IS シュヴァルツェ・ハーゼはかく語りき   作:薄影 (黒ウサギ党)

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第8話 楽しい一時は長くない

 海での楽しい一時はあっという間終わり現在夜の7時半。場所は昼飯を食べた場所とは違い大広間を3部屋繋げた大宴会場にて俺たちは夕食を取っていた。

 ちなみに座敷とテーブル席で別れていた。何故かって? 座敷は正座をしないといけないからね、色んな国の生徒がいるIS学園なんだからさすがに全員正座はねぇ……

 

「うん美味い! 昼も夜も刺身が出てくるなんて豪勢だなぁ」

「そうだねIS学園って羽振りがいいよ」

 

 そう言って頷いたのは俺の右隣に座っているシャル。

 今は全員がそうであるようにシャルも浴衣姿だ。よくわからないが、この旅館の決まりらしい。『お食事中は浴衣着用』だって。普通、禁止するものじゃないのか? 

 ずらりと並んだ1学年の生徒は座敷なので当然正座だ。そして一人一人に膳が置かれている。

 メニューは刺身と小鍋、それに山菜の和え物が2種類。それ二赤だしの味噌汁とお新香。

 これだけ書くと普通だが、なんと刺身がカワハギなのだ。しかも肝付。信じられん。

 噛むと独特の歯ごたえと癖のない味がなんともいえず下を楽しませる。肝も臭みや苦味などはなく深い味わいがある。最近では高級魚だと言うが納得だ。

 

「あー、美味い! しかもこのわさび、本わさじゃないか! すげぇなおい。高校生の飯じゃないぞ」

「本わさ?」

「あぁ、シャルは知らないのか。本物のわさびをおろしたやつを本わさって言うんだ」

「えっ? じゃあ学園の刺身定食で付いてるのって……」

「あれは練りわさ。えーと原料はワサビダイコンとかセイヨウワサビとかいうやつをだったかな。着色したり合成したりして見た目と色を似せてあるやつ」

「ふぅん。じゃあこれが本当のわさびなんだ?」

「そう。でも練りわさでも最近のは美味しいのが多いぞ。店によっては本わさと練りわさを混ぜて出したりもするから」

「へぇそうなんだ。はむ」

 

 えっ? シャル、今わさびの山を食べなかったか……? 

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 案の定、鼻を押さえて涙目になるシャル。な、何やってんだ……

 

「だ、大丈夫か?」

「ら、らいひょうぶ……」

 

 鼻声で返事をしながら、にこりと笑顔を浮かべようとするシャルだったが、その笑顔は涙目に崩れていまいち決まっていなかった。

 

「ふ、風味があって、いいね……お、おいしい……よ?」

 

 ど、どこまで優等生なんだ、この子は。

 

「っ……ぅ……」

 

 ちなみに俺の左隣ではセシリアがさっきからずっとこんな感じでうめいている。どうも正座が苦手らしい。一向に食事が進んでない。

 

「大丈夫か? セシリア。顔色良くないぞ?」

「だ……ぃ……ょう、ぶ……ですわ……」

 

 うん、すげぇ大丈夫じゃないっぽい。というか、そんなに苦手なのか正座……

 次第にプルプルと震えだしたセシリア。しかし英国人としてのプライドなのかなるべく平静を装って箸を手にした。

 

「い、ぃただき……ます……」

 

 ず、ず……と味噌汁を飲むのにも難儀している。

 そういえばこのIS学園は世界中から入学希望者がやって来るため、生徒・教師ともにかなり多国籍だ。

 現在も浴衣を着ているものの金髪や銀髪の女子、褐色の子に碧眼の子と多種多様。ここだけでちょっとしたワールドツアーが楽しめそうだ。ーーーって無理か。

 

「お、おいしぃ……ですわ、ね」

 

 に、ニコリ……

 

 うーんかなり無理をしているように見えるんだが……

 

「なぁセシリア、正座が無理ならテーブル席の方に移動したらどうだ? うちのクラスからも何人か行ってるし、別に恥ずかしくはないだろ」

「へ、平気ですわ……。この席を獲得するためにかかった労力に比べれば、このくらい……」

 

 うん? 席を獲得ってなんのことだろう? 夕飯の席は入ってきた順に座っただけだと思うんだが……違うのか? そういえばレオンが忘れ物取りに行って代わりにセシリアが俺の後ろに並んだんだっけ。

 

「女の子には色々あるんだよ」

「そうなのか」

「そうなの」

 

 

 そう色々あったのだ。

 

 少し時間を遡り、夕飯前の廊下でのこと。

 俺は浴衣に着替え少し旅館内を散策していた。

 

「しかし本当に広い旅館だな。IS学園御用達ってことだけど。これ絶対政府関係者も泊まったりしてるよな」

 

 そんなことを考えながら自分の部屋に戻るために歩みを進めていた時後ろから声をかけられた。

 

「レオンさん!」

「うん?」

 

 振り向くとそこには金髪縦ロールことセシリアがいた。

 

「おう、セシリアじゃんどうした?」

「す、少し頼み事がありまして」

「頼み?」

 

 セシリアは俺を見つけて走ってきたのか少し息が荒かった。少し浴衣が着崩れしていて胸元が見えそうになっているのを確認して俺は視線を少しズラした。

 

「この後の夕食の時に私に一夏さんの隣を譲って貰えないでしょうか」

「一夏の隣?」

「はい!」

「別に良いけど一夏の席って座敷だぜ。セシリアお前正座できるのか?」

「うっ! 夕食の時間は耐えてみせますわ」

 

 おぉなんとまぁ耐える気でいらっしゃるよこのイギリス娘。正座って慣れてないとキツイんだよなぁ……俺も最初の頃は正座に慣れなくて最後痺れて動けなかったっけ。

 

「それで席を譲ったとして俺への見返りは?」

「ふふふ、そう言うと思いまして」

 

 セシリアは待ってましたと言わんばかりに浴衣の袖に手を入れて手探りで何か探して取り出した。

 

「見返りはこれですわ!」

「そ、それは!?」

 

 セシリアが取り出したのは1枚のカードだった。

 そのカードを見たレオンは目を大きく見開き開いた口が塞がらない状態だった。

 

「このカードを見返りとしてレオンさん、あなたにあげますわ」

「なん.だと」

 

 レオンの体に衝撃が走る。

 セシリアが出したこのカードは日本の男児が一度は見たことがある国民的ヒーロー『アイアンガイ』の第1巻初回限定盤に収録されている限定カード。しかも製造された枚数が少なく世に出回っている物はたったの10枚というレア中のレア物なのだ。

 だが知っての通りレオンはドイツが誇る日本オタク、当然このアイアンガイカードも持っている、ならば何故こんなにもレオンが動揺しているのかと言うとそれはこのカードがその10枚のカードの中でも飛びっきりのレア物ということだ。

 このカードは最初に製造された物で印刷ミスがあり初代アイアンガイの後ろに載るはずのない第1巻の表紙が写しとして印刷されている。コレクターが全財産を出してでも欲しいと言われている位の代物が今目の前にある。

 

「な……何故セシリアがそのカードを……」

「たまたま見つけて私が買い取りましたの。さぁどうなさいますか?」

「良いだろ、一夏の隣に座れるようにすれば良いんだな」

「えぇ交渉成立ですわね」

 

 そしてお互いに握手を交わしてレオンはセシリアの手からカードを受け取り、その場で別れた。

 レオンはその後一夏と一緒に大宴会場に向かって行く道中でシャルロットとセシリアと合流しセシリアを自分の後ろに移動させてから忘れ物をしたと言いその場を離脱、そしてセシリアは見事一夏の隣をGETした。

 

 

 時間は戻り大宴会場テーブル席側

 

 その後のレオンは頃合を見て大宴会場に戻る道中でラウラと遭遇しそのまま一緒に移動することになりテーブル席でラウラの隣に座ることになった。

 

「しかしラウラは良かったんですか?」

「はむ。ん? 何がだ?」

「せっかく一夏の隣になれるチャンスだったのに」

「あぁ良いんだ、その……」

「ん?」

「せ、正座が苦手なんだ」

「あぁ、大変ですもんね。でもラウラ茶道部じゃなかったでしたっけ?」

「そうだが、なかなか慣れなくてな。織斑先生にも慣れるまでは足を崩して良いと言われている」

「なるほど」

 

 俺たちは並べられている料理を食べながら会話をする。

 そして座敷側で何やら騒ぎが起きているみたいだ。

 

 

 

「う、ぐ……、くぅ……」

 

 そしてセシリアよ。やっぱり正座が無理なんじゃないのか。さっきから2回も刺身を取り損なっているぞ。

 

「セシリア」

「移動は、しませんわ」

 

 むう、言い切られてしまった。

 

「しかし、食事が進まないだろ。食べさせてやろうか? 前にシャルにーーむぐっ!」

「い、一夏っ!」

「ーーー。すまん」

 

 つい口が滑ってしまった。シャルからしたら箸が使えなくて食べさせてもらったなんて恥ずかしに決まってる。

 

「い、一夏さん、今のは本当ですの!?」

 

 うわー食いついてきた。いかん誤魔化さなきゃ。

 

「えーと、あの時はシャルが体調を……」

「シャルロットさんのことはいいんです! そ、その! 食事を、食べさせてくれるというのは……!」

「う、うん? 別に良いぞ。足の痺れが取れるのを待っていたら料理が冷めるだろ。それに刺身、カワハギだぞ。鮮度が落ちたらもったいない」

「そ、そうですわね! えぇ、えぇ! せっかくの料理が傷んではシェフに申し訳ありませんものね!」

 

 うむ、その通りだ。食事を作ってくれるというのは当たり前のことなんかじゃない。感謝を忘れたら人間終わりだ。

 

「で、では。お願いしますわ」

 

 そう言って俺に箸を預けてくるセシリア。それを受け取って、俺はさっそく刺身を1切れつまむ。

 

「セシリア、わさびは平気だったか?」

「わ、わさびは、少量で……」

 

 苦手らしい。美味いのになぁ。

 

「じゃあ」

「は、はい。あー……」

 

 ん、言おうとした所で問題が起きた。

 

「あああーっ! セシリアずるい! 何してるのよ!」

「織斑君に食べさせてもらってる! 卑怯者!」

「ズルイ! インチキ! イカサマ!」

「飯まず国家! ブリカス!」

 

 ぬぁ、他の女子に見つかった。ーーって、当たり前か。ずらーっと並んで座ってるんだし、普通気づくか。

 

「ず、するくはありませんわ! 席が隣の特権です! あと誰ですか私の祖国の悪口を言ったのは!」

「それがずるいって言ってんの!」

「事実でしょうが!」

「織斑君、私も私も!」

 

 これ幸いとばかりに自分も食べさせて欲しいと女子が押し寄せる。こら、ちょっとまて。どう見てもお前ら普通に食事できるだろ! 

 

「早く早く!」

「あーん!」

 

 一様に口を開く女子の群れ。ええいお前らは雛鳥か! 

 その時

 

「お前たち静かに食事することができんのか!」

 

 その声に場の全員が凍りついた。

 

「お、織斑先生……」

「どうにも体力が有り余っているようだな? よかろう、それでは今から砂浜をランニングしてこい。距離はそうだな……50キロもあれば十分だろ」

「いえいえいえ! とんでもないです! 大人しく食事します!」

 

 そう言って各自の席に戻っていく。それを確認してから千冬姉は俺の方を見た。

 

「織斑、あんまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」

「わ、わかりました」

 

 そう言って織斑先生は襖を閉めて教員用の部屋に戻って行った。

 

「という訳でなセシリア、悪いけど自分でーー」

「ムゥ〜〜~」

 

 うっ! 凄いふくれっ面をしている。効果音があるならば、プク〜〜〜~という感じ。

 

「あのだな、ええっと……」

「ええ、えぇ、わかっています。一夏さんは織斑先生(お姉さん)が大切ですものね!」

 

 うわぁ……怒らせてしまったようだな。

 

「あっ。セシリア代わりと言っちゃなんだけど、後で部屋に来てくれよ」

 

 小声でそう言うと、セシリアは2度ぱちくりと瞬きをした。

 

「へっ……後で部屋に……? はっ! い、一夏さんそれはもしや!」

 

 その後上機嫌なセシリアはパクパクと食事を食べていた。そして満腹になりそれぞれが部屋に戻っていく中、俺と一夏は空いた露天風呂に向かって歩いて行った。

 

 

 

 

「ふ〜、さっぱりした〜」

「いや〜いい湯だったな!」

「全くだ。しかし海を一望できる露天風呂を2人で独占できるとは贅沢だよなぁ」

「俺は露天風呂は初めだったが良いもんだな」

 

 食後に温泉。なんと言う贅沢か。

 俺たちは上機嫌で部屋に戻ってきた。

 

「おや? 織斑先生居ないな」

「温泉にでも行ってるじゃないか?」

 

 まぁ部屋にいないんだからそうなんだろう。おっどうやら帰ってきたみたいだな。

 

「ん? なんだ、女の1人や2人連れ込まないとはつまらない奴らだ」

「だから……はぁ、もういいよ。それは」

「さすがに教員の部屋に連れ込んだとあったら大事でしょうに」

 

 第1この部屋は一応も何も『織斑先生』の部屋な訳で、いかがわしいことなんてやったら後でどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。

 ちなみに、織斑先生も温泉に行っていたみたいで、髪はしっとりと濡れている。艶のかかった黒髪は織斑先生の美貌と相まって色っぽさまで加味している。

 

 ヴーヴー! 

 

「ん? おいブリューゲル携帯がなっているぞ」

「おや誰からだろこんな時間に」

 

 俺はバックからスマホを取り出して画面を見るとそこには

 

「母さん?」

 

 ドイツ本国にいる母親からの着信が、何かあったんだろうか? 

 

「すいません、ちょっと電話してきます」

「あぁガブリエラさんによろしくと伝えといてくれ」

「はい」

 

 俺は部屋を出て廊下を歩いて適当な所で腰を降ろして通話ボタンを押した。

 

「もしもし母さん?」

『あっレオン? ごめんねこんな夜遅くに』

「いや別に良いけど、どうしたの?」

『それがねフラムドライ用に改良した試験装備の1つが遅れそうなのよ』

「えっ!? マジで言ってるの!?」

 

 合宿2日目はISの各種装備の試験運用とデータ取りが行われる。それが遅れるとなるとデータを取れなくなる本国にとっても痛手だ。

 

『本当に申し訳ないと思ってるの他の装備は何とかなりそうなんだけどね』

「何があったの?」

『それがね、レオンが専用機持ちになってフラムドライが動くようになったから大急ぎで装備の点検とかをやってたのよ』

「それで?」

『急にドクトルがやってきて不採用になって博物館行きになったあれを使おうって言ってきたのよ』

 

 博物館行きになったあれ……はぁ? あれのことか!? 

 

「嘘でしょ母さん?」

『これが嘘だったら良かったんだけどねぇ』

「Oh Mann(なんてことだ)」

 

 あのマッドなんてことを思いつくかなぁ……

 

「それで、遅れる理由は?」

『一応使えるようにはしたのよ。ただ運搬できる船が無くて急遽、連絡貨客船を改造して運搬してる所なのよ』

「なるほどね、まぁ仕方ないよね」

『ごめんなさいね』

「母さんが悪い訳じゃないでしょ。それよりも家にちゃんと帰ってるの? また椅子で寝てたりしないよね?」

『ギクッ!?』

「帰ってないのね。姉さんは?」

『あの娘も支局に残って作業を手伝ってくれてるわ』

「はぁ……なんでもいいけどちゃんとベットで寝てよね」

『えぇ、ありがとうレオン』

「うん、姉さんにもよろしく伝えておいてね、夏休みに1度帰るから」

『わかったわ。ちゃんと伝えておく』

「あぁ、それと織斑先生がよろしくってさ」

『あら、千冬ちゃん元気だった?』

「そりゃもう学園の女子ズに人気だよ」

『あらあら、あの娘も大変ね。それじゃあレオン怪我したりしないようにね』

「うん、母さんも体調に気おつけてね」

『Tschüss(バイバイ)』

 

 ツーツーツー

 

 やれやれ。あの博士も厄介なものを引っ張り出してきたもんだな。

 

 俺はスマホの電源を切って部屋に戻る為に廊下を歩きだした。

 

 

 その頃セシリアが居る部屋では、一夏の部屋に行けない女子達が嘆いていた。

 

「あーあ、せっかく織斑君とブリューゲル君と一緒に遊ぼうと思って色々持ってきたのに……」

「織斑先生の部屋じゃねぇ」

「「「はぁ……」」」

 

 3人のため息を他所にセシリアはというと食事の後に風呂を1回、シャワーを1回浴びたセシリアが鼻歌を歌いながら上機嫌で着替えていた。

 

「〜〜~♪」

 

 身に纏うのは旅館の浴衣だが、素肌に着けているのはさっきまでとは違う下着。

 

(あぁっ、もしかしたら……もしかしたらと思い用意しておいた甲斐がありましたわ)

 

 その妙にウキウキとした様子から不思議に思ったクラスメイトの1人、のほほんさんこと布仏本音が腰を低くして近づいて来ているが、それにセシリアは気づかずに鼻歌交じりにコロンを吹いていた。

 

「あ〜〜〜~。せっしーがえっちぃ下着つけてる〜」

 

 いつもは半開きの目をしている彼女だが、なぜか観察力と洞察力に長けているのほほんさんがそう告げると、その言葉を聞いて、さすがのセシリアもギクリとしてしまった。なぜなら……

 

「なにっ!? 脱がせ脱がせぇ〜!」

「剥け〜。身ぐるみ置いてけ〜!」

「きゃあああっ!? やっ、やめっ……引っ張らないで〜!」

 

 女3人集まれば姦しいとはよく言ったもので、とすれば9人部屋のここは姦しい×3である。

 特に目当ての一夏とレオンと遊べない分、エネルギーと暇も持て余している。そういう女子はちょっとのことで暴走するのをセシリアは我が身と同じくわかっていた。

 

「わ。本当にエロい下着つけてる……」

「えろ〜、えろ〜」

「なになに、勝負下着? 織斑君の所に行けないのにそんなの着ちゃって」

「まぁまぁ〜。セシリアったらおませさん☆」

 

 口々に好きなことを言いながら、最後に声を揃える女子一同。

 

「「「セシリアはエロいなぁ」」」

「え、エロくありません! こ、これは、その、身だしなみ……そう、身だしなみですわ!」

 

 セシリアはもみくちゃにされて乱れた浴衣を直しながら、真っ赤になってはんろんすると同時に自分だけ一夏の部屋に誘われていることがバレませんようにと心の中で密かに祈っていた。

 

「そういえばなんか念入りに体を洗ってたよね?」

 

 ギクッ! 

 

「その後シャワーも浴びてたし、今もなんでかメイクしてるし?」

 

 ギク! ギクッ! 

 

「なんか、怪しい?」

「あ、あ、怪しくなどありませんわ! これは女として当然の身だしなみ。わたくし用がありますのでこれで失礼します!」

 

 ちょっと気分を害した風に言って立ち上がる。このまま部屋を出てしまえば『わたくしの勝利ですわ!』と考えるセシリアだったが……。

 

「う〜ん? くんくん。せっしーがいつも使ってる香水じゃないよね。えぇと、この匂いはレリエルのナンバーシックス? わ〜高級品だ〜!」

 

 のほほんさんの言葉に女子ズの顔がこわばる。

 ーーしまった! と思うが時すでに遅し。女子の執拗なまでの追求が始まった。

 

「レリエルのナンバーシックス!? 一振10万円って言われてる、あの!?」

「しかも毎年100個しか生産されないシリアルナンバー入りよ、あれ!」

「実物持ってるの!? ちょっと見せて!」

「え、えぇ見ても構いませんから、わたくしはこれで……」

「「「ダメ!!」」」

 

 えぇ〜……と心の中でツッコミ&落胆するセシリアだったが、女子ズはその腕をがっちりキープ。しっかりと掴んですぐには離さない。

 

「これ、どこで手に入れたの!? お金出してもそうそう買えないって話じゃない」

「実家の方がレリエル社と懇意にしてまして……」

「うわ! そういえばセシリアって超がつくほどお金持ちなんだった!」

「いえ、わたくしというか、わたくしの実家がですけれど……」

「匂い嗅がせて!」

「あ、あの、それでしたらコロンを使っても構いませんから、わたくしはこれで……」

「「「ダメ!!」」」

 

 えぇ〜……以下同文。

 

「もったいないじゃん!」

「セシリアがつけているんなら、それかげばOK!」

「かぐ〜かぐ〜」

 

 両手を広げてにじり寄って来る女子ズ。嫌な予感がしてセシリアは後ずさるが、すぐに壁に行き当たった。

 

「ふっふっふっ。逃がしはしないわよ」

「さぁ大人しく嗅がれなさい!」

「よいではないか〜よいではないか〜」

 

 じりじり。寄ってくる女子ズの目は怪しく光り輝いている。

 

「い、い、いやあああああ〜っ!!」

 

 

 

「何が起きてんだこの部屋で?」

 

 部屋に戻る途中で一連の騒ぎを聞いてた俺は唖然としていたが関わるとめんどくさい事になりそうだからそっとしておくことにした。

 

「戻る前にトイレ済ませておこ、あとなんか飲み物買ってこよ」

 

 俺は騒ぎの部屋を後にして旅館の売店の方へと歩いた。

 

 

 

 

 

「うっ、うっ……酷い目に逢いましたわ……」

 

 結局もみくちゃにされたセシリアは、未だ傷跡癒えずの様相で廊下を歩いていた。

 

(でも、これでやっとーー!)

 

 一夏の部屋に行ける! そう思うと、今までの疲れもダメージも吹き飛んだ。乱れた服装も、わずか10数秒で元に戻る。

 

(の、喉の調子も整えておきませんと。ん、んっ)

 

 浮かれているのが歩調にも表れている。今にもスキップをしそうな足取りは、だんだんと早足になって目的の場所へと向かった。

 ーーーーところが。

 

「………………」

「………………」

 

 部屋の前、その入り口に張り付いている女子が2人。

 

「鈴さん? それに箒さんまで。一体そこで何をーー」

「シッ!!」

 

 そう言うなり鈴はセシリアの口を塞ぐ。

 状況がわからずにもがいていると、ふとドアの向こうから声が聞こえた。

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

『そんな訳あるか。馬鹿者。ーーんっ! す、少しは加減をしろ……』

『はいはい。んじゃあ、ここは……と』

『くあっ! そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』

『すぐに良くなるって。だいぶ溜まってるみたいだし、ね』

『あぁぁっ!』

 

 ………………。

 

「こ、こ、これは、一体何ですの……?」

 

 ひくひくと口元を震わせ、引きつった笑みを浮かべながらそう尋ねるセシリア。しかし返ってきたのはただただ沈黙だけだった。

 

「………………」

「………………」

 

 鈴も箒も、ずーんと沈んだ表情をしている。その様子はまるでお通夜状態だった。

 

「何やってんだ? お前ら」

「「「え?」」」

 

 後ろから声をかけられ3人は一斉に振り向くとそこには部屋にいるはずのレオンが立っていた。

 

「れ、レオンさん? 貴方こそ何をやっていますの?」

「ん? 何って飲み物買いに行ってたんだよ電話来たついでに。で? なんで葬式みたいに暗いわけ?」

「アンタも聞きなさい!」

 

 鈴に掴まれドアに耳を近づけると中から一夏と織斑先生の声が以下省略。

 

「なーんだ、こんなことでお前ら葬式ムードだったのかよ」

「「「な!?」」」

「普通に入れば良いじゃねぇか」

 

 俺が扉に手をかけようとした時。

 

「ちょっと待っ……」

 

 3人が静止しようと俺に手を伸ばそうとしたが。

 

「ただいま戻りました」

 

 扉を開けると同時に3人を避けると3人は部屋の中に飛び込む形で部屋に入った。

 

「「「へぶっ!!」」」

 

 漏れた声は10代女子とは思えない響きをしていた。

 

「ほぉ、先程から外に気配を感じていたが」

「は、はは……」

「こ、こんばんは、織斑先生……」

「さ……さようなら、織斑先生って!!」

 

 脱兎のごとく逃走をするがーーーすぐに捕まった。箒と鈴は首根っこを取られ、セシリアにいたっては浴衣の裾を踏まれて終了。

 この人に肉弾戦で勝てる人間はいないだろうな。

 

「盗み聞きとは感心しないが、ちょうどいい。入っていけ」

「「「えっ?」」」

 

 予想外の言葉に目を丸くする3人。

 

「あぁ、そうだ。他の2人……ボーデヴィッヒとデュノアも呼んでこい」

「は、はいっ!」

 

 首根っこを開放された鈴と箒は駆け足で2人を呼びに行く。

 同じく浴衣を離してもらったセシリアは、ズレた胸元を正しながら部屋へと入った。

 

「おぉセシリア。遅かったな。じゃあ始めようぜ」

 

 ぽんぽんとベッドを叩いてセシリアを呼ぶ一夏。

 それに対して、セシリアはあまりにもストレートな誘いにボッと真っ赤になった。

 

「え、あの、織斑先生とレオンさんもいらっしゃいますし、その……」

「? 別に良いじゃないか。俺も体が温まってるし、早く始めよう」

「い、いえ、でも、こういうのは、その、雰囲気が……」

「…………?」

 

 いまいちセシリアの言葉の意図が掴めない一夏は不思議そうな顔をするだけで、またベッドをぽんぽんと叩いて開始を促す。

 どうにも困ったセシリアがちらりと千冬を見ると、向こうは向こうで『私に構わず始めろ』と無言で告げてきた。

 それを横目に笑いを堪えるレオン。

 

(か、構わないなんて出来るわけないでしょうに……!)

 

 しかし、このままでは埒が明かない。しかも先程千冬はシャルロットとラウラを呼んでくるように言ったので、このままだとますます大変な事態になってしまう。

 

(ううっ……! お、女は度胸、ですわ……!)

 

 そう心で叫び、半ばヤケクソ気味にベッドに横たわる。

 ドクッドクッと高鳴る胸は今にも張り裂けそうで、セシリアは期待と不安とに踊らされたままぎゅっと目を閉じた。

 

「……………………」

 

 けれど何も始まらない。

 あれ…………? と思ってセシリアは右目を半分だけ開けると、一夏が口を開いた。

 

「セシリア、うつ伏せじゃないとできないぞ」

「え? え? う、うつ伏せで……しますの?」

「うん」

「そ、そうですか…………」

「ぷ……くく……く……」

 

 そのセシリアの反応に俺は笑いを堪えるが体がぷるぷると震えだしていた。

 

「じゃあ、始めるぞ!」

「は、はいっ!」

 

 思わず裏返ってしまった声を恥じらうような余裕はもうない。直ぐに訪れるであろう手の感触を待って、セシリアの心臓はいよいよ破裂寸前にまで暴れ始めた。

 そしてーーー

 

「ん、しょっ……」

 

 ギュゥゥゥ〜〜~〜〜~ッ。

 

「!? いたたたっ、いたっ! い、い、いいっ、一夏さん!? な、な、何をしてーーあううぅっ!」

「何って、指圧」

「し…………あつ…………?」

「そう、腰の」

「腰…………」

 

 きょとんとしたセシリアは、一夏の言葉をオウム返しにする。

 

「え、ええと、一夏さん。部屋に誘ったのは、もしかしてこの……」

「おう。マッサージをサービスしようと思ってな。セシリアって班部屋だろ? それじゃ落ち着かないだろうから、この部屋に呼んだんだ」

 

 ………………。

 

 カァ、と、カラスが鳴いた。セシリアは心の中で泣いた。

 

 もう無理だ我慢出来ん。

 

「アッハッハッハッハッ!!」

 

 盛大に笑いが込み上げてくる。

 

「ブリューゲル……笑うな……ぷっ……オルコットが可哀想……だろ」

 

 そう言う織斑先生も肩を震わせている。

 

「ぶ、無様です……わたくし……」

「うん? ど、どうした。そんなに痛かったか?」

「えぇとても……致命的なまでに……」

「そ、そりゃ悪かった。すまん、優しくする」

「もうなんでもいいです……」

 深い深い闇より深いため息を漏らしたセシリア。それと一緒に魂まで抜けてしまっているかのような、疲労と絶望と諦観と自嘲が綯い交ぜになった表情をする。

 しかし、マッサージを始めるとその心地良さと一夏との会話もあって、自然と気分が回復し高揚していった。

 

「これくらいだったら大丈夫か?」

「えぇ……。気持ちいいです……」

 

 ぐっ、ぐっ、と親指で背骨の付け根、その左右両端を指圧する。

 

「それにしても、腰のコリが酷いな。セシリアって何かやってるのか?」

「んっ。えぇ、たしなむ程度にバイオリンを。そ、そこは、ちょっと苦しいです…………」

「おぉ、悪い。じゃあここは指圧じゃないと方が良いな」

 

 親指を離し、手のひらの下部で静かに圧力をかけていく。

 さっきまでの点での指圧ではなく面でのマッサージは心地よい負荷で体をほぐす。その感触が穏やかな快感へと変わるのはすぐで、セシリアの口から思わず暖色のため息が漏れた。

 

「はぁぁ……。一夏さんって上手ですのね…………」

「まぁ、昔から千冬姉にしてたしなマッサージは」

「……それと、女の扱いも……」

 

 わずかに批難を含めている声は、けれど一夏聞こえないように小さく響く。

 

「じゃあ、このまま背筋を上に行くからな」

「はい……。お任せしますわ……」

 

 セシリアは夢心地でぼんやりと答える。

 

「重点的にしてほしいところとかあるか?」

「それもお任せします……」

「ほいよ。じゃあしっかり看させてもらおうかな」

 

(ん…………。本当に眠く……なって……)

 

 ぼーっとした頭で考えながら、次第にその思考も緩やかになっていく。

 ふと、自分が横たわっているベッドに男の匂いーーつまり一夏の匂いを感じて、心臓がどきっと静かに跳ねた。

 

(いい匂い…………)

 

 もう半分眠りに落ちてしまっているセシリアは、残りの半分も匂いと共に眠りの森へと沈めようとしていた時に。

 

 ムニュッ!! 

 

「!?!?!?」

 

 いきなりお尻を鷲掴みにされて、完全に眠りかけた意識が一瞬で覚醒する。

 

(い、い、い、一夏さん? ま、マッサージとはいえ、そんな、大胆な……!)

 

 ドキンッドキンッと高鳴る胸を右手で押さえ、恐る恐る振り向くとーー

 

「おーマセガキめ」

 

 そこには千冬が遠慮なくセシリアのお尻を握っていた。しかもその顔はイタズラが成功した顔で、けれどタチが悪い事に子供っぽさの欠片もない。ニヤリ、と豹の笑み。

 

「しかし、歳相応の下着だな。そのうえ黒か」

「え…………きゃあああ!?」

 

 千冬がセシリアのお尻を下からすくい上げるように掴んでいたせいで、まぐれ上がった浴衣の裾からふくよかなヒップがあらわになっていた。もちろん、そこに着けている下着も丸見えになっていた。

 豪奢なレースを編み込んだ、面積の少ない『特別な下着』。両サイドを紐で縛ってある。それは脱がされることを前提にしたものだった。

 

「………………」

 

 一夏は顔を赤くして顔を逸らしていた。その様子にははっきりと『見られた!』ことを意識したセシリアは恥ずかしいを通り越してもう隠れてしまいたかった。尻は隠れていないが。

 

「せ、先生! 離してください!」

 

 真っ赤になったセシリアがそう叫ぶと、思いの外あっさりと千冬は手を退けた。

 

「やれやれ。教師の前で淫行を期待するなよ15歳」

「い、い、い、インコっ……!?」

「冗談だ。おいブリューゲルいつまで笑ってる外の4人を中に入れてこい」

「アッハッハッハッハッ、はぁ〜了解です!」

 

 俺は織斑先生に言われた通りにドアを開けると、そこに居たのは箒に鈴にシャルロットにラウラ。全員が浴衣姿で立っていた。

 

「一夏、マッサージはもう良いだろう。ほれ、全員好きなところに座れ」

 

 ちょいちょいと手招きをされて、4人はおずおずと部屋に入る。そして言われた通り各人が好きな場所に座った。

 

「おい一夏、お前はもう一度風呂に入ってこい。部屋を汗臭くされてはかなわん」

「ん。そうする」

「ついでにブリューゲルお前も行ってこい」

「えっ!? 俺もですか? 別に汗はかいてないんだけどな」

「察せ」

「了解です」

 

 俺と一夏はタオルと着替えを持って部屋を出た。一夏は部屋にいるヒロインズに『くつろいでいってくれ。って難しいかもしれないけど』と言い残した。

 俺も部屋を出る前にみんなに目線をやってから親指をグッと挙げて『頑張れ!』と言ってから出ていった。

 

「………………」

 

 そして言葉通り、どうしていいかわからない女子が、5人、言われたまま座ったところで止まってしまった。

 

「おいおい葬式か通夜か? いつものバカ騒ぎはどうした?」

「い、いえ、その……」

「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと……」

「は、初めてですし……」

「全く、しょうがない奴らだ。私が飲み物を奢ってやる。篠ノ之、何がいい?」

 

 いきなり名前を呼ばれて、箒はビクッと肩をすくませる。言葉がすぐに出てこずに困ってしまった。

 そうこうしているうちに千冬は旅館の備え付けの冷蔵庫を開けて中から清涼飲料水を5人分取り出していく。

 

「ほれ。ラムネとオレンジジュースとスポーツドリンクにコーヒーそれと紅茶だ。それぞれ他のが良いやつは各人で交換しろ」

 

 そう言われたものの順番に箒、シャルロット、鈴、ラウラ、セシリアと受け取った全員が渡されたもので満足していたので交換会は開かれなかった。

 

「い、いただきます」

 

 全員が同じ言葉を口にし、次に飲み物を口にする。

 女子達の喉がごくりと動いたのを確認した千冬の口には笑みがニヤリと笑っていた。

 

「飲んだな?」

「は、はい?」

「そりゃ飲みましたけど……」

「な、何か入っていましたの!?」

「失礼な事を言うなバカめ、なに、ちょっとした口封じだ」

 

 そう言うと千冬は冷蔵庫を開けて取り出したのは星のマークが入った缶ビールだった。そうアサヒィ↓スゥパァ↑ドゥルァァァァイ↓そのものである。

 プシュッ! と景気のいい音を立てて飛沫と泡が飛び出す。それを唇で受け取って、そのまま千冬はゴクゴクと喉を鳴らした。

 

「………………」

 

 全員が唖然としている中、千冬は上機嫌でベッドに腰かける。

 

「ぷはー、本来なら一夏に1作品作らせる所だが……まぁ我慢しよう」

 

 いつも規律と規則に正しく全面厳戒態勢のあの『織斑先生』と目の前の人物が一致せず、全員がまたもやポカーンとしていた。特にラウラなんてさっきから瞬きを繰り返していて目の前の光景が信じられないといった表情をしていた。

 

「おかしな顔をするな、私だって人間だ。酒だって飲むさ、それとも何か私は作業オイルでも飲む物体に見えたのか?」

「い、いえ!」

「そうでは無いのですが……」

「でも今は……」

「仕事中なんじゃ……」

「………………」

 

 ラウラの開いた口からは何も言葉が出なかった。代わりに貰ったコーヒー缶をごくりと嚥下した。

 

「硬いこと言うな。それに口止め料は払っただろ?」

 

 そう言う千冬はニヤリと笑い、全員は手元の飲料を流し目で見た、そこでやっと貰った飲み物の意味に気づいて『あっ!』と声を漏らした。

 

「さて、前座はこの辺で良いだろ。そろそろ肝心の話をするか。おいボーデヴィッヒおかわりを持ってこい」

 

 ラウラに2本目のビールを持ってくるように言って取らせて、また景気のいい音を響かせて千冬が話を続ける。

 

「お前ら、あいつのどこが良いんだ?」

 

 あいつ、と言ってはいるが全員が誰を指しているかわかっていた。

 一夏ーーーしかいない。

 

「わ、私は別に……以前より剣の腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」

 

 と、ラムネを傾けながら箒。

 

「あたしは、腐れ縁なだけだし……」

 

 スポーツドリンクのフチをなぞりながら、もごもごと言う鈴。

 

「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」

 

 さっきの行動の反発か、ツンとした態度で答えるセシリア。

 

「ふむ、そうか。では一夏に伝えておこう」

「「「言わなくていいです!」」」

 

 しれっとそんなことを言う千冬に3人はギョッとしてから一斉に詰め寄り、その様子を『はっはっはっ』と笑い声で一蹴してから千冬は缶ビールを傾ける。

 

「僕はーーーあの、私は……優しいところ、です……」

 

 ぽつりとそう言ったのはシャルロットで声の小ささとは裏腹にそこには真摯な響があった。

 

「ほう。しかしなぁ、あいつは誰にでも優しいぞ」

「そ、そうですね……そこがちょっと悔しい……かなぁ」

 

 あははと照れ笑いをしながら、熱くなった頬をぱたぱたと扇ぐシャルロット。その様子が羨ましいのか悔しいのか前述3人はじーっと押し黙ってシャルロットを見つめていた。

 

「で、お前は?」

 

 さっきから一言も発してないラウラに千冬は話を振る。どうもそれ自体は警戒していないようでラウラはビクッと身をすくませながらも言葉を紡ぎ始めた。

 

「つ、強いところが、でしょうか……」

「いや弱いだろ」

 

 なんでもない事のように言う千冬に珍しくラウラは食ってかかった。

 

「つ、強いです。少なくとも私よりも」

 

 そうかねぇ……と言う千冬は2本目のビールを空ける。

 

「強い奴が良いのなら、ブリューゲルはどうなんだ?」

「い、いや、その……レオンは……なんというか、少し怖いです」

「怖い?」

 

 意外なラウラの言葉に目を丸くする千冬と女子一同。

 

「その、この前の戦闘でレオンは本気を出していなかったように見えました」

「その心は?」

「きょ、織斑先生なら知ってますよね。私の目にはナノマシンを投与した越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)がありますが、あの時レオンはそれを一切使っていませんでした。それに……」

「それに?」

「一瞬だけでしたがレオンが笑った気がしたんです」

「そんなの戦闘が楽しかっただけじゃないのか?」

「いえ、あの笑顔には恐怖を感じました。だからレオンには少し恐怖を感じています」

「なるほどな。まぁその話は置いておこう」

 

 そう言うと千冬は手に持っていた空き缶を机に置き話を続けた。

 

「まぁ、あいつは役に立つぞ。家事も料理もなかなかだしマッサージだって上手い。そうだろオルコット?」

 

 話を振られたセシリアは赤い顔をしてうつむき頷く。

 

「という訳で付き合える女は得だな。どうだ欲しいか?」

 

 えっ!? と全員が顔を上げる。それから一斉に尋ねた。

 

「「「「「く、くれるんですか?」」」」」

「やるかバーカ」

 

 そう言いながら立ち上がる千冬。

 

「「「「「ええ〜……」」」」」

 

 心の中で残念がる女子一同。

 

「女なら、奪う覚気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」

 

 そうして3本目のビールを口にする千冬の顔は実に楽しそうな表情でそう言った。

 

 

 

 

 

 湯上りの男子2人が廊下を歩いていた。

 

「いや〜いい湯だった」

「2回目だけどやっぱり温泉は良いなぁ」

 

 2人の髪はまだ湿り気が残っており女子がこれを見たら倒れるような感じになっている。

 一夏は顔は整っているから映えるよな。俺はさすがに暑かったので髪を後ろで束ねてポニーテールにしている、後ろから見たら女に間違えられそうだな。いやまぁ実際間違えられたことは何度かあるんだがな……

 

「しかし置いてきた、みんな大丈夫かな?」

「出る時みんな震えてたもんな、まるで借りてきた猫みたいだったな」

「千冬姉って厳しいし怖いけど、ああ見えて話してみると案外普通だし、プライベートじゃだらしいなぜ」

「マジかよ。うち姉貴もだぜ」

「ほんとかよ。どこの姉もだらしないのか?」

 

 姉が誰も見てないところではだらしないのは世界共通なのだろうか? 

 

「そういえば、さっき部屋を出た時の電話はなんだったんだ?」

 

 一夏は疑問に思い質問してきた。

 

「あぁ、本国にいる母さんから明日行うはずだった俺のISのパッケージ装備が遅れるって連絡だったよ」

「へぇーそれは大変だな」

「まぁね。本国の天才さんがいきなり言ってきたみたいで、しっちゃかめっちゃかだそうだ。そういえば白式はそういうのが無いんだよな確か」

「あぁ、バススロットを雪片弐型で埋まってるらしくてな後付装備が出来ないんだよ」

「難儀だな」

 

 そうこうしている間に俺たちは部屋に着くと同時に部屋から女子ズが出てきた。

 

「あっ」

「おう」

「みんなどうしたよ? 疲れた顔して」

 

 みんな疲れたような顔している。まぁ無理か、だってあの織斑千冬と面向かって喋るなんて色んな意味で疲れるよな。

 

「レオンあんた怖いんだって」

「へ?」

 

 何が!? 何が怖いの? この筋肉か! この筋肉が怖いのか! 誰が言ったの! ん? 

 一瞬ラウラと目が合ったが直ぐに顔をそらされた。

 

「ラウラ?」

「ち、違う、違うんだレオンー!」

「ラ、ラウラーー!」

 

 だだだっと走り去るラウラを見届けて俺は床に崩れ落ちた。

 

「ま、マジか……」

「レオン……なんか……どんまい」

 

 ぽんと俺の肩に手を置く一夏。

 やめてくれなんか泣けてくる。

 

 こうして長かった合宿初日が終わりを告げた。明日はどうなることやら。

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