IS シュヴァルツェ・ハーゼはかく語りき   作:薄影 (黒ウサギ党)

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第9話 福音来たりて絶望をもたらさん

 臨海合宿2日目の朝、俺はいつもの日課のランニングをしていた。旅館を出る前にラウラと遭遇し一緒に走ることになった。

 旅館前の浜辺を30分走った後、俺たちは岩場で休憩をしていた。

 

「ふぅ」

「ラウラ、ほい」

 

 俺は腰のボトルホルダーから飲み物を取り出してラウラに投げ渡した。

 

「あぁ、すまない」

 

 ラウラは受け取ったペットボトルの蓋を開けて口につけて飲み始めた。

 俺ももう片方に入れているペットボトルを取り出して飲み始めた。

 

「ふぅ。それでラウラは俺のことが怖いんですか?」

「ぶっ!? ゴホッ.ヴ.ゲホッゴホッゴホッ」

 

 唐突な俺の言葉にラウラは飲み物が気管に入りむせてしまった。

 

「い、いきなりどうした!?」

 

 今も咳をしながらラウラは聞き返してきた。

 

「いや、昨日の夜に鈴がそう言ってたし、その後目が合った瞬間に走って逃げって行ったので……」

「そ、それは……」

 

 ラウラは目を逸らしながら言葉を紡ぎ始めた。

 

「この間の模擬戦を覚えているか?」

「えぇ、ラウラが俺の実力を測るために行ったやつですよね?」

「あぁ、その時……一瞬だが……その……」

 

 歯切れが悪いラウラの言葉を聞いていた俺は先に言葉を出した。

 

「もしかしてなんですけど、俺笑ってました?」

「………」

 

 コクりと頷くラウラを見て俺は顔を手で覆った。

 

「うわぁ……笑ってたかぁ……恥ずかしい……」

「なにかあるのか?」

「いやまぁ……癖……なんですよね」

「癖……?」

 

 その言葉聞いてラウラは不思議そうな顔をしていた。

 

「なんていうか、感情が高まるとニヤけてしまうんですよねぇ」

「そ、そうなのか……?」

「昔からなんですよ、この癖。なにをしても感情が高まるとニヤけてしまうからなるべくやらないように制御してたんですけどね」

 

 はぁとため息を吐きラウラに説明をした。

 それをラウラは黙ったまま聞いていてくれた。

 

「そうだったのか、すまなかった」

「いえいえ、別にいいんですよ。昔からよく言われてましたし」

 

 そう昔、訓練生時代に訓練所で同期を半殺しにしたことがあった時に周りから言われた時に気づいてしまった。俺は感情が高まると笑う癖があるということに、それからは感情をなるべく高めないようにしてきたのだが、まさかあの時に出ていたとは……ラウラに幻滅されてしまったかな。

 ちなみに訓練生時代に同期達から付けられた2つ名は『悪魔の化身』と影で呼ばれていた。

 

「まぁこんなしみったれた話は終わりにしましょ。さぁ戻って汗流さないと、行きましょう」

「あぁそうだな」

 

 帰りはゆっくりと砂浜を歩きながら俺たちは旅館に戻り、ラウラは大浴場に向かい俺は部屋の備え付けの浴場にてシャワーを浴びて汗を流した。

 

 

 今日は午前中から夜まで丸1日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。特に専用機持ちは大量の装備が待っているから大変だ。

 

「ようやく全員集まったか。ーーおい、遅刻者」

「は、はいっ!」

 

 織斑先生に呼ばれて肩をビクッとさせたのは意外も意外ラウラだった。

 ラウラが寝坊? さっきまで一緒に居たのに、集合時間を5分も遅れるなんて何があったんだろ? 

 

「なぁシャルロット」

「何レオン?」

「ラウラが遅刻した理由ってなんか知ってるか? さっきまで一緒にランニングしてたんだが」

「あ〜なんか大浴場で寝ちゃったみたい」

「なるほど」

 

 朝のランニングの後に風呂に入ったら気持ちよくて眠りそうになっちゃうよね。これは仕方ない。

 

「そうだな。ISコア・ネットワークについて説明してみろ」

「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャネルとプライベート・チャネルによる操縦者会話など、通信に使われます。それ以外にも『非限定情報共有(シェアリング)』をコア同士が各自に行う事で、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかりました。これらは製作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため現在も進化の途中であり全容は掴めていないとのことです」

「さすがに優秀だな、遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 そう言われて、ふぅと息吐くラウラ。心なしか胸を撫で下ろしているようにも見えた。

 織斑先生がドイツ教官時代に何があったんだ……

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 はーい、と一同が返事をする。さすがに1学年全員がずらりと並ぶとかなりの人数になるな。

 現在位置はIS試験用のビーチで四方を切り立った崖に囲まれている。ちょっとした秘密ビーチみたいだ。ドーム状になってるのがIS学園のアリーナを連想させるな。大海原に出るには1度水面下に潜って水中トンネルから行くらしい。

 ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的。

 当然ISの稼働を行うので全員がISスーツ着用している。やっぱりデザインがデザインなだけに水着にしか見えないな。

 

「あぁ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

「はい」

 

 打鉄用の装備を運んでいた箒は呼び止められて織斑先生の所まで向かっていった。

 

「お前には今日から専用ーー」

「ちーーちゃ〜~〜~〜~〜~ん!!!」

 

 ずどどどど……!! と砂煙を上げながら人影が走ってくる。無茶苦茶速い。そして崖手前で飛んだ。

 あれ? あの人物は確か……

 

「………束」

 

 稀代の天才・篠ノ之束博士は立ち入り禁止もなんのそのと言った具合で臨海学校に乱入してきた。

 

「やぁやぁ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さぁ、ハグハグしよう! 愛を確かめよお"お"お"お"お"お"お"お"お"」

 

 飛びかかって来た篠ノ之博士を織斑先生は片手で掴む。しかも顔面を。すっごい指が食い込んでる……織斑先生容赦ねぇな。

 

「うるさいぞ、束」

「ぐぬぬ……相変わらずよ容赦のないアイアンクローだねっ」

 

 すげぇあのアイアンクローから抜け出したよ。ただもんじゃねぇなあの人。

 よっ、と着地した篠ノ之博士は今度は箒の方を向く。

 

「やぁ!」

「……どうも」

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。いや〜大っきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

 ガンっ! 

 

「殴りますよ」

「殴ってから言ったぁ! しかも日本刀の鞘で叩いた! 酷い! 酷いよ箒ちゃん!」

 

 頭を押さえながら涙目になって訴える篠ノ之博士。そんな2人のやりとりを俺を含めた一同はぽかんとして眺めていた。

 

「え、えっと、この合宿では関係者以外はーー」

「んん? 奇妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら1番はこの私をおいて他にいないよ」

「えっ! あっ、はいっ。そ、そうですね……」

 

 山田先生見事に撃沈。多分この人に何言っても無駄なんだろうな。見るからに自由人っぽいし。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

「え〜めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ! はろー。終わり!」

 

 え〜超テキトー。

 

 くるりんと回って見せる篠ノ之博士にぽかんとしている一同もやっとそこにいるのがISの開発者にして天才科学者『篠ノ之束』だと気づいたみたいで女子の間がにわかに騒がしくなった。

 

「はぁ……もう少しまともにできんのか、お前は。そら1年、手が止まってるぞ。こいつの事は無視してテストを続けろ」

「こいつとはひどいなぁ。らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

「うるさい黙れ」

 

 そんな旧知の中である2人のやりとりに、おずおずと割り込んだのは山田先生だった。

 

「え、えっと、あの、こういう場合はどうしたら……」

「あぁ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」

「わ、わかりました」

「むむ、ちーちゃんが優しい……。束さんは激しくじぇらしぃ。このおっパイ魔神め! たぶらかしたな〜!」

 

 言うなり山田先生に飛びかかる篠ノ之博士。その手は早速豊満な膨らみを鷲掴みにしている。

 

「きゃあああっ!? な、なんっ、なんなんですかぁっ!?」

「ええい、よいではないかよいではないか!」

 

 数秒で趣旨が変わってるよ……。ジェラシーはどこ行ったジェラシーは。

 しかしこう見ると篠ノ之博士の胸は織斑先生のより大きく見えるな……おそらく山田先生位はあるかな? だが巨乳2人が組んずほぐれつな光景は、なかなか来るものがある。

 この光景、見たことあるな。薄い本で……

 

「やめろバカ。大体、胸ならお前も十分にあるだろうが」

「てへへ、ちーちゃんのえっち」

「死ね」

 

 どかっと本気の蹴りを食らって砂浜に頭から突っ込む篠ノ之博士。何度も言うが、この砂浜に頭を埋めているこの人がたった1人でISの基礎理論と実証機を開発した稀代の天才である。

 

「それで、頼んでいたものは……?」

 

 やや躊躇いがちに箒がそう尋ねる。それを聞いて……聞いてるのか、あの状態で? 

 砂浜から頭を引き抜いた篠ノ之博士の目がキラーンと光った。

 

「うっふっふっ。それは既に準備済みだよ。さぁ皆の者、大空をご覧あれ!」

 

 ピシッと直上を指差す篠ノ之博士。その言葉に従って箒も、そしてその場にいた生徒たちも空を見上げる。

 

 ズズーンッ! 

 

「うわっ!?」

 

 いきなり、いきなりである。激しい衝撃を伴って、金属の塊が砂浜に落ちてきた。

 銀色をしたそれは次の瞬間正面の壁が倒れて中身が見えてきた。そしてそこにあったのはーーー

 

「じゃんじゃーん! これぞ箒ちゃんの専用機こと『紅椿』!! 全てのスペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 中から現れたのは真紅の装甲に身を包んだその機体は、篠ノ之博士の言葉に応えるかのように動作アームによって外に出てくる。

 真新しいからか太陽の光を反射する赤い装甲が眩しく光る。

 て言うかさっき篠ノ之博士トンデモ発言しなかったか? 全スペックが現行ISを上回っているって……つまり、最新鋭機にして最高性能機って事なのか!? 

 

「さぁ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

「……それでは、頼みます」

「堅いよ〜。実の姉妹なんだから、こうもっとキャッチャーな呼び方でーー」

「はやく、始めましょう」

 

 箒は篠ノ之博士の言葉を取り合わずに行動を促す。

 

「ん〜まぁ、そうだね。じゃあ始めようか」

 

 ピッ、とリモコンのボタンを押すと。紅椿の装甲が割れて、操縦者を受け入れる状態に移る。自動的に膝を落として乗り込みやすい姿勢にと変わる。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」

 

 手際よくコンソールを開いて指を滑らせる篠ノ之博士。そして空中投影のディスプレイを6枚呼び出し、膨大なデータに目配りをしていく。それと同時進行で更にディスプレイを6枚追加で呼び出して空中投影されたキーボードを叩いてる。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備も付けておいたからね! お姉ちゃんが!」

「それは……どうも」

 

 箒の態度は素っ気なくまるで他人行儀だ。ほんとに姉妹なのか? って思わせる雰囲気だ。

 姉弟って仲良いんじゃないないのか? まぁ家族事情はそれぞれか。

 そういえば一夏が言ってたな、篠ノ之博士がISを発表した時に転校を余儀なくされたって……証人保護プログラムだよなそれって。もしかして嫌ってる理由ってそれか? 

 

「ん〜、ふ、ふ、ふふ〜♪ 箒ちゃん、また剣の腕前があがったねぇ。筋肉の付き方を見ればわかるよ。やぁやぁ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」

「…………」

「えへへ、無視されちった。ーーはい、フィッティング終了〜。超速いね。さっすが私」

 

 そんな会話をしながらも篠ノ之博士の手は休むことなく動き続けている。もはやキーボードを打つというよりも、まるでピアノを弾いて演奏するかのように指を滑らせている。その素早い動きで数秒単位で切り替わっていく画面全部に目を通している。

 態度はふざけているが、やっぱり超がつく程の天才だと改めて実感させられる。

 

「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの?」

「えっ? 身内ってだけで……」

「みたいだね。なんかズルくない?」

「ん?」

 

 ふと、訓練機側の群衆の中からそんな声が聞こえてきた。

 

 おいおい、妬みを言うもんじゃないでしょに。みっともねぇな。しょうがねぇ、ちょっくらお灸を据えてやるか。

 

 俺がその場から立とうとしたら、言葉を発した群衆にいち早く反応して近づいたのは意外なことに篠ノ之博士だった。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来(・・・・)世界が平等出会ったことなど1度もないよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ピンポイントに指摘を受けた女子達は気まずそうにその場から去って作業に戻って行く。

 それをどうでもいいって感じの目で流して篠ノ之は調整に戻る。ーーーっていうか喋っている間もキーボードを打つ手は止まってないのかよ。流石天才。

 それも終わり、篠ノ之博士は並んでいたディスプレイを閉じていく。

 

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あっ! いっくん、白式見せて〜束さんは興味津々なのだよ」

「えっ? あ。はい」

 

 全部のディスプレイとキーボードを片付けて、篠ノ之博士は一夏の方を向く。そして一夏は白式を呼び出し、篠ノ之博士は白式の装甲にコードをぶっ刺して紅椿と同じようにディスプレイとキーボードを空中に呼び出し作業に入った。

 

 まっ! 興味無いから別にいいけど。

 

 俺は自分の作業に戻る。そこには並べられたフラムドライの追加装備とオプションパーツが並べられている。

 

「しかし、いっぱい持ってきたな」

 

 現在、輸送中のアレを除いても………持ってきすぎたろ。それにまさかコイツまで持ってくるとはな。確かこれ南側の部隊のIS用に作られたんじゃなかったっけ? 

 

「うーん……考えてもしかないか! とりあえず追加装備のインストールしておこう。あとは勝手にやってくれるし、オプションパーツだけ取り付けちゃお」

 

 俺はフラムドライを呼び出しで準待機モードにしてフラムから降りた。

 

「さてと何から付けるか? エンジンの入れ替え? 追加装甲? 迷うな」

 

 ひとまず俺はフラムの動力部のハッチを開けて元々入っていた動力機関を抜いて新しい動力である『赫灼炎熱機構(フラムアインス・エンジン)』を組み込んだ。

 

『赫灼炎熱機構』

 シュヴァルツェア・フラムドライの新しい動力源になりうる代物。本来フラムドライに使われるエネルギーはシールドエネルギーとは別に存在しており、熱伝導ゲーブルを伝って炎を出すのだが、この赫灼炎熱機構は動力部から直接エネルギーを取り込むことで本来の出力以上の炎を出せるようになる。しかしその分エネルギーの消費が多いので取り扱い注意。

 

「さてと、お次は……おっ、なんだドクトル、ちゃんと要望のもの作ってくれてるじゃん!」

 

 俺は並べられている物の中からヘッドセットを取り出した。

 

「なんだよ。要望送った後に荒々しく電話してきたくせにしっかりと作ってくれてるんだから最高だねドクトル」

 

 そしてヘッドセットをフラムドライの拡張領域に入れた。

 

 コイツは実戦用だから、今ここで使っても意味ないんだよねぇ。

 

「さてと、あらかた片付けたしラウラの様子でも見に行くか」

 

 そして俺は砂浜を歩きながらラウラを探していた。

 

「おっ! いたいた、ラウラ!」

「ん? レオンか」

 

 俺の呼びかけにラウラが振り向く。長い銀髪が後ろの海に反射する光を帯びて綺麗に輝き見とれてしまいそうになる。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、レーゲンの装備を確認したいと思って」

「そうか」

 

 並べられいるレーゲンの装備は圧巻の一言に尽きる。追加で送られてきたレーゲン専用のパッケージ、名前は『パンツァー・カノニーア』とそれに使用される弾頭が並べられている。

 

「確か80口径でしたっけ?」

「あぁ、それと2門の物理シールドを左右に取り付けることができる。あとは専用の弾頭が2種類送られてきた」

「元々レーゲンはシュヴァルツェアシリーズの中で後方支援用に作られたものだからな。この2種類の弾を使い分けてフラムとツヴァイクの援護が目的だろう」

「なるほど、しかしどうやって試験するんです?」

「あそこの小島にでも撃てばいいだろ」

「大丈夫なんですかね?」

「ここはIS学園の所有物だ。問題は無いだろ」

 

 まぁ学園の所有物なら問題はないのか……? うん、考えるのやめた! 

 

 思考停止である。

 

「レオンすまないが、物理シールドの取り付けを手伝ってくれないか?」

「構いませんよ」

 

 ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを呼び出したが砲塔が邪魔をしているせいか物理シールドを取り付けられない状態になってしまった。

 そして俺はフラムを呼び出してレーゲンに物理シールドの取り付けを手伝った。

 

「そういえばフラムの装備はどうなんだ?」

「いや〜なんか手続きの関係で1つだけ運搬が遅れているんですよね。最終日までには到着するみたいなんですけど」

「そうなのか。どういったものなんだ?」

「ん〜聞いた話だと博物館行きになってた大戦時代の代物をドクトルが魔改造してIS用に作り替えたみたいですよ」

「もしかして博物館行きになった不採用品か?」

「よくご存知で」

「いや前にドクトルから聞いたんだがレーゲンのデータは元々それを正式採用になったと愚痴られたことがあったんだ」

 

 あ〜あの人なら言いかねないな……

 

 俺は空に目をやりから笑いを口にした。

 

「ん?」

「どうしたレオン?」

「いえ、ちょっと電話が来たので失礼しますね」

「あぁ、手伝ってくれてありがとうレオン」

 

 俺はラウラと別れてインカムの通話ボタンを押した。

 

「はい、こちらブリューゲル」

『あぁレオン! 良かった〜』

「母さん!?」

『いきなりの通信でごめんね。驚いたでしょ』

 

 母さんが連絡してくるってことは家族用回線か……あの回線を使うってことは、なんか異常事態が起きたってことだよな。めんどくせぇ。

 

「何があったの?」

『もうすぐそっちにも情報がいくと思うんだけど、先に教えておこうと思ってね。ドイツ(うちの)の監視衛星がアメリカのハワイ沖で試験運用中だった試験軍用ISが暴走したって情報局から上がってきてね。そのISが向かった方面が太平洋でルートを見るに日本に向かってるのよね』

「こっちに?」

『そう。こちらからは政府を通じてIS学園と日本政府に連絡は入れてあるから、もしかしたら代表候補生のあなた達にも対処させられるかもしれないから気お引き締めておいてね』

「それはまた大事になりそうだね。どうやらこっちにも連絡が回ってきたみたいだ。何かあったらこっちから連絡入れるから、その時はよろしくね」

『わかったわ気おつけてねレオン』

 

 通信を切り終えると同時に訓練機組の方にいた山田先生が凶暴な乳房を揺らしながら織斑先生の方に走って来て何かを耳打ちをしていた。

 それを聞いた織斑先生は驚いた顔をしたが直ぐにいつもの冷静な顔に戻った。

 

『専用機持ち達全員に通達する。全員現在の作業は中止だ! 直ぐに花月荘に戻れ。織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、ブリューゲル、(ファン)! ーーそれと篠ノ之も来い!』

 

 あれ? いつの間にか篠ノ之博士がいなくなってる。まぁ良いか。とりあえず花月荘に戻るか。あーあ嫌な予感が的中しちまったなぁ……

 俺は青く輝く海を眺めながら行きと同様のボートへと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では現状を説明する」

 

 場所は変わって花月荘奥に設けられている宴会用の大座敷『風花の間』にてIS学園1年生代表候補生全員と教師陣が集められていた。

 全員がISスーツを身にまとい正座で横一列に座っていた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したと匿名の情報があった」

 

 突然の説明に俺以外の専用機持ちメンバーは面食らっていた。しかし暴走かぁ。他のメンバーの反応はどうなってるかな? 

 

「…………………」

 全員が全員、厳しい顔つきになっていた。一夏を除いてだが。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

 淡々と説明を続ける織斑先生。その次の言葉に全員が度肝を抜かされることになる。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう形になる」

 

 うわぁ……母さんの言ってた通りになっちまった。暴走した軍用ISを止めるって事か。

 

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

 早速、手を挙げたのはセシリアだった。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、これらは2カ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合は諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられることになる」

「了解しました」

 

 そして俺たちの前にディスプレイが投影され開示されたデータを見ながら俺たちは相談を始めた。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じくオールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ…しかもスペック上ではあたしの甲龍(シェンロン)を上回ってるから向こうの方が有利……」

「この特殊武装が曲者って感じがするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん」

「この福音に偵察は行えないのですか?」

 

 セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、俺の順に意見を交わす。

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは1回が限界だろう」

「1回きりのチャンス……ということはやらり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

 そんな山田先生の言葉に全員がある1点を見つめる。

 そう織斑一夏である。

 

「え……?」

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ただ問題は……」

「どうやって一夏を福音まで運ぶか、だよね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから移動をどうするか」

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要になるだろう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

「「「「当然!」」」」

 

 4人の声が見事に重なった。

 

「腹をくくれ一夏」

「レオンまで……」

「今この場にいる中で瞬間火力を出せるのはお前と白式だけなんだから」

 

 俺は一夏の背中をポンポンと叩いた。

 

「織斑、これは訓練ではない。実践だ。もし覚悟がないのなら無理強いはしない」

 

 織斑先生の一言に今まで及び腰になっていた一夏の表情が変わった。

 

「やります。俺が……やってみせます!」

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

 全てのISにはこの『パッケージ』と呼ばれる換装装備を持っている。

 パッケージとは単純な武器だけではなく追加アーマーや増設スラスターなどの装備一式を指し、その種類は豊富で多岐にわたる。

 中には専用機だけの機能特化型パッケージ『オートクチュール』というのが存在する。

 これを装備することで機体の性能と性質を大幅に変更し様々な作戦を遂行可能にする。ちなみに1年専用機持ちはシャルロットを除いて全員がセミカスタムの標準装備(デフォルト)である。

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

「ふむ……。それなら適任ーー」

 

 だな、と言おうとした織斑先生を遮る明るい声が部屋に響いた。

 

「待った待ーーった! その作戦はちょっと待ったなんだよ〜!」

 

 声の発生源を探す一同。よく聞くとその声は天井から聞こえていた。全員が見上げると部屋のど真ん中の天井から篠ノ之博士が首を逆さにして生えていた。

 

 あんたは忍者か! 

 

「……山田先生、室外への強制退去を」

「えっ!? は、はいっ。あの〜篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」

「とうっ!」

 

 くるりんと空中で一回転して着地。これが競技なら満場一致で10点の札を上げるな。しかしデタラメだなこの人……

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリティング!」

「……出ていけ」

 

 頭を押さえる織斑先生。山田先生は言われた通りに篠ノ之博士を室外に連れていこうとするが、するりとかわされてしまう。

 

「聞いて聞いて! ここは断・然! 紅椿の出番なんだよっ!」

「なに?」

「紅椿のスペックデータを見てみて! パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」

 

 そう言うと篠ノ之博士は数枚のディスプレイを織斑先生に見せる。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはバッチリ!」

 

 聞きなれない言葉が飛び交う中、篠ノ之博士が織斑先生の隣に立ち説明を始めた。部屋にあったディスプレイを乗っ取ったらしく、さっきまで福音のデータが映っていた画面が今は紅椿のスペックデータへと切り替わられていた。

 

「説明しましょ〜そうしましょ〜。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第4世代型ISの装備なんだよ〜」

 

 はぁ? 第4世代? 

 

「はーい。ここで心優しい束さんの解説開始〜。いっくんのためにね。へへん、嬉しいかい? まず、第1世代というのは『ISの完成』を目標とした機体だね。次が『後付武装による多様化』ーーこれが第2世代。そして第3世代が『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』。空間圧作用兵器にBT兵器、あとはAICとか色々だね。……で、第4世代というのが『パッケージ換装を必要としない万能機』という、現在絶賛机上の空論中のもの。はい、いっくん理解出来ました? 先生は優秀な子が大好きです」

「は、はぁ……。え、いや、えーと……?」

 

 ちょっと待ってくれ。今って確か各国ともやっと第3世代の1号試験機ができた段階だよな。それがなんで、すっ飛ばして第4世代なんだ!? 

 

「ちっちっちっ。束さんはそんじゃそこらの天才じゃないんだよな。これくらいは三時のおやつ前なのさ!」

 

 なんだその中途半端な時間……

 

「具体的には白式の『雪片弐型』にも使用されていまーす。試しに私が突っ込んだ〜」

「「「「「え!?」」」」」

 

 その言葉にさすがに俺を含めた専用機持ちも驚く。

 聞いた話によると、零落白夜発動時に開く『雪片弐型』の、その機構がまさにそれらしい。しかも言葉通りに受け取るのなら『白式』も第4世代型ということになる。

 

「それで、うまくいったから何となく紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼働時にはスペックデータはさらに倍プッシュだ!」

「ちょっ、ちょっと、ちょっと待ってください! えっ? 全身? 全身が雪片弐型と同じ? それって……」

「うん、めちゃくちゃ強いね。一言でいうと最強だね」

 

 おいおい明言しちゃったこの人……。最強かぁ。周りのメンバーは、ぽかんとしている。してないのは俺と織斑先生位のもので、みんな目の前の篠ノ之束という存在に度肝を抜かれていた。

 

「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第4世代型の目標である即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ぶいぶぃ」

 

 シーン。場の一同は静まり返って言葉もない。

 

「はにゃ? あれ〜? 何でみんなお通夜みたいな顔してるの? 誰か死んだ? 変なの」

 

 各国が多額の資金と膨大な時間に優秀な人材の全てをつぎ込んで競っているの第3世代型ISの開発。

 それが(・・・)無意味だというのだから(・・・・・・・・・・・)。こんな馬鹿な話はない! 

 

「束、言ったはずだぞ。やりすぎるな、と」

「そうだっけ? えへへ、ついつい熱中しちゃったよ〜」

 

 千冬の言葉を聞いて束は何故みんなが静かになっているのかを理解した。

 

「あ、でもほら、紅椿はまだ完全体じゃないし、そんな顔しないでよ、いっくん。いっくんが暗いと束さんはイタズラしたくなっちゃうよん」

 

 いや……ウインク、されましても……

 

「まー、あれだね。今の話は紅椿のスペックを全て引き出したらの話だからね。今回の作戦をこなすくらいなら必要ないから。それにしてもあれだねぇ。海で暴走って言うと、10年前の白騎士事件を思い出すね〜」

 

 ニコニコとした顔で話す篠ノ之博士。その横で織斑先生は『しまった』という顔をしていた。

 

『白騎士事件』

 あの1件で世界の常識はひっくり返ってしまった。そしてISが世界の常識になった。それもそうだ、たった1機のISがこの世界に存在する『現行兵器全てを凌駕』したのだから。

 そして『ISを倒せるのはISだけ』という篠ノ之博士の言葉を世界は無抵抗に受け入れたのだ、いや受け入れざるを得なかった。

 

「しかし、それにしても〜ウフフフ。白騎士って誰だったんだろうね〜? ちーちゃん?」

「知らん」

「うむん。私の予想ではバスト88センチのーー」

 

 ごすっ。鈍い音が部屋に響いた。織斑先生の伝家の宝刀である出席簿アタック、いやこの場合は情報端末アタックか。

 うわぁ……痛そう。

 

「ひ、酷い、ちーちゃん。束さんの脳は左右に割れたよ!?」

「そうか、良かったな。これからは左右で交代に考え事ができるぞ」

「おぉ! そっかぁ! ちーちゃん頭いい〜!」

 

 ほんとにこの人が作ったんだよなIS……

 

「あの事件ではすごい活躍だったね、ちーちゃん!」

「そうだな。白騎士が、活躍したな」

 

 なんだかんだあって最初に一夏、そして俺という『ISを操縦できる男』が登場したために今年の1年は専用機持ちが多いんだとか。まぁ各国が動いたってところなんだろうなぁ。

 

「話を戻すぞ。……束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」

「お、織斑先生!?」

 

 驚いた声をあげたのはセシリア。専用機持ちの中でも高機動パッケージを持っているのが自分だけであったため、当然作戦に参加出来るものと思っていたらしい。

 

「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」

「そのパッケージは量子変換(インストール)してあるのか?」

「そ、それは……まだですが……」

 

 痛いところを突かれて勢いを失ってモゴモゴと小声になってしまうセシリア。それと入れ替わるように篠ノ之博士が天真爛漫な笑顔で口を開いた。

 

「ちなみに紅椿の調整時間は7分あれば余裕だね!」

「よし。では本作戦では織斑、篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は30分後。各員ただちに準備にかかれ!」

「お、織斑先……」

「やめとけセシリア。今回は分が悪い」

「れ、レオンさん……」

 

 セシリアなまだ作戦参加を諦めきれないのか織斑先生に直談判しようとした所を俺は肩を掴んでそれを止めた。

 セシリアは俺の顔を見て肩を竦めた。

 周りを見ると教師陣はバックアップに必要な機材の設営を始めていた。

 

「手が空いているものはそれぞれ運搬など手伝える範囲で行動しろ。作戦要員はISの調整を行え。モタモタするな!」

「ほれ、セシリア行こうぜ」

「はい……」

 

 うなだれるセシリアに声をかけて教師陣の手伝いに向かった。

 

「織斑、白式のセットアップを済ませておけ。あとエネルギーは満タンにしておけよ」

「りょ、了解」

「それが終わったらオルコットから高速戦闘のレクチャーを受けておけ」

「は、はい」

 

 一夏は返事をしてから白式のコンソールを呼び出して確認をし始めた。

 

「それとブリューゲル」

「はい。なんですか?」

「少し外で話がある。着いてこい」

「了解です」

 

 俺は織斑先生の後に続いて部屋を出て行った。

 その頃、箒はーーー

 

「それじゃあ早速紅椿をいじろっかな!」

「…………」

「んあー。もっと笑ってよ。ほらほら作戦メンバーにも選出されたし、いいことずくめでしょ?」

「この顔は生まれつきですので」

「んー、そっかなぁ。産まれた時もうちょっと可愛かったよ。それに泣いてたよ」

「誰だってそうでしょ!」

 

 そうかもねー、と軽い調子で相槌を打ちながら、篠ノ之博士は箒が呼び出した紅椿に触れる。

 

「ふーむ。ぺたぺた。背部と脚部、それに腕部の展開装甲を推進力に回そうかねー。それ以外は支援攻撃モードで良いでしょ。うんうん、でははじめまーす」

 

 

 

 一方、大宴会場から廊下に出た俺と織斑先生は人気のない通路に歩いてきた。

 

「それで織斑先生、話というのは?」

「あぁ、ブリューゲル率直に聞く。今回の作戦お前の見解を聞かせて欲しい」

 

 織斑先生から今回の作戦の是が非を教えてくれと言われるとは思わなかった。確かに今回の作戦、俺自身思うことはある。要らぬ亀裂を作らないために黙認していたが、正直な事を言った方が良いだろうな。

 

「そうですね。正直なところ作戦成功率は2体8ってところですかね」

「一応聞くが成功が8割ってことで良いんだな?」

「その逆です」

「はぁ…………」

 

 俺の言葉を聞いて織斑先生の口からため息が漏れる。

 

「成功率は2割か」

「残念ながら、今の状態では下手すると死人がでるかと。特に現状の箒を見るとそう思えてしょうがないですね」

「ふむ。もしオルコットだった場合は?」

「そうですね……20時間というアドバンテージがある事を考慮しても五分五分と言ったところですかね」

「5割か……」

「それでも生還率は高い方です。むしろ素人同然の俺たち全員でかかっても6、7割が良いとこです」

 

 そう。今回相手にするのは試験運用中とはいえ軍用IS……つまりは戦闘用にカスタム、プログラミングされた代物。それに素人が寄ってたかっても勝てる見込みは無い。何人かはタダでは済まされないだろう。

 

「それで? こんな話を聞きたくて、人気のない所まで来た訳じゃないでしょう?」

「お見通しか……さすがガブリエラさんの息子だな」

「それはどうも」

「なら本題に入ろう。お前も言った通り今回の作戦は無理がありすぎる。必ずと言ってもいい程に何かしら非常事態が起きる。そこで2人の作戦が失敗した場合の対処としてブリューゲルお前に後詰を頼みたい」

「バックアップ……ですか」

「そうだ、2人の攻撃が失敗と私が判断した場合にお前を2人の援護をして欲しい」

「それは2人に着いていくのではなく、失敗して危険と判断されたら緊急出撃(スクランブル)しろってことですか」

 

 織斑先生はこくりと頷いた。

 

「わかりました。その件引き受けましょう」

「すまないな、お前だって危険なのは変わらないのに」

「気にしないでください、俺なら出来るから、この話をしたんでしょ」

「頼むぞ」

 

 そして話終えた俺たちは大宴会場に戻ると、ちょうど紅椿の調整が終わっていたようで一夏は箒を除いたメンバー+‪αから色々教わっているみたいで、いつもの賑やかさに戻っていた。

 

 

 

 

 時刻は11時半。

 7月の空はこれでもかとばかりに晴れ渡り、容赦のない陽光が降り注いでいる。

 砂浜で俺と箒は僅かに距離を置いて並んで立ち、1度目を合わせて頷いた。

 

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

 

 全身がぱぁっと光に包まれ、ISアーマーが構築される。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 作戦の性質上、移動は全て箒に任せるので、つまりは俺が背中に乗っかる形になるのだ。

 それを最初に聞いた箒は早速イヤそうなことを言っていたのだが、気のせいだろうかさっきから機嫌が妙に良いように見える。

 

(しかし、大丈夫なんだろうか……?)

 

 箒の専用機は使い始めてからまだ1日も経っていない。いくら束さんがパーソナライズとフィッティングをしたといっても操縦者の方はそうもいかない。

 

(何かあったら俺がフォローしないとな)

 

 そう思い、俺は気を引き締める。

 

「それにしても、たまたま私たちがいた事が幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろ?」

「あぁ、そうだな。でも箒、先生達も言ってたがこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない。十分に注意してーー」

「無論、わかっているさ。ふふ、どうした? 怖いのか?」

「そうじゃねぇって。あのな、箒ーー」

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大舟に乗ったつもりでいればいいさ」

「…………」

 

 とにかく、さっきからこの調子だ。専用機が手に入って嬉しいのはわかるんだが、浮かれすぎではないだろうか? 俺はどうにもスッキリとしない不安を抱えたまま、箒の操る紅椿の背中へと乗った。

 

 大宴会場司令室のモニターで2人の様子を見ている教師陣と待機メンバーである残りの専用機持ちがいた。

 

「箒、少し様子がおかしくない?」

「えぇ、なんだか心ここに在らずといった感じですわね」

「あぁもう! 何浮ついているのよ!」

「全くだ。ここはもう戦場だというのに」

「一夏の言葉も耳に入ってないみたいだな」

 

 みんなモニター越しの箒を見て明らかに様子がおかしいのを感じて、それぞれの意見を述べる。

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか』

 

 そんな俺たちのことはなんのそのといった感じで織斑先生は無線機から一夏達に連絡を取る。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決着を心がけろ』

「了解」

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

『そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然なにかしらの問題が出るとも限らない』

「わかりました。できる範囲で支援します」

 

 箒のそれは一見落ち着いた返事のようだがやはり口調は喜色に弾んでいて、どこか浮ついた印象を受ける。

 

『ーーー織斑』

「は、はい」

 

 今しがた使っていたオープン・チャネルではなく、プライベート・チャネルで千冬姉の声が届く。俺は慌ててそちらに回線を切り替えて返事をした。

 

『どうも篠ノ之は浮かれているようだな。あんな状態ではなにかを仕損じるやもしれん。いざという時はサポートしてやれ』

「わかりました。ちゃんと意識しておきます」

『頼むぞ』

 

 それから千冬姉の声がオープンに切り替わり号令をかけた。

 

『では、はじめ!』

 

 ーー作戦、開始。

 

 箒は俺を背に乗せたまま、一気に上空300メートルまで飛翔した。

 

(な、な、なんだこのスピードは!? 瞬時加速(イグニッション・ブースト)と同じか、それ以上じゃないか……!)

 

 更に上昇を続ける紅椿は俺という荷物を乗せた状態であるにもかかわらず、ものの数秒で目標高度500メートルに達した。

 

「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置を確認。ーー一夏、一気に行くぞ!」

「お、おう!」

 

 その圧倒的な加速をモニターで見ていたメンバーは、その性能にド肝抜かれていた。

 

「な、なんて速さ……」

「凄いな」

「これが第4世代型ISの実力……」

 

 みんな自分のISとの差に驚きを隠せていなかった。

 一瞬、織斑先生が俺の事を見てきて『準備しておけの合図』のようだな。

 

「よっこいしょ」

「ん? レオンどっか行くの?」

「ちょっとトイレ」

「はぁ? あんた緊張感なさすぎでしょ!」

 

 俺は部屋を出て海岸に向かって歩いって行った。道中でインカムから通信をかけた。

 

『はい。こちらドイツ情報局、担当レティシア・オリーヴィア曹長です』

「こちらドイツ代表候補生のレオン・ブリューゲル中尉です。緊急の要件で監視衛星の映像を自分のISに送って欲しいのですが」

『え!? は、はい! しかし、私の一存では決められないので……』

 

 当然と言えば当然か。仕方ない。

 

「わかっております。ではブリューゲル元帥に繋いでもらえないでしょうか?」

「は、はい! しょ、少々お待ちください!」

 

 待機音が耳に響く中、俺は旅館を出て海岸に向かう階段で腰を下ろした。

 

『お待たせレオン』

「悪いね母さん」

『やっぱり、あなた達が対処することになったのね。日本政府は軍は何やってるのかしら?』

「軍は動かないってさ。ここにいる戦力だけで対処しろってさ」

『嫌ねぇ。若人に責任を押し付けるなんて』

「ハッハッハ、とりあえず本題に入っていい?」

『それもそうね、衛星の映像を送って欲しいそうね』

「あぁ、今ダチ2人が例のISに一撃必殺をかける為に向かってるんだけど、失敗する可能性が大きいんだよね」

『そのために映像が欲しいのね』

「さすが母さん、わかってるぅ」

『わかったわ、今そっちにリアルタイムでの映像を送るわ。レオン煩わしいかもだけど気おつけなさい』

「おう。ありがとう母さん。またお願いごとが出来たら連絡するわ」

 

 俺は通信を切って、フラムのディスプレイ画面を開いて送られてきた監視映像に目を通した。映像には赤い閃光になっている箒の紅椿を捉えていた。

 

 

 場所は戻って上空500メートル付近。

 

 箒は紅椿を加速させる。脚部及び背部装甲が展開装甲の名にふさわしくばかりと開き、そこから強力なエネルギーを噴出させる。

 

(これが雪片弐型と同じ展開装甲ーーその完成形か!)

 

 束さんの話によれば、紅椿の展開装甲は攻撃・防御・機動の全てに即時対応できるらしい。しかもISアーマーのほぼ全てがこの展開装甲タイプなのだとか。最大出力時はどうなってしまうんだ……? 

 

(でも、それだけのエネルギーを一体どこからーー)

 

「見えたぞ、一夏!」

「!!」

 

 ハイパーセンサーの視覚情報が自分の感覚のように目標を映し出す。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』はその名にふさわしく全身が銀色をしている。

 そして何より異質なのが頭部から生えた一対の巨大な翼。本体同様銀色に輝くそれは資料によると大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型スラスターだそうだ。

 

(資料にあった多方向同時射撃って、一体どんな攻撃なんだ?)

 

 ーーともあれ、今は考えてる暇は無い。高速で飛翔するそれを追いながら俺は雪片弐型を握りしてる。

 

「加速するぞ! 目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」

「あぁ!」

 

 スラスターと展開装甲の出力を更に上げる箒。その速度は凄まじく高速で飛翔する福音との距離を縮めていく。

 

 5、6、7、8、9……10! 

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 零落白夜を発動。それと同時に瞬時加速を行って間合いを一気に詰める。

 

(行ける!!)

 

 光の刃が福音に触れる、その瞬間。

 

「なっ!?」

 

 福音は最高速度のまま、こちらに反転をし後退の姿となって身構えた。

 

(1度体勢を立て直して……いや! このまま押し切る!)

 

 引くには遅すぎる間合い。それならこのまま相手の反撃が来る前にケリをつける! 

 しかしーー

 

『敵機を確認。迎撃モードへ移行。銀の鐘(シルバー・ベル)の稼働開始』

「!?」

 

 オープン・チャネルから聞こえたのは抑揚のない機械音声だった。だが、そこには明らかな『敵意』が感じ取れた。

 ぐるり(・・・)、と。いきなり福音が体を一回転させて零落白夜の刃を躱す。しかも数ミリの差で。それは感性制御機能(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を標準搭載しているISでさえ、かなりの難度で高い操縦テク。

 

「くっ! あの翼が急加速させているのか!?」

 

 改めて『重要軍事機密』の意味を思い知らせられる。

 

「箒! 援護頼む!」

「任せろ!」

 

 時間がかかればこちらが不利になる。今は箒に背中を預けて再度福音へと斬りに行く。

 

「くっ! このっ……!」

 

 しかし、またひらりひらりと紙一重で躱される。それはまるで泳いでいるかのように、踊っているかのような、そんな動きだった。

 見事なまでに翻弄される俺は零落白夜の残り時間が迫っていることあって、つい大振りの一太刀を浴びせようとしてしまう。

 しかし、その隙を福音が見逃すことはない。

 

『!!』

 

 銀色の翼。スラスターでもあるそれは、装甲の1部がまるで翼を広げるかのように開く。

 

(しまった! こいつは!?)

 

 砲口(・・)だ。

 一斉に開かれた砲口を俺に向かわせるために翼を前へと迫り出す福音。次の瞬間、幾重もの光の弾丸が撃ち出される。

 

「ぐぅっ!?」

 

 その弾丸は高密度に圧縮されたエネルギーで、ちょうど羽のような形をしている。それがアーマーに刺さったと思った瞬間に一斉に爆ぜた。

 爆発するエネルギーの弾丸。これが福音の主装備らしい。しかし問題はー

 

(なんて連射速度だよ!)

 

 その数と速度ーー即ち連射速度が無茶苦茶速い。

 狙いの制度は高い訳では無いが、なんにせよあの爆発弾だ。かすっただけで、そこを爆発でえぐられる。

 

「箒、左右から同時に攻める。左は任せた!」

「了解した!」

 

 俺と箒による複雑な回避運動を行いながら連射の手を休めない福音へと2面同時攻撃を仕掛ける。

 しかし攻撃はかすりもしない。福音は回避に特化した動きと同時に反撃までしてくる。奇抜は外見とは裏腹に実用レベルが異常に高い代物。

 

「一夏! 私が動きを止める!!」

「わかった!」

 

 言うなり、箒は二刀流で突撃と斬撃を交互に繰り出す。腕部展開装甲が開き、そこから発生したエネルギー刃が攻撃に合わせて自動で射出、福音を狙う。

 

(こっちの機体も化け物だな!)

 

 急加速を使って福音との間合いを詰めていく箒。その猛攻には、さすがの福音も防御を使い始めた。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 いける! 

 そう思い刀を握りしめる俺だったが、そこに福音からの全面反撃が待っていた。

 

『La……♪』

 

 甲高いボイス。その刹那、ウイングスラスターはその砲門全てを開き、その数36。しかも全方位に向けての一斉射撃。

 

「やるなっ! だが押し切る!」

 

 箒が光弾の雨を紙一重で躱し追撃する。隙ができた! 

 

「!?」

 

 けれど俺は福音とは真逆の海面へと全速力で向かった。

 

「なっ! 一夏!?」

「うぉぉぉぉっ!!!」

 

 最大出力で、一発の光弾に追いついきそれをかき消す。

 

「何をしている!? せっかくのチャンスを!」

「船がいるんだ! 海上は先生達が封鎖してたはずなのにーーあぁクソっ、密漁船か!」

 

 だけど見殺しにはできない。

 

 キュゥゥゥン…………

 

 手の中で雪片弐型の光の刃が消えて展開装甲が閉じる。……エネルギー切れだ。最大にして唯一のチャンスを失い作戦の要が今無くなった。

 

「馬鹿者! 犯罪者などを庇って……そんなヤツらは!」

「箒!!」

「ッ!?」

「箒、そんな……そんな寂しいこと言うなよ。力を手にしたら弱いヤツの事が見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくないじゃないか。全然らしくないよ」

「わ、私、は……」

 

 明らかな動揺をその顔に浮かべ、それを隠すかのように手で覆う。その時に落とした刀が空中で光の粒子へと消えたのを見て、俺の背筋が震えた。

 

(今のは、具現維持限界(リミット・ダウン)だ! まずい!!)

 

『具現維持限界』ーーつまりそれは、エネルギー切れということだ。そして今ここはIS学園のアリーナじゃない。実践だ(・・・)

 

「箒ぃぃぃぃっ!!」

 

 俺は刀を捨てて一直線に箒へと向かう。最後のエネルギー全て使っての瞬時加速。

 

(頼む! 間に合ってくれ!!)

 

 福音が再び一斉射撃モードに入った。しかも箒に照準を絞っている。

 エネルギー切れのISは恐ろしく脆い。第4世代型とはいえそこは変わらないはずだ。絶対防御分のエネルギーは確保していたとしても、あの攻撃を1度に受けたらひとたまりもない。

 

(頼む! 頼む! 白式! 頼むっ!!)

 

 そして俺は福音と箒の間に割って入った。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

 箒を庇うように抱きしめた瞬間、あの爆発光弾が一斉に背中に降り注いだ。

 エネルギーシールドで相殺し切れない程の衝撃が何十発と続き、ミシミシと骨があげる軋みが聞こえる。同様に悲鳴をあげる筋肉、アーマーが壊れ熱波で肌が焼かれていくのがわかる。

 

 激痛の中、俺は箒を1度だけ見た。

 

(あぁ…………無事か………良かった……ははっ何泣きそうになってるんだよ……らしくねぇなぁ。あ、リボン焼き切れちまってる……髪下ろしたのも悪くないじゃん……)

 

「一夏っ! 一夏っ! 一夏ぁっ!!」

 

 海へと真っ逆さまになる中俺は残った力を使って箒の頭を守るように抱きしめる。

 大きな水音と全身を伝播する衝撃。俺は海面越しに福音を見つめながら気を失った。

 

 少し時は戻って場所は旅館前の海岸にて

 

 一夏と箒の初撃が外れた瞬間をディスプレイで見ていた時プライベート・チャネルから織斑先生の声が聞こえてきた。

 

『ブリューゲル、悪いが出番だ』

「了解」

 

 時は来た。2人を助けるよう。

 

「来い、フラムドライ!」

 

 光の粒子が俺の体に纏う。現れたフラムドライはいつもの漆黒の機体ではなく分厚い装甲に身を着けて現れた。

 これこそ本国から送られてきた追加装備の1つ『黒の疾風(シュヴァルツェア・シュトゥルム)』一応高機動パッケージなのだが長時間に使えないため都市部での運用を目的に作られている。

 それ故にドイツの南側の都市ミュンヘンにある部隊で使われてるはずのものが来ていたので不思議に思っていたが、幸をそうしたな現在位置からならこいつの出力でもどうにか間に合うはずだ。

 

「行くぞ!」

 

 黒の疾風に付けられているスラスターが火を噴く。その瞬間に一気に加速。一夏と箒のいる地点へと急ぐ。

 

 大宴会場司令室では待機組がやきもきしていた。

 

「あ〜何外してるのよ一夏!」

「り、鈴落ち着いて」

「ここで騒がないでくださいな鈴さん!」

「しかしレオンの奴、偉く長いな」

 

 そんな会話の中、千冬は無線で海岸にいるレオンにプライベート・チャネルを開いた。

 

「ブリューゲル、悪いが出番だ」

『了解』

 

 そして司令室のディスプレイのレーダーに1つのIS反応が出現した。

 

「ッ!? 白式、紅椿、銀の福音以外に新たにISの反応!」

「えっ!?」

「一体どこのISよ!?」

「いや、あの反応は」

「IS照合完了。シュヴァルツェア・フラムドライです!」

 

 現れたのは先程トイレに行ったはずのレオンだった。

 

「な、なんでレオンがあそこに!?」

「お、織斑先生、これはどういうことですか!」

「アイツ無断で出撃したってこと!?」

「いや、私が許可を出した」

「「「「!?」」」」

「な、ならあたし達も!」

「お前たちはここにいろ!」

 

 千冬の怒声に我も行かんとする専用機持ち達はその場で固まる。

 

「お前たちが行っても邪魔になるだけだ。大人しく待機していろ」

 

 

 そして恐れていた事態が起きてしまった。

 

 

 

 場所は変わって海面、レオンは銀の福音との交戦地域に向けて全速力で向かっていた。

 

 一夏、箒、どっちでもいい通信に出てくれ! 

 

 通信で2人に呼びかけるが戦闘中のせいか通信が帰ってくることは無かった。

 そして、空を見上げると爆発と赤い光線、そして青い光がセンサーで確認できた。

 おもむろに通信を試みると。

 

『ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 突然の断末魔が耳をつんざく。その直後、海に水柱がたったのを確認した。

 

「おいおい、まさか」

 

 俺は急いでその場所に向かった。ハイパーセンサーで確認するとボロボロの一夏とそれにしがみついている箒が見えた。

 そして空を見上げると福音が瀕死の一夏達に対して攻撃しようとしていた。

 箒はそれに気づき今度は一夏を守ろうと抱き寄せる。そして福音から放たれる銀の鐘が当たろうとした時、間に割って入ったのはレオンだった。

 

「うぉぉぉぉ! ヘル・カーテイン!!」

 

 フラムの手から放たれた炎の壁は降り注いでくる光弾を飲み込んでいく。壁に当たる光弾は爆発するが炎がそれをかき消していく。

 

「何とか間に合っ……てないか」

「一夏! 一夏!」

「おい箒。何があった!」

「一夏が目を覚まさないんだ。わ、私を庇って!」

「落ち着け箒! 一夏を連れてここから離脱しろ!」

「わ、私のせいで、私が……」

 

 ダメだこれは、完全にパニックを起こしてやがる。仕方ない。

 俺は追加パッケージである黒の疾風を外してコマンドを入力した。すると鎧のようになっていた疾風は変形していき筏のような形になって箒の方に飛んだ。

 

「箒、そいつに一夏を乗せてお前も乗れ! そのまま花月荘まではオートで行くようにプログラミングしてある」

「しかし、レオンお前はどうするのだ?」

「お前らが離脱するまでの時間稼ぎをするさ」

「たった1機では無理だ」

「今のお前がいたって役に立たないだろ。それよりも一夏の傍にいてやれ。こっちから司令室に連絡して救護班を待機させてもらう。今は一分一秒を争う!」

「わ、わかった……」

 

 そして箒は一夏を海面から引き上げて疾風の上に乗せ、自分も紅椿を解除し一夏の傍に座った。そのまま疾風は花月荘がある方向に向かって進み始めた。

 俺はそれを見送った後、もう一度空を見上げる。そこにはその場から動かず佇んでいる銀の福音がいた。

 

「よくもやってくれたな銀ピカ野郎」

(俺にやらせてくれよ相棒)

「わかってるよ今回はそっちに譲る。最近俺ばっかりだったしな」

(いよっしゃー!)

「っと、その前にこちらブリューゲル、司令室聞こえますか?」

『こちら司令室』

「織斑一夏が負傷、大至急救護班の待機をお願いします。こっちは2人の待避が完了したら撤退します」

『了解した。気をつけろよブリューゲル』

「了解。アウト」

 

 通信を切り俺は目を瞑り深呼吸をしてからもう一度目を開く。

 目を見開くといつもの赤い眼ではなく黄金に輝く眼になっていた。黒ウサギ隊の隊員の特徴である越界の瞳が両眼に輝いていた。

 

「さぁ始めようか!」




お待たせしました。諸事情により書き直した物です。温かい目で読んでください。
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