アムロ・レイは1人、事務机に向かい1人手を顎に添えて考えていた。
元々髭が生え辛い体質であり、ヒゲを剃るのに手間暇のかからない彼は、その滑らかな肌で考えていた。
「どうしたんです? そんなに考え込んで。それにパソコン何て見ていますけれど、見えるんですか?」
「うん? まあ、なんというかな慣れっていうのは凄いものだよ。前迄はこんなにもはっきり物事を
はっきりとした物事を見ること、それこそ次何秒後どこで何が起き、誰が死ぬ。
なんてことを、普通の人間が見える訳もなくそれを誰かに話したところで、普通は一蹴されるに違いの無い事だ。まさに神懸っている、いや神の視点とでも言うべきだろう。
今の彼はそういうふうに物を捉えるしか無いという。手を足を失い地を這うしか無かった蛇は、今ではあらゆる環境に適応する力を持ったように。
「あの、よろしければその一年戦争と言うものについて少しお聞きしたいんです。」
「一年戦争に興味があるのか? それに、君も関係者だろうに。未だに名乗らないあの老人の。」
「教えてくださらないんですよ、義祖父様は。だからです。」
アムロは渋々手を止める、彼女は近くに予め用意していたのだろう椅子を持って腰を掛けた。
溶接の焦げた匂いが周囲に拡がり、それが鼻腔を付く。機械いじりとかそういうのが好きだからか、そんなにも嫌いな匂いではない。だが、こう言うのは人を選ぶというもので、だからかスターシャは顔を顰めて己の機体を見上げていた。
ここ、アルテミス要塞の施設で艦を艦の内部でMSを整備していくという、戦場のマトリョーシカ人形は基地の施設にMSを修理する場所が無いという、世知辛い状況で成立した。
艦の損傷も酷い。あと少し深ければ誘爆していただろうな、無茶はするものじゃない。
格納庫での修理を見守る俺達パイロット組の士官は、それを見て心底ホッとしていた。
「しかし、外見からだと確かに解らないな、内部で警告が無かったのか? 良かったな、駆動系の故障じゃなくて。」
「無かったですよ。多分システムにバグがあるんじゃないかと。おそらく向こうのジンも同じような故障するんじゃないかな?」
ジンというMSはある意味洗練された部分がある。だが工業製品という部品の塊は必ず何処かに無理が働いている。
そのせいで機械が誤作動するような事なんてまま有ることだ。特に俺の機体なんて。
「艦長、駆動系をもっと労っていただかないと、部品が……」
いつもの整備士からの文句が飛んでくる。仕方の無いことだ。この機体には確かに無理をさせているからな。
「ヘリオポリスで試作中という機体、欲しいものだな。」
「あぁ、あのGAT-Xとか言うシリーズの? そんなに良い機体なんですか?」
「カタログスペック上はね、フェイズシフト装甲なんて重りにしかならないと思うけれど、まあコックピット周りだけなら有りかもしれないが。」
「そりゃ、中佐だけだと思うんですけどね、被弾しても破壊出来ないならそりゃ願ったりかなったりでは?」
「いやいや、駆動時間は致命的だろうが?」
GAT-X、所謂G計画機というものだ。ビーム・ライフルやバッテリーを
だが、俺達がそんな簡単に極秘プロジェクトを知っても良いのか? あまりにも情報漏洩のリスクがあるぞ?
「ま、今更心配してももう手遅れだろうな。」
そう言えばガルシアから呼ばれていたな。次の指令書が届いているって話だがさてどんな内容だろうな?
「俺は用事があるから、行くとするよ。くれぐれも整備士達の邪魔にならないようにな?」
アルテミスの傘か、ミラージュコロイドはコイツの天敵だな。
………
「艦の損傷を直すのに後2日、随分と深くやられたよ今回は。アルテミスが近くにあって本当に助かっている。今回の兵装の供与も礼を言いたい。」
「良いという事だよ、我々にはこの程度のことしか出来ないからね。朝飯前だよ。
先程プトレマイオスから、君達に非常呼集の連絡が届いた。」
「非常呼集? 俺達に? いったい何なんだろうな、無茶をさせた後に。」
ガルシアお手製の紅茶を啜りながら(無重力ティーカップで)、手にした紙束にそれが書かれていた。
月基地まで来いとは、正反対の位置にいるんだぞ? 最短距離はL5の近傍を通るルートだが、必ず接敵するな。
なら逆側を通るしか無いか?しかし、非常呼集だものな遅れたりしたら、何か起こりそうだな。
「噂だがね、君に昇進の話が上がっているそうだよ。なに、今回たった一隻で敵の艦隊を壊滅させたのだ、そうもなろうよ。負け続きに英雄は付き物だろ?」
「そのせいで今こんな仕事をやらされているんだ、たまったものじゃないな。
ガルシア少将もこんなところで燻っていたい質じゃないだろ?」
彼は苦笑いしている。エンデュミオンの1件で左遷させられた連中はある意味で、一蓮托生というものだろう。
「はぁ? 私は臆病者だからな、君のように命令無視の挙げ句誰かを救って、左遷させられたわけでは無いぞ?」
この小悪党顔の男、能力は決して低いわけじゃない。仮にもこうやって司令を任されているのだから、腹黒い部分もあるが今の連合ではまだ白い方だろう。一部、ジャンク屋だとかから金を巻き上げているという噂があるが、許容範囲だろう。
「君のお陰でアルテミスの周囲での敵の動きは、鈍化している。当分は出てこないのではないかな?
話は変わるが、カオシュン。君のおかげで1月の間はまだ持ち堪えられるようだよ。2月の中旬が山場だがね?」
「そうか、戦果が結果に反映されるのは嬉しい事だよ。
さて、俺はそろそろ行くとするよ。艦の修理が終わり次第月に行く、少ない資材の中ありがとう。」
「ああ、そう言えば伝え忘れていたよ。君達はアムロ・レイ以外は全員1階級昇進だと。」
俺はそれを眉間に皴を寄せながら片手を上げながら彼を後ろ背に答えた。
私達がアルテミスを出港してちょうど6日経った頃、ある事件が発生していた。
私はその日何気なく、ブリッジにて当直の手伝いをしつつ談笑していた。
「だからさ、ヘリオポリスでその子達とまた合う約束したのよ。そしたらさ男の子達テンパっちゃって、それで近くにいた女の子達? まあ、友人関係とかそういう以上の関係の娘もいたみたいでさ。それはもう物凄い怒髪天を突く勢いで激怒しててさ。」
「厄介事は寄せと言っただろうに、どうして今まで黙ってたんだい?」
「ヒッチコックと約束したからね、もし生きていたらまた二人で行こうって。
でももう彼女はいないからさ、こうやって笑い話にしつつ供養してるってわけ。」
「おいおい、笑い話じゃなくなっちまったじゃねぇか。笑った俺はこれからどうすりゃ良いんです?」
そう、ヒッチコックは死んだ。被弾したMAの中で。私達の損害はMA3機。つまり、最低でも3人死んでいるということ、それがたまたま彼女だったと言うだけ。
彼女は確かに帰還したし、機体も確かに存在している。でも、コックピットの中は凄惨なものだった。
片腕はもがれ、操縦桿をかろうじて握り帰還した彼女の腕がどれ程優秀だったのか、MA乗りとして言うのなら。超一流の一人だったはずなのに、たった一発の弾丸が機体内部にまで侵入し、コックピットを半ば破裂させるように潰したんだ、死体も艦内に残っている。腐敗しないように、冷凍庫に保管されている。
「だからアムロさん、もし戦争が終わったら一緒に。いや、皆で一緒に行きたいなって。そう、思っただけ。」
「仲良かったんだな、解ったよ。お前等も話を通しておけよ?三泊四日の旅だ。良いな?」
笑顔になるような、そんな話はこの戦争からあまり皆話さなくなっていく。
辛い現実を笑い話にするような、そんな皮肉しか言えなくなっていく、そんなものが蔓延していく。
そんな世界からオーブを見るのは毒かもしれない、だってアレに焦がれているのだ。
しかし、そんな他愛のない会話の中に直ぐに現実が襲いかかってきた。
アラームが艦内に鳴り響くこれは…、緊急電?
「これは、月基地からの緊急電ですね、映像開きます。」
「まさかな。フラグというものは立った瞬間に、達成するものか? 違うだろうが。」
誰かがそれを言う。だが確かにフラグというものがあるのなら、そのフラグをへし折りたい。
ヘリオポリス崩壊の報せが、私達に届いたのだ。
「俺達には一次ヘリオポリスヘと迎えに行けか、アークエンジェルを…。人使いが粗いな、だが恐らくは生きているだろう。」
「どうして解るんですか?こんな事になっているのに。」
「恐らくは戦闘があったんだろう、大方あそこにあった連合とオーブの共同研究拠点を襲撃したザフトとのね。これ程酷いんだ、かなり大規模な戦闘に発展している。
それにだ、もしも鹵獲されていたとしてMSが全て敵に渡っていたらこうはならないだろ?」
私達はヘリオポリスで建造されたアークエンジェルという艦艇を救出するという、これまた難度が高い任務が付与された。
艦が振動に震えている。私達はクルーゼ隊を撒く為に、アルテミスへと針路をとった。
岩礁に包まれた、小惑星を利用して作られた宇宙要塞アルテミス。
私達は危機的状況から脱する為に入港を許可され、傘と言われる防御の下に入った。
待っていたのは、艦内を制圧するという仕打ち。反論虚しく、私達にIFFが無いという状況下において非常事態権を発動されれば、無視も出来ない。
事情を説明する為に、私はバジルール少尉、フラガ大尉と共にこの基地の司令官である、ジェラード・ガルシア少将に謁見することとなった。
「確かに君たちのIDは大西洋連邦の物だな。何にせよ、辛い旅路ご苦労なことだ。」
労いの言葉は正直言ってありがたいものだ、だが私達の艦内に存在している、あの治安維持隊はなんとかしてもらいたい。
「エンデュミオンの鷹その1人である、ムウ・ラ・フラガ大尉か、グリマルディ戦線は私も戦った。お互い、苦労があったな。」
「ええ、そうですね。」
「そんな君が、あの艦と現れるとは……。だが、君達も運が良いのか悪いのか?
君等の艦の事はとある情報筋から既に知っていたよ。尤も、こうして姿を見るまでは半信半疑であったが。」
私達の情報が筒抜けだった、その事実に驚愕する。それだけじゃない、次の一言が私を更に動揺させた。
「あのMSは、フラガ大尉。君の操縦ではないな」
「どうして、そう思うのでしょうか?」
「あの艦の中にゼロを扱えるような人間がいると思うか?多くの士官が死んだのだろう、それならば民間人の中からそう言う人材を探すほかあるまい?」
思った以上に切れる人物と言うことに、私は舌を巻いている。連合内部でのアルテミスの扱いは、決して良いものではない事は誰でも知っている事だ。だから、そう言う人物が配属される場所であるというのに…。
「残念だが、君等の欲している物の提供は出来ない。
誠に遺憾ながらな。」
笑みを浮かべながら私達にそう語り掛ける少将、私達などどうでも良いということだろうか?
「お言葉ですが、その理由をお聞かせ願えないでしょうか。小官は、理由のない否定に納得が行きません。特務の我々を拒む事は少将のご身分にも障る事だと思いますが?」
「バジルール少尉、辞めなさい。ですが彼女の言う事にも一理あると思いますが、少将理由をお聞かせ願いますか?」
「ふん……、まあ良いだろう。君等も特務ならば仕方あるまい。
君達は第13部隊という物を聞いたことがあるかね?」
第13部隊……私は聞き覚えがない。
「確か、MS運用を前提とした月を拠点とする実験部隊の総称であったと記憶しております。」
「ほぉ~、勉強熱心だな。だが、君の言っていることは全て間違っている。
第13部隊……〘第13独立遊撃隊〙はプラントの地上資源地帯より行われる、資源輸送経路を特定し通商ルートの破壊を行う部隊のことだ。」
「それが私達の補給とどのような関係が?」
少将が背にしている画面にあるものを投影する、最近になって報道されたとある部隊とザフトの艦隊との、艦隊戦の様子だ。
「この部隊こそが第13部隊だ、彼等は荒くれ者で構成されたある意味懲罰部隊のような物でな、それが最近この近くでこの戦闘を行った。
そして、この基地で補給を行いつい6日前出ていったばかりでね、補給可能な物資が無いのだよ。」
そんな戯言のような事を言う。誰もあんな艦隊戦信じていない、第1ザフト艦艇やヘリオポリスへの輸送艦を襲っていたのは海賊であり、私達とは関係のないことでは…。
チラリと横目でナタルを見ると、彼女は何かに驚愕したように目を見開いている。
「あの、その首に掛けているそれは誰から貰ったものでしょうか?」
厳格な彼女が、出過ぎた真似をするよっぽど何かに動揺しているのか?
「ああ…これかね?これは第13部隊のアナスタシア・リシュリュー大尉に頂いたものだよ。彼女の手造り出そうでね、前線にいる私に武運を祈ってとのことだ。粋の良い若者だよ。これがどうかしたかね?」
「いえ…少し気になって。」
「……、ではこれを君に差し上げよう。君等が持っていたほうが何かと良いかもしれんのでな。」
ナタル…その目はなに?何でそんなに動揺しているの?
クラップ級って思ったよりデカいんですよねぇ、宇宙艦を書くのに色々と考えているんですけど、完成度の高さに舌を巻いています。
誤字、感想、評価等よろしくお願いします。