「アムロ・レイ。君はこの世界をどう思う、この世界を導けると傲慢になった者達が創り出した、この歪な世界を。」
「歪かどうかはさておき、人というものは一人では何も出来ない。
草木が生い茂る木々が酸素を出し、それを呼吸することで初めて人は息をすることが出来る。
そういう意味では人は世界に支配されているとも言えるだろう。
だからこそ、世界というものは最初から歪なものなんだ。
完璧なものなど存在しえない、ましてや人というものは暑さや寒さで簡単に死んでいく弱いものだよ、世界を創り出したと言うのは傲慢な例えだな。」
老人はその言葉に対して閉口する、彼の価値観の中で彼のような人物がいただろうか?
実際、彼という人間はある種宗教の教祖、それこそ古代の宗教のような創始者が、自らの行いが宗教となるなど知るとも考えなかった、そんな存在に近いのかもしれない。
「アムロ・レイ。お前はいったい、何を見て生きてきたのだ?」
人口の50%を殺し切る戦争、コロニーを何基も地球へと落とし込む狂気、挙句思考の果てに隕石を地球に落とす。
人類が滅んでいない事が奇跡的な戦争を、誰もコントロールすることが出来ない、その蛮行を。
そして、
これで3回目、連合は狙って俺達にこの艦隊を狙わせているのか、まさかな。
俺達への補給の為とかそんな理由じゃないだろうな。
「そっちの艦には何が入っていた?」
「同じですよ、MSの武装です。なんだろうな、重斬刀と同じ大きさですけど、片刃だ。
しかも、コレは…エネルギー供給システムか?」
俺はその話を聞いてその重斬刀をみる、確かにいつも使っている奴とは違うな。コレは、まさかな。
「一度エネルギーを供給してみよう、俺の予想が正しければコイツは良いものだ。」
MS用のケーブルを接続し、いざ出力すると刀身の刃の部分にレーザーが照射される。
「実体と光学兵器の併用近接装備ですか、しかしエネルギー消費が結構激しいのでは?」
「もう片方には刃が着いているからな、反対側はそのまま重斬刀として使えるだろう。扱いづらそうだが、俺が使うとするよ。
普段はエネルギー供給を切っておけば良いわけだしな。」
「しっかし、これで三点セットですよ。どうやら、艦長に使い心地を確かめてくれと、そう言ってるように思えますね。」
連合艦艇を襲撃する際、ビーコンを発信しているものは攻撃してはならないと、言われていたがソイツを拿捕し曳航の下中を拝見した。
乗組員の中で数人諜報員が紛れ込んでいたが、コレは次の艦隊そのまた次の艦隊と紛れ込んでいた。それがこの結果だ。
「最新式のMS用バッテリーに、ライフル式のビーム兵器とレーザー重斬刀。既にバッテリーは機体に移植済み、問題はマニピュレーターのジョイントとビーム・ライフルへのエネルギー供給が出来ないという点のみ、どうします?」
「簡易的に付け加える方法もあるにはあるが、エネルギー供給用のケーブルが必要だな。それなら実弾兵装で充分だ、至近距離でならコックピットは一撃で破壊できるからな。
くれるのなら、機体ごと欲しいものだな。」
中途半端によこされても、ジンに組み付けるには少々難がある。そもそもエネルギー供給方法が機体依存だとするのならば、使い過ぎれば機体は動かなくなってしまう。リミッターが無いと機体で扱う意味が無くなるな。
「それと、こちらも。」
「紙封筒、嫌な予感がするな。」
だいたいこう言うときは指令書が入っていて、それでまた計画が変更になる場合がある。
だが、今回は急を要するのだろうか?
中には十枚、暗号コードとコレはレーダー分布か。
それとこれは、通信量か……
「近い内にザフトが大規模な侵攻を開始する予兆がある。元諜報員の奴がいただろ、奴にこの暗号文を解いてもらってくれ。俺の予想通りなら…。」
………
鹵獲艦内部にエネルギー供給用の改装キットを見つけたようで、ビーム・ライフルを扱えるようにするためにジンの掌へジョイントを取り付ける作業を格納庫で行っていたところ、暗号の解析を行っていたやつが格納庫を飛び越え目の前に降り立った。
「良く解りましたね。あれはプラントの秘匿回線ですよ。まさかと思いますけれど、やはり勘ですか?」
「そんな話はどうでもいい。やはり連中はヴィクトリアへの侵攻の準備を開始しているのか…連合本隊はどう動くか解るか?」
その言葉を聞いた彼は徐ろに、もう一つの紙を目の前に突きつけ暗号文の重要箇所を記して言った。
「我々に敵の艦隊の集結を阻止せよとの事です。と言っても、このL3中域を通り掛かると予想されている敵艦隊のみですが……どうします艦長、逃げますか?」
そういう意味か。だから色々と送りつけてくると。成る程、美味い話には裏があるというが、読み違えたな。
未来を全て見通していたら、自分が死ぬ運命だって回避できたものなアル・ダ・フラガだってそうだ。
「とりあえず、格納庫に全員を呼ぼうか。結論はその後だ。」
……
艦内格納庫はいっぱいに詰めれば、MSが8機駐機できる。勿論、整備する事を考えれば6機が限界だが、それでも120人が収まるスペースがある。
全員の顔が見える場所、そこに到着すると皆が俺の顔を見て、不安そうな顔をする。
それもそうだろう、噂が拡がっている。軍は俺達を殺そうとしていると。そんな、あってもないような噂だ。
俺等の仕事は地雷原でタップダンスを踊るような事だが、塹壕戦で土の中に埋もれて死ぬのよりは、大夫マシだろう。
「皆も知っての通り、連合本部から次の指令が来た。それは非常に過酷なもので、俺達の今までやっていた事が可愛く見えるような、そんな事柄だ。
もし、戦う選択をすれば俺達は50%の確率で死ぬだろう。
そこで君達に問いたい、俺達は逃げるべきだろうか?」
初めて彼等に弱音を吐く、実際問題こんな決断をしなければならないのは、余り良くない。
「中佐……アムロさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるかい?推定正面戦力ナスカ級3隻、ローラシア級6隻を相手にMS6機と巡洋艦1隻だけで戦えると思うかい?
正直言って、勇気が足りないね。親父だったら、どうするんだろうな。」
俺だけなら兎も角、この艦と乗員の命がある。所詮MSの行動半径はMA以上護衛艦以下でしか無いのだ。
本当に、どうするんだろうな。隕石を破壊して、押し返そうとするそんな精神性を俺は持ち合わせちゃいないよ。
「嬉しいですよ、私は。」
「嬉しい?どうしてそんな事を言うんだ。」
「解っていると思いますけど、私達は貴方におんぶに抱っこの状態で引き取られていました。けど、今みたいに弱音を吐く事も別に良いと思いますよ?」
「そ〜だぞ〜艦長、俺たちゃアンタにただ率いられていくだけじゃ嫌なんだ。」
「アンタがいなきゃ、俺たちゃ銃殺刑だったんだ。感謝こそすれ、恩人に借りを返さなきゃ子供達に顔向けできねぇ」
そうだそうだと言う声が格納庫中に響いている、こいつ等俺を何だと思ってるんだ?
「神様とか、そういうものだと思ってるんですよ。身近にいるいつでも話せる神様。
救ってくれるんだから、助けたいってそう貴方は思われてるんです。
何より動きが神がかってますからね。」
嬉しいような、ある意味怖いな。まるで宗教だ。
「さっ、作戦会議。やりましょっか。」
アムロさんの顔を見るとまだ少し考えている事がわかる、複雑な心境なんだろう。誰かを死地に追いやれる程冷徹じゃないし、だからこそエンデュミオンでは、軍機を犯してまで戦闘に参加した。
自分の犠牲を考えたことなんて無いんだろう、自分の事を消耗品か何かだと割り切っているところもあるのかも知れない。
今でも御父様に縛られている、とは言え彼はそれを自覚している分努力していると思う。
現に私達に苦労を吐露したのだから、彼は限界を弁えている。
「敵の数は多いですが、こちらだって数は揃えられます。
特にETCを搭載する事が出来るので、MSの回避性能はノーマルのジンの四分の一以下に被弾を抑えられますし、MAに至ってはある程度の自立戦闘が出来ます。」
「それを吟味した中で、やはりこの艦に外付けでMAを着けておくのが正解ですね。それで戦力をある程度かさ増し出来ます、尤も帰投は考えていないですが。」
優秀な頭脳を持っている人達が、様々な意見を出す中作戦を少しずつ形作って行く。
それに合わせて、整備長がMAやMSに換装作業を進めていく。
そんな中で私が何をすればと思っていたのだけれど、ふと一つ思い至ったことがある。
「あの、船体の塗装変えませんか?連合として動くのなら、敵の記録に残っているようなこの船体色だと、後々戦争での通商破壊戦に対応が難しくなると思いますし、何よりオーブとかが面倒くさいので。」
「一利あるな、よし船体を真っ青に染め上げてしまえば。その方が目視しづらいしな。」
意見が通った。
「スターシャ、ありがとう。参謀、作戦立案を頼む。俺はMSの最終調整を行う。何としてでもビーム兵装を使えるようにして置かなければならないからな。少しでも有利に進めたい。」
いつもの調子に戻った、いや自分の苦手分野を明け渡したっていうのかな。やっぱり分業は必要だね。
「スターシャ、君も来ないかい?機体の不具合とか、後は付け加えたいものが有れば、まだ間に合うから。」
「はい、私も機体の反応速度を少し上げたいと思っていたところです。
最近、あの思考が鮮明にクリアする現象をコントロール出来るようになってきたので。」
少しでも生存性を上げる、一人一人が仕事を自覚していれば生きて帰れるように。
岩礁空域を食い入るように覗き込めば、その違和感になんとなく気が付くことがあるだろう。
何故か、岩礁の一部が光を歪めているように少し、歪だ。
この違和感を探す事は非常に難しい、何も無い空域でそれを観測するのは至難の業だろう。
ユーラシア連邦少将ジェラード・ガルシアは、その現象の相手が誰なのか、それを友人と言える人物が行っていると知っている。
ガルシアは、この地球連合の勢力圏で尤もプラントに近いと言える、アルテミスの基地司令であるがそれ故に、連合からの通信に思考に沈んでいた。
戦闘を観測し、出来うる限り至近でそのデータを収集せよ。
客観的に見た戦闘データを欲した連合は、第13部隊のその功績と戦力は連合にとって無視できない存在となっていた。
多数のコーディネイターが所属する部隊、しかしその中で尤も多く敵を狩るのはナチュラルである、あの怪物だ。
空の化け物を喰らい喰い潰す怪物、そんな認識が広がる。
彼から送られてくる戦闘データ、それは人間の出来る動きではない、殺陣ではないのだ。それなのに、まだ一度も大きな破損を食らうことがない。
ガルシアは、そんな連合の認識と裏腹にアムロ・レイと言う人間によって繰り広げられる、コーディネイター狩り。
いや、ザフト狩りと言った方が良いだろう。
コーディネイターだからと、特別視してもあの男の方が遥かに特別な存在だと言うことが、彼の考えを変えていた。
それは、アルテミスに所属するコーディネイターに対しても、態度として現れた。
〘普通に接する〙どれ程この言葉が、虐げられていた者達に響くだろうか?
奴隷を開放すると言って支持率を上げた、大西洋連邦構成国であるアメリカの大統領、エイブラハム・リンカーンのように彼はアルテミスで確固たる支持を受けた。
そして、彼は判断する。
一人の軍人として、友人からの頼み事は極力聞いてやらねばと。
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