孤児院にある男が現れた、歳の頃は30程金髪の男は恐らくは金持ちであろう事は、老人が連れて来たことで解ることでもある。
男の興味は孤児院には一切無かった、男から見て興味のある人物はたった1人、眼の前にいる盲目の男アムロ・レイだけだ。
「はじめまして、アル・ダ・フラガだ。貴方が財界に颯爽と現れた星テム・レイですか。」
「こちらこそ。済まないな、俺は目が見えなくてね。」
互いに互いを知らないはずである。手が触れた瞬間アルは男から巨大な宇宙を想像する。
彼は驚く、あまりにも巨大な感覚周囲一帯のあらゆる事象を把握しているような、そんな眼の前の盲目の男〘アムロ・レイ〙その名が頭の中に拡がる。
「どうしたんですか?こんなところで立ち話も何でしょう、どうぞ中へ。」
「あ、あぁありがとう。」
互いに一瞬の間に理解した、この男は自分とは違うタイプの男であると。
今、星が瞬いている。
1条の光が流れては消え、そして再び明滅する。
その光は何なのか、大気の流れかそれとも命の光なのか。
望遠レンズにて確認されたそれは、俺達に最悪の状況を知らせてくる鐘楼の鐘である。
確認出来た艦艇は捜索、追跡していたアークエンジェルその後方には更にナスカ級とローラシア級があり、ザフトのMSが連合の艦隊との交戦状態にあった。
「ブリッジ、メビウスの準備はどうだ?」
「出来ています、しかし本当に良いんですか?」
彼等の目の間に映る光景はどんなものだろうか、俺は今カタパルトにスタンバイしたMAそれにジンを載せている。
更にその後ろ、もう一機のジンも同様にその姿を表す。
「俺一人でも良いんだぞ?」
「馬鹿言わないで下さい、援軍っていうのは数が多い方が士気に影響するでしょ?つまり、この方が良いってことですよ。」
それを聞くと同時に、艦にリンクした映像データから襲撃を受けている艦艇の艦籍番号から、モンゴメリと確認出来た。
「無闇矢鱈にやるからそうなる、だが気持ちも解らないではない。出してくれ!」
カタパルトから射出される、シートに身体が締め付けられる。カタパルトを離れると、無人化されたメビウスのコントロールをジンで行いながら更に加速していく、間に合うかどうか解らないがやらない手はない。
「通信は頼んだぞ。」
とてつもない速度が出ているはずだ、メビウスのスラスターを目一杯に出力し、普段出すような速度を超過する。
浮遊物がある事も確認出来たが、そんなもので損傷する理由にはいかない。機体を微調整しつつ前に進んでいく。
スターシャ、彼女も付いてきている。俺の直ぐ後ろに付かず離れずの距離を維持しつつ、追ってくる。
艦との通信可能距離を外れ、スラスターの振動だけが伝わってくる無音の中、彼女に通信をいれる。
「無理をしてついて来なくても良かったんだぞ?」
「何を、貴方は無茶をしすぎるからです。足手まといにはならないようにしますから。だから、私も貴方と共に連れて行ってください。」
彼女はその瞳を真っ直ぐに俺に向けているんだろう、その気持ちがダイレクトにそう告げて来る。
「解っているさ、決して君の事を信頼していない訳じゃない。ただ覚悟を決めていただけだよ。
君は俺の僚機だ、良いかい? 敵のMSの事だけ考えれば良い。敵艦は俺達が現れれば撤退しだすだろうからな。」
「解りました。では味方が沈まないように極力敵の目を反らします。」
次第に近付いてくる戦闘の光、MAの推進剤の残りが少なくなっていく。
ナスカ級等端から眼中に無い、迎撃の為直掩が出て来るがそれを後ろに流し、モンゴメリへと針路を取る。
MAの推進剤が尽きる頃、ちょうどアークエンジェル、ザフト、モンゴメリの交点にある。
敵も何かを察知したのだろう、ナスカ級から発光信号が出る。頃合いか。
「こちら第13独立遊撃部隊、隊長アムロ・レイだ。アークエンジェル隊へ援護する。そちらへIFFが行っていることを確認したい。」
「……こ…アー……ル……確…てい……!」
殆ど聞こえないな、この機体も大分ガタが来ているのかもしれないな。
「了解した、これよりモンゴメリの救援を行う。ストライク及びゼロへIFFの送信を求む。戦闘管制をリンクする。」
俺は別に誤射されても構わない、だが彼女を落とされたら適わないからな。
赤い機体と対峙するストライクの動きに迷いがある、戦闘者ならそうまでいかないだろうに、素人が乗っているのか焦りの表情が見える。
戦闘状態に入る前に各部のチェックを済ませる。
長距離の移動であったから、機体の駆動時間を無駄に出来なかった為に、携行火器は突撃銃にノーマルな重斬刀。
敵はデータにある機体か、敵に鹵獲されたという訳か厄介この上ないが、PS装甲どれ程のものか。
「さて、見せてもらおうか?ガンダムの性能と言うやつを。」
「こちら2番機アナスタシア、管制はナタル…貴方ね? 久しぶりだけど、会話してる余裕はないからお願いね?」
そうしている内にMAを分離させる、アムロさんが突撃銃を推進方向へと向け単射する。
何に向けて撃っているのか、私には判断が付かないけれど必ず意味のある行動だ。
いや、見えた。敵の武装が弾け飛ぶ瞬間がメインカメラ越しに私の視認する範囲に見える。
「相変わらず凄い腕ね、真似なんて出来そうもない。」
機体の加速を少しずつ落としながら敵のに狙いを定める牽制射を行うとよく動く、華麗に避けるものね、良い腕をしている。
でもG兵器はいない、じゃあアークエンジェルにあるのかな?
「裏切り者か?」
相手はこっちを察知して攻撃を仕掛けてくる、どいつもこいつも裏切り者裏切り者と、五月蝿いったらありゃしない。
「てめぇのお守りくらいはやってやるよ。」
機体性能が上の機体を複数相手にやって勝てる通りは無い、勝てるのはそれこそ化け物級のパイロットくらいだろう。
機体の加速を存分につけたドロップキックを敵に見舞う、普通のジンならこれでコックピットはグシャグシャだけれど……盾持ちに当たった瞬間に途轍もないGが身体にかかるのを感じる。
「うっ……くぅ、これでも潰れないか!盾持ちなんて、妙なアップグレードしてるじゃないの!」
当たるとともに急制動をかける盾持ち、私は機体に屈伸運動の原理で膝を曲げ、機体を跳ねさせるとアポジモーターに点火して、機体を一回転させる。
突撃銃を向けてくるそれに、私は視界が開ける感覚を覚えた。
機体を一気に接近させて勢いでそれを弾く、敵のコックピットへ向けて突撃銃を、連射する。
砕け散る弾丸が、金属の煙をあげていく。
コックピットがどうなったか、想像に難しくないミンチより酷い有り様だろう。
それでも、動きは間違いなく今まで戦った中でも上澄みだった。こんなのが大量にいるのがクルーゼ隊か?
それにしてはなんだろうか、相手が動揺しているように見える。
アムロさんを倒す為に躍起になっている敵を尻目に、横から奇襲する様に掻っ攫っていく。そうすれば私達の目標を達成しやすくなるもの。
こいつ等、やっぱり連携がなってないようね。機体の性能を引き出せないまま落ちれば良いよ。
「く……退信…す。」
オープン回線?撤退信号だろうか、敵の動きが緩慢になるとまた一機落とした、私でもこのくらいやれるのならアムロさんはどうなのだろうか。
眼の前に繰り広げられる絶望的な展開に私達は手も足も出ないでいた。
アルスター事務次官座上の第八艦隊先遣隊モンゴメリが撃沈されるのを、ただ眺めているだけと。
フレイ・アルスターが艦橋へとラクス・クラインを連れてきて、交渉材料に使えないかと問われたとき、私達は非常に決断に迫られた。
ちょうどその時だろうか、アルテミスで記録された実在するのかすら怪しいIFF記号、それがレーダーに現れた。
まるで流星の様に2つの光がモンゴメリへと向かっていく、それと同時にクルーゼ隊の方より、何某かの信号弾が打ち上がる。
「こちら第13独立遊撃部隊、隊長アムロ・レイだ。アークエンジェル隊へ援護する。そちらへIFFが行っていることを確認したい。」
直後に通信が入った、電波状況の悪い中その声ははっきりと私達の前へと現れる。
アムロ・レイ、28という若さで中佐にまで登り詰めたという、白い流星と目される男。
その戦果はあまりにも強大なもので、誰もがそれを信じようとはしなかった。
だが、彼と共に戦った者達は口々に言う、
アレは過小評価されたものだ、現物はもっと恐ろしい
と、そんな都市伝説のような存在が私達に話しかけてきた。
IFFにはきちんと彼等が映っている。
「こちらアークエンジェル、IFF確認できています。」
「了解した、これ…モンゴメリの救援を行う。ストライク及びゼロへIFFの送信を求む、戦……制をリンクする。」
2機、望遠で見る機体には確かにユニコーンのマークが存在していた。
そして、2番機からの通信も拾う。
「こちら2番機アナスタシア、管制はナタル…貴方ね? 久しぶりだけど、会話してる余裕はないからお願いね?」
たった2機されど1人は名のあるACE、私達はそれにかけるしか無い。
そして始まったのは戦闘とは思えない一方的なものだった。
2番機の黒いジンの戦い方は常識の範疇、コーディネイター同士の戦いのように人間の反応速度の限界ギリギリのような、そんな動きをする、黒色のジンが他を圧倒する。
手玉に取られるザフトの機体が防戦一方になっている、それは良い、もう一つの懸念事項があった。
敵の方が圧倒的にMSが多い中に飛び込んだ1番機、それを見たとき戦慄した。
一見すれば当たっているのではないか、そんな悲鳴が聞こえてくるような、そんなスレスレを回避していく機体がG兵器群を圧倒している。
その間にストライクを庇いつつ、フラガ大尉へのフォローすらする。
瞬く間の攻防、純白のジンが他を圧倒し逡巡の中、敵から放たれる攻撃を、確認するまでも無く回避していく。
ストライクと戦闘していたイージスがそれに加わり、6対1それもそのすべてが連携し、その機体に纏わりつく様に戦いをしていく。
しかし、あらゆる攻撃をはじめから知っているかのような動きで遂に、一機また一機と次々とザフトの機体を血祭りにあげていく。
人間の出来る動きなのだろうか、つい数日前に見たプロパガンダ映像、そのままの動きをする機体に頭が理解を拒む。
そして遂にイージスと激突する、機体性能はイージスが圧倒している筈だった。
その間合いは遠いとは言えない、イージスのスペックを知っているなら警戒すべき攻撃を、四肢を使った奇襲すらものともせず、脚を掬うようにイージスの関節駆動系の限界値を、見極めた一閃が襲う。
駆動系はPS装甲が施せない箇所で、そこを上手く使った攻撃はイージスに致命傷を負わせる。
彼の機体と対峙するイージスの動きは、ストライクを相手にしていたときよりも遥かに速く正確で、きっとこの場にいる誰よりも速い。
それを柳のように受け流す姿は、何かの達人めいている。
そんな戦いに終止符が打たれたのは、敵がオープン回線で撤退を言い始めた頃。
ようやく敵が決意したのか、損傷機を纏めて後退していく。
そしてそれが私達への損失の無い、敵の撤退という勝利を導き出した。
彼が来る、キラ君を護らなければならない、彼はかなりのブルーコスモスのシンパと言われているから。
機体が着艦してくる、ゼロにストライク。
そして、英雄となった2機のジンだ。
格納庫中が湧いている、あのクルーゼ隊を相手にして退けたそれだけでも凄いことなのだが、終始圧倒して見せたパイロットを一目見ようと、士官下士官問わず。
お祭り騒ぎって言うのはこういう事を言うんだろうか、あのジンに載っていたパイロット。
あの人はアスランの載っていたイージスを相手に、全ての敵と同じ様にあしらっていた。
僕自身は、そんな事もできない。護ることが出来る力を持った僕は、何も出来なかった。あと少し、フレイのお父さんが乗っていた艦が沈むところだったのに。
それなのに
「キラっ、パパを救ってくれてありがとう!」
そう言うフレイの笑顔を見ると、そんな事どうでも良くなってくる。
でも、あんな戦い方が出来る人がどんな人なのか、僕は彼の事が気になってしまって仕方がなかった。
あと一歩でアスランを殺してしまうところだった人がどんな人なのか、近付いてくる彼がヘルメットを取った彼の素顔が見える。
眉をひそめて、何かやってしまったと言わんばかりの、そんな顔をしながら彼は、僕の前に現れた。
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