ゲーマー兄妹が月の聖杯戦争にログインしたようです   作:遠野ツキ

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以降はサーヴァントである空白視点中心に本編が進むため、EXTRAを知らないと設定がわかりにくくなると思われます。
クロスオーバーと銘打つ以上ノゲラ知識だけでも楽しめるようなるべく説明を入れますが、至らないところがあればすみません。


02:異彩

 苛烈な戦闘に勝ち本選への出場を果たした少年は、今にいたるまで保健室のベッドで眠っている。

 隣のベッドに腰掛けた空は、先の戦闘を鮮明に思い起こしていた。

 

 あれは辛勝と言って差し支えない。

 サーヴァントほどの存在であれば歯牙にもかけぬ程度の相手に、辛勝。

 ──難易度、ナイトメア級。難易度変更を所望したい。

 あの時の空と白は行動が大幅に制限されていた。

 自由意志こそあるものの、それは少年の指示を達成するための、いわば付属品。

 少年の采配次第では、空白二人ならば勝てる相手にも勝てないだろう。

 

 明確に感じた。この聖杯戦争(ゲーム)のプレイヤーは目前に眠る少年であり、自分たちはそれを助ける駒でしかないということを。

 

 足の間に座る妹の純白の髪を、一房手に取った。

 白がもたれかかるように体重を預けてきたので、望まれるままに頭を撫でる。

 

 

 

 そもそも、空白がサーヴァントになることすら例外中の例外であったのだ。

 人類史から再現された英雄たちがサーヴァントとして召喚される時を待ち控えていたあの空間において、既に空白は異彩を放っていた。

 

 無敗のゲーマー『  』の都市伝説、確かにそれは存在したのかもしれない。

 オンラインゲームのコミュニティやSNSなどのネット上で、確かにそれは崇拝されるほどの存在だったのかもしれない。

 人々の信仰に近い憧れを元に、確かに『  』という概念は形を得たのかもしれない。

 

 しかし、まさか。

 ────異世界で絶賛世界制覇中の自分たちの人格を、そのままコピーしてもってくるなんてことが!あっても!!いいのだろうか!!!

 いや、よくねえだろアホか!!!

 

 おそらく空たちの世界の唯一神、遊戯の神テトが戦犯であることは間違いない。 

 おおかた面白半分の愉快犯なんだろう。

 

 つまり、ここにいる空白は本来の空白のコピーであり、この世界にかける願いなどひとつもなく、ゆえに聖杯戦争に参戦する理由がない。

 超ド級のイレギュラーである。この聖杯戦争を開催したムーンセルすら予想しなかっただろう。

 成り立ちからして間違いだらけの空白は、あの選定の場において誰にも召喚されることなく、生まれてすぐに消えるはずだったのだ。

 ……メタな話、空白は『Fate/Stay Night』のみプレイ済みであり、間違ってもドロ沼確定な聖杯戦争などに関わる気はなかった。

 

 

 

 ──しかし。

 ────声が。

 

 負けて悔しいと。弱いままの自分でも勝ちたいと。

 

 死の淵においてなお、自分の可能性を諦めず勝利にしがみつく声が聞こえた。

 

 

 あの願いに、応えるものがないなど、そんな理不尽があってはならない!

 

 

 

 

 空が憧れてやまない、人類の可能性。

 この世には『天才』が存在する。彼の妹である白のような、『天才』(ホンモノ)が。

 

 ヒトに翼はない。しかしないからこそ、ヒトは空に憧れ、飛びたいと願い。

 そしてヒトもままでも空を飛べる、鉄の翼をつくりだしてしまう『天才』がいる。

 

 空はそうなれない。でも憧れた。

 自分のような馬鹿な凡人でも、少しでも近づければ。そう願った。

 限界まで賢しい妹に、限界まで愚かしくあることで、近づけるのではないかと。

 馬鹿な自分が、弱い人類のままで。

 

 

 だからこそ空は、あの瞬間の少年の叫びを見過ごせなかった。

 ──そして結局、このドロ沼確定な聖杯戦争(ゲーム)に妹を巻き込んでしまったわけだが。

 

 

 白の頭を撫でていた手を止めると、見上げる視線とかち合った。

 

『白、ごめんな。こんな戦争に参加しちゃって。

 どうしようもない兄ちゃんだけど、ついてきてくれるか?』

『あたりまえ。……にぃに、ついてく。約束』

『あぁ、そうだな。

 俺たちは俺たちのニセモノみたいなもんだ。その上、相当シンドい寄り道になると思う。

 でも、空白はいつだって二人で一人だ。何があっても。

 ……手、離すなよ?』

『……ん。にぃも、ね?』

 

 手をのばした妹の、しかし手でなく体ごと抱きしめベッドに横になった。

 

『て、ていうか、何で学校が舞台? 引きこもりの俺たちへの精神攻撃?

 もしかしてあの扉開けたらそこにはリア充の巣窟だったりすんのか?

 ……し、白、手放すなよホント、絶対』

『に、にぃも……ね……』

 

 トラウマに震えながら抱きしめあう二人は、どこまでも社会不適合者なのである。

 

 

『つか少年、マジで起きねぇな』

『……返事が、ない。…ただの…屍のようだ』

 

 

 

 

 月の聖杯戦争。 月の内部に作られた七つの海を舞台にした、128のマスターによるトーナメント方式の聖杯争奪戦。

 128人のマスターたちが一騎打ちで戦っていき、最後の一人だけが聖杯を手にすることができる。

 生還できるのは、聖杯を手にしたただ一人のみ。

 

 対戦相手はシステムによって決定され、六日間の準備期間(モラトリアム)の後に『決戦』となる。

 マスターは、決戦に向け、準備期間を利用し、自己を鍛え、相手の情報を探る必要がある。

 

 

 まだ初日の、しかも対戦相手すら決まってない時期であるが、時間は無駄にできない。

 なぜならばもう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その中でも、特に初日は全日程で最も重要度の高い日だと空は考える。

 

 情報こそが武器となる電脳世界において、まだ遊び半分で警戒心のないマスターたちから簡単に情報が漏れるのは、おそらく最初の一週間のみ。

 初日ともなれば、彼らの浮ついた顔色でサーヴァントの強さや相性が計れる可能性すらある。

 逆に、初日から既に堂に入っているマスターがいるならば、それは聖杯戦争を正しく理解し覚悟を決めた敵として最大限に警戒する必要がある。

 

 

 だからこそ、一刻も早く行動を開始したいところであるが。

 マスターが目覚めないことには移動することすらできないのだから仕方がない。

 手持ち無沙汰の白は既にこの電脳世界を()()()()()()()()()()

 しかし、月の聖杯戦争を運営するムーンセルに絶対服従の身であるサーヴァントの身ではハッキングを仕掛けることもできず、こうして暇を持て余していたのだが。

 

 

 寝こけていた少年が目を覚ました。

 なにか、夢でも見ていたのだろうか。

 呆然と身を起こし、ベッドに腰掛ける少年の前に、空と白は姿を現した。

 

 

「さぁ、ゲームを始めよう!」

 




9/11 タイトル入れ忘れてました。訂正。
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