その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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子の為に

 

アイラ・エヴァンスの生まれ故郷は再構築戦争の余波が色濃く残っていた。

彼女が記憶にない幼少期、生まれ持った形の中で彼女の胎内に卵は一個も存在せず、ただ生理のみが繰り返されている。彼女は子供を作ることが出来ないのだ。

それを自らアムロに告白すると子供がいなくても良いと言ってくれるだろうが、彼女はそれを制し子供を欲しがった。

 

自らが産めないというのにそれを渇望する姿は、あまりにも憐れなものだろう。

誰かの卵を使えばいいのでは?というものもいるだろうが、人の心とはわからないもので、彼女は彼女の胎内で育てたいと言う欲と他者のそれを受け取りたくないという欲があった。

唯一人の人間をおいて。

 

彼女は主に嘆願した、子供を欲しいあの人の子供が欲しいと老人は答えた。ならば丁度良い、彼を連れてくればその願い簡単に叶えられるぞと。

 

 


 


 

敵を足場にして空を駆ける、ディンというMSは大きいクセに速度はそれ程速くはないものだから、正直に言えば鴨のような相手だ。

動きが良いわけではなく、無理やり空力性能を獲得しているからこその弱点がある。

解っているとも、空を飛ぶという行為そのものに3次元的な強さを求めているという事を。

 

戦闘が始まってはや数時間、機体のエネルギー切れの為に帰還する事既に5回。

これは良くない兆候だ、既に俺は何機落としたろうか?

 

15を超えた辺からか、敵の出現頻度が激減し結局地上に脚を着けざるをえないという事になっている。

だが、敵の気配は決して減っているわけではない、隠れているのだ。掩蔽壕だけでなく、地下の様々な場所にシェルターを造り機体を隠している。

 

既に日は落ち、このまま攻撃を続行したとしてもいつ終わるとも解らない持久戦が既に始まっているという事だ。

ここはやはり出直した方が良いだろう、先攻したとしても結局最後に制圧する為には歩兵の力が必要になるからだ

 

バックパックに取り付けた信号弾を打ち上げ、総員引き上げのサインをだす。照明弾に照らされるのは、無惨にも破壊されたマスドライバー施設と嘗て大都市と言われた台北市の残骸いや、残骸と言うほど小さくはないか。

日本という国が台湾の為設計したとされる、鉄筋コンクリート造の街並みは頑強にもあらゆる攻撃に耐え、今も市街地が構成されている。

 

この天変地異に耐える為に創られた街並みは、幾度もの砲爆撃に耐え生きるもののいなくなった今でも、静かにその姿を現している。

迷路の様なこの構造を罠として使うのならば、上空からの支援が無い今、俺以外がここを突破するにはやはりランチェスターの法則が適用されるだろう。

 

まるで永久築城の城のようにその網の目のようになった街並みは、完全に要塞のそれでMSを人の延長線上とした場合、これを落とすには攻城兵器が欲しくなるだろう。

なるほど、ザフトも苦労するわけだ市街地に逃げ込まれれば最後頑強な要塞と早変わりするのか。

 

「各機体は集合地点に集結後、プラントBに則って台南へと撤退を開始せよ。攻勢は失敗だ、俺達だけでは無理だ。歩兵との連携ができない以上、施設の完全掌握は不可能と断定する。

また、救出した民間人は別ルートで脱出させよ。おれたちが囮となって敵の目を欺くぞ。」

 

夜の闇に紛れて海中から何かが上がっているのか。

カーペンタリアからの増援?ではこの強襲は失敗という事だな。

水陸両用MSののっぺりとした姿が薄暗がりの中に浮かんで見えてくる、熱センサーを使ったとして敵の機体はまだまだ冷たいのだろうな。

 

敵意を感じる、若干スラスターを吹かしてその場をバックステップの要領で後退すると、機体があった場所に攻撃が着弾する。

俺なら対処できるだろうが、他の連中がどうなるかは見える前から明らかだ。

 

しょうがない、機体を相手に晒してさも狙ってくれと言うように動かす。この意図に気付けない程馬鹿でもあるまい。

 

来た!

 

各場所のスラスターと脚部を利用して、反動と機体の動きを二元的に動かして来る攻撃を躱していく。

前に出ていった場合他の場所の味方に気が付くだろう、そうなったら部隊は手痛い。

 

ならば数機で俺にかかってこい!!

 

近頃確認された所謂ゾノと言う機体だろう、こんなものを持ち込んでいようとは。

 

メーザーを掌から撃ちこちらを追撃してくる機体があるが、俺の動きを見たことで動きが鈍くなっている。

なるほど、近接格闘には自信がないと見た。

部隊の収容はだいたい良いようだな、なら仕掛けるか。

 

 

「悪いが帰り掛けに一機貰って行くぞ!」

 

スラスターを今度は最大にまで吹かし、機体が地面を蹴り上げまるでホバーしているように敵の動きを右に左に避け、当たるのならば盾を構えて受け切っていく。

 

ビーム・ライフルを撃てるほどエネルギーは残っていないが、タックルの要領で敵にぶつかり弾き、左腕を振りかぶって敵のコックピットに向けて思い切り突き刺す。

グジュと言う感触がまるであるように感じる、その機体を放置し反転、着水しているイリスの下へと一気駆けていく。

背面から来る攻撃をスレスレで躱しながら、俺は艦へと帰還した。

 

 

……

 

 

艦へと戻ってパイロットスーツを脱ぎ捨てる。

こんなもの地球上では何の役にも立たない、ただ暑いだけだ。乱暴にまるで地に叩きつけるように行った行為に、俺の怒りの矛先がなんであるのか考えさせられる。

 

「直掩機、敵を見つけたら連絡してくれ海中から来る相手は厄介この上ないからな。」

 

そのまま艦橋に行くと俺を待っていたかのように副長は席を譲ってくる。

 

「やけにタイミングが良いじゃないか、どうかしたか?」

 

「いえ……特に理由は無いのですが、何となく来るような気がしたので。それに……お機嫌が悪そうなので」

 

そんなに顔に出ているか?なるほど……まあ、別にいいだろう。

 

「本艦はこれより戦線を後退し、金門、上海、東京と言う風に曲線軌道を通りながらアラスカまで補給に戻る。

近場で何とか出来そうなのはこのくらいだろうからな。

機関出力最大、離床し現空域を脱出する。

この作戦は失敗だ。」

 

「敵前逃亡を疑われませんか?」

 

敵前逃亡は即銃殺刑か?いや、それはないだろう。

 

「貰っていた情報より敵が多い事、守備隊が殆ど残っていないなんて当初の資料に無かった。向こうの責任だよ、こんな頭の悪いものを使ってくるというのに、本当に頭にきたよ。」

 

まったく、何を考えて俺達にこれをやらせたのか完全に明らかだな。呆れてものも言えない。

 

艦長席に座り、艦体が急速に加速するのに任せ周囲の様子を流し見る。

 

「大推力で無理やりだな、このままの速度を維持すると何時間で到着するか?」

 

「はい!え〜、このまま行けば16時間と言ったところです!高度30000で進んで行くので、燃料は心配ありません!」

 

次第に速度に身体が慣れてくる、亜音速飛行に入りザフトの防空識別圏から離れる。

元々航空機とは違い空を高速で飛行する為に設計されていないが、無理やりならばこうやって飛べる。

 

「シートベルトを外して自由にしてくれ、パイロット及び整備員は機体を動かさずに休憩してくれ。」

 

ボスゴロス級がこちらの索敵を諦めるまで気を抜けないが、目は既にこちらを向いていない。

何ならこの艦に追い付ける戦力を、奴等が持っていないという事でもあるが。

 

 

 


 

 

カオシュン宇宙港の陥落、私達がアラスカに到着したときそう報道が為されていた。

ザフトはそれを大々的に宣伝し、白い悪魔を退けての実績と声を高々に言う姿に怒りがこみ上げてきた。

もっと資材が潤沢に有れば、私達が撤退するような事はなかった。連合の連携がもっと上手く行けば、それこそ守備隊の逃亡がなければ、私達は一週間の内に攻め続けていた筈だ。

 

アラスカに到着してまず初めに言われたのは、任務の誤通達と言うなんとも言えない言い訳だった。

カオシュン宇宙港は初めから見捨てる算段であり、諸君等の行動は意味の無いものであったと。

巫山戯るのも大概にしろと、私達は壊れても直せる機械ではないと、抗議をしようとする私達に、軍部は知らぬ存ぜぬを貫いた。

 

それが、今まで静かにしていたアムロさんの逆鱗に触れたのだろう。

彼は軍上層部に対して、今まで自分たちが調べ上げた事をぶち撒け、脅しをかけた。

 

「貴様等の考えなど解らない、だがな兵を無駄に殺す事になんの意味がある。」

 

私達の眼の前で彼が言い放った言葉だ、殺意が滲み出るように私達に可視化されているのかと、そう錯覚する程の形相だった。

そして、そんな彼と帯同して私はアラスカのとあるゲストルームに移動している。

 

「さっきは済まなかったな、流石に我慢できなかった。」

 

「いえ、私達の為に怒って下さったんです。それで貴方が解任なんてされたら、それこそ私達は反逆しますよ。」

 

今の彼は穏やかなものだ、この人も怒るのだなとはじめはおもったけれど、最初からそうだったではないか。この人は正しい事は正しいと、そう言う人だと。

 

暫く歩くと幾人かのコーディネイターの守衛がいる部屋に付く、誰だろうかこんな仰々しい。

 

「アムロ・レイ大佐だ。用があるからと呼ばれたんだが、入っても良いか?」

 

そう言うとドアが開き、眼の前にソファに座った金髪の男がいる。

 

「お久しぶりですね、アムロ・レイさん。今は大佐でしたよね、いや〜軍部の連中も馬鹿なことをしますよ。

貴方のことを政敵とでも思っているのかもしれませんが、こっちとしては一刻も早く戦争を終わらせてビジネスをしたいというのに……おや、帯同者もいましたね。

 

私の名前はムルタ・アズラエル、貴女はアナスタシア・リシュリュー大尉ですね?お噂は兼ね兼ね、コーディネイターでありながら流星の右腕として動くと良く評判ですよ?」

 

ムルタ・アズラエル……白々しい、私はこの人と一度あった事がある。父に連れられて行ったパーティーで一度、私が免疫系統に対して調整されたコーディネイターと聞いて、憎悪の表情を見せた人だ。

 

「御託は良い、話とはなんだ?」

 

「おや、そうですね今載っている機体使い心地はどうですか?と言ったところですよ、私の方で行っているMSの試作機群です。

使用者の感想をお聞きしたかった。」

 

どうやらあの機体は、この人の影響のある人達が造ったようだ。それにしては完成度が高過ぎるような、OSにしてもジンのそれよか、G計画になんで反映しないの?

 

「あの機体の設計者が誰かご存知ですか?」

 

「………まさか。」

 

「ええ、そうです。と言っても、私も知ったのはついこの間ですが、細々と研究が行われていたらしく。それを私がコペルニクスごと、我が社に編入しました。

 

ただ問題がありまして、想定していた出力に満たないですし、技術的に問題があるものを取り除いた機体なのです。

我が社の月面工場ではあれが限界でしたよ。

アナスタシアさんの機体はアレの量産モデルと言ったところですよ。」

 

「へぇ、じゃあさ。アンタに文句言えば良いんだ、欠陥品なんて送って来て初期不良品なんて回してくるんじゃない!」

 

そう聞くと深々と謝罪する姿に、この人は一筋縄ではいかない人物だと思った。営業スマイルの奥が全く見えないのだ。

 

「さて、貴方方の艦の件でお話があったのです。

これから一月の間、あの艦の拡張工事を行います。と言っても4m程拡張すると言ったところですが、これで運用も楽になるのでは?それと、新造艦艇の提供をと思いまして。

見返りにですが。」

 

「俺をブルーコスモスの旗印にするって事か?別に構わないさ、それよりも実益の方が大切だからな。」

 

「は?いや待ってくださいよ、そんな生贄みたいにもっと自分を大切にしてください!」

 

そんな事を言うなんて、自分の事を何だと思っているか?

 

「へぇ、意外ですね。鉄の女と言われる貴女がまるで少女のように……、口は慎みましょう。」

 

それ以上言うと口を縫い合わせたぞと言わんばかりに、目で訴える。

 

「大丈夫ですよ、過激派は私達からのお墨付きを取り除きますから、単なるテロリストとして処分しました。

後で暴れている連中も随時、行っていきますよ。貴方の邪魔にならないように。」

 

私の事など眼中にない、それでもこの商人がいつか裏切るのではないかと勘繰ってしまう。

 

 


 

「私のところに何のようかな?シーゲル・クライン評議会議長殿」

 

プラントの中でも誰も立ち寄らないと言われている1画にある、小さな家。

屋敷というほどでもない、コテージのようなその家の中に1人の老人がいる。

 

金の髪を靡かせブルーの瞳を隠しもせずこちらに向け、全てを諦めたような男は椅子でソファで脚を組みながら、私を出迎えた。尊大な態度に私の付き人は遺憾を覚えただろう、だが私はそれを手で制しただ眼の前の男を見る

 

「お久しぶりですね、キャスバル・レム・ダイクン殿。確か20年ぶりでしたかな?」

 

「君が鼠のように這いずっている間も、私は君を見ていたがね?」

 

プラントの中でもこの男を知っているものは指の数ほどもいない。ここの付き人たちとしか関係がないと、そう思っていたのだが、この男の求心力は思った以上のようだ。

 

「御託は良い、本題に入る。アムロ・レイと言う人物に覚えはないか、お前のようなその力を持った奴の事だ。」

 

「アムロ・レイ………、そのアムロ・レイが私の知っているアムロ・レイとどう繋がりがあるかは知らないが、アムロ・レイと言う男は知っているよ。

私が今、こうしてここにいるのもその男のせいだ。」

 

この男にとってのアムロ・レイとは、この男と同じくらいの年齢なのかもしれない、だがアムロ・レイと言う言葉に反応はあるという事は確かか。

 

「お前は何処まで知っている?プラントの外の事を。」

 

「私は外界の事など知らんよ、今戦争をしていて総力戦体制というくらいかな?」

 

ならば、アムロ・レイと言う男の資料を渡せば何か聞け出せるか?

 

「これは、アムロ・レイの資料だ。お前の知っているそれと、どう違うのかを知りたい。」

 

私がそれを渡しに近づくも、キャスバルは動こうともしない。どこにも傷を受けていないはずなのだが。

 

「これは……なるほどな、確かにアムロ・レイだ。この顔、瞳、私の知っている奴に限りなく近い。

私に何を求めに来た。」

 

写真を診た瞬間に、この男の瞳に力が宿ったように見えた。そして、その瞳は全てを見透かすように私に何かを投げかけるように。

 

「ニュータイプとは何か、それを今一度聞きに来た。そして、我々を手助けしてほしい。」

 

「私には技術等無い事は、君が一番良く解っているだろう?

私にパイロットをやれと、そう言うのか?」

 

「出来るのならば…、新型機のテストパイロットをしてほしい。そして、アムロ・レイと言う男と対等に戦える手段を私達に教えてほしい。」

 

頭を下げる私に向けて、キャスバルは私を見下すように見ている。何処か、笑みを浮かべているように私はそう感じた。

 

 




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