暗い夜空を眺める影が1つある、そしてそれを後ろから声を掛ける人がいる。
「アムロさ〜ん、アムロ・レイさ〜ん。もう、こんなところにいたんですね、どうやって出たのか解らないですけれど、私を困らせないでくださいよ。」
「いや、すまないね。鍵が空いていたものだから、てっきり出ても良いのかとね。」
青年はそれを、聞いて答える。義眼であろうその目は意志の光を帯びることは無いが、まるで本人がそう望んでいるかのように、自分の看護をしてくれる女性をみた。
「もう、私より歳上なんですよね?いい加減落ち着きを持ってくださらないと。幾ら若く見えるからって、そんなんでは駄目ですよ。」
どうやら青年は青年ではなく壮年であったようだ。
「解っているよ、でもね。不思議だと思うんだ、この星の瞬きは俺の知っているものと殆ど変わらないだろうに、宇宙のざわめきはまるで違うんだ。」
「やっぱり、故郷に帰りたいですか?」
「勿論さ、帰れるなら帰りたい。だけど、それも高望みだろうね。
そう言えば、君の名前を聞いて無かったね。君が僕の名前を知っているのに、僕が君の名前を知らないのは不公平じゃないか?」
看護師はそれを聞いて、少しだけ考えると
「アイラと言います。アイラ・エヴァンス」
看護師と患者二人の長い旅路の始まりである。
目の前にある紙媒体に目を通し、読み終わったらそれを直ぐ様シュレッダーにかけて、完全に隠蔽するために更にそれを、水で溶かし少しずつトイレに流す。
地球の重力よりも低い為に、自然落下する可能性が低い為吸引器で吸い込まれる汚物と同じ様に、その紙は流れていく。
書かれていた人物達は、また新たに俺の部下になる連中だ。これで最後だろう。
士官服に着けられている階級章、それはその人物の身分を表すもの、従って軍人ならば必ずと言って良いほど身につけるものである。
しかし、服に馴染むのには時間がかかる。現に俺は、この半年の内に2階級も進級しているのだが、どうやら俺はもう1段階段を上がるらしい。
「俺はいつまで歩き続ければ良いんだ?」
愚痴の1つもこぼしたくなる。
大人数を統制し、ある程度の融通の利く身分で独自裁量権を持つ、特務部隊。
〘第13独立遊撃隊〙
巡洋艦クラス一隻を要する、所謂通商破壊を目的とした部隊。
特務部隊ということもあり、俺は特務中佐。
つまりは作戦行動中に限り、准将と同等の権力を持っている事になる。
尤も、建前という他ない
なんせまだ部隊には、艦艇が一隻しかいないのだから。
最後に見上げるように俺は、俺達が乗り込む艦の全容をこの目に焼き付ける。
そこそこ大きい船体は、小さな戦闘はなんとでもやってくれそうな安定感がある。
暫くして、艦内に入る。雰囲気としては悪くはない、ゴロツキのような連中と一緒という以外は。
そして、一路艦橋へと行くとそこにあったのはドレイク級並のスペースだった。
「あまり広くは無いんだな」
「そうですね、6人も入れば良いんじゃないですか?そもそも艦橋下にCICがあるので、アムロ中佐はそこの椅子でふんぞり返っていれば良いんですよ。」
酷い言い草だな、艦艇の運用くらい俺だってやったことないわけでは無いんだが。
「それに、あくまでも私達はパイロットですから、あまり気にしなくても良いんじゃないですか?」
「そうは言うが220名の命を預かるんだ、気合も入るものさ。」
程なく出航となるだろう、艦内の持ち場と言う持ち場に各員が付いたと言うことで、艦橋内は一気に緊張が高まってくる。
まずスラスターの確認から始まり、艦内電路の漏電確認各種施設の駆動状況。
それだけでも1時間は経過する。
「艦長、出撃準備整いました。いつでも出港できます。」
おれは目を瞑って、一呼吸入れたあと声を上げた。
「総員第一種戦闘配置、これより本艦はデブリベルト帯への処女航海並びに、交戦国に対する通商破壊戦を開始する。
両舷前進原速、周囲への警戒を厳とし敵国と確認されれば直ちに報告せよ、以上だ。」
こんなものなのかな、実際操艦なんて士官学校以来だ。悪くはなかったと思う。
「静かですね、港湾警備も人っ子一人いないです。」
「ああ、俺達が出ていくっていうんで、それで出払っているのさ。
俺等の艦は公式では存在しない事になっているからね。ここにいる連中も、架空の部署で今頃働いているよ。」
「という事は、俺は2人分の給料が出るって事ですね?」
「残念だけど、俺等は分身だから体がないんですよぉ〜、ガハハ。」
何が面白いのか、さっぱりだ。空気が凍りついたように、凍てついている。
それに給料が出たところで、殆どが貯金に回されるのは確実だろう。
「艦長、港湾から出ましたので速力を第一戦速に上げます。推進剤の消費を鑑みて、最寄りのデブリベルトはこの宙域となります。よろしいですか?」
「L1コロニー群の残骸か、まあ隠れ家としては上出来なんじゃないか?
ジャンク屋がいると厄介だが、少しの敵なら肩慣らしに撃破しても構わない。」
「それって…違法じゃないですか?」
違法ね、それなら対商船無差別攻撃を俺達はやろうとしているんだから、もっとそっちの方を気にしたほうがいいと思うが。
「まあ良いじゃないですか、俺達は海賊になるんです。そんな事でみみっちく言い争ってもしょうがないですよ。」
俺にこの人数を指揮できるか…?いや、俺以外に誰が出来るかよ。
持ち得る機体はメビウス5機とジン一機、小さな仕事からコツコツとという言葉がぴったりだな。
補給品目にMSとでも書いておくべきだったか?まあ、後一機くらいなら融通は効くだろう。
……
館内の作戦室にて、おれは副官であるスターシャ中尉、それと副長の大尉。参謀の少佐とともに机の上にある、作戦指令書と地図を交互に見比べている。
「現在判明している輸送経路だが、現在大洋州連合はプラントの手中に有るのは知っていると思うが、カーペンタリア基地から、プラントに向けて一部鉱物資源が供給され、プラントで加工後、武器として使われている。
そこで、我々はその経路に対する恫喝行為として、この地域から飛び立つ民間輸送部隊を叩き、プラントへの鉱物資源の供給を一部遅滞させる。
この作戦が我々としての初の任務となるが、今回この大洋州よりの便には、戦略物資となる金や銅が含まれている重要な作戦だ。
幸いな事に、この輸送船団に護衛となる艦艇はドレイク級が2隻のみだ。」
「であるならば、各種機能を試してみたいですね。
実弾兵装に限りがありますので、極力mk72スコルを使う事が前提でしょうか、敵の船団護衛が多ければ実弾を使用しても構わないでしょうが…。」
「いや、この際実弾の試射もしましょう。肝心な時に故障となったら最悪ですからね。」
「機動兵科としては、カタパルトの使用間隔を確認したいですね。迅速な展開が命取りになる事がありますので。」
様々な意見が出ては、それを検討し少しずつ少しずつ作戦を練っていく。
今時大戦の
どころか、宇宙空間での隠密な通商破壊戦等、恐らくは誰も経験したことがないことを俺達はやろうとしている。
本当ならば、輸送艦に偽装することが一番真っ当な方法だが、果たして宇宙空間でどれほど実現出来るか。
「まあ、まだ実戦まで1週間は有る。各自完熟訓練をやらなければな。付け焼き刃でやっていけばそのままズルズルとして癖になりかねないからね。」
それは全員解っているようだ、なら第一の目的は拠点を構えることだろう。なんとか、敵艦を鹵獲できれば良いんだがな。
これから先私は大丈夫だろうか?
隊の皆との温度差はさほど感じる事は無いとは言え、私達は今後1年間はこの密閉された空間の中での生活を強いられる。
この艦のなかでもきっと、男女の間からの人たちが出てくることだろう。
そして私は、中佐とそういう関係である。
これは、私がもしかしたら戦闘に参加できなくなる、そんな可能性も視野に入れなければならない。
私達が着ている連合の制服も、長い間着ることも無いだろうに、一丁前に数着人数分用意しているところに、連合加盟国の官僚的な部分が見て取れる。
「そっか、シャワーもそんなに浴びれないんだっけ?拠点が出来るまでは大変だなぁ。」
補給地点は、アルテミスか月面エンデュミオン基地の残骸、もしくはL1中域での輸送船による定期補給。
ジャンク屋との兼ね合いとかも必要かな、これは本格的に軍人じゃなくなってくるかも。
会計とかも専門の主計科から左遷されてきた落ちこぼれの人がやってくれるらしい。
業務上横領をやらかした人らしく、今回もそんなことをやりかねない。本人曰く
「これだけ大きな組織になれば、細かな数字の違いなんて誤差になりますから、じゃんじゃん任せてください。」
まったく反省していない、それどころか罪を重ねようと努力しているところに、やはりこの艦の乗組員はマトモな奴はいないのかと、つくづく思う。
参謀少佐も、変人だ。何処がどう変人かと言われれば、紅茶に対して並々ならぬ執念を燃やしているらしい、というよりも紅茶が不味いがために左遷されてきたという。
上官が入れたお茶を不味いと言って零して左遷された。
本人曰く、
「紅茶があんなに不味くさせられているなんて可愛そうだ!」
だそうだ、マトモな人はいないのか?
そして中佐……艦長が初めてMSに搭乗して操縦した。最初の数分は何やら、戸惑っていたけれど1時間後には何故か縦横無尽に動き回り、戦闘中のコーディネイターたちよりも遥かに、上手く乗りこなしていた。
やっぱりあの人は規格外なのかもしれない、という事は亡くなった御父様もきっとそんな人だったのだろうと思うと、つくづく天は人に2物を与えないものなのか。
しばらく思案していると、浮遊感から来る眠気が私を襲う、たぶん疲れたんだろう。
ああ、芳香剤とかそう言うのも人数分嗜好品として頼んでおかないと、臭くて鼻が麻痺するのは嫌だから。
目を瞑って少しした頃、ふと気がついたことが有る。この艦の特性だ。
物凄く静かなのだ、加速も背中を押されたり体が圧せられるようなそんな感覚もない。
物凄い静音性の高い艦艇なんだということを実感する。
それだけに不安なものよりも、安心感を得られるのは良いことなのだろう。
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