ゲーマー兄妹が月の聖杯戦争にログインしたようです   作:遠野ツキ

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01:最弱のまま

 平凡な少年の終わりは実にあっけないものだ。

 戦闘で一方的に大敗した。何ひとつ足掻くことすらできずに。

 

『…ふむ、君も駄目か』

 

 遠のく意識の向こうで、声が聞こえる。

 

『そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選をもって、今回の予選を終了しよう。

 ──さらばだ。安らかに消滅したまえ』

 

 突然、霞んだ視界に、土色の塊がいくつも浮かび上がった。

 元からそこにあったのかもしれない塊。

 幾重にも重なり果てた月海原(つくみはら)月海原学園の生徒たち。

 

 このまま、自分も死んでしまうのだろうか。

 

 

 ──諦めない。

 

 

 起き上がろうと力を入れた。

 しかし体中に激痛が走り、まったく動かない。

 

 

 ────このまま負けるのは、許されない。

 

 

 視界が、脳が、眼球が、許容外の痛みに明滅する。

 五感は指先から断裁されていく。

 それでも、沸騰した頭は考え続けることを止めない。

 

 

 

 

 悔しい。

 敗北が悔しい。

 初見の敵になすすべなく倒された。

 

 自分は、弱かった。圧倒的な弱者であった。

 だからこそ敵の手を読むことに執心し、だが読みきれないままに負けた。

 

 でも、次があるなら。

 ──次こそ、勝つための手段を考えなければ。

 

 

 今の敵に勝つ手段を、ノイズにまみれた意識で考える。

 

 このまま負けるなら、この悔しさはどこにいく。

 

 このまま負けるなら、次の機会は永遠に訪れない。

 

 

 ──立て。

 弱いままでいい。

 痛いままでいい。

 その上で、もう一度、考えないと。

 

 だってこの思考は、まだ一度も、

 自分の勝利を諦めてはいないのだから────!

 

 

 

 

 

『あー。こんな戦争ゲームに、ホント正直全然これっぽっちも関わるつもりなかったんだけどな』

『……にぃ、顔……わらって、る』

 

 少年の慟哭に応える声が二つ。

 投げやりにも聞こえる青年の声と、たどたどしく響く少女の声。

 

『…弱者を自覚し、弱者として戦い、弱者のまま勝利を求める、誇り高き『弱者』よ』

『願い…きいた。にぃと…しろ』

『俺たち最強のゲーマー『  』が、お前の願いに手を貸そう!』

『……『  』に…敗北は……ない、の』

 

 

『さあ、人類の可能性を見せてくれ、最弱の人類種(イマニティ)よ!』

 

 

 

 

 ガラスの砕ける音がして、部屋に光がともった。

 軋む体をどうにか起こし、全身を苛む痛みに耐えながらあたりを眺める。

 

 部屋の中央には、いつの間にか、チェス盤を思わせるホログラムのような光が浮かび上がりつつあった。

 

 キングとクイーンがあるべき位置に浮かんだその姿は──

 

 

 

 一人は、青年。まだ十代であろう未完成な体躯はラフな現代服に包まれている。

 Tシャツの胸元には『アイラブ人類』というわかりやすい自己主張がされたプリント。

 二の腕にはめられているものは──ティアラ、だろうか。

 無造作に流した黒髪と、目元の隈が特徴的だ。

 

 そして、もう一人。まるで良く出来た人形のように容姿の整った少女だ。

 身の丈ほどの長さがある真っ白な長髪と、大ぶりなルビーを思わせる輝く瞳。

 髪の一部を留めているのは、ただの髪留めではなく、王冠。

 神秘すら感じさせるその印象を、しかしセーラー服とニーソックスが裏切っている。

 

 

 

 二人の外見はほとんど普通の人間と変わらない。

 だが何かが違うとぼんやり感じる。

 

 ここへ来るまでに出会った敵などをおそらく上回るだろう、人間か疑わしいほどの力。

 

 ただそこに居るだけで感じ取れるほどの力が秘められているのは間違いない。

 

 

「あー…ゴホン。よし。『一度は言ってみたいセリフ・第十一位』を、まさか実際に言える機会が来るなんてな。白、準備いいか?」

「……ん。いつでも、おっけ」

 

 

 

『『──問おう。貴方が、私のマスターか』』

 

 

 

 呆然と、目前の光景を眺めていた思考に火が灯る。

 何もかもがわからなかった。

 目の前の二人も。

 今何が起きているのかも。

 

 しかし、応えるべき返答は──ひとつしかない!

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

「よし、いい返事だ! んじゃやる事は簡単だ、俺たち空白に負けは認められない」

「……勝ち……ある、のみ」

「ほら、立てるか? 俺たちと一緒に、弱者のままで────勝つぞ」

 

 青年に手を引かれ、立ち上がる。

 と、握られた手がわずかに発熱した。

 ……鈍い痛み。

 何かを刻まれたような。

 

 そこには、3つの模様が組み合わさった紋章にも見える、奇妙な印があった。

 刺青のように皮膚に染み込んでいる。

 あっけにとられていると、その手を握ったままの青年が目を剥いた。

 

「ちょ、これ……リ、リアル令呪! 白、写真!!」

「……スマホ、ない……!」

 

 ……何が起こったのか、さっぱりわからない。

 

 と。

 

 背後の物音で我に返った。

 振り向くと、そこには先程戦ったあの人形が身構えていた。

 

 惨敗を思い出し、思わずたじろぐ。

 

 

「落ち着け、少年。まだ慌てるような時間じゃないぞ」

「……にぃと、しろが……いっしょ」

「正直、俺らはリアル戦闘とかマジやったことねえし、力押しじゃまず勝てない」

「…体力、ない。だから……考えて」

 

 傍らの二人は、いつの間にか武器を手にしていた。

 青年が手にしているのは、玩具のような剣と盾。まるで旧時代のドットゲームに出てきそうなチープなデザイン。

 少女が手にしているのは、モデルガンのような銃。口径も、実弾どころかBB弾が飛び出しそうな安っぽいつくり。

 

「俺はアクションゲームで鍛えた反射神経で何とか敵の攻撃を流す。白は、跳弾を計算に入れた正確無比の射撃で相手を牽制する。それが限界だ」

「……しろ…NPCのアルゴリズム、解析する」

「お前の仕事はひとつだ。……わかるだろ?」

 

 空も白も、攻撃の適正は低く防御すら紙装甲。

 勝つためにはどうするか。

 白がNPCを完全に解析し攻撃に回れるまで、敵の手を読みきり防御を固め、完璧な指示を出すしかない!

 こちらを見る二つの視線に頷きを返す。

 

 「さあ、戦闘開始だ。お前の力で、勝ってみせろ!」




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