ・マクダビッツ大将だ。

 彼女もドイツにある専用機のうちの1つを持っている人物で母さんとは旧知の中であり同期組の1人。

 

「あれ? 議長は?」

「まだ来てないよ」

「それじゃあ遅刻じゃないやね!」

「いや.メンバー揃ってるのに今回の役者が先に来てない時点で遅刻だわ!」

「ヒィーッ!」

 

 賑やかなだなぁ…相変わらず。

 

「さてと、ラウラ」

「なんだ?」

「俺達も挨拶しに行きましょ」

「そ、そうだな」

 

 俺達も自分たちの上司のいる席に向かって歩いって行った。

 

「あれが例の実験の?」

「あぁ、失敗作と聞いていたが?」

地上最強(ブリュンヒルデ)のおかげとか」

 

 周りの下院議員たちは、ラウラを見るとヒソヒソと小声でしかし聞こえるように喋りだした。

 

「………」

 

 ラウラは顔を下げて俯きながら俺の後をついてくる。

 

「あーあ! くっだらねぇ! 役に立たない金食い虫がごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ!」

「ッ!?」

 

 俺の大声に会話をしていた議員達や周りのメンバーが一斉に見てくる。

 

「なっ!? い、今なんて言いましたか中尉!」

「あ゙? 金食い虫って言ったんだよウジ虫!」

「なっ! 言葉には気おつけなさい!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴ってくるのは下院議員のエミリア・バークだ。差別主義者で特に男性差別を掲げているため、そういう団体の支持を得ている。

 

「こいつは失礼しました。バーク下院議員殿」

「あなたという人は! 例え空軍元帥の息子と言えど……!」

「あーあ! みなまで言わない。それとバーク議員?」

「な、なんです?」

「旦那さんはお元気ですか?」

「ッ!?」

 

 議員の顔がみるみる青くなっていく。

 

「な、何故それを!?」

「いや〜情報源は大事ですよねぇ。しかし男性差別を謳ってるお方が男性、それも上院議員の息子と結婚してるなんて知られたら地位が落ちますもんねぇw」

「あっ……あっ……」

 

 バーク議員は口をパクパクとしながら席に崩れるように座った。

 さてと俺らの隊長に悲しい顔させて報いは受けてもらおうかな。

 

「バーク議員? 何か言うことありますよね?」

「も、申し訳ありません」

 

 座ったまま頭をさげる議員。

 

「いやいや、俺に謝ってどうするんですか? 謝る相手が違うでしょ? それにその態度で謝ってるつもりですか?」

「うっ……」

「どうしたんです? 自分を支持してる連中は騙せても、俺はそうはいかないんだよ」

「くっ……」

 

 議員は席を立ちゆっくりと階段を降り始め、俺達の前に来て体を曲げた。

 

「大変……失礼なこと申し上げて……も、申し訳ありませんでした」

「誠意が足りないなぁ議員。そこはJapaneseDOGEZAじゃないですかね?」

「れ、レオン、何もそこまでしなくても……」

「いいえ隊長。こういうヤツらは徹底的に叩かないと後々面倒なことになるので……これでも優しくしてやってる方ですから」

 

 俺の気迫にラウラはそれ以上言葉が出なかった。

 そしてバーク議員は某銀行員のように膝をガクガクと震わせながら膝を地につけ始めた。

 

「ぐっ……! こ、この度は……ま、まことにも、申し訳ありませんでした……」

 

 うーん見事な土下座。最高だね。

 その後、肩を落としながら席に戻っていくバーク議員を見届けてから俺達も歩みを再開する。もう誰もひそひそ話をする者はいなかった。下手に言おうものならどんな秘密を暴露されるかわからなかったからだ。

 

「ご無沙汰しております! シュバルツ中将!」

「ご無沙汰しております!」

 

 俺たちの前に居るのは、北方方面軍司令にしてホルシュタイン航空基地を預かるボルフ・シュバルツ中将だ。

 

「久しぶりだな少佐、中尉。全くヒヤヒヤしたぞ議員とやり合うなど体がいくつあっても足りないぞ」

「ハハハ、いや〜申し訳ありません。ついカッとなってしまって」

「やれやれ。少佐あんなヤツの言うことは気にするな。例え議員であろうと国家代表候補生を侮辱するなら国や我々軍人が許さないから安心しておきなさい」

「はい。中将閣下」

 

 中将の優しい声掛けにラウラは少しにこやかな笑顔をだす。

 

「隊長!」

「ん? クラリッサか」

「ご無沙汰しております!」

 

 中将の後ろの席からやってきたのは我らが黒ウサギ隊の副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。

 

「それよりも隊長。大丈夫でしたか?」

「あぁ大丈夫だ」

「あんのクソ議員めぇ! ちょっとどついてきます!」

「やめたまえ大尉。もうブリューゲルが制裁を加えたからこれ以上は必要ない」

「うっ! それなら仕方ありませんな」

「全く。それよりもブリューゲルなぜあんな情報を持っているのだ? あの議員が結婚したなんてニュースでも取り上げられなかったのに?」

「あぁそれはですね。知り合いがそういう系の情報を仕入れるのが得意なやつがいまして、いざとなった時の保険として情報を持ってただけです」

 

(絶対コイツには下手なこと言わないでおこう)

 

 議会室の中にいる全員が心の中でそう思った。

 

「議長がご到着されました。皆様ご着席ください!」

 

 全員が喋るのを中断し席に戻る。俺達も真ん中の席に移動して椅子の前に立つ。

 扉が開いて中に入ってきたのは初老の男性、名前はブルーノ・カスペン最高議長だ。

 

「いやはやすみませんね。最近足の調子が悪くてね」

 

 カスペン議長は椅子に腰掛けると愛用の老眼鏡を取り出して付けると目の前の書類を見てから、こちらに目を向けてきた。

 

「お久しぶりですねレオンくん」

「ご無沙汰しておりますカスペン議長。息子さんの1件以来ですね」

「えぇ、あの時は色々ありましたね」

「ハハハ、ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、あの1件で息子はすっかり丸くなりましたよ。今や上院議員になっていますから」

「おぉ、それはすごい!」

 

 昔話に花を咲かせている俺とカスペン議長を隣に立つラウラはお互いの顔を見て放心状態になっていた。

 

「さてとボーデヴィッヒ少佐が放心し始めているので長話はここまでにしましょうか」

 

 カスペン議長は隣に立っている副議長に目線を送る。

 

「それでは、ただいまより査問委員会を始めたいと思います。ご両人はご着席ください!」

 

 副議長の声掛けに俺たちは椅子に座った。

 

「それでは、本日の議題は先月日本近海において起きたアメリカ・イスラエル共同のIS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)によるIS学園専用機持ち迎撃作戦に関してであります。今回の承認をご紹介させていただきます。まずドイツ代表候補生及びドイツIS特殊部隊『黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』隊長ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐並びに同所属レオン・ブリューゲル中尉」

 

 俺たちは名前を呼ばれ、もう一度起立し、周りに軽くお辞儀をしてから着席した。

 副議長はそれを確認すると更に言葉を続けた。

 

「続きまして、ドイツ海軍所属ヨーツンヘイム艦長マルティン・プロノホウ中佐」

 

 その声に母さんの後ろに座っていたプロノホウ艦長が立ち上がり周りに軽くお辞儀をした。

 

「それでは質疑応答を始めます」

 

 それから休憩を挟みながら時間は刻刻と過ぎていき、開始してから4時間が過ぎていた(ほとんどだべっていただけだが)。

 

「それでは査問委員会を終わりたいと思います。参加された方々は今回のことは他言しないようにお願い申し上げます」

 

 そうカスペン議長が言うと全員が立ち上がり一斉に礼をした。そのままカスペン議長は議会室を後にした。

 

「ふぅ、疲れた」

「お疲れ様」

「あぁ母さん」

「この後どうするの?」

 

 俺が椅子に腰掛けて項垂れていると母さんが近づいてきた。

 

「あ〜この後ラウラの服を買いに行こうと思ってるんだよね」

「服?」

「そっ。ラウラの私服を買いにね」

「へぇ、私も着いて行って良い?」

「えっ? 別にいいけど」

「やったー! アンネの服を買いに行かなくなってからつまらなくなってて楽しみね!」

「姉さんは?」

「あぁ、あの子はこれから仕事があるから後で合流するわ」

 

 そうして俺とラウラ、そして母さんの3人でショッピングへと向かった。




どうも薄影です
最近寒くて辛いですねぇ。インフルが流行っているみたいです、フォロワーもかかって辛くしてたみたいなので皆さん気おつけましょう。
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