「君は何者だったんだね?」
老人はアムロにそう投げかける。
「何者?何者と言うと、職業の事だろう?そうだな軍人だな。」
「君を助けた時、君は重度の火傷を負っていた。実際こうやって話しているのも不思議なくらいだよ。」
そう言う老人にはどこか寂しげに見える顔がある。何かを失ったのだろうか、それとも何かを憂いているのだろうか?
「軍人は嫌いですか?俺みたいな奴がわんさかいる、そんな軍隊というところが。」
「君みたいな話のできる軍人がいたら、どれほどマシであったか。
戦争なんて言うものは実にバカバカしく、必要なものを奪っていく。」
その言葉からアムロは老人の近親者になにかあったのだということを見抜き、そしてそれ以上話を振らないように少し思考する。
「俺もそう思いますよ。ところで俺の機体の解析は進んでいるんですか?」
「戦闘データは完全とは行かないが、殆どサルベージ出来た様だよ? 尤も、全てを見るには360°スクリーンが必要だから、ちょっとした映画館で見なければな。」
老人はそう答える。以後アムロは彼の心の奥底にある、暗い暗い開きたくない物に触れないように努力する事になる。
予想以上の結果だな、しかし彼女の執念というものを甘く見ていたかもしれない。
戦闘機動の機敏さや反応速度、障害物への対処等他の追随を許さない。
「おや、どうしたんです? そんな険しい顔して…おやおや? お〜凄いですね。百点満点中90点の山だ。
因みにだがアンタを百には換算しないぞ、だって機体データを解析してみたらアンタ、マイナス秒で反応してんだもの、そりゃ機体だって悲鳴を上げるよ。
お陰で見ろよこの関節部の摩耗データ、整備班に怒られるのは俺なんだぜ?」
「解析ご苦労アルフレッド少尉、実に優秀だな。この短時間で良くここまでのデータを数値化できたな。君、ナチュラルだろ?」
黒髪ドレッドヘアーの黒人が、真面目そうな眼鏡をかけてパソコンとにらめっこしている。
顔と職業が一致しないなんてことは良くあるが、遊んでそうに見えて律儀な性格で、尚且つまだ女性を抱いたことが無いなんて信じられるか?
「ちょっと今変な事考えませんでした? 顔に似合わずなんて、て言うけれどいつものことですけどね。」
「どうしてウチなんかに配属になったんだと思ってね。これだけ優秀なら軍の中央にいたっておかしくはない。」
「照れますねぇ…中央には配属になったんですけれど、ちょっと内部文書を見ちまいまして、物理的に首が飛ぶのとここに配属になるのどちらが良いかと聞かれたので、こちらへ来たんですよ。」
その機密文書の内容を知りたいな、という欲が沸いてくるが今更聞いたところでそれがなんの役に立つかという問題だな。
「そう言えば副官殿、上機嫌でしたよ? これでアンタの側にいられるって。女の執念っていうのは本当にすごいですねぇ。」
成る程、口は災いのもとというが少尉はどうやら階級で物事を判断しない人間だな、現に上司と部下であるのに階級で呼ばれない。尊敬の念は感じるが。
「そう言えば、例のアレどうです? 俺も手伝いましょうか?」
「そうだな、手伝ってもらえれば後1週間と言ったところか。この艦には多才な人間がいて本当に助かるよ、完成すれば多少戦力になるだろうしね。」
それまでは、俺もマニュアル操作しか無いか。
きちんとしたOSがあればある程度は任せたいが、プラントの連中は本当にアレで良いのか? 未完成品を市場に出しているようなものだぞ。プラントは相当追い込まれていたのかもな。
「どうしました?」
「いや、少し考え事だよ。じゃあ、今からデータをそっちに送るから、就寝前や休憩時間に少しずつやってくれないか?」
「別に今やったって構いませんよ。艦内のデータ収集なんて左手で鼻をほじりながら、右手でマスかいて足でも出来ます。」
下品だな。やはり相応の原因は少尉にもありそうだ。
OSの内部の自己整理部分を担当してもらおう。確かまだ誰も手を付けてなかったからな。
「ウェへへへへ、腕がなるぜ。」
そして俺は、そんな彼を尻目に機体テストをやっていた連中のデータを持って格納庫へと向かう。
昨日やった事を今日発表だ。全員緊張している事だろう。
「総員艦長に敬礼!」
暑苦しいほどに俺は敬愛されているのだろうか、MS戦を見せてからというもの、俺に対する見方が大幅に変わったようだ。恐怖心もあるが、それよりもなんだろうか憧れの的のような感じだな。非現実的なヒーローが目の前にいるという、所謂少年のようなそんな眼差しだ。
敬礼を手で制し、粛々と結果を報告する。
そして、結果から導き出された回答は勿論
「スターシャ中尉、貴官をジンのパイロットに任命する。
俺の背中を護ってくれよ、期待しているからな?」
「はい!」
元気は良いことだ、周囲の生暖かい視線などお構い無しに、彼女は俺へのスキンシップを止めない。
まあ満更でもないが、こう軍隊なのに軍隊というか一つの家族のようなそんな感じにするのが、この部隊なのだろう。
もう長いやつなら2ヶ月は一緒だからな、旅の仲間程度には思っていると思う。
「試験に落ちた者も順次、ジンの鹵獲が進めば充てがっていく予定だ。勿論、成績優秀者は特に優先する。
問題は余ったMAだが、パイロットの人員が増え次第、順次充てがうつもりだ。
今日はこれまで。各自自主的に訓練をしておくように。万が一にも怪我のないように頼むぞ? 医療品もばかにならないからな。」
戦争をやっていないと、皆ワイワイとふざけあって実に人間らしいよ。羽目を外しすぎたりするやつもいるから、今度艦内規則を創るか?
流石に犯罪の場合は軍法を持ち出すが、おふざけで真面目な罰則は勘弁願いたいからな。
「ねぇ中佐、これから艦内のバー一緒にいかない? その後、色々とさ。」
「浮かれすぎだぞ、酔うのは構わないけれど酒と違ってその酔が覚める頃には死んでいた、なんてことになる可能性もあるんだ。こう言う時こそ、君はしっかりしないと。」
脹れっ面を造ったとしても、俺には通じないよ。
「じゃあ中佐……アムロさんはこの後何するの?」
「そうだな、整備班はまだ仕事だが少々創っているものの完成を急ぐ理由が出来たからな。
中尉、君は手先は器用な方か?」
その発言に何を感じたのだろうか、不器用ですと直ぐ様俺から離れていった。面倒くさい空気があったのだろう、そういう切り替えが大事だ。
さて、もう一仕事だ。俺等の部隊の生存能力に関わってくるからな。
「はぁ……解らずやめ、もう知らないわ。」
一人バーで酒を煽る。バーボンはストレートよね。なまじ、毒物とかの分解酵素に優れているコーディネイトを受けているから病気にもかからないし、酔いづらいのだ。
私が完全に酔えるとすれば、それはもうスピリタスだけだろう。
「あらあら、どうしちゃったのお姐さん。まさか、旦那さんに振られちゃった?」
ムッスーとしていると、声が掛けられる。
解っている誰が来たかなんて、大方ビッチコックに違いない。
「ビッチじゃないわ、ヒッチホック! まったく、下品で仕方無いわね。
それで、お貴族様とかどんな教育を受けたのかしら?」
「その話し言葉、少しおかしいよ?お貴族様に受けたきゃ、もっと勉強すれば?」
「人が心配して来てあげればさんざん……まあ良いわ。
田村中尉、ミルクをくださらない?」
太っちょでいて温和な性格で、尚且つ人当たりも良い常識的な田村さん私と同じ階級だから互いに呼び捨て会える、良い話し相手だ。
「アナスタシア君、良い加減艦長の性格解っているだろう? アレは知っていて君にあまり手を出さないんだよ、優しいからね。
たぶん、やる気になればそれこそ百獣の王のような人だけれど、それなら相応の覚悟を君もしないと。」
「だって、この中で結婚なんてできないじゃない。神父様なんてこの艦にいる?」
「いない事ないわよ? 例えばほら、アララド曹長なんてイスラムの従軍神父?みたいなウラマーでしてよ?」
ウラマーっていうのは、法学者であって神父じゃないでしょうに。
「私はキリスト教のカトリックの家柄なの、だから神父様じゃなきゃ嫌よ。」
「そんなわがままばかり言っていると、私が取ってしまうわよ?」
「やっぱりビッチじゃん」
それを聞いた彼女はぎゃいぎゃい騒ぎ始めると、私と口論になる。そして、其れを見かねて田村さんが仲裁するという、いつものお決まりパターン。
この艦が出来る前からの数少ない、友人と言える間柄だ。
「まあ、なにはともあれMSパイロットになれるのでしょう? 次の作戦まで4日しか無いのよ、こんなところで浮かれている場合?」
そうだよね、それくらい解っているよ。さて、次飲んだら行くとするか。
「酔っ払ってシミュレーションでの成績落ちないと良いわね。」
「フン、この程度酔えもしないよ。」
MAの時のほうが使えたなんて思わせてなるものですか!
プラント最高評議会。それは、プラントに於ける最高意思決定機関。首都であるアプリリウス市に政治拠点を持つ、政治機関である。
しかしながら実体としては、一党独裁制時であり更には完全に自動化された、強制的な政治参画権を成人は所持している。
そんな評議会、そこには15人の議員がいる。現在その中で尤も高い地位にいるのはシーゲル・クラインと言う所謂穏健派であり、コーディネイターの未来をナチュラルへの帰化とするものである。
彼の派閥は所謂クライン派とされる。
逆に武闘派とされる人物はパトリック・ザラ、プラント国防委員長についている事から、ザフトの実質No.1である。彼の派閥はザラ派とされ、それぞれ二人の派閥が2大派閥であろう。
今日はそんな評議会ででてきてしまった、ある議題についての話しあいから始まる。
それは、地球での採掘にプラントが依存している鉱物の輸入経路での話、何者かの手によって突然と襲撃されたそれは、プラントにヒタヒタと冷たく歩み寄って来る確かな、経済的打撃の前触れであった。
加工貿易を主要とする産業は、意外と競合が多く地球で言えばオーブがその最たる相手であろう。
そんな加工貿易をするプラントが、原料調達が難しい状態となれば経済はどうなるか、著しく失速するのは当然でありそうなれば食料の輸入すら滞り、最悪プラントは餓死するだろう。
事態は急を要するが、この事態が発覚したのは最初の襲撃から3週間程たった、9月も終わり頃である。
では何故そのような事になったのか。プライドが高いコーディネイターと言う生き物は、失敗を恥とする美徳にも悪徳にもなるものを持っている。
つまりは現場の隠蔽だ。失った多くのものを隠そうと次こそは次こそはと送るものの、航路を変えても襲撃は止まず。
次第に敵は船団から鹵獲したMSを使用してくる始末で、段々と隠し通せなくなった。労災隠しは重罪とは良く言ったものだ。
このときの評議会の面々は顔を青くさせた、特に生産を担当する者にとっては最悪の事態だろう。
一刻も早く、海上封鎖を解かなければプラントは早晩干上がる。
静かに真綿で首を絞めてくるこの搦手、誰がどう見ても連合の仕業であると言うものも有れば、いやこれはオーブの手である。だとかそういう結果に思い至るが、それでも確たる証拠は無い。
何故ならば、襲撃された者達は見せしめのように生きている。連合であれば、連れ去られていてもおかしくは無いにもかかわらず。オーブならそうだろう。
逆にオーブであれば、全ての輸送艦を沈めていてもおかしくは無い。証拠を残したくないからだ。
会議は踊る、そして結論としては優秀な人材を船団護衛に着けること、航路の選定方法の見直しをする事だ。
距離が離れるが、襲撃のリスクが減るのならと致し方の無い判断。
だが、彼等は見誤った。何故小さな戦力が国防を脅かしているのかを、どんな存在がそれを行っているのかを。
ちょっとやそっとの戦力で彼らを止めるにはあまりにも無力だった。
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