時間の境界線
地下公道、チラチラと点滅する照明の下を歩く二人の男がいる。
顎髭を伸ばし、高級そうなスーツを着こなしている老人と、その後ろを一歩半程遠く、歩く者がいる。
後の男が前の男へ、何やら写真のような物を手渡し話を始めた。
「先日、海岸へと漂着したものです。現在、付近を厳重な警戒のもと、こちらへと移送しております。」
「これはなんだか君には解るかね?」
足早にそれらを口にしつつ、二人は1つの目的地へと足を運ぶ。
「こんな、誰も使わないような通路の中で話をしているのだ、だいたいの検討はついているのだろ?」
「単座航空機のものと若干異なりますが、球状のコックピットブロックが内部に確認されたことから、有人機。
更に頭部があったとされる場所と、唯一欠損のない右腕から想像するに、人型の巨大二足歩行兵器と推察されます。
現行のどの様な国家にも、この様な兵器は存在していません。」
「なぜ私のようなものの場所へ厄介事は来るのだろうな!
一族の若造達のような、呑気な監視者気取りたちの場所ではなく、私の場所へと!」
天恵かそれとも天罰か老人は相当苦労しているのだろう、苦言を呈するがその顔は嬉々としているのは、その本性の拠り所がそう言う得体のしれないものへの好奇心だからであろうか?
「して、パイロットはいたのか?それとも死んでいるのか?」
「はい、健康状態としては最悪と言っても良いでしょう。
一部顔面の火傷は重度のもので、眼球に至っては沸騰したのだろうとのこと。生きているのが奇跡のようだと。」
「あってみたいものだな、その奇跡の男というものに。」
老人はカツカツと歩き続ける、暗い暗いトンネルの行く先の解らぬ暗闇を抜け出す為に。
宇宙空間を漂う、この巨大な円筒形の金属でできた樹木は、自ら葉を生い茂ることもなく、光合成を行い電気系統並びに各種期間を動かして、自らライトを照らし続けている。
そしてその大樹の間を幾重もの光が飛び立ち、あたかも宿り木から虫が空へと帰ろうとするかの様だ。
願わくば、この状況が何時までも続いていたらと、思わずにはいられない。
「バレンタインデーか…。」
「どうしました?中尉、浮かない顔なんてしちゃって。流石に成績優秀者のアンタも、初の実戦ってんで緊張してるんですか?」
パイロットスーツを着こなしながら、茶化してくるのはクワイエット少尉、俺の同期で成績優秀者の一人だが、少々口が回り過ぎるのが玉に瑕だ。
「そうですよ、中尉は俺達の中でも出世頭なんですから、俺等を穴に敷いて俺等の道を切り開いてくれなきゃ、お金が入ってこないんですから。頼みますよ?」
もう一人はボルラン少尉、コイツも同期だ。
二人は俺の僚機で、俺の部下でもある。
俺達が任されているのは艦隊の直掩、つまりは艦隊の防空戦闘部隊。航空優勢を維持し、艦隊による砲撃によってアウトレンジから敵艦隊を殴殺するための、砲撃艦隊。それの護衛だ。
「この中で、実戦が怖くないなんて奴はいないだろうに。軽口は、後々に取っておいたほうが、幸運は逃げないんじゃないか?
それに、俺はそれだけで困っているわけじゃない。」
「それは………、聞き捨てなりませんな、レイ中尉。」
出撃前の他愛のない会話の中、二人は跳ねたように敬礼をし。それを尻目に俺はゆったりと敬礼をする。
眼の前には、少佐の階級章をつけ同じくパイロットスーツを着込んだ、コーウェン少佐がいた。
「流石の認識力だな。意識外の会話から、まるで私が現れるのが解ったかのような振る舞い、それが世にいう特殊な空間認識力と言う奴かね?
私も見るのは初めてだが、やはりそう言う特殊な力なのか?」
「はい、いいえ。ただ勘が鋭いだけです、最もそれをどう表現すれば良いかと言われれば答えようがありませんが。」
「そうか。それよりも、先程の話の続きが聞きたいのだが?」
彼の目は真剣なものだった。宇宙艦隊としての初の実戦、その為将官達は勿論、佐官も気が立っている者も多い中彼は非常に穏やかな表情だ。
「いえ、敵の艦隊運動が妙だと。そう思いまして、というのも敵は既に我々が核を撃ってくるというのを承知でいるはずです。
にも関わらず、敵は輪形陣でこちらへと迫っています。
これは、艦隊直掩での対MA防空戦闘ならば簡単に説明がつきますが、それにしても遊撃艦隊すら無いのです。これではまるで」
「核を撃ってくれと言わんばかりか、確かに君の意見は最もだ。だが、既に作戦は発令されピースメーカー隊は発進準備に入っている。
最早止めるべくもない、君の意見を一応艦長を通じて参謀の方へ通達するが、反映はされないだろう。
君は我が第4防空艦隊の、MA隊の隊長だ。実戦では私が階級が上だが、君に指揮権がある。
他の左官は私が抑えよう、もしもの時は頼むぞ?」
そう言うと、さっさと艦橋の方へと消えていく。部下の言葉を良く聞いてくれる良い上司なのだなと、内心そう覚えながら俺達は自らの機体のセッティングへと行く。
内心の不安と、この気持ちの悪い違和感を身に秘めながら、俺はプラントへと旅立っていった、一人の友人の事を思い出す。
何故このような事になったのか、全く持って理解したくない現状を憂いている。
彼は努力家だった、人一倍親を見返してやろうと懸命に生きていた彼を。
誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
レイ中尉の容姿はCCAアムロ・レイです。なお、瞳の色だけはグレーとなります。