老人はアムロ・レイに一つ問いかけた。
「君は子が欲しいか?それとも別の物が欲しいか?だが、彼女は彼女自身の子がほしいと言っている。」
それに対する答えをアムロは持っていない、彼には自身が子供を持つということに対する漠然とした不安だけがあった。
きちんと父親をやれるか、彼女を幸せにしてやれるのか?
「俺は子どもが欲しいとか以前に大切な人が幸せになって欲しいと思っている。その時点で彼女が自身の子供がほしいと言うのなら、俺はなんだってしよう。」
「そうか……、クローニング技術というものは知っているかね?その技術、使ってみるかね?」
この問いかけにこの老人が何をしようとしているのか、何となく察せた。
つまりアムロの戦闘力を見たのならば、それを兵士として落とし込もうと思うのも当然だからだ。
「再構築戦争以前の代物ではあるが、要素は完璧であった筈だ。どうだろう?」
「一つ条件がある、子供の教育は俺がやる。貴方の用意した人材には、教えさせない。これならば俺はその言葉を受け入れる。」
二人の契約はこれで成り立った。
6機のMSが大地を跳ね飛び回る、片や肩口を白色としたリベレーター。
もう片方は、肩口を緑に塗られたダガーと言う機体。
両者一歩も譲らない戦いがくり返され、その動きは常人のものではない。
しかし、ある程度時間が過ぎる頃ダガーの方に異変が起こり始める。いきなり挙動が不安定になり、行脚が止まり半狂乱と言った具合の様子だ。
俺はそれを見て、使い所が難しい奴等だというそう言う認識を持った。
「オルガ・サブナック
クロト・ブエル
シャニ・アンドレス
3人の強化人間……ブーステッドマンか。
ブーストと言っても、肉体の強度を無視する投薬という非人道的な方法で人のリミッターを解除しているだけじゃないのか?
三位一体の動きをしなければならないMS小隊にして、この連携のない自己中心的な動きは褒められたものじゃない。
それに…」
投薬の効き目が切れたのか、動きが顕著に鈍化した瞬間をスターシャに撃ち抜かれる。
彼女と互角にやり会えるなら相応のエースを超えた、まさに最高の戦士なんだがなぁ。
アズラエルに新型兵器の実働試験をと、そう言われてやってみているものの実戦レベルの代物じゃないぞ?
だいたい奴はコーディネイターを悪魔の所業のように目の敵にしているが、自分の財産を上回る程のコーディネイターにあったことがあるのか?
俺から見ればアイツの方が、財界の化け物に見えるな。
「これは、正直言ってきちんと訓練さえしてやれば、この3人なら強化せずにコーディネイター以上の良いパイロットになっていただろうな。」
急ぎすぎてそう言う事を忘れ始めているというわけでもあるか、人としての倫理を喪ったらそれはもう人では無いぞ?
動きを止めた機体からパイロットが降り俺等の方よりも、彼等ブーステッドマンの方が疲労困憊、いや離脱症状が出始めているようで、お世辞にも良いものではないな。
「君はブーステッドマンの主治医だったんだろ?何か知っているんじゃないか?」
俺達の軍医は嘗てこのブーステッドマンプロジェクトに参画していた経歴を持つ。
彼の得意分野は人の披露の蓄積と、それの回復に重点を置いた研究だったようだが。
「いいえ、私がいた頃はあれほど酷くはありませんでしたよ。アンプルを解析しましたが、私の作った薬物に更に多重に様々なものがブレンドされていました。
確かにそう言う物に使えますが、私はスタミナ回復薬を研究していただけなのですがね?」
この男も業が深い、人体実験をさも当然と言うような奴だからきっとマッド・サイエンティストと言う奴なのだろう。
「とりあえず、君はあの白衣の連中の薬物に対する解毒薬でも作ってくれないか?
このままだと、あの三人は長くなさそうだからな。」
「ええ、勿論ですとも。薬物は悪魔であってはならない、人を助ける為にそれ以上の代償を搾取していては、なんの意味もありませんので。」
訂正しよう、こいつは薬学者としてはいい奴なのだろう。
「その倫理観どこで培った?」
「その昔、とても古い医療漫画を読みまして、闇医者が金を巻き上げる話しですが、その男がまた凄まじく。」
人を助ける為にはなんだってするという価値観は、ある種狂気の世界か。
まあ、そうは言っても今は奴等を鍛えないとな。
「さて、じゃあ次はじっくりと3人を査定してやるとするよ。万が一の時は頼むぞ?」
機体性能を合わせるために、俺はダガーへと乗り込む準備を始める。こちらのほうが性能は多少低いらしいが構うものか。
連続戦闘に耐えられなければ、それはもう兵器としてもパイロットとしても失格だからな。
「率直に言ってどうだった?」
降りてきた家のパイロットに意見を聞いていく。
最後にスターシャの番になって彼女はかなり不満に残る顔をした。
「かなり強いですよ、機体性能の差がなければ私達は負けていました。正直……悔しいです。」
「そうか、だがまだ機体性能で勝てるなら良いじゃないか。」
機体性能が戦力の決定的な差ではない、だが性能の差で負ける事は良くある話だ。特にこの戦争は機体性能で負けている戦争であるからな。
強い、正直に私はそう思った。この3人は所謂生態CPUという人の形を取ったコンピューター、ナチュラルでありながらコーディネイターを超えるために創られた、改造人間だ。
正直、同じ機体だったら私は勝てただろうか?普通に戦っていれば良いところ相討ちが限界かもしれない。
それを、3対1それも同じ機体で圧倒していくのが私達の隊長というものだ。
あらゆる攻撃にまるで気合をいれるように、変な言葉を発する三人組のコックピット内を見るカメラに目を向ける。
3人の連携はお世辞にも良いとは言えないけれど、それでも一機一機の動きは人のそれを大きく超えていて、私達は防戦一方だった。
私のあの視界がクリアになる現象、アレを使ってなお互角な私が見ても良いのだろうか?
アムロさんの戦い方は相変わらずのデタラメさだ、態と隙を見せるとそれに向かって撃ってくるのを逆手に取って、動きの更に先を見据えている。
このパターンに入ったら最後、既に撃墜されているのと同じで数手先には終わっている。
ブーステッドマン特有の反射神経の速度すら逆手に取る動き、当にこう言うのが人外の領域とかそう表現されるものだろう。
人体の反応速度を極限にまで引き上げたブーステッドマンでは、その域外にいる存在に勝てる通りはない。
でも、勿論アムロさんだって何時までもこのような動きが出来る訳ではないから、それこそが彼の人間としての証明なんだろうな。
「あっ、終わったな。」
自然と口に出る。
着地した瞬間を狙うオルガ機、それをスラスターの微調整と慣性によって次々と避けていく姿はまるで舞のようだ。
地上にいるはずなのに、宇宙にいるように縦横無尽に駆け抜ける姿は圧巻だ。
次第に近付く両機、敢えてライフルを使わないのは近接戦闘能力を見る為だろう。
ライフルを捨てる度胸がオルガにはあったのだろう、斬られる前に斬る。
口上を述べる余裕すらない、斬りつけるサーベルを盾を構えて受けるのでは無く、盾を囮にして一瞬にして機体を上空に跳び上がらせる。視界から消えたのだろう、一瞬の迷いそして上からの一閃。
機体のメインカメラ損傷、これでもう致命傷だ。
なす術なく、胴体をデータ上で真っ二つにされる。
3機を撃墜してまだまだ余裕綽々と言った姿を見せるアムロさんのダガー、他の機体と同じ訳が無い。
あのダガーは先行試作量産タイプ、所謂廉価版だつまり……。
機体性能で勝った訳では無いのだ。
白衣の研究者達はそれに対して青い顔をしている、自分達の造った完成品がナチュラルのパイロットに一方的に負け、しかもそれが手加減されている事実に慌てふためいている。
人の限界と言うものは馬鹿にできないのかもしれない。
………
模擬戦も束の間、私達の次の任務が決まったという。
一月の間、戦技部隊と言う地位に納められ戦場でのイロハを、教導していた私達は、艦の改修の終了で以て任務に付く事になった。
最後の教導、そしてそれから得られたデータによって連合のパイロット達は次々とMSを操縦していく。
まだまだ手足のように動かせるとはいかないものの、私達の戦闘記録から獲られた経験値を搭載した回避プログラムは、彼等の生存率を上げてくれるはずだ。
「次の任務はアークエンジェル隊の救出……ですか、なんだって今更。多分連合は恨まれてるんじゃないですか?こんなにも長い間放置したんですから。」
「そうだろうな、だが上はそんなものお構い無しだ。
この前、砂漠の虎が敗北しアークエンジェル隊は当に反攻の旗手とでも言うべきものの一つになった訳だ。
すると見方を変えて今度は、赤狼と言う異名を持つパイロットが現れたよ。」
うん?キラ・ヤマトの髪の色は黒色だから違うよね、第一狼って彼らしくないというか、彼は白き疾風って異名って聞いたことがあるけれど。まさか、ねぇ。
「君の思ったとおりだよ、フレイ・アルスター。
彼女もMSパイロットになったらしい、どういう心境の変化か解らないが、確かな事は彼女にはパイロット適性があったという事だろう。
ハルバートン提督がストライクをもう一機、アークエンジェルに搬入していたことは解っていたが、キラ君は俺達のデータを上手く使ったみたいだ。」
「という事は紛れ勝ちですか?」
「確かに勝ったのは紛れかもしれない、だがその紛れを手繰り寄せる何かが、彼女にはあったんだろう。因みにだが、君はヴァルキュリアと言われているらしいが、何かしたのか?」
は?ヴァルキュリアなんてそんな、強いやつしか好きじゃないってか?…まあ、そうですねはい。
「どれが由来なのかはわかりませんけど。ところで、出港予定まで何かしますか?」
「いや、特に無いな。一応半舷休息で、という事だが何かやりたい事があるのか?」
「はい、一応あってもらいたい人がいるというか、合わなければならないなと思っていまして。ちょうど基地に来るので、その時にと。」
何やらピンと来たのか怪訝そうな顔をしながらも、彼は頷く。今やらないと一生できなくなりそうだし、禍根を断ち切るにはこれしか無いから。
マラッカ海峡そこは旧世紀から続く航海上の難所と言われている場所、私達はここを通過しなければ太平洋に出る事が出来ない。アークエンジェルがもう少し高高度を飛行できれば良かったのだけれど、こんな巨体を高高度に浮かせるような技術が有れば是非知りたいとそう思った。
「これは……」
私が悩んでいると、CIC から何やら喜びの声が聞こえてきた。
「どうかしたのかしら?喜ぶ前に、きちんと報告してくださらない?」
「はい、連合本部のアラスカから我々向けに通信が届いたんです。まさかこんな手段があるなんて、色々と試してみたかいがありました。
通信は一方通行ですが、我々に救援隊が出撃したとのことです。」
それは喜ばしいと思う一方でこんなところまで私達を迎えに来れるのか?そんな疑問が後を絶たない。
「部隊名第13独立機動部隊、彼等が我々を迎えに行くと。」
「彼等ね、それならなんとかなるのかしら?いえ、楽観してはダメよ?ここは敵の勢力圏下、いつ攻撃が来るか解ったものではないのだから。
だから、彼等に会えるように頑張りましょう?」
私達の内まともに戦えるのは四人だけ、しかもそのうち1人は得体のしれない人物よ。
だから、何が何でも気を抜くことは許されないのよ、マリュー・ラミアス。
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