アイラ・エヴァンスは悩んでいた。
自らのこの罪深い行いを、今は失われし
宗教とは救いである、自らが背負いし罪を幾つか肩代わりしてくれる。
自らの行いを正当化するために、宗教を使う。
彼女はそう言う女だった。
彼女の産まれは定かではない。本当の生年月日すら、彼女は知らない。
気がついた頃には、孤児院にいたのだ。
彼女はそこで
彼女は兵器だった。人の形をした正しく人形であった。
ある日人形師が、殺された。
人形である彼女の所有権は今の
自らを繕うために、看護を覚えさせられた。
多くの傷病者を見てきた。
義務も気力もなく、淡々と事務的に作業をこなす彼女。
その日も同じ様な患者のはずだった、失明した男。
長期に渡る任務に彼女の内側は音を立てて崩れさる。故に彼女は
夜間の灯火管制、それは宇宙艦艇でも適応される。グリニッジ標準時を基準とし、その時間が規定されている。
これはプラント等のコロニーでもそうであり、基本はこのグリニッジ標準時に於いてプラントも時刻を設定している。
バジルール少尉以下、このアークエンジェルの首脳は俺の出した提案に渋々と言った顔をしながら了承した。
彼女等にしてみればあまりにも博打のようなものだろうと、真っ当な答えが帰ってきたが当たり前だろうな。
しかし、メリットとデメリットどちらの方が大きくなるかと言えば、提案に乗ることであるから最善の一手とも言えるわけだ。
確して俺達はラウの艦艇へと通信回路を開き、条件をまとめた。
全てが寝静まる深夜0時、アークエンジェルが停船し、その真横にイリスが陣取る様に並ぶ。
並べて見ると解る通り、アークエンジェルはその特異な形状であるが艦艇の大きさというアドバンテージによって、そのMS搭載能力は目を見張る物がある。
一方で200メートルという小柄な船体に、無理をして格納庫を造っている俺の艦は大きさの割に6機も搭載しているが、無理も多い。
正直言って、アークエンジェルを旗艦にしたいくらいだ。
勝っているのは隠密性くらいだろうか、アークエンジェルはエンジンが外に付いているから周囲からは丸見えだ。
パイロットスーツを着て、開放した格納庫に二人の影が降り立つ。1人は長身の偉丈夫、もう1人は標準的な女性くらいの身長。年相応だろうな。
「中佐ご苦労様です。嬢ちゃんも連れてきましたよ、最近はなんか静かで元気がなかったんですが、プラントに帰れるって聞いたら喜んで来ましたよ。」
こんな連中の中にいたら普通16,7の子供は怖がって当然だろ、なんせ筋骨隆々だとか顔に痣や切り傷のある連中だ。どう見てもやばい。
「それと、例のアレです。これをストライクにつけるので?」
「間に合えばと言ったところだよ。後1時間もすれば出撃するだろうから、今日はまだ無理だろうな。
こちらの人員にはまだ見つかっていないんだろう?」
「もちろんですとも、我々を甘く見ないでください。」
幾ら灯火管制下と言っても、気が緩み過ぎではないか?
特に移乗していた連中は、もう少し自分の事を軍人として自覚を持ったほうが良いだろう。
「ならいいな、それではアークエンジェルの後方から睨みを効かせておいてくれ、付かず離れずの距離でね。」
静かなる返礼後、彼等はイリスへと戻っていく。
………
1人、ザフトのパイロットスーツを着た姿で格納庫にいる彼女、アイリス。暴れたりしないだろうな?
いや、大丈夫だな。かなり参っている様子だし、それに早く家に帰りたいみたいだからな。
「さて、アイリス。帰りたいのなら、従順に従ってくれよ?じゃないと、スペースデブリになってもらうからな。」
「解ってるよ。だから、もうあんな虫みたいな奴食わせないでくれよ?」
昆虫食がお気に召さなかったのか、最近のコロニーでは滅多に食わないらしい。
やはり、昆虫は食事にするには抵抗感があるせいか、彼女はPTSDになりかかっているのだろう。
「じゃあ、一緒にジンに乗ってもらおうか?勿論手錠はしっかりとしてな。」
ちょうど時を同じくして、ストライクに乗る人影があった。向こうも順調そうで何よりだ。
秘匿回線を開き、ストライクとの通信を確認する。
「キラ君、もう少し待ってくれよ?家の連中があと少しで所定の位置につく……いや、想定より早いな。腕が良くなったのかな?
じゃあ、計画通り機体を指定した宙域に進出させる。
向こうも準備が出来ていると思うが、用心はして置いてくれ?」
「はい、僕のわがままに付き合ってもらってすいません。」
なんで彼はそう言うのだろうか、計画を立てたのは俺だろうに。全く、全部を背負おうなんていけ好かないエゴを持っているな。
「君が計画を立てたわけじゃない、持ち掛けたのは俺だろうに。いいかい?先に出撃してくれ。」
繋留してあった機体を動かしてストライクがカタパルトへと動いていく。
数秒後出ていく機体、俺もその後を追うように機体を滑るようにカタパルトへと動かす。
「スターシャ悪いが、もし戦闘になったら壊れない程度にはしておくよ。」
聞いていないだろう彼女に先に謝っておく。これは俺のケジメってやつだ。
外に出るとナスカ級が一隻、やや遠い位置で待機しているのが見える。そこから赤と灰色の機体がこちらへと近付いてくる。
「連絡通り、2機できたか。流石に2隻を相手に勝てる通りは無いだろう?」
「アレが……ラウ・ル・クルーゼ。私は恥ずかしいな、生き恥をさらしてノコノコと帰るんだから……。」
この娘は元々はナイーブな性格か。家庭環境が人を変えると言うが、なるほど激情家の親の元に育つと親に似るか…。
「別にそんな事は良いだろうに。生きているからこそ、恥ずかしいと思えるんだ。贅沢な悩みなんかしてないで、次にあったときどうなっているか考えた方が良いだろう?
雪辱を果たしに俺に戦いを挑むも良し、亡命してきたって良いんだぞ?」
「いや、もっと色々と見ることにする。特に、私はラクス様と一緒に戻るんだから、共に捕虜同士仲良くなれるかもしれないですし。」
良い兆候なのかも知れない、戦争なんて忘れて生きたほうが彼女に取っては幸せだろう。
「忘れないでそれを渡してくれよ?」
俺は彼女へ渡した便箋を気にかけながら、宙域にストライクよりやや遅れて到着した。
相手は未だに到着していないが、警戒しているのだろう。家の艦があるからな、最悪の事態も想定するのが奴らしいと言えばそうだろう。
「アムロさん…大丈夫でしょうか。」
「大丈夫、もし戦闘になるのなら既に撃たれているよ。」
来たか…赤い機体、アスラン・ザラと言ったか。遅れてラウもシグーで来る。それを渡してくれると助かるが…、そうもいかないだろうな。
2対2
機体性能から言えば概ね互角、パイロット性能は俺とキラ君でいい塩梅と言ったところか。
「こちらアムロ・レイだ。まずは、ラウ久しぶりだな。こうやって面として合うのは、2年ぶりか?」
「ふん、久しぶりと言うような間柄だっただろうか?
まあ良い、君と私は互いに知り合いである事は変わりない。
では、まずはそちらから捕虜を渡してもらおうか。」
俺は間髪入れずにアイリスを放出する。彼女は器用にラウのシグーへと取り付き、IDを承認させたようだ。
生体認証か随分と頑丈な。
「次はそちらの番だ、食料と地球に向かう分の推進剤を投棄しろ。」
「チッ、アデス。」
MS格納庫から荷物が落ちていくのが、望遠レンズ越しに確認出来る。
これで、継続戦闘力は削いだ事になる。嬉しい事に彼等からの追及は無いだろう。
「キラ君、後は彼女を渡すんだ。」
何かを話し合っているのか、大方別れを憂いているのだろうな。
「ラクスさようなら。」
「はい、またお会いしましょうキラ様きっとお会いしましょう。」
赤い機体へと向かって行く彼女を見送りながら、俺とラウは一触即発の中に身をおいている。
「キラッ、俺達と来い!今なら隊長も見てくださっている、まだ間に合う!」
うん、青春だな。と言ってもこういうものは知らないなら、良いのかどうかは知らないが。
「ごめんアスラン。僕には僕が護ると誓った友達がいるんだ、だからそっちには行けない。」
ストライクとイージスの間に戦闘の意思は微塵も感じられない、それどころか改めて友情というものの尊さを認識させられる。こんな青年期が俺等にあっただろうか?
「と言うことだ、勧誘は失敗だな。どうする?今ここで打ち合えばもしかしたら俺に勝てるかもしれないぞ?機体性能は僅かだがそちらが上だからな。」
「貴様の腕はよく知っているよアムロ・レイ、その実力から裏打ちされた傲慢な態度、いつ見ても気に入らんな。」
傲慢か、そういう意味では俺は親父とは違うのかもしれないな。
「ラウ・ラ・フラガ、そう言う貴様は謙虚だな、自分に酔いしれる事もせず達観として全てに絶望している。」
互いに離れ行く背中に思う事はあるのだろうか、キラにもアスラン・ザラにも後顧の憂いがあるだろうが、ラウにそれは微塵も感じなかった。
「キラ、後悔はしないな?」
「はい、でも悲しくはなっても良いですよね?」
彼は静かに人知れず泣いている、それが終われば彼は戦士へとなってしまうのだろうか?
「クルーゼ隊長、本当にこれで良かったのでしょうか?」
アデスは私に対してそう問うてくる、無論私が知る由もない事だろう。
プラントのそれもコーディネイターというものは、実力主義故に人に意見を丸投げすることもあるのが、悪い癖であるな。
「何度も言わせるな。私の判断は間違っていないとも、現にこうしてラクス・クラインの救出と捕虜を伴って帰ってきたのだ。これ以上の戦果もあるまい?」
そう、見事なまでに状況を利用された。
アムロ・レイは、ラクス・クラインが要人としての役割を十二分に果たす事を予め知っておいて、保険で捕虜を使ったのだ。強かで油断ならない、本当に父親に似ていない。
「フッ」
どうやら少し笑っていたようだ、周囲が私に対して反応を示す。
「私は少し仮眠を取ることにするよ、どうせこのまま行ったところで追跡すらままならぬ。」
私はそう言ってブリッジから隊長室へと入り、肉体の疲労感に肉体年齢の事を思い出す。
常備する錠剤が私自身のタイムリミットであり、それを越えればどうなるかなど、簡単にわかる事だ。
ふと錠剤を机に入れようとすると、1枚の写真が中から出てくる。未練がましくも、地球で撮られた1枚の写真。
盲人の超人、奴のオリジナル。
人の皮を被った殺人兵器の女
傲慢の徒であるアル・ダ・フラガ
そして、まだ歳も若かった私と奴が並んだ集合写真。
皆笑っている、いずれ来る未来等知る事もなくただ無様に笑うだけと。
今の私があるのは奴から学んだものが多い、下手に隠さず全てを受け入れようとする奴は、まるで私と違い肉体の老化が表面に出てこない。
寿命は確実にすり減っている。
私よりも4年早くに創られているのだ、それがどれ程の影響を持つか。まるで感じさせない戦い方は、実際奴の限界が見えない様に錯覚させている。
それを視ながら、私はヘルマン・グールドの娘から渡された便箋を開く。
それが今はどうだ、互いに敵同士で互いに指揮官とまでなっている。
この戦争がどこに落ち着くのか、それは俺にもわからない。
だが一つ言えることは、俺はお前を救いたいという事だろう。不完全なクローニング技術の影響で老化の激しいお前の事だ、錠剤を服用して誤魔化しているのだろう。
遺伝子治療の技術の発展は目覚ましく、後から遺伝子の欠損を抑える技術まであと一歩と言ったところまで来ている。
もし、戦争が終わったのなら地球に来い、共に治療を受けてくれないだろうか?
話は変わるが、ユニコーン狩りの準備が進んでいるのだろう?12人の狩人は揃ったのかな?楽しみに待っていると、評議会に伝えて置いてくれ。
「ハハハハ、訂正しよう。貴様は、お人好しだな。どうしようもなく、誰かを救おうとする。ならば私は、貴様のそれに応えられるように、全てを終わらせてやるとしよう。」
声を出した決意に身が震える、私は未だに悩んでいるらしい。未練がましくも、私はレイ・ザ・バレルの事を思い出し迷っている。
故に奴は私のこの手で殺すとしよう、それまでせいぜい生きるが良い。
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